『ル・ポール』ドラァグ界の異端児、イヴィ・オドリィ interview 「“好ましさ”の限界に挑戦したい」

『ル・ポールのドラァグ・レース』シーズン11で優勝を飾って以来、イヴィ・オドリィの人生は一変した。ドラァグ界の異端児が、いかに新時代を切り拓いてきたかを語る。「私はいつもどこかが壊れてる」

by Roisin Lanigan; translated by Nozomi Otaki
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08 October 2019, 5:16am

イヴィ・オドリィはなかなかつかまらない人物だ。私たちがどうにかインタビューの日取りを決めたとき、彼女は『ル・ポールのドラァグ・レース』シーズン11のキャストとの北米ツアーで、毎日あちこちを飛び回っていた。ようやく彼女と会えたのは、この最高(で過酷)なステージツアーの千秋楽、フィラデルフィアでのショーでのことだった。

調子はどうかと尋ねると、「今は自分の家がどこかもわからない」と彼女は笑う。彼女のトレードマークである豪胆な笑いは数多のミームを生み出し、『ドラァグ・レース』で多数のファンを獲得するきっかけにもなった。

『ドラァグ・レース』で優勝を飾って以来、イヴィの生活は一変した。彼女は今、故郷のデンバーから(文字通りの意味でも比喩的な意味でも)100万キロ離れた所にいる。自身が経営、出演していた地元のバーで、彼女はジョヴァン・ブリッジスというステージネームでドラァグクイーンとしてのスキルを磨き、スターの座へと登りつめた。

「自分のドラァグにもっと力を入れ始めたのは去年のこと」と彼女は『ドラァグ・レース』以前の生活について語った。「今年中に成功できなかったとしても、何か思い切ったことをやらなくちゃ、って自分に言い聞かせた。もうフルタイムでドラァグの仕事を始めたあとだったし。ル・ポールのおかげでチャンスをもらえたの」

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Coat and T-shirt Vetements. Trousers stylist's studio.

確かにル・ポールはイヴィに世界を魅了するためのプラットフォームを与えたかもしれないが、それを成し遂げたのは、他ならぬ彼女の才能だ。蛇を思わせるフェイスペイントにエメラルドのイブニングドレスをまとい、ラジコンを結びつけたボアを引きずりながらシーズン11の作業部屋に足を踏み入れた瞬間から、イヴィはひときわ異彩を放っていた。ミスコン風やコメディなど、ドラァグのひとつの美学やスタイルで彼女を定義することはできない。

優勝を決めたグランド・フィナーレで、25歳のイヴィは、リップシンクを特徴づけるエネルギッシュな動作や服装をあえて避け、フォーマルなロングドレスに鏡張りの精巧なヘッドドレスという出で立ちでパワフルなパフォーマンスを披露した。

ロサンゼルスのオルフェルム劇場のステージで、イヴィがレディ・ガガの「Edge of Glory」に合わせて狂気じみたようにクルクルと回転するあいだ、ペイントを施した顔、真っ赤なカラコンをつけた目がヘッドドレスの鏡に映し出され、観客の視線を釘付けにした。曲が終わる前から勝者は明らかだった。シーズン11の異端児が、見事勝利を収めたのだ。

しかし、チャンスには責任が伴う。

過去10年で、『ル・ポールのドラァグ・レース』は典型的なリアリティ・ショーから世界的人気を誇る番組へと成長を遂げた。放送局がLogo TVからより大手のVH1に変わり、海外でも2本のスピンオフシリーズ(『Drag Race Thailand』と10月放送予定の『Drag Race UK』)が製作され、LAとNYではドラァグコンも開催。インタビュー時にイヴィが参加していたツアー以外にも、制作会社World of Wonderが主催するアンサンブルツアーもあり、クイーンの単独ツアーも世界中でチケットが完売している。

また『ドラァグ・レース』卒業生たちは、YouTube(トリクシー・マテル、カティア)、オートクチュール(ミス・フェイム、ヴァイオレット・チャチキ)、さらに映画スター(シャンジェラ)まで、多方面で活躍している。大金が絡むビジネスで、しかも全世界の数百万人が観る番組となれば、わずかな過ちでも凄まじいバッシングの対象となる。特に『ドラァグ・レース』ファンの熱狂は、その規模も不安定さも桁外れだ。

Redditでは『ドラァグ・レース』のひとつのサブフォーラムだけで、メンバー数は27万人にのぼる。さらに、嫌いなクイーンをSNSで直接罵倒したり、人種差別的な暴言を吐くファンもいる。

しかしイヴィは、SNSでフォロワーが急増したこと(Instagramのフォロワー数は9月28日時点で84万2000人)へのプレッシャーにも、落ち着いて対応している。私たちの多くと同じように、彼女もインターネットとともに育った世代だからだろう。

「つまり、何事にも良い面と悪い面があるってこと」とイヴィ。「ファンが愛してくれるあいだは心から応援してもらえるけど、嫌いになれば私たちの言動に激しい嫌悪感を抱く。だから、自分の意見を表明するときは注意しなきゃいけない。でも結局は、現実的で誠実で地に足のついた人間でいれば、誰でも成功を掴めるはず」

「私たちの意見、行動、服装に異を唱えるひとは、絶対にいなくならない。でも、恵まれない環境で育って、他人の立場を理解しようとするひとなら、きっと大丈夫。私自身は、SNSで起きていることはそんなに心配してない」

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『ドラァグ・レース』の知名度が上がるにつれ、SNSのファンベースも拡大していった。

「ドラァグのメインストリームでのイメージは、ここ数年で大きく変わった。特に勝ち抜き式のリアリティ番組のおかげで、大きな注目を集めたから。今は誰でも審査員になれる」とイヴィはいい、この〈審査員制度〉の諸刃の剣的な面を指摘した。

「今ではメインストリームに強い主張をもつ巨大なファンベースが存在する。それがストレスになることもあるけど、私たちがカルチャーとしていかに成長してきたかを示していると思う。私自身、クィアの男性として堂々とクィアのアートを提示できるようになったんだから」

「『ドラァグ・レース』は、クィアのひとびと、特に有色人種のクィアがポップカルチャーに大きく貢献してきた事実を、メインストリームに知らしめるきっかけになったと思う。私たちはこれまでに、自分たちが世界に提示してきた美しいアートの創り手として注目されたことはなかった」

「でも、私たちは今〈ルネサンス時代〉を迎えてる。シスジェンダーの白人が生み出したとされていた作品の真の創り手は誰なのか、みんなようやく気づき始めた」

『ドラァグ・レース』に批判の声が寄せられたのは、この番組があまりにも急激に人気を集めたからだろう。最近シーズンで、ファンたちは、番組、制作側、ル・ポール本人の価値観が先進的でないため、トランスジェンダーやノンバイナリーのレース参加者に自身について語ったり競争する充分な機会が与えられていないとして非難している。

この番組が難しいテーマの認識を広め、HIV、トランスフォビア、ホモフォビア、転向療法についての対話を放送してきたのは間違いないが、トランス女性であることをオープンにしている出場者が参加したのは、番組の10年の歴史のなかでたったの2回だけだ(シーズン9のペパーミントとシーズン5のモニカ・ビバリーヒルズ。『オールスターズ』もカウントするならジア・ガンもそうだ)。

「できる限り配慮して、どんなに早く『ドラァグ・レース』の現代化を進めようとしても、すべての若者を満足させることはできない」とイヴィは言明する。

「私たちを取り巻く世界は、ものすごいスピードで進化してる。10年前は、ノンバイナリーという言葉の意味なんて誰も知らなかった。正直、この番組は追いつくために必死に努力してると思う。でも、より良い描写、もっと多様で的確な表現というものは、常に追求していかないと」

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Briefs Comme des Garçons Shirt x Sunspel available at Dover Street Market. Boots stylist's studio.

「私たちの姿がより多くのひとに観られているということも忘れないでほしい。つまり、私たちは、今までこんなカルチャーが存在するなんて想像もしてなかったひとの目に触れているということ。ふたつの世界を結ぶ架け橋となるはずの番組に、ドラァグカルチャーのなかでいちばん先進的なクィアの側面を期待することなんてできない」

しかし、ドラァグは必ずしもひとつの美学や型にはめられる訳ではない、と示すことで、『ドラァグ・レース』をより過激な領域へと推し進めているのが、クィアの黒人であることを誇りに思い、異端であることを恐れないイヴィのようなクイーンたちだ。

「私は他の誰かの言い分を証明するためにここにいるんじゃない」とイヴィは断言する。彼女がこれほど多くのひとびとの共感を得るのは、「言い分を証明」したい訳でも斜に構えて活動している訳でもなく、常に彼女らしくいるからだろう。

イヴィのルックス、ジョーク、態度は、すべて彼女のアイデンティティの表れなのだ。TV向けにつくられたものではないからこそ、『ドラァグ・レース』はこれほど素晴らしい番組になったのだ。

「ドラァグは、メイクの下に隠されたそのひと自身を偽りなく表現するもの。アイデンティティで遊ぶ大胆な悪ふざけ。私は“好ましさ”の限界に挑んでいきたい」

「私はいつもどこかが壊れてる。でも、そう思って毎日の生活に向き合ったほうがいい。ドラァグでは過激さが肝心だから」

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All clothing model's own.

Credits

Photography Amy Troost.
Styling Alastair McKimm.

Hair Shay Ashual at Art Partner.
Make-up Kanako Takase at Streeters.
Nail technician Tracylee Percival at Bri Winters using Dior Vernis.
Photography assistance Darren Hall and Karen Goss.
Digital technician Alonzo Maciel.
Styling assistance Madison Matusich.
Make-up assistance Kuma.
Casting director Samuel Ellis Scheinman for DMCASTING.

This article originally appeared on i-D UK.

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