その視線は次の挑戦へ。止まらないAwich、新たなステージへの野望を語る

魂が震えるインタビューが届いた。もう止まらない、誰にも止められない。自身のために、シーンのために、Awichは挑戦を続け高いミッションを自らに課す。

by Tsuya chan
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29 July 2022, 7:00am

今のAwichをつかまえるのは、簡単なことではない。

今日も早朝からのシューティング。楽屋で慌ただしくヘアメーク中の彼女の傍にようやく座れたところで、早速切り出す。「――誰も自分を知らない場所に行きたくなることはない?」

ヘアブローの大きな音にややかき消されながらも、Awichの声はよく通る。

「いやいや、そもそも私なんて全く知られてないから!ストリートヴァイブスのある場所を歩いてるとさすがに気づかれるけど、それ以外のところだとまだ全然」

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AWICH WEARS JUMPSUIT ALAIA. NECKLACE MODEL'S OWN.

しかし、ここからがAwich節である。

「でも、行動範囲が狭まってプライバシーがなくなっていくのが嫌だっていう気持ちも分からなくはないけど……自分のストーリーを売って、皆に知ってもらいたいと思って生活してるのに、それを知られたくなくなるって矛盾してませんか?」

「もちろん自分だけのプライバシーは守られるべきだけど、それだけ有名になったらプライバシーを確保するだけの場所もお金も生まれるじゃないですか。そんなことを言う人って、お金稼げてないんじゃないかな。色んなリソースを搾取されてるんだと思う。そうなると病んでいくよね。だから、搾取されないように周りに信頼できる人を置かないといけない。ちっちゃいお家に住んで、ちっちゃいプライバシーしかないのって、そりゃあ隠れたくなるよね。おっきい家に住めばいいじゃん。」

今のせせこましい日本のショウビズ界に対する、ぐさりと刺さる発言。何を大切にすべきか、いかに振舞うべきか。いつだって、Awichのメッセージはシンプルだ。

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AWICH WEARS BODYSUIT, GLOVES, BOOTS ALAIA. NECKLACE MODEL'S OWN.

Awichの住む世界=Queendomは、加速度的に大きくなっている。今年3月に成功させた武道館単独公演を皮切りに、数々の大規模フェスに出演。とりわけ、5月のPOP YOURSのステージは凄まじかった。錚々たるラインナップによって数々のヒット曲が連発される中、Awichは一人だけワンマンライブをそのまま持ってきたようなストーリー性のあるドラマティックなショウを展開した。多くのオーディエンスが涙し、心を動かされた。皆がいかにエンパワーメントされているかを本人に伝えると、笑みを浮かべながらこう述べる。

「ライブは、自分が同じことを毎日やってても泣けてくるものがある。自分で自分を感動させる自信があるし、だからこそそれがちゃんと人に伝わる確信もある。まずは自分が自分に心動かされないとね。だから、私は新しいアルバムが出てツアーしてっていうサイクルの中で、マンネリ化することはない。挑戦してるから。マンネリは挑戦しないことから生まれる。だから、常に次の挑戦に向かっていかないと」

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AWICH WEARS JUMPSUIT ALAIA. NECKLACE MODEL'S OWN.

じゃあ次の挑戦は?と尋ねると、Awichは「ほんとに聞きたい?」と返してきた。どこか不敵な笑みを浮かべながら、「マジで言いますよ?」とこちらを一瞥する。ブラシで長い髪がとかれる。漆黒の、つややかな流線形のようなロングヘアの束。一瞬の緊張感が走り、髪をなびかせる音が聞こえてくるかのような錯覚に陥る。

「私の次の挑戦は、2025年までにグラミー賞を獲ることです」

「もう動きはじめてる。今年から隔月で海外に行って、向こうのプロデューサーとやって。今後は向こうのフェスにも出る、世界的なヒット曲を出す、色々考えてる。もちろん、そのために日本でどのくらい支持されてるのかは重要なクレジット(数字)になってくる。数字って言うと味気ないけど、そこも怠ってはいけない。その挑戦が、私だけでは実現できないことも分かってる。聴いてくれてるみんなもファミリーだと思ってるし、みんなで挑戦したい」彼女は、もう一度私の目を見る。「ね?さすがにそれは挑戦だと思わない?」

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AWICH WEARS BODYSUIT, GLOVES, BOOTS ALAIA. NECKLACE MODEL'S OWN.
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AWICH WEARS BODYSUIT, GLOVES, BOOTS ALAIA. NECKLACE MODEL'S OWN.

最近のAwichの作品や武道館公演、POP YOURSでの盛り上がり、ユース層の熱量を観察しながら、私はそこで鳴っている音楽がようやく<ヒップホップ/ポップス>という二項対立から解き放たれつつあるような感触を得ている。この国において、もはや<売れるヒップホップ>とはポップにセルアウトするものではなくなってきているし、そのままのヒップホップの魅力に熱い支持が集まりはじめている。果たして、Awichはヒップホップとポップのせめぎ合い、その定義が変わりつつあることをどう考えているのか?彼女の口から出てきたのは、興味深いエピソードだった。

「まだ名前は言えないんだけど、一昨日くらいまで、海外のヒップホップのレジェンドと過ごす貴重な時間があって。マジでヤバいレジェンドなんだけどね!その人が言ってたのが、“ヒップホップは色々なものを統合するフェーズに来ている。だから、もう何がヒップホップで何がヒップホップじゃないとか言ってる時代じゃないんだ。むしろ、色々なカルチャーを配合していく柔軟さがあるから、俺たちの音楽であるヒップホップはここまで世界に広がったんだと思う”って。色んなカルチャーに色んなフェーズがありますよね。上昇もあれば衰退もある。今はヒップホップにとって拡張のフェーズなんだろうね。ビヨンセとドレイクがハウスやったり、たとえばkZmだって全然違う方向にいるし。」

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AWICH WEARS BODYSUIT, GLOVES, BOOTS ALAIA. NECKLACE MODEL'S OWN.

「全員が全員同じ方向を向く時代は終わった。TVがあった時代は皆が同じタイムラインで動いていたけど、今はそれぞれが好きな時に好きなものを好きなだけ吸収していける。どんな音楽でもコミュニティを作れば大きくできるし、それらを本当に自信をもって信じてやってる人が、心をつかむことができる」

そんな中でも、いや、そういうフェーズにヒップホップが来ているからこそ、「ここだけは絶対にぶらさない」という軸があるはずだ。Awichにとってその軸とは何か?問いかけてみると、すかさず答えが返ってきた。

「ルーツをレペゼンすることですね。音楽性よりも、精神性。私は沖縄出身ってことをリスペクトしてる。皆も、自分のルーツに自信を持つことって絶対に飛躍につながると思う。どんなに音楽の形が変わっても、そのスピリットさえ感じられればヒップホップだから。だって、かっこいい人って“昔からこれが好きで影響受けてて”とか“ずっとこの風景が好きで”とか、皆その人なりの歴史やストーリーを作品に反映してるもんね」

Awichは、どんな切り口で質問を投げかけても答えがブレない。本音と建て前なんて二枚舌は存在せず、すっと筋の通った一本の道を誰にでも分かりやすく提示する。嘘偽りなんてない。だから皆がついていく。群れを成す。

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AWICH WEARS TOP, DENIM PANTS STYLIST OWN. NECKLACE MODEL'S OWN.

最後に、<ヒップホップと女性>というテーマを投げかけた。日々多くのAwichファンの女性と出会うが、彼女たちはAwichの音楽を聴いて自らを奮い立たせ、自分なりの音楽を探して紙とペンとマイクを手に取る。その姿を見ているからこそ、訊いてみたい問いがある。「大きいヒップホップのステージにまだまだ女性が少ないのは、Awichさんにとっては“女性のラッパーたちの力が足りてない”のか、“シーンや業界の女性に対する考えが遅れている”のか、どっちだと思いますか?」限られた時間で議論を活性化させるため、あえて二元論での安易な問いをぶつけてみるも、ここでも彼女の視線は揺るがない。

「どっちもあると思う。女の子たちが、自分で自分たちにリミッターをかけてしまってるところはあるのかもしれない。女だからこういう曲を作らないといけないんじゃないか、とか。一方で、シーンとして“女はこれとこれがいれば十分じゃん”って思っちゃってる部分もあるよね。だから、一人ひとりが自分にできることを始めていくべきだと思う。Awichがこう言ってるから私も違う角度で考えてみようっていう女の子が出てきてほしいし、業界の男の人たちももっと女の子のラッパーを探してほしいし。でも、それで探してみたところで良いラッパーがいなかったら意味ないよね。皆が自分から動きはじめなくちゃね。私もがんばるから皆もがんばろうよ」

いつの間にかヘアメイクが終わり、Awichの目つきもより一層鋭くなっていた。彼女は、鏡に映る自らの姿を確認し立ち上がる。さぁ、陽の光を浴びながらのシューティングへ。今日もまた、次なる挑戦がはじまる。カメラの先で、黒く長い髪がなびく。早朝の澄んだ空気と、日光と、青い空のみずみずしさを存分に吸収しながら、そのシルエットは表情を変えていく。Queendomは、今この瞬間も拡張を続けている。

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AWICH WEARS TOPS, DENIM PANTS STYLIST OWN. NECKLACE MODEL'S OWN.

CREDITS


Creative Director Kazumi Asamura Hayashi
Photography Kenta Sawada
Styling Shohei Kashima
Make-up Chihiro Yamada
Text Tsuya chan
Editor Riku Ogawa
Special thanks POP YOURS

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