東京のユースに聞いた ジェンダーとファッションの関係性
既存のジェンダー規範に捕われないスタイルを貫く東京のユース10人に、ファッションとアイデンティティにまつわる質問を投げかけた。
企業や教育機関が「多様性」をキーワードで掲げる一方、未だに女性が職場で化粧を強要されたり、男性が髪を長く伸ばしていると就職で不利だったりと様々なジェンダー規範が根強く残る現代の日本社会。そんな現状をものともせず、既存のジェンダー規範に捕われずに自分のスタイルを貫く東京のユース達にファッションとアイデンティティにまつわる質問を投げかけた。ファッションにおける「男らしさ/女らしさ」そして彼らにとっての「ジェンダー」とは?

小犬 @qu_quan
──何をしている人?
料理専門学校の学生。
──あなたのジェンダーアイデンティティ、ジェンダー代名詞は?
He。
──ファッションはあなたのアイデンティティにどう影響していますか?
ファッションが私のアイデンティティに影響するではなく、私ならではのアイデンティティが影響することで、ファッションに対する見方が変わると考えている。
──あなたのスタイルを3つの言葉で表現するなら?
ラブ、ロマンチック 、幸せ。
──あなたのスタイルやジェンダー観を形作るのに、影響を与えた人物は誰ですか?
中国のアーティスト〈@cor.latex〉から影響受けた。彼の影響で自分自身を認めることができ、大胆に他人の前で自分を見せることができた。
──もし人々のジェンダー観を変えられる道があるとしたら、何を変えたいですか?
人々が友善な見方を持ち、自分とは違う物事に寛容であるのを期待している。

Hibari @hiparis_oira
── 何をしている人?
モデル 、 ショートムービー作り。
──あなたのジェンダー代名詞は?
She! 女性です。すこし細かくすると、心とからだは女性で、脳は男の子という感覚がおいら自身。
──あなたのスタイルを3つの言葉で表現するなら?
楽しい、カワイイ、適当。
──あなたの「ジェンダー」によって自分の言動や振る舞いを制限されたと感じたことはありますか?
小学校に入るとき、黒のランドセルがほしかったけど、赤のランドセルをおばあちゃんがすでに買ってくれていて「せっかく買ってくれたんだから、喜ばなきゃ」っていう気持ちがありました(笑)。中学校に上がったころは自分の性自認がむずかしく、制服のスカートを履くのが怖くて嫌でした。 女の子でスカート嫌がっているのはおいらだけなのかな……と疑問に思っていました。
──「男らしさ」「女らしさ」というものはあると思いますか?もしそうであるなら、それは何ですか?
わからないです。
──あなたのジェンダー観を形作るのに、影響を与えた人物は誰ですか?
ジェンダーをわからせてくれたのは、今までの恋人です。 昔は女の子に恋愛感情をもっているおいらは男の子なのかと悩んでいましたが、おいらは女の子のままその女の子が好きなのだと教えてくれました。
──あなたにとって「ジェンダー」とは ?
ひとのいちぶぶん。

Niko @nikoful
──何をしている人?
ビジュアルアーティスト。
──あなたのジェンダー代名詞は?
なんでもオッケーです。私のことをSheで呼ぶ人が圧倒的に多いですが、HeやTheyを使って呼んでもらっても大丈夫。
──あなたのスタイルを3つの言葉で表現するなら?
探索的、セルフエンターテイニング、サステナブル(基本古着しか着ないから)。
──あなたの「ジェンダー」によって自分の言動や振る舞いを制限されたと感じたことはありますか?
そういった制限をいちばん強く感じていたのは中高生の頃。とてもナイーブで孤独感が強かった時期なので、とにかく友達や恋人が欲しくて、周りの人たちに好かれそうな格好や振る舞いをしていました。勝手な思い込みで自分らしくないことをたくさんして、息苦しく感じることも多かったです。
──「男らしさ」「女らしさ」というものはあると思いますか?
それらの言葉はただ便利なだけで、少し考えればとても主観的で狭義的な言葉だと思います。私が思う「おいしい」と他人が思う「おいしい」は違うのと同じで、抽象的な感覚は比べようがない。この世の中の何十億もの人々から、「男らしい男性像」と「女らしい女性像」を簡単に抽出して当たり前のように使うことに対して、違和感を感じます。
──もし人々のジェンダー観を変えられる道があるとしたら、何を変えたいですか?
人間を勝手に二分化すること。些細なことですが、〈男子トイレは定番のO色で女子トイレは定番のX色〉など、便利だけど無意識的に境界線を引いてステレオタイプを強めてしまうようなことから変えられたらいいなと思っています。
──あなたにとって「ジェンダー」とは ?
大事だけど人の全てではなく、発見を待っているものだらけの、奥深い世界。

Hyo Kagou @plusvon
──何をしている人?
アパレルスタッフとモデル。
──あなたのジェンダー代名詞は?
He。ジェンダーは男性です。
──あなたのスタイルを3つの言葉で表現するなら?
自由、混在、流されない。
──あなたの「ジェンダー」によって自分の言動や振る舞いを制限されたと感じたことはありますか?
あります。スカートを穿いていて公衆トイレに行くとき、さすがに気まずいのと、他の人をびっくりさせちゃうこともあるので、いつもトイレの個室に入るか、男女を分けないトイレを探すのに必死でした。
──「男らしさ」「女らしさ」というものはあると思いますか?
無いと思います。高校のときに家族にもっと男らしくしてと言われたことがあります。すごく傷ついたけど、男らしいとは何か考えるようになりました。人間の個性は複雑で、外見や仕草で判断するのが浅はかだと思います。男らしさとか女らしさとかより自分らしさの方が一番重要なのではないでしょうか。
──あなたのスタイルやジェンダー観を形作るのに、影響を与えた人物は誰ですか?
特定の人物は特にいないけど、周りにLGBTの友達も結構居ます。化粧が上手な男の子とか、クールでかっこいい女の子とか、皆なありのままの自分でいるのにすごく感心して、その子達から周りの目を気にせずに好きな洋服を着る勇気をいっぱい貰いました。
──あなたにとって「ジェンダー」とは ?
ジェンダーは私にとって手足のように体の普通の一部です。男だから、女だから、そうすべきではなく、自分がそうするのはただ自分がそうしたいからです。

Nana @wolfnana
──何をしている人?
モデル。
──あなたのジェンダーアイデンティティ、ジェンダー代名詞は?
He、またはShe。
──あなたのスタイルを3つの言葉で表現するなら?
ジェンダーレス、ストリート、ニュートラル。
──あなたの「ジェンダー」によって自分の言動や振る舞いを制限されたと感じたことはありますか?
私は周りにどう思われようが気にしない、言動や振る舞いを制限された経験も無いが、私の友人が結婚後、彼女の周囲からの妊娠の催促でとてもストレスを感じていた。そこには彼女への敬意や配慮が無いように思えた。性につきまとう役割を周囲が押し付けるのは、デリカシーの無いエゴだと思う。結婚、出産、その他の事に関しても何を選択するかは当事者の自由であり、他人に催促される事では無い。多様な選択肢があっても良いと思う。
──あなたのスタイルやジェンダー観を形作るのに、影響を与えた人物は誰ですか?
NY在住のメイクアップアーティスト、KENTO UTSUBO。彼と出会った当時、私は自分のジェンダーに悩み、自信も持てず自分を愛せず、とても孤独だった。しかし彼と毎週のように撮影をする中で、「性別」という概念に囚われない強さや中性的な美しさを見出せた。そしてどんな自分をも受け止め理解してくれる深い友情関係を築くことが出来た。今の自分は彼と共にに創り上げられ存在していると思う。
──もし人々のジェンダー観を変えられる道があるとしたら、何を変えたいですか?
固定概念や世間一般が持つジェンダーロールの認識。
──あなたの夢はなんですか?
夢なんかない。自分の代わりなんて幾らでもいるし何時か消えてしまうのだろうから唯一無二の存在になって此処に生きた証を残したい。そして不変的でありたい。
──あなたにとって「ジェンダー」とは ?
快楽、愛、囚われ。

Viral Boy @viral_booy
──何をしている人?
超生きてる人。
──あなたのジェンダー代名詞は?
He。 ストレートの男性。
──あなたのスタイルを3つの言葉で表現するなら?
自分、自由、愛。
──あなたの「ジェンダー」によって自分の言動や振る舞いを制限されたと感じたことはありますか?
無いです。
──もし人々のジェンダー観を変えられる道があるとしたら、何を変えたいですか?
常日頃変わっていくものだと思っているので差別とか無くなればいいと思います。
──あなたの夢はなんですか?
美しく生き抜きたいです。
──あなたにとって「ジェンダー」とは ?
ジェンダーにそこまで囚われて考えたことが無いです。

──何をしている人?
モデル。
──あなたのジェンダー代名詞は?
SheまたはThey。どちらで呼ばれるかはあまり気にしていません。セクシュアリティ的にはパンセクシャル。
──ファッションはあなたのアイデンティティにどう影響していますか?
気分によるのでメンズ、ウィメンズいつも気にしないで着たいものを着ます。カットアウトのある服で肌を見せることもあるしシャツにスラックスもよく着る。服の印象を変えたいために男になりたい時もある。
──あなたのスタイルを3つの言葉で表現するなら?
気分、自由、好き。
──あなたの「ジェンダー」によって自分の言動や振る舞いを制限されたと感じたことはありますか?
将来やりたいことを口に出して言うと、「女は結婚すればいいから気楽だね」と言われること。ミニ丈の服や肌の見える範囲が多い服を着ると「エロい」と言われたり、盗撮されたりすること。特に日本は多いです。きっと男になりたいと思う理由の半分くらいはそのせい。LGBTQ+に関しても存在を否定する人が多いと思います。政治もそうだし、人の感覚もいつまでたっても変わらないのを見てると悲しくなる。
──「男らしさ」「女らしさ」というものはあると思いますか?
あります。見た目で骨格などの違いがあるから。ただ、見た目で性別の先入観を押し付けるのは良くないし、それが違って否定するのも良くないと思います。男性性/女性性はすべて人によって様々なので、それぞれの個性として私は見ています。ファッションの表現としての男らしさ、女らしさは自由に変えれるポジティブな言葉だと思う。
──もし人々のジェンダー観を変えられる道があるとしたら、何を変えたいですか?
否定と差別をなくしたいです。みんなそれぞれ違うところはあります。心と体に害を与えないで欲しいです。みんな人間です。お互いを蔑む必要は無いと思います。自由に選択できるようになればいいのに。
──あなたにとって「ジェンダー」とは ?
あってないようなもの。本当はジェンダーという言葉も要らないと思います。
Kei @keispot
──何をしている人?
モデル。
──あなたのジェンダー代名詞は?
He/Him。
──あなたのスタイルを3つの言葉で表現するなら?
時、場所、気分。
──あなたの「ジェンダー」によって自分の言動や振る舞いを制限されたと感じたことはありますか?
自分の性自認は男性、好きになる対象も女性だが、外見で言うと髪型がボブだったり、華奢な体型だったり、ファッションが中性的だったりするので、世間で「変わり者」のように見られることがある。自分は性別を大きな境目だ感じておらず、周りの目も気にならないので、それをデメリットだとは思っていない。逆にたくさんの人の目に留まって印象を与えられていることにメリットを感じている。
──「男らしさ」「女らしさ」というものはあると思いますか?もしそうであるなら、それは何ですか?
あると思うが、その言葉にいろいろな捉え方があると考えている。人間の体つきや喋り方、仕草、ファッション全てに「男らしさ/女らしさ」という言葉が存在する。その言葉に全く違和感は感じていない。その人が置かれた環境や、音楽や映画といったインスピレーションによって、無意識のうちに生まれてくるものだと思う。
──もし人々のジェンダー観を変えられる道があるとしたら、何を変えたいですか?
「性別」という固定された言葉を広く捉えてもらいたい。今の時代に「男らしくない」「女らしくない」という理由で、生きづらい環境に置かれ、差別を受けて傷つかないといけないのは、自分には理解できない。自分を思いっきり表現するのに違和感や恐怖を覚えるのは、「性別」という概念に、男と女しか存在しないと世間一般に思われているからだと思う。「性別」を広く捉えてほしい。
──あなたにとって「ジェンダー」とは ?
自由の可能性。

Hiro @ghhiro_
── 何をしている人?
中国出身で東京に住んでいるフリーランスデザイナー。
──あなたのジェンダー代名詞は?
She。
──ファッションはあなたのアイデンティティにどう影響していますか?
アートからファッションのインスピレーションを汲み取っている。ゴシックが好きで、ヴィクトリアから未来的ゴシックまでの建築や音楽などを研究して自分のファッションに転換させたりしている。ファッションのおかげで、心のなかにすでに存在する自分を認めるようになった。人々に好かれるかどうかは関係ない。ファッションを追求するのも自分のアイデンティティを発掘する一過程。
──あなたのスタイルを3つの言葉で表現するなら?
自由、ゲーム、対話。
──あなたの「ジェンダー」によって自分の言動や振る舞いを制限されたと感じたことはありますか?
中学生の時、同じクラス男子生徒に好かれて拒んだら、逆恨みでつきまとわれた。学校の先生は当時の私を守ってくれなかっただけでなく、「女子」として男子を惹きつける「美」を持っていることが罪だと私を非難した。この出来事はまだ幼い私に「女性の美」に対する社会の悪意、無力と落胆を感じさせた。
──あなたのスタイルやジェンダー観を形作るのに、影響を与えた人物は誰ですか?
ひとつ例をあげるなら、フィーカル・マターを立ち上げたスティーブン・バスカランとハンナ・ダルトンのふたり組。彼らはファッション、政治、音楽と世間のタブーを結び付け、無自覚なこの世界をクリエイションを通じて批判した。彼らはジェンダーだけでなく、人種や時空をも超えている。あらゆるものを超越した彼らのメイク、服と概念に大きく影響され、刺激を受けた。
──もし人々のジェンダー観を変えられる道があるとしたら、何を変えたいですか?
ジェンダーは生まれつきではなく、選べるのだと知って欲しい。

Aisho Nakajima @aishonakajima
── 何をしている人?
アーティスト。
── あなたのジェンダー代名詞は?
He/Him。
── あなたのスタイルを3つの言葉で表現するなら?
バッドビッチ、‘90sベイビー、裸。
── あなたの「ジェンダー」によって自分の言動や振る舞いを制限されたと感じたことはありますか?
ありすぎる。トキシックマスキュリニティ(有害な男性性)は最悪。宗教的なバックグラウンドのなかで育った子どもとして、ゲイであることは両親やその他の人々にとってタブーだった。幼いころから「男になれ」(それが何を意味するのかの議論はさておき)と諭されることはとんでもないトラウマだった。
── あなたのスタイルやジェンダー観を形作るのに、影響を与えた人物は誰ですか?
レディー・ガガにはあらゆる意味でインスパイアされた。自分自身でいてもいい、社会的役割を担わなくても、ゲイでも、好きな格好をしてもいいのだと、彼女から学んだ。そしてなにより、幼い頃の自分のような子供達に影響を与えるアーティストになりたいと思わせてくれた。
── あなたの夢はなんですか?
音楽やアートで人々をインスパイアすること。特に日本の次世代LGBTQ+コミュニティに影響を与えたい。愛は愛。自分が何者であるのかを大切にして、なりたい自分になればいい。
Credit
Photography Adi Putra.
Art direction James Elliott.
Hair and make-up Kumico Ando and Martha Inoue.
Hair Ryo for Aisho.
Onset production Marta Espinosa and Ryoma Nagata.
Production and text Makoto Kikuchi.