『パーティで女の子に話しかけるには』映画評

1977年、ロンドン郊外。パーティで出会った二人はパンクを求めて街へと繰り出す——。『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のジョン・キャメロン・ミッチェル最新作を、翻訳家・三辺律子がレビュー。

by Ritsuko Sambe
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29 November 2017, 8:26am

©︎COLONY FILMS LIMITED 2016

「異性が〈異星人〉に思えたあのころの甘酸っぱい恋の物語」。これは、原作者のニール・ゲイマンが映画に寄せた言葉だ。そうそう、あのころは、異性(好きな子)がなにを考えているかわからなかったよね、宇宙人みたいだったよね、と思う人は少なくないはず(まあ、あのころだけじゃないか)。でも、その相手が本当に「異星人」だったというのが、この物語。

原作者のニール・ゲイマンは、最近TVシリーズ化されて話題の『アメリカン・ゴッズ』の作者でもあり、ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ブラム・ストーカー賞、ローカス賞など、すぐれたSFやダークファンタジーに与えられる賞を総なめにしている。今回の「パーティで女の子に話しかけるには」も、SFやファンタジー・テイストの濃厚な短編を集めた『壊れやすいもの』(金原瑞人ほか訳 角川書店)に収められている。

主人公のエン(原作ではイーン)は、パンクに傾倒する高校生。ある日、友だちとふしぎなパーティに迷いこみ、美少女のザン(原作ではトリオレット)と出会う。なにがおかしいって、さえない男子高校生であるエンはうまく「パーティで女の子に話しかける」ことしか頭になく、パーティのようすがおかしいことも、ザンが言っていることが意味不明でぶっとんでいる(なにしろ異星人なのだから)ことも、まったく意に介さないこと。観客から見れば、突っ込みどころ満載の変なことだらけのパーティなのに、そんなことに気づくようすもなく、ただひたすら必死でザンに話しかけるエンは、もはやこっけいを通り越して、いじましい。原作では、「ぼくは目の前の女の子と話している。意味不明な内容でもいい。彼女の名前が本当はトリオレット(ザン)じゃなくてもかまわない」とまで言い切ってるし。まったくこの年代の男子はしょーもない(女子もか)。

ところが、一足先に女の子とベッドルームへ消えたはずの友人ヴィクが、真っ青な顔でやってきて、「逃げよう!」とエンをむりやりパーティ会場から連れだすところから、様相が変わりだす。実は、原作はここで終わり。けれども、映画では、エンを追いかけて、ザンが会場を飛びだしてくるのだ。エンといっしょに「パンクへいく」ため、48時間だけの自由をもらったと言って。

ここから、下心満々の高校生の話は、パンク・ロックとファッションに彩られた純愛の物語へと変わっていく。48時間という時間制限がいやおうなしにふたりの恋を盛りあげる。

異星人であるザンは、なにもかもに興味津々。公園の遊具に身をからめ、人間の食べ物であるポテトを口にし、エンが熱く語るパンク・ロックの話に一心に耳を傾ける。そんな人間離れした役を、この世のものでない美しさを持ったエル・ファニングが好演。そういえば、ファニングは、やはりパンク・ロックの時代を描いた『20センチュリー・ウーマン』でも、奔放な少女を演じていた。

エン役は、舞台『夜中に犬に起こった奇妙な事件』(同名の原作はマーク・ハッドン作 小尾芙佐訳 早川書房)で自閉スペクトラム症の少年を演じ、トニー賞を受賞したアレックス・シャープ。地元のパンク・クラブのアナーキーなオーナー役に、ニコール・キッドマン。

「振り返ったとき、人生を壊れやすいものに浪費したと思うほうがいい。人生を道徳的な罪を犯すまいとして費やしたと思うよりずっといい」。これは、ワン・リング・ゼロの「アズ・スマート・アズ・ウィー・アー」に収められた曲の一節(ちなみに、このアルバムは、ポール・オースターやマーガレット・アトウッドなどそうそうたる作家たちの詞にワン・リング・ゼロが曲をつけたもの)。原作者のゲイマンは、ある日、夢の中でふっとこの言葉が浮かび、目覚めるなり書きとめたという。そして、ここから「壊れやすいもの」という言葉をとり、短編集のタイトルにした。映画の最後のシーンは、まさにこの言葉を肯定してくれるような「甘酸っぱい」切なさを味わわせてくれる。

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パーティで女の子に話しかけるには
12月1日(金)新宿ピカデリー 他 全国順次ロードショー

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