パワフルなピンク:新潮流「ラディカル・ソフトネス」を体現するミュージック・ビデオ5本

インターネットを中心にして生まれた、新たなムーブメント「ラディカル・ソフトネス(急進的なソフトさ)」。ここ2年間で、ポップカルチャーのあらゆる領域にまでその影響を拡大したその新しい潮流を体現した、ミュージック・ビデオ5作品を紹介する。

by André-Naquian Wheeler
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25 August 2017, 2:52pm

Screenshot via YouTube

多くのアーティストたちが、「ピンクは女の子が着る色」「女々しい男だけがピンクを着る」といった古い時代感覚を打倒しようと、インターネットに生まれた新たなムーブメント「ラディカル・ソフトネス(急進的なソフトさ)」に賛同・参加している。最近になって生まれたこの「ラディカル・ソフトネス」という言葉は、臆することなく「感情の豊かさ」に焦点を当てたアートを指す。Tumblrで「radical softness」と検索すれば、そこには花やテディベア、モチーフとしてのパステルカラーなど、"可愛い"ものが並んでいるはずだ。この「ラディカル・ソフトネス」という美的感覚は、現在、優美な画像や柔らかい光を使ったセルフィーに感情溢れる言葉を添えたアカウントの形容に用いられている。これは、「臆することなく感情を表現し、世界と共有することは政治的な行動だ」という考えであり、「"感じることは弱さである"という社会の風潮に挑む手段」なのだと、詩人でありアーティストでもあるローラ・マティス(Lora Mathis)は、2015年のインタビューで説明している。ローラは、このムーブメントにおいてもっとも人気のあるアーティストのひとりだ。過去2年間で、ラディカル・ソフトネスはポップカルチャーのあらゆる領域にまでその影響を拡大した。Instagramには詩をシェアするユーザーが溢れ、adidasのスタンスミスまでもがミレニアルピンクに染まった。

ラディカル・ソフトネスがもっとも顕著な影響を見せたのは、ミュージック・ビデオの世界だった。そのもっとも力強い例は、ソランジェが2016年に作った「Crane In The Sky」だろう。オープニングで、大きなフリルが作られたハッシュドピンクのジャケットを着ているその姿は、まるでピンク色の雲のなかにいるようだ。うつの苦しさと、それを克服して強くなること(そして自然のなかで平和に暮らすこと)を歌うことで、ソランジェは「ひとが脆さにこそ見つけることのできる強さと力」という、ラディカル・ソフトネスの核をなすメッセージを打ち出している。

Ke$haやセレーナ・ゴメスといったアーティストたちも、キャンディカラーのMVでラディカル・ソフトネスを採用している。ファンたちは、摂食障害について考えたゴメスが「Fetish」のビデオを通してメッセージを世界に発信しているのだと解釈している。写真家のペトラ・コリンズが監督を務めたこのビデオのエンディングで、ゴメスは青い石鹸からまつげカーラーまで、さまざまなものを口に押し込んでいく。悲しさ漂う映像だが、そこには奇妙な美しさがある——「誰もが自らのうちにある悪魔と闘っている」と物語っているのだ。「世界的なスーパースターであっても、それは変わらないのだ」と。

「タフであれ」と言われて男たちが育つこの世界だが、ソフトであっても良いじゃないか——ソフトであることもまた力強いことなのだ」と教えてくれる5つのミュージック・ビデオを紹介する。

「Same Drugs」by チャンス・ザ・ラッパー
ジェイク・シュレア(Jake Schreir)によるこのMVで、チャンス・ザ・ラッパーは、自身と変わらない大きさの人形とピアノに並んで座り、このバラードを歌う。

ビデオにはほろ苦さと優しさ、そして可愛さが溢れている。懐かしさを漂わせるブラウン管テレビの放送用画面フレーム比率を用いたり、背景が70年代音楽TV番組調のマゼンタだったり、曲がゴスペル調に盛り上がる終盤では人工雪が降ってきたり——とにかく男性的な世界を打ち出すラップ界にあって、男性アーティスト、とりわけ黒人男性アーティストが人形たちと共演するビデオなど、ほとんど見る機会がない。金とセックスと強さばかりを強調しようとするラッパーが多いなか、可愛さと感受性の豊かさを表現しようとしたチャンス・ザ・ラッパーは、ラディカル・ソフトネスのムーブメントをも超えていると言わざるを得ない。

「Boys」by Charli XCX
このMVで、Charli XCXは男性がこれまで女性に向けてきた視線を、そのまま男性へと向けている。しかし、このビデオは、ほかの"フィメール・ゲイズ(女性視線)"作品と一線を画している。男性たちの描かれ方がまったく違うのだ。この作品に登場する男性たちは、"男らしさ"を誇張することなく、ただ男の子としてイキイキとそこにいるだけ。ミュージシャンのジョー・ジョナスやディプロから、飛び込み選手のトム・デイリー)までが特別出演しているこのビデオ、チャーリー版#ManCrushMonday(お気に入りの男性の画像をアップする際に用いるハッシュタグ)といった様相だが、登場する男性たちは、社会がこれまで彼らに対し暗黙のうちに禁じてきたことをすべてやってのけている(テディベアで遊んだり、ピンクを着たり、キラキラのグリッターを宙にばらまいてみたり)。キャッチーなサビとともに映し出される彼らを見ていると、ラディカル・ソフトネスはセクシーにもなりうるのだというのがわかる。

「Fetish」by セレーナ・ゴメス
ビンテージの黄色いドレスを着たゴメスが、紙袋を手に、いかにも平和なアメリカの郊外を歩くシーンから始まるこのビデオだが、ひとたび家に入ると、ゴメスは苦しそうにキッチンで皿や食べ物を撒き散らす。見る者は、それを黙って見ている自分に嫌悪すら感じるようになる。それこそがこのビデオの趣旨だ。女性は、感じているそのままを表現することが、ほとんど許されていないのだ。

「Keep Sailing」by リル・ヨッティ
14分におよぶこのドキュメンタリー調のMVで、リル・ヨッティは自身の半生を振り返っている。セリーナ・ゴメスの「Fetish」に続き、こちらもペトラ・コリンズが監督を務めている。夢の中のような霞みがかった映像で、現実とファンタジーの境界線が曖昧になっていく。ヨッティの近しい人物たちが心温まる逸話を披露するインタビュー映像や、トレードマークの真っ赤なブレードを編み上げる映像などが織り込まれている。現在iPhone動画で用いられている4:3比率の画面フレームで撮られていることで、感動的にしてチャーミングなアマチュアチックな雰囲気に仕上がっている。

「Million Reasons」by レディ・ガガ
砂漠に踊り、幻覚のうちにそこに群衆を見て、最後には意識を失って終わった「Perfect Illusion」に続くかたちで、このMVの冒頭で、ガガは疲れ果てた姿で砂漠に横たわっている。すると、ファンたちが黒いSUVに乗って現れ、彼女をゆり起こす。ファンたちの抱擁を受け、ガガは嗚咽する。「わたしはグラマラスな世界を謳歌することを心の支えにしているのではない——ファンたちに支えられているからこそ、こうして生きていられるのだ」と、ガガはこのビデオで言っているのだ。生肉ドレスを来て世界から注目を集めた人間が孤独を感じるのだから、誰だって絶望や孤独を感じるのだ。

「Million Reasons」は、おそらくガガがこれまでに作り出した中でもっとも控えめのビジュアルだろう。祈りを通して心の強さを取り戻そうとする人間の姿を、ギターを弾きながらガガが歌うという、いたってシンプルな作りだ。ブラから炎を放ったり、ペプシの缶をローラーとして髪に巻いたりしてきたガガは、ここにきて、何がひとの感情にもっとも訴えるものかを見せてくれた——そう、「自分自身であること」が、もっともひとの心を揺すぶるのだ。

もちろん、頭からつま先までミレニアルピンクのファッションも見逃せないところだ。