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フライヤーで振り返る「NYCナイトライフの歴史」

FacebookやTwitterが登場する以前、クラブやライブイベントの告知には当事者たちがDIYで趣向を凝らし、心を込めて手で作ったフライヤーが使われていた。

by Tish Weinstock
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20 January 2017, 8:55am

ソーシャルメディアが誕生するなんて、コンピュータに熱中するオタクたちすら想像し得なかった80年代、ニューヨーク——街の最新情報は、ナイトライフを介して広まったものだった。口コミと並んで、そこでもっとも効力を発揮したのが、フライヤーだった。街角、クラブやコンサート会場の外、美容院や服のショップなどで配られたフライヤーは、情報として告知された開催日を過ぎれば、むげに捨てられたものだった。

90年代に入り、印刷技術が飛躍的に向上すると、フライヤーも洗練されていった。しかしそこへインターネットが登場し、フライヤー時代の終焉が見えてきた。クラブのプロモーターたちは「そのうちむげに捨てられてしまう運命にあるものに、高額の資金を投じてまで地球の森林を伐採しなくても、自分で指を動かし、キーボードを操作してソーシャルメディアで宣伝をすればいい」とフライヤーを作らなくなった。しかし、印刷物の未来が疑問視されるキラキラのデジタル時代の現代社会にあって、過去に作られた印刷物の傑作を後世に残していくことを改めて重要視する声が高まっている。その証しに、現在、コレクター達のあいだでフライヤーがさかんに取引されているのだ。

ヒップホップ関連のブロガーでアーカイヴィストでもあるエヴァン・オバーバック(Evan Auberbach)と、すでにベテランと呼んでも差し支えないであろう地位を確立しているDJ、ストレッチ・アームストロング(Stretch Armstrong)は、1988年から1999年までの約10年間のNYCナイトライフ・シーンをフライヤー・アートで振り返り表現した本『No Sleep: NYC Nightlife Flyers 1988-1999』を作り上げた。i-Dはふたりに、クラビングについて、フライヤーの収集について、そしてインターネット誕生以前のNYCナイトライフについて聞いた。

なぜ今、本にしようと考えたのでしょうか?

ストレッチ:画像として取り込んだフライヤーを、俺にとって意味のある配置でまとめたのがこの本。個人的な思い出があったり、俺が関係してたり、友達が運営してたり、当時俺が重要なシーンと考えていたクラブやパーティのフライヤーばかり。あらゆるシーンがごちゃまぜになった当時のNYCナイトライフを反映しているフライヤー・アートに、今はなき街の自由を感じてもらいたくて本にした。

あの時代のニューヨーク・ナイトライフに関して、何を読者に感じ取ってもらいたいですか?

ストレッチ:懐かしむというのは、行き過ぎなければとても良いことだと思う。でも、現代を頭ごなしに否定するばかりのおっさんに成り下がってしまうほど過去を美化するのはよくない。過去を振り返って讃えるよりも、なぜこういったパーティやクラブが特別な存在だったか、なぜニューヨークの経済において不可欠な存在であるはずのナイトライフが常に悪事として批判を浴びるのか、そういうことを読者に考えてもらえたらと思う。今ではさまざまな外的勢力によって悪いイメージを植え付けられているニューヨークだけど、この本で、それ以前にはこの街にどれだけ自由というものがあったかを、感じてもらえたら嬉しい。自由のための戦いは今も続いている。でも悲しいことに、現在のところ、「クリエイティビティや表現の自由、ひとびとが集って意味をなす空間を」という戦いは、残念な結果しか出せていない。

当時、フライヤーが持つ意味とはどんなものだったのでしょうか?

ストレッチ:クラブ・フライヤーの重要性を理解するには、まずインターネットや携帯電話が存在しない世界を想像しなきゃならない。街で起こっていることを把握するのに、フライヤーが果たした役割は大きかった。情報の告知を考えたとき、誰もがフライヤーという手段をとったんだからね。また、フライヤーは体験したことを思い出させる、貴重な記念品の役割も果たしていたんだ。

この本が果たす役割として、「こう作用してほしい」「こうは作用してほしくない」というクリアなヴィジョンはありましたか?

ストレッチ:ヒップホップの本にはしたくなかった。ヒップホップは俺の人生において大きな部分ではあるけれど、ニューヨーク・ナイトライフの美しさは——特に80年代から90年代初頭にかけての素晴らしさは、「様々なシーンやスタイル、ジャンルが混じりあって出来上がっていた」という点にある。この本ではそれを表現したかった。いくつかの章に区切ることで、そのテーマに相反することをしてしまったようにも感じるけれどね。もう一度言っておくが、当時のナイトライフはカルチャー的にどんな異分子も受け入れて取り入れる気風があったんだ。でもね、だからといってクラブに簡単に入れてもらえたというわけじゃない。あの時代は、金を持っていようが有名だろうが、クラブの入り口では誰もが同等に扱われてね。クラブやパーティの趣旨に合っていれば入れてもらえたし、合っていなければお払い箱だった。

本にまとめる中で、何か発見はありましたか?

エヴァン:多くを学んだね。本にしようと思い立って、いろんなフライヤーを探し回っていたときは、これをヒップホップ本にしようと考えていたんだ。そこへ、ありがたいことに真のNYCオリジナル・ギャングスタ、ストレッチが俺を捕まえて、「ちょっとそこに座れ」(文字通りの意味じゃなくね)と俺を諭してくれた。ストレッチが俺に教えてくれたのは「あの時代は、ヒップホップだけの時代じゃなかった。いろんな要素が混ざり合ってシーンが出来上がっていた」ってこと。「様々なカルチャーが混ざり合ってNYCナイトライフを織りなしていた——それが当時のニューヨークをニューヨークたらしめていた」ってね。

だから、「バックパックにブームバップ・サウンド」といった世界観のヒップホップ本にするという構想しかなかった俺は、ストレッチが力説していた「NYCナイトライフを作り上げていた他のシーン」について、まるで学生のように勉強したよ。当時のNYCナイトライフに関するものは、本だろうがウェブサイトだろうが、古い雑誌記事だろうがなんだろうが、なんでも読んだ。YouTubeでも、あの時代に関するニュース映像を観まくったりしてね。

DJストレッチ・アームストロングとエヴァン・オバーバック共著の『No Sleep』は、powerHouse Books社から発売中。

Credits


Text Tish Weinstock
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.