Gucci

クリエイティブな抵抗:2018SSミラノ・ファッションウィーク Day1

アレッサンドロ・ミケーレによるGucci、アレッサンドロ・デラクアのNo. 21.、アルベルタ・フェレッティのAlberta Ferretti。ミラノのデザイナーたちは、創造的な一貫性とファッション界の変革を訴えるコレクションを発表した。

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sep 27 2017, 10:30am

Gucci

「クリエーションは詩的な行為です」と、Gucciのショーノート冒頭には書かれていた。「それは、切迫感や亡霊、欲望に取り憑かれた磁心から浮かび上がってくる噴出です。閉じ込められていたものが最後にみせる、生き生きとした精神力の渦なのです」。これは、単に2018年春夏コレクションを説明したものではない。アレッサンドロ・ミケーレが自分のやり方を貫きながら、どのようにしてGucciという名の銀河を作り上げたかを思い出させる言葉なのだ。新しいものへの貪欲な欲望をもつファッション業界にあって、今、多くのデザイナーはコレクションとショーの形態に抜本的な見直しを図っている。しかしミケーレは、その流れに乗るようなことはしない。彼は革命ではなく、進化に興味があるのだ。そして実際に彼はGucciに進化をもたらした。あらゆる時代の百科事典的なリファレンスから着想を得てモチーフを寄せ集め、丹念に築き上げた独自の世界に、毎シーズン新たな深みを与えてきた。

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「加速、そしてその命取りになる浅速呼吸に抵抗せよ」とショーノートで彼は続けていた。「自分自身を失ってしまうような速度のマントラに抵抗せよ。"新しいもの"という幻想に抵抗せよ。優雅に呼吸をし、自分の物語を深く掘り下げるための簡易な方法などない。ただゆっくりとそこに居座る勇気と、用心し続けることが求められるのだ」。かつてない速度で加速し続ける変化のベルトコンベアーを止めるべく立ち上がったミケーレは、108体のルックからなる今季のコレクションでも、観客を彼の想像の世界へといざない、そのヴィジョンでわたしたちを魅了した。

Gucci

建築家ピュアルクが設計したミラノ郊外のGucciオフィス兼ショールームで行なわれた2018年春夏コレクションのショー。広大な屋内スペースは、美術館並みにキュレーションされ反逆精神の空間に生まれ変わっていた。詩人ホラティウスの詩の題材にしている遺跡を中心として、古代ローマの地図を描いたセットには、ドイツの哲学者ハイデガーが打ち立てた存在論哲学から、フランスの哲学者ジル・ドゥルーズやアルベール・カミュが見出した反逆の本質分析まで、歴史に生まれた思想の数々が道標として掲げられていた。観客はそれらを辿る時空を超えた旅へといざなわれた。アステカのアーチや、ローマ神話に登場する女神、中国の仏陀、エジプトのパラオまで、さまざまな時代や文化のモチーフが、テヴェレ川に着想を得てデザインされたキャットウォークに混在していた。

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この旅の案内人はミケーレだ。ゆえに、すべてはミケーレの思うがままに進められる。チカチカとまたたくUVライトのもとをモデルが次から次へと歩いていくため、絢爛なディテールのひとつひとつを堪能することは難しい。ハイストリートのアパレル会社にデザインをコピーさせ難くするためか、それとも観客へのもっと目を凝らしてくれという意思表示か——いずれにしても、わたしたちは、ミケーレが描いた今季のGucciを食い入るように見つめていた。そこには80年代のグラムロックと、テレビドラマ『ダイナスティ』の世界観が光っていた。ファッション界ではおなじみではあるものの、ミケーレが取り入れたそれは「通り一遍」からは程遠いレベルだった。だいたい、シークインで飾られたリボン付きドレスや、スローガンが配されたトラックスーツ、宝石のように輝くライダースジャケットが退屈になるわけなどないのだ。

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ミケーレが変わる必要などないことが、これで解るだろう。今夏の決算報告でGucciは前年比43.3%の売上高増を発表した。Gucciの店舗に足を踏み入れた顧客が目にするのは季節ではなく、ひとつの世界だ。誰もがこの現代ルネサンスを体現するデザイナーの催眠術にかかってしまうのだ。

No. 21

一方、アレッサンドロ・デラクアは自身の世界観を復活させていた。5年前に立ち上げたAlessandro Dell'Acquaでクリエイティブ面での主導権を奪われたデラクアだが、今回のNo.21 2018年春夏コレクションでは、自身のセオリーを取り戻し、往年のコレクションを彷彿とさせるショーを見せてくれた。特に1997年春夏コレクションからのルックをベースとしていた今季1コレクションは、過去、現在、そして未来に踊っていた。しかし、なぜここまであからさまに自らの過去作品をモチーフとしたのだろうか? 「私が考えるに、いまファッションはとても混乱している」と言うデラクアは、こうして自らのデザインをモチーフとすることで混乱の中に秩序を見出そうとしたのだ。

No. 21

「No.21のスポーツ要素と女性らしさを、Alessandro Dell'Acquaの世界観とミックスした」と、デラクアは説明した。透けるイブニングドレスを着たモデルの隣を、クリスタルでフードが飾られたレザー・パーカ姿のモデルが歩く——彼の説明は明確だった。極めて個人的で、感情がこもったデラクアのショーは、ファッション界においてクリエイティビティが持つ真の価値について、そしてそれがもたらしてくれるべきものについて、わたしたちに思い出させてくれた。

Alberta Ferretti

この日のミラノには、もうひとり前進するために後ろを振り返っているデザイナーがいた。アルベルタ・フェレッティだ。「過去を振り返り、"いま"に何を求めるか——それを考えるべきタイミングだと感じた」と、ロトンダ・デッラ・ベザーナ庭園に建つバロック調の修道院で、ショーの後にフェレッティは語った。「飾り立てられたものはイヤ」と話す彼女は、フェザーやラッフル、その他、前回のコレクションに多く見られた装飾を潔く排除した。長きにわたりファッション界に君臨してきた彼女だが、まだわたしたちをアッと言わせるデザインを生み続けている。シックな黒いバレエ・タイツを着たジョーン・スモールズが新たな時代の幕開けのようにランウェイへと現れると、その後をジジ・ハディッド、ベラ・ハディッド、ヘイリー・ボールドウィン、カーリー・クロスが続いた。そして、フェレッティを象徴するシフォンドレスが登場したが、それはこれまでのものに比べて格段にシンプルなものだった。90年代を彷彿とさせるミニマルな世界観と、現代を代表するモデルたちの取り合わせは、今という時代の理想を描いているように感じた。吟味し、自分が見たいと思ったものに命を与えるデザイナーたちを讃えよう。Gucci曰く、「クリエーションは詩的な行為」なのだから。

Alberta Ferretti