Photo: Katrina Wittkamp.

ヴァージル・アブロー初の美術館個展 「Figures of Speech」その裏側をキュレーターが語りつくす

ヴァージル・アブローの作品を、ファッションから建築まで、すべて網羅した個展「Virgil Abloh: Figures of Speech」が現在、シカゴ現代美術館で開催されている。シカゴ現代美術館のチーフキュレーターが、本展の裏側を語りつくす。

by Sarah Moroz; translated by Ai Nakayama
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03 July 2019, 10:02am

Photo: Katrina Wittkamp.

様々な顔を併せもつ天才、ヴァージル・アブローの活動範囲は、音楽、グラフィックデザイン、建築、ストリートウェア、ラグジュアリーと多岐にわたる。そんな彼の、初となる大回顧展「Figures of Speech」が現在シカゴ現代美術館で開催中だ。

カニエ・ウエストのクリエイティブエージェンシーチームの一員として、アルバムのジャケットやマーチャンダイズを手がけ、出世の階段をのぼったアブロー。彼がブレイクしたきっかけは、2013年にローンチしたミラノを拠点とするブランド、Off-Whiteだった。そして2018年、ついに彼はLouis Vuittonメンズ アーティスティック・ディレクターに就任する。

会場の美術デザインを担当したサミール・バンタル(Samir Bantal)はヴァージル展の図録でこう指摘する。「若者はヴァン・ゴッホを観るために美術館には来ない。美術館は何か違うものを提供しないと」

ヴァージル展ではLouis Vuitton印の凧や、IKEAとのコラボでつくった、木と金属を使った戸棚の未発表のプロトタイプ、カニエのアルバム『Yeezus』のジャケットのための習作など、様々な「何か違うもの」が展示されている。シカゴ現代美術館のチーフキュレーターであるマイケル・ダーリン(Michael Darling)は、美術館における体験が変化していることを実感しているという。

i-Dは彼にインタビューを敢行し、美術館の新しい来場者たちについて、様々なジャンルにわたる作品をどのように展示するか、そして〈ブラックゲイズ(黒人のまなざし)〉の力について訊いた。

——あなたがヴァージルにアプローチしたのは2016年の夏ということですが、そのきっかけは?

ファッションにおける彼の活動には注目していたんですが、実は彼が他分野でも活躍していると知って興味をもったんです。私たちは顔合わせをして、実に刺激的な対話を交わしました。そしてプロジェクトの趣意書を発展させていきました。彼に声をかけたときは、大規模な調査をすることになるとは考えてもみませんでした。

——どうやって会場の規模を決定したのでしょう?

彼がこれまで手がけてきた作品は数多く、さらにかなりの広範囲にわたるので、作品を正当に評価するためには充分な面積が必要でした。最初は、展示の半分をOff-Whiteに割こうと考えていましたが、DJやファインアートのプロジェクトなどヴァージルの他の活動も活発になってきたので、Off-Whiteに関しては縮小して、数多くのテーマのなかのひとつ、という位置付けにしました。ヴァージルは音楽、デザイン、建築、ファインアートという基盤に立っているという事実こそが、私たちが展覧会で伝えたかったことです。彼の手がけてきたプロジェクトについては、みんな1〜2つは知っているはずですが、4〜5つは知らないでしょう。それこそが美術館として観客に示したいことでした。この3年で、ヴァージルは注目を集めるコラボレーションを多数手がけ、彼の活動範囲が飛躍的に広がったので、当初の計画からは大きく変わりましたね。展覧会の内容を詰める作業は、2018年の終わりごろまで続いてました。

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Installation view, Virgil Abloh: “Figures of Speech”, MCA Chicago June 10 – September 22, 2019 Photo: Nathan Keay, © MCA Chicago.

——アーティストの初の回顧展を開催するにあたり大変なこととは?

初の回顧展ということは、未来のための下地をつくらないといけません。将来にいろんな展覧会が開催されることはわかっているので。すべて実現することは不可能ですし、すべてのトピックを網羅することもできない。いつか誰かが、Off-Whiteの歴史を最初から最後まで扱った、総括的な展覧会を開催してくれればと思います。

——ヴァージルがシカゴ出身という事実は、本展に影響を与えていますか?

私たちシカゴの美術館にとっても、シカゴを拠点とするアーティストであるヴァージルにとっても、彼の初回顧展をシカゴで開催することは意義深いと考えています。どこよりも早く、自分の故郷の街の美術館に認められ、記念される、ということですから。それ以外については、本展はそこまで強くシカゴにフォーカスしているわけではありません。ヴァージルはもはや、世界を拠点にして活動していますからね。もちろん彼の生い立ちには、様々な面で地域に根づいた物語があります。彼の物腰やパーソナリティも実に米中西部的です。でも作品はグローバルで、彼のライフスタイルや、世界中の出来事を見つめる彼のまなざしを反映しています。作品にシカゴ的、あるいは米国的な要素を見いだすことも難しい。図録では、彼がシカゴで育ち、イリノイ工科大学で学んだことや、カニエとの関係などについても触れています。

——図録でヴァージルは、OMA/AMOのレム・コールハースおよびサミール・バンタルと、〈旅行客と純粋主義者〉の差異について語っています。すなわち、様々な分野にまたがった活動をすることと、ひとつの分野を深く追求していくこと。このふたつについて、あなたはどう考えますか?

彼は様々な分野を行ったり来たりできるひとですよね。彼は自分を、新しいものにワクワクする、好奇心旺盛な子どもで、熱心な観察者だと思っているみたいです。彼が柔軟な感性をもっていることは、コラボの多さや、プロセスにいろんなひとを採用するその姿勢にも表れています。いっぽうで、彼は物知りで、歴史やレガシーを尊重します。どんな分野においても、過去の名匠たちについて、そして革新をもたらしたひとたちについて知るためによく勉強しています。

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Installation view, Virgil Abloh: “Figures of Speech”, MCA Chicago June 10 – September 22, 2019 Photo: Nathan Keay, © MCA Chicago.

——ヴァージルが図録で、自分の若い頃についてこう語っています。「ラグジュアリーストアは私にとって美術館だった(中略)。皮肉なことに、本当の美術館はたった1ブロック先にあった。それでも私たちは美術館ではなくラグジュアリーストアに向かった」

当館では、普段から現代美術館に足を運ぶひとたちだけではなく、様々なひとびとにアプローチすることを意識して展覧会を計画しています。2年前の村上隆展「The Octopus Eats Its Own Leg」(シカゴ現代美術館50年の歴史上最多の来場者を記録)では、ストリートウェア、アニメ、マンガに関心のある若者にも届くことを想定していました。それが、美術館はみんなのもの、あるいは、みんなのものになり得る、というメッセージを送るためのひとつの手段なんです。ヴァージル展は、現代アートファンだけじゃなく、建築家、家具デザイナー、ファッションデザイナー、音楽ファンなど、あらゆるオーディエンスに届くはずです。当美術館を、ヴィジュアルアートに限らず様々なクリエイターたちのリソースにする。それが私たちの戦略のひとつです。

——たとえばカラヴァッジョの作品をプリントしたPyrex Visionのスウェットシャツや、Off-Whiteの〈Nothing New〉コレクションで登場した、〈Sculpture(立体作品)〉と書かれたバッグなど、ヴァージルの作品には、はっきりとアートを参照したものもあります。本展でも、ヴァージルのアートとの直接的な関わりについて言及した箇所はありますか?

それ自体をひとつのまとまりとして展示することはしませんでした。そのテーマだけでひとつの展覧会ができてしまいますからね。彼の最近のコレクションでは、印象派とのつながりがあったり、ルーチョ・フォンタナにインスパイアされていたりと、彼の作品には常にアートが参照されています。

——ヴァージルと世界的なラグジュアリーブランドとのつながりによって、〈お金〉や〈階級〉などのテーマを扱うのは容易になりました? それとも複雑になりました?

よりグローバルな広がりを期待できること、ユースやストリートウェアカルチャーについての自分の考えをかたちにするプラットフォームが得られること、またストリートカルチャー由来の反骨精神をみんなのものとして広められること、それがヴァージルにとってのLouis Vuittonでのメリットです。その精神を、LVという世界的なラグジュアリーブランドに取り入れることができる。それは彼にとって面白いことなんだと思います。彼は常に、LVのアイテムを買うことができない人たちについて考えています。だからこそ、IKEAやNikeなどで、彼らにアプローチするようなアイテム、彼らにも買えるようなアイテムをつくっているんです。

本展では、ヴァージルがデザインしたグッズを販売していますが、Off-WhiteやLouis Vuittonレベルの値段設定ではなく、日用品レベルの設定にしています。Off-Whiteはハイファッションとしての値段設定にする、つまり普通のレベルではなく高い基準を設けることで、ヴァージルファンにとって、そして彼自身にとっても憧れのブランドになりました。ファッションにはそういう厚かましさと野心がなくてはならないんです。それが高い値段設定ということです。そのバランスは実にデリケートです。本展では、人種、インクルージョン、多様性というテーマで、ヴァージルが手がけた他作品と合わせてLouis Vuittonのコレクションも展示しています。彼のLouis Vuittonでの作品には、反体制的で、ときにはどぎついメッセージが織り込まれています。彼はLouis Vuittonで、ハイファッション、特にフランスのハイファッション業界に蔓延する白人優位の風潮を押し退けようとしているのです。彼は間違いなく、LVに政治的な観点をもたらしています。でも今は、彼の商品の売上高ばかりが取り沙汰され、その事実がみえづらくなっています。私は、彼がLVの商品に込めたメッセージに、みんなが改めて目を向けるようになってほしいと思っています。

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Installation view, Virgil Abloh: “Figures of Speech”, MCA Chicago June 10 – September 22, 2019 Photo: Nathan Keay, © MCA Chicago.

——本展の構成は?

テーマごと、分野別に展示しています。最初のギャラリーでは初期作品。Pyrex Visionやシェーン・オリバーのHood by Airでのアイテムなど、ファッションが主ですね。あとはOff-Whiteに特化したセクションもありますし、音楽、そしてプロダクト、家具、建築などデザインをテーマにした展示室もあります。彼が〈ブラックゲイズ〉と呼ぶセクションもあって、そこでは、現在手がけているすべてのブランドにおける自らのスポークスパーソンとしての役割について本人が語っています。自らの経歴を始点としつつ、もっと大局的に、つまりファッション業界やカルチャーに内在する人種差別についても言及しています。

——〈ブラックゲイズ〉セクションでは何が展示されているのでしょうか。

アフリカの子どもがLouis Vuittonのセーターを着て、ブランドのバッグで遊ぶ姿を写した写真です。ヴァージルはきらびやかなファッション広告の手法を使って、ファッション広告では登場しない姿をとらえたんです。そもそもメンズの服を子どもが着ることもないですし、黒人を写すファッション広告も一般的ではありません。また、2018年の全米オープンでセリーナ・ウィリアムズのためにつくったウェアや、ビヨンセのためにつくったドレスも飾られる予定です。ビヨンセのドレスは、2018年9月の『Vogue』で着用され掲載される予定だったんですが、結局採用されなかった未公開のものです。あとはコットンのロゴを用いて米国における奴隷労働の歴史に言及した絵画など、ファインアートの作品もいくつかあります。ファッションショーで使用した〈You’re Obviously in the Wrong Place(君、明らかに場違いだよ)〉というネオンサインも。ヴァージルの生い立ちにフォーカスしたセクションになっており、彼がファッション業界で感じる居心地の悪さ、トップクラスの立場における黒人の不在について語られています。これはヴァージルが構造的な人種差別に抱く不快感を表しており、白人のオーディエンスもそれを受け入れざるを得ないんです。これらのテーマは昔からヴァージルの作品内に顕在していましたが、たとえばセレブとの交流などきらびやかな側面ほどは注目されてきませんでした。

——本展ではセレブ関連の面についても触れますか?

いえ、そこまで触れません。ただ、ケンダル・ジェンナーとベラ・ハディッドがOff-Whiteの〈Track and Field〉コレクションのランウェイを歩く映像は使用します。この映像が重要なのは、これがきっかけでヴァージルはInstagramでの知名度をあげ、ファッションを大衆化することになったからです。モデルたちもInstagram世代です。音楽のセクションでも、カニエやJay Zとのコラボ作品に触れていますが、セレブというよりミュージシャンとしての彼らとのつながりです。

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Installation view, Virgil Abloh: “Figures of Speech”, MCA Chicago June 10 – September 22, 2019 Photo: Nathan Keay, © MCA Chicago.

——ヴァージルの歩みを追ってきたファンにとっても驚きであろう事実は展示されていますか?

社会的な主張をしたい、という衝動は最初から彼のなかにあったと思いますが、あまり明確に発信されてはきませんでした。しかし本展では、それがまっすぐで一貫した主張として表れています。そういう彼の作品、これまで誰もみたことがない作品を目の前にすることができる歓び。それこそが驚くべきことだと思います。

——他の美術館への巡回は予定されていますか?

はい。シカゴ現代美術館のあとは、アトランタのハイ美術館、ボストン現代美術館、ブルックリン美術館です。北米では他の美術館にも巡回する予定ですし、現在、海外との交渉も進んでいます。世界を巡回できればと思います。

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Installation view, Virgil Abloh: “Figures of Speech”, MCA Chicago June 10 – September 22, 2019 Photo: Nathan Keay, © MCA Chicago.

This article originally appeared on i-D US.

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