「自分は自分、今はそれに満足してる」ル・ハン インタビュー

中国を代表するスターが明かす、自身のブランド〈Un Garcon Charmant〉の裏話、俳優としての新たな挑戦、名声の負の側面との向き合い方。

by Taylor Glasby; translated by Nozomi Otaki
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04 March 2021, 9:32am

この記事はi-D Utopia in Dystopia Issue, no. 362に掲載されたものです。注文はこちらから。

昨年の春、4月20日の30歳の誕生日を目前に控えたル・ハン(鹿晗)は「不安でいっぱい」だったという。20代を通して、中国を代表するエンターテイナーとして世界で活躍してきた彼の頭をどんな思いがよぎったのかは、ある程度想像がつくだろう。結局そのまま誕生日は過ぎたが、コンピューターの誤作動から大混乱になると恐れられた2000年問題のように、大した事件は起こらなかった。

 「30歳になった瞬間、特に何も変わらないと気づいて。プレッシャーがなくなって気持ちが軽くなりました。きっと共感してくれる人は多いと思いますが」

 彼が不安に襲われるのも無理はない。時間とは、ポップスターにとって無慈悲なものだ。業界のトップに君臨する人びとは、世間の関心を集め続けるべく常に葛藤している。ハリー・スタイルズやジャスティン・ティンバーレイクのようなソロ活動でのサクセスストーリーの裏で、世間から忘れ去られるスターは数知れない。

 ル・ハン自身も、人気絶頂期の韓国アイドルグループから脱退した当時、同じような壁にぶつかった。この2014年10月の決断は無謀にも思えた。しかし、2015年の終わりには2本の映画に出演し、スタジオアルバム、EP、シングルアルバムから成る『Reloaded』シリーズをリリース。計470万枚以上を売り上げ、中国本土の記録を塗り替えた。

 それ以来、彼の名声は揺らぐことなく、コンスタントに活動を続けている。セカンドLP、EP、2枚のライブアルバム、9枚のシングルを発表し、5本の映画と4本のTVドラマに出演。さらにCartier、Balmain、Lancômeのキャンペーンモデルを務めるなど、多方面で活躍している。

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All clothing U.G.C Earrings (worn throughout) model’s own. Shoes Nike.

故郷の北京を拠点にしながら、現在はGucci、日本のスキンケアブランドのキュレルとKoh Gen Doのアンバサダーを務める。2018年はじめには個人事務所〈鹿晗工作室(Lu Han Studio)〉を設立。昨年には米フォーブス誌が選ぶ中国のセレブリティ100人の15位(彼の最高記録は2017年の2位)にランクインした。中国のデジタルリリース曲の売上ランキングでは4位を記録。Instagramでは120万人、Weiboでは630人のフォロワーを擁する。ストリートウェアの愛好家で、数年前には自身のブランド〈Un Garcon Charmant(U.G.C.)〉を立ち上げた。U.G.C.は「僕らが(エンタメ業界で)やっていることと深い繋がりがある」ストリートファッションから生まれた、とルハンは説明する。「僕と友達のあいだで自然とクリエイティビティが生まれていった。僕らの努力やアイデアを披露したくて、このブランドが誕生しました」色鮮やかなベルベットのトラウザーと揃いのスポーツジャケット、迷彩柄のスウェット、グラフィックTシャツ、ボンバージャケット、ボックス型のポロシャツなどのアイテムは、ほとんどが瞬く間に完売した。

 公の場でU.G.C.のアイテムを着用してはいたものの、ル・ハンは最近までブランドオーナーのひとりであることを公表せずにいた。「このブランドには健全なルーツを持ってもらうために、最初から大きな注目を集めるのではなく、自然と成長していってほしかった。それが重要なステップでした」とルハンは語る。「それから3年経ち、Un Garcon Charmantの独自のスタイルや言語が確立されたので、もうそろそろ公表してもいい頃かなと思ったんです」

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All clothing U.G.C

ネットでルハンの数千枚もの写真を眺めていると、ルハンのクリエイティブな活動に大きな変化はないように見える。彼のベビーフェイスは、K-POPスター時代からほとんど変わっていない。有名オーディション番組『创造营2020(Produce Camp 2020)』で指導に当たった十代の出場者たちとも同年代に見えるほどだ。

しかし、スポットライトの下で過ごした年月は、間違いなく彼を変えた。「自分は自分。今はそれに満足しています。10年前や20年前とは明らかに変わりました」と彼はいう。「これからも自分探しの旅を続けていくつもりです」

 彼は礼儀正しく、あまり多くを語らない。あらゆる有名人と同様、彼もアンチやゴシップ、パパラッチに悩まされてきた。彼らとの一触即発な関係について、ルハンは2017年の「Roleplay」で怒りを露わにしている。「暗闇に潜み企む/サーカスのピエロの手品みたいに/僕やクルーを苛立たせる/もううんざりだ」

2018年にはネット上で自分の情報を進んでチェックすることはなくなったルハンだが、今は名声の負の側面に対する心構えができたという。「2、3日前にもネットで(批判を)見かけたんですが、素晴らしいことだと思いましたよ」と彼はいう。

「いつも自分を追いかけて批判してくれる人には感謝しないと。彼らのおかげでもっと高みを目指せる。つまり、奮い立たせてもらっているということですから。でも、自分らしくいることも大切にしたい。後から振り返ったときに有意義な時間だったと思えるように」

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Suit Dries Van Noten. Top U.G.C

自らの作品やスーパースターの座に甘んじることなく、ル・ハンはいつも好奇心旺盛で、休むことなく活動を続けてきた。2020年には俳優としての転機を迎え、巨額の予算を投じた大作映画ではなく、より示唆に富んだTVドラマに出演、ファンを驚かせるような役を演じた。

 「自分のアイデア、何をどのようにやっているかを他人に理解してもらうのは大変です」とル・ハンは吐露する。「これからも自分の直感に従って、より意義深い、良い作品に出演したい。そうすれば、出演作が僕のアイデア、考え、成長を示す強力な手段になってくれるはず。今はそう考えるようにしています」

 彼が最近演じたのは、SFロマンス『穿越火線(Cross Fire)』のうだつの上がらない頑固なゲーマー、シャオフェンや、サスペンスドラマ『在卻難逃(Sisyphus)』で物語の鍵を握る残忍で複雑な悪役などだ。

 このような役柄を演じたことで、ル・ハンはネット時代にセレブの仲間入りを果たした、SNSの忠実なファンのおかげで知命度を増してきた〈トラフィック・アーティスト〉のイメージから脱却しただけでなく、完璧で洗練されたイメージが何よりも重視される従来のアイドルの枠からも抜け出すことに成功した。

 「役を選ぶときはじっくり検討します。自由にできる余裕があることが大切なので」とル・ハンは明かす。「でも、悪役や複雑な役でなければいけない、というわけではありません。愉快で賢いスーパーヒーローでも、路地裏の小さなレストランのオーナーでも、本質を捉えた興味深い物語でさえあればいい」

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Suit Dries Van Noten. Top U.G.C

 「『在卻難逃』のジャオビンビンのようなキャラクターは初めての挑戦でした」とルハンは冷酷さの裏に葛藤を抱えた役柄を振り返る。「彼は邪悪だとも不道徳だとも思いません。彼が罪を犯した動機はかなり複雑です。心の奥深くには優しさが残っているのに、人生と誤った選択によって間違いを犯してしまった」

 「最初は役になりきるのに苦労しましたが、ウー・パイ監督や共演者のチエン・ユアン、チー・シー、ウー・ユエと深く語り合うことで、ジャオビンビンの思いや世界に入り込むことができました。友達も僕の演技にショックを受け、びっくりしていたので、俳優としては大満足です」

 俳優業に力を入れるようになった今も、ルハンの(子どもの頃サッカー選手の次になりたかったという)ミュージシャンとしてのキャリアは、決して後回しになったわけではない。昨年11月には『π』シリーズを締め括る『π-volume.4』をリリース。今年1月には中国の人気アニメ『天官赐福』シーズン2の主題歌を務めた。

 「音楽は今までもこれからも、僕にとって一番の表現媒体。普段はいろんなジャンルの音楽を聴きます。本当に何でも聴きますよ」と彼はいう。「ハマったジャンルがあると、自分でもこういうスタイルに挑戦できないかなと思って、プロデューサーと一緒に作ってみたりとか。もちろん、こういうことができるのはピンと来るものに出会ったときだけです。ただ何となくやりたい、だけではダメ」

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All clothing U.G.C

多忙なスケジュールの中でも、仕事に対する姿勢は一貫していて、スポンジのように多くを吸収し続けているル・ハン。インタビューでも、身の回りのさまざまなものから学んでいると度々語っている。ただ、音楽のインスピレーションが湧いたとき、めまぐるしい日常の中で見失いそうになることもあるいう。

「自分の時間が取れるのは忙しいスケジュールの合間なので、いつアイデアが浮かんでくるのか注意していないといけません。車の中でも撮影中でも、そのアイデアを留めておけるように。ときどき、何かのフレーズやリズム、誰かに言われた言葉が、頭の中のたくさんのアイデアと完璧に繋がることがある。そういうときは、すぐにそれを形にするようにしています」

鹿晗工作室のトップとして、ル・ハンは思うがままに活動する自由を手に入れた。世界中のレコーディングアーティストが望んでやまない、好きなものを好きなときに創り、自分がふさわしいと思うタイミングで発表する自由は、彼がこれまで手にしたなかで最高の贈り物だ。

それを実現するまでの道のりは決して平坦なものではなく、誰もが最初のビジネスで経験するように、「もちろん失敗もたくさんありました」とル・ハンは認めるが、「それについては話したくない」と笑う。

しかし、彼がそんな小さな挫折から得たのは、長い目で見ればとても価値のあるものだ。「何かを証明するために急ぐ必要はない。年を重ねるうえで、人生の中で自分に必要な教訓が明らかになるはずです。集中力や方向性が自分が求めるものに向かっている限りは大丈夫。今は流れに身を任せたい」とル・ハンは未来について語る。

「試す価値のあることはまだたくさんある。最高のチャンスが訪れたら、同じことは繰り返さず、新たな挑戦もしたいです。大切なのは、自分をリズムを探すこと」

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Credits


Photography Luo Yang
Styling Max Clark

Hair Lim Yejin.
Make-up Lim Yujung.
Photography assistance Jian Jian.
Photography editor Dong Su.
Styling assistance Marina de Magalhaes and Huang Cai Yi.
Producer Feifei Li and Shuang Chen at Showcase.
Model Lu Han.

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Lu Han