暗闇に一筋の光を:パリ・メンズ・ファッションウィーク day3

ドナルド・トランプが米大統領に就任して世界に暗雲が立ち込めた金曜、パリでComme des Garçons Homme Plus、Givenchy、Berlutiが子ども心とファンタジーをもって一筋の光を放った。

by Anders Christian Madsen
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25 January 2017, 4:42am

Comme des Garçons Homme Plus fall/winter 17

2017年1月20日、ドナルド・トランプがアメリカ大統領に就任した。就任式が行われたが、その時、パリではComme des Garçons Homme Plusの2017年秋冬コレクションのショーが行なわれようとしていた。午後5時20分、会場のホテル、ウェスティン・パリの大ホールで照明が変わり、ショーのはじまりが告げられると、私の近くに座っていたファッション・エディターふたりがBBCのトランプ大統領就任式中継放送を映し出していたスマートフォンから目を上げ、今にもモデルが登場してきそうなランウェイのエントランスを指差した。「あそこから何が出てこようと、トランプの就任式なんかよりずっと良いものであることには間違いない」と彼らは冗談めかして微笑んだ。会場には、フォーク歌手キング・デュードの荒削りで民族的な音楽が鳴りひびき、川久保玲がみたアメリカの暗部が表現されているようだった。黒にちかい濃紺の世界に描かれた川久保玲の厭世観が支配したショーは、ショー全体のトーンを決定づけてしまう前に突如、その方向性を変えた。川久保は、これまでも一貫して作品を通してヒューマニティを世界に訴えかけてきた。ヒューマニティが危機に晒されたこの日も、彼女のランウェイが厭世的な世界観に終始することはなかった。ランウェイには輝きが添えられていた。脱構築と再構築を施したテールコートを着たモデルたちは、頭にピンクやイエローの鮮やかな髪をなびかせていた。全体的にフォーマルな作りのコレクションだったが、そこここにゴム製の車や、風呂に浮かべるアヒルの人形が取り付けられ、堅苦しい印象を与えるテーラリングに子どもの無邪気さを香らせた。その世界観は、会場に鳴り響いた音楽と対照的だった——そして何より、ショーが終わる頃には変わっているであろう世界の気風とも対照をなしていた。

Comme des Garçons Homme Plus autumn/winter 17

人間は誰しも、純粋な心を持ってこの世に生まれてくる。恥の念と憎悪を他者への怒りにすり替え、他者を否定することで自分を優位に立たせようとする大人も、かつては無垢な心をもつ赤ん坊だったときがあるのだ。2016年、ドナルド・トランプをアメリカ大統領に選び、イギリスのEU離脱を選んだ社会は、そのあまりに稚拙な精神構造を露呈させた。先シーズンのパリ・メンズ・コレクションは、そんな世界を痛烈に批判していた。ファッションウィークのスケジュールに沿って世界を旅するファッション関係者は、ファッションというフィルターを通して、歴史的事件を現実のものと認知する。Comme des Garçonsが、背中に「Freedom」とペイントしたレザー・ジャケットをショーで発表すれば、その向こうに世界を解釈し、時代を理解するのだ。デザイナーである川久保玲と会場にいる観客は、ショーを通して時代と向き合い、世界を考えることになる。だからこそ私たちファッション・ジャーナリストはそれを言葉にして解釈する。言葉で解釈するからこそ、「新しいものが次々に生まれる」という本質的な狂気の状態にあってもファッション業界の常軌は保たれているのだ。その狂気には、確固たる理由と背景がある——リカルド・ティッシに聞いてみるが良い。ティッシは今季、Givenchyとしてはいつになく陽気な印象を残すコレクションを発表した。惨憺たる世界情勢の只中にあって、それは狂気のように思われたが、その"狂気"の理由をこう説明した。

Givenchy autumn/winter 17

「ダークじゃないもの、作りながら幸せを感じられるようなものをつくりたかった」と彼は話す。「9年間にわたってダークな世界を描き続けてきた。今はもっとポジティブなメッセージを発信したい。ファッションはそれができるツールだと思う」。改装のためにすべての家具や書籍を取り払ったフランス国立図書館で行なわれたショーは、冒頭部分を、昨年12月に亡くなったイタリア版『Vogue』編集長フランカ・ソッツァーニに捧げ、静寂のうちにはじまった。しかし、続くパートでは川久保同様、子どものような純真さにみちた楽しい世界観がランウェイを彩った。今期のGivenchyメンズ・コレクションは、「子どもの目を通して見た西部開拓時代のアメリカ」をベースとしていた。アメリカ先住民的グラフィックを用い、またボタンからストライプまでをとにかく大きく使って、彼がこれまでに作り上げてきたダークなGivenchyの世界観を楽観的に再構築してみせた。ティッシは、2017年春夏オートクチュール・コレクションでショーの最後を飾ったが、ファンタジーを極めたカントリー・ドレスやサルーンドレスにも「西部開拓時代のアメリカ」というテーマを模索していた。西部開拓時代とは、「開拓」の名の下に白人が多くのアメリカ先住民を虐殺して土地を奪った歴史だ。これをテーマに扱ったティッシの選択と、トランプの大統領就任は、絶対に偶然ではない。そしてそれをあえて明るい雰囲気のなかに作り出そうとしたティッシの意図は、コレクションに見事なまでに表現されていた。ハイダー・アッカーマンが手がけたBerlutiの初コレクションも、視点こそ違えど、Givenchyに負けずおとらず見事だった。

Berluti autumn/winter 17

人々が仰天するような世界観を打ち出したわけではなかったが、アッカーマンならではの淫みだらにロマンチックなロックンロールの世界と、Berlutiが培ってきた職人技の見事な融合が、見事な世界観をなしていた。グラン・パレにて行なわれたショーは、すべてが壮大で、ラグジュアリーを極めていた。そこには、いわば極められたアッカーマニズムが広がっていた。アッカーマンはときに、狂気に満ちた世界に生きる私たちに向かって、「深呼吸してごらん」と語りかける。「一筋の光」と彼がこれまでに表現してきた作品世界だ。Berlutiでも、彼はブランドがこれまでに打ち出してきたカジュアルな"スポーティ・フォーマル"の世界観はそのままに、その「一筋の光」をすべてのルックに織り込んでいた。なかでも特筆すべきは、陰影あるブルーのアストラカン毛皮を襟に配したキャメルのヘヴィー・コート——このコートがランウェイに登場した途端、グラン・パレが明るく照らされたように感じた。また、ダスティなパープルのスエード・ジャケットにはボヘミアン調の贅が感じられ、ファッション界がなぜこの色彩の魔術師ハイダー・アッカーマンに恋をしたかを改めて思い知らされた。アッカーマンとBerlutiは、完璧な組み合わせだったと言わざるを得ない——そう思わせるに十分な内容だった。第45代アメリカ大統領にトランプが就任したこの日、Berlutiのショーには純粋な子ども心の表現こそなかったものの、パリという街に今も昔も根づく「ファンタジーへの渇望」が見事に表現されていた。トランプ、ファッション界はあなたを注視している。

Credits


Text Anders Christian Madsen
Photography Mitchell Sams
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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