Raf Simons、Helmut Lang、アントワープ・シックス。香港ポップスを代表するスターのアバンギャルドなスタイルを、i-Dが厳選して紹介。
香港ポップスの女王と称されるシンガーソングライター、フェイ・ウォン(王菲)。彼女は中国を代表するミュージシャンであるだけでなく、この国でもっとも愛されるセレブのひとりでもある。
30年におよぶキャリアのなかで、ドリーム・ポップやトリップ・ホップなどのオルタナティブなサブジャンルの要素に独特な甘い歌声を融合し、香港ポップスの唯一無二のブランドを確立。
さらにフェイが他のアーティストと一線を画するのは、(Vivienne Westwoodやアントワープ・シックスなどの一風変わったアイテムを取り入れた)超アバンギャルドなステージ衣装から、90年代を象徴する私服まで、その並外れたスタイリングだ。そんな彼女の代表的なルックを、キャリアとともに振り返る。
1993年 香港でのパフォーマンス
中国、北京に生まれたフェイは、大学進学を機に香港へ引っ越す。80年代後半に最初のレコード契約を結び、シャーリー・ウォンの名で3枚のアルバムを発表。仕事に行き詰まりを感じた彼女は、1年間ニューヨークへ留学する。帰国後、フェイ・ウォンへと改名し、4thアルバム『Coming Home』をリリース。本作はフェイのキャリアにおける転換点となり、彼女の音楽は新たな方向へと向かっていく。上の写真は、アイコニックなナンバー「Lau Fei Fe」を歌うフェイ。衣装は同じくアイコニックなモヘアのタートルネック、ニットのブリーフ、ビニールのようなスリップドレスだ
1994年『恋する惑星』
音楽だけでなく、映画の世界でも才能を発揮したフェイ。そんな彼女が演じたなかでもっとも有名な役柄は、ウォン・カーウァイ監督『恋する惑星』のフェイだろう。劇中でファーストフード店のオーナーからキャビンアテンダントに転身する彼女が身につけるのは、90年代ファッションの定番であるストライプTシャツ、花柄ワンピース、そしてもちろんCAの制服。上の写真からもわかるとおり、サングラスは必須だ。本作への出演以降、彼女はプライベートでもサングラスを愛用するようになった。
1990年代 フォトシュート
斬新なステージ衣装で知られるフェイだが、プライベートのルックにも一目瞭然の90年代のトレンドが満載だ。これはプロモーション撮影中の彼女。ミニTシャツにスリップドレスを重ね、チャンキーニットのアームウォーマー、そしてトレードマークであるライトカラーのオーバルサングラスを組み合わせている。
1990年代 フォトシュート
上記で紹介したクロップドタートルネック、ミニスカート、サイハイブーツのような私服と同様、フェイの音楽活動は、90年代のユースカルチャーの精神を体現している。欧米のアーティストのカバー曲で知られる彼女は、THE CRANBERRIESの「Dreams」やCOCTEAU TWINSの「Rilkean Heart」の広東語バージョンを発表。COCTEAU TWINSはその後フェイと頻繁に共演し、90年代を通して彼女に楽曲を提供した。
1998年 コンサート
90年代半ばから、フェイは長年スタイリストを務めていたティティ・クワンの働きによって、斬新なステージ衣装で知られるようになる。ふたりはヨーロッパのファッションを牽引するデザイナーのアイテムを取り入れた、実験的なルックを披露した。特に注目を集めたのは、Vivienne Westwoodのコルセット、背中の開いたAnn Demeulemeesterのトップス、Helmut Lang 1999年秋冬コレクションのメタリックパンツだ。
この日の彼女は、Raf Simonsのクモの巣ニットにJurgi Persoonsのスカート、Jeremy Scottのソールなしのハイヒールという出で立ちでステージに登場した。ちなみにランウェイ以外でこのヒールを身に付けたのは彼女だけだ。
1998年 フォトシュート
90年代のアバンギャルドなファッションを愛し、そこに同年代を象徴するストリートスタイルを取り入れていたフェイ。この写真では、Helmut Langのアイコニックなスリットトップスにチェックのワイドパンツ、ボリューミーなスニーカーを合わせている。いかにも90年代らしいツインお団子ヘアにも注目。

2011年 台北でのパフォーマンス
2004年、フェイはミュージシャンとしてのキャリアを休止する。その結果、長年の仕事仲間であるティティとは道を分かち、フランスに渡ったティティはフルタイムのデザイナーとして活躍する。しかし2010年、フェイが音楽界に復帰すると、ふたりは再びタッグを組む。台北でパフォーマンスを行なったフェイは、かつてのスタイリストがデザインした、クリスタルをあしらったシャンデリア調のドレスで登場した。