エロティックな視点からエンパワメントを──写真家ルネ・ジェイコブス interview

フォトグラファー/市民権弁護士のルネ・ジェイコブスが、女性のまなざしを通した官能的な作品の重要性を語る。

by Miss Rosen; translated by Nozomi Otaki
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11 May 2022, 3:00am

女性のヌードは、芸術がこの世に生まれた瞬間から、男性アーティストとオーディエンスのお気に入りのテーマだったが、レズビアンによる作品はその大半が無視されてきた。1970年代、女性と同性愛者の解放運動の始まりとともに、新世代のアーティストが注目を浴びた。しかし、クィアの物語は相変わらずセクシュアリティではなくジェンダーの文脈で語られることがほとんどだった。

1978年、ハーモニー・ハモンドがニューヨークのGreen Street Workshopで〈A Lesbian Show〉展を企画したとき、画家のジョディ・プライスは、画商からはっきりと「もし彼女がレズビアンとして作品を展示したら、ギャラリーでの展示に別れを告げることになるかもしれない」と釘を刺されたという。

a naked woman stands next to barrels wearing a corset around her waist
Chris

「現代のレズビアンによる作品の目的は、この(男性の)まなざしから自分たちを解放し、レズビアンのエロティックなリプレゼンテーション(表象)の条件を設定し直すことだ」とハーモニーは2000年に出版された『Lesbian Art in America: A Contemporary History』で述べている。新世代のクィアの女性アーティストの誕生を目の当たりにし、ハーモニーは21世紀が「レズビアンのアーティストが好きな時に好きな場所で好きな方法で活動できるようになり、そのなかに屈折した喜びを見出す」時代をもたらすであろうことを理解した。これらの若きアーティストたちは、男性のまなざしがもたらす現在進行形の問題に気づいていたが、「そんなものは全く意に介さず、多様なまなざしを想定し、誰に見られていようととにかく作品をつくり続けた」という。

この20年で、アート界はミカリーン・トーマス、キャサリン・オピー、コリエ・ショア、ローラ・フラッシュなどのアーティストを讃えてきた。しかし、近年の進歩にもかかわらず、フォトグラファーで市民権弁護士のルネ・ジェイコブスは、クィア女性からロバート・メイプルソープ的な存在はひとりも生まれていないと指摘する。

a woman lies on her bed naked with her hand over her groin
Desiree

可視化とリプレゼンテーションは、ずっとルネの作品に不可欠なテーマであり続けている。彼女は1980年代にキャリアをスタートさせ、大学在学中から『ニューヨーク・タイムズ』紙のフリーランス・フォトジャーナリストを務めた。24歳で初の写真集『Slow Burn: A Photodocument of Centralia, Pennsylvania』を出版。史上最大規模の人為的な環境破壊を記録した歴史的な作品だ。

この写真集を完成させたあと、ルネは無力感を覚え、環境法に携わる道に進むことを決意する。奨学金を受けてその分野でトップの学校で学び、オレゴン州ポートランドに移住。最終学年で専攻を市民権と憲法へと変える。1990年に卒業すると、ルネの人生は180度変わった。

a contact sheet of women's nudes

「劇の脚本を書いた友人がいました。レズビアンのソフトボールチームの劇です」と当時自身のセクシュアリティを徹底的に隠していたルネは語る。「その脚本家のガールフレンドが楽曲をつくりました。少しの間彼女たちと一緒に過ごし、すぐに史上初の女性野球選手にすっかり心を奪われました。当時は知りませんでしたが、この脚本家がその週末、私の内なるレズビアンを見つける手助けをするようチームに指示していたんです。ミッションは大成功ですね」

放心状態で、自らのセクシュアリティに混乱し、否定しながらポートランドに戻ったあと、ルネのもとにその脚本家から電話がかかってくる。彼女の恋人が、勤め先の校長に彼女の名前が載った劇のチラシを見られたあと、教師の仕事をクビになったのだ。ルネはすぐに無料で訴訟を引き受けることにした。「当時は同性愛者の権利に関する訴訟は極めてまれでしたが、同性愛者の従業員を守る法律がないことは大した問題ではありませんでした。なぜならこれは、明らかに合衆国憲法修正第1条に関する訴訟でしたから」と彼女は説明する。「トム・ハンクスが『フィラデルフィア』出演を理由に解雇されるようなものです」

two women lie naked in the bath embracing and kissing
Persy and Krista

ルネはこの訴訟で見事勝利を収め、米国自由人権協会から賞を授与されるが、その後前述の脚本家にタブロイド紙にアウティングされ、職を追われることになる。「当時の人びとがどれほど同性愛を毛嫌いしていたか、想像もつかないでしょう」と彼女はいう。「表向きの理由は〈予算削減〉でしたが、解雇された3人のうち2人が同性愛者でした。(中略)このことがきっかけで、私はカムアウト、怒りの爆発、抑圧、混乱、無力感、疎外感という長く遠回りな道を歩むことになりました」

ルネは業界における同性愛嫌悪の根深さを痛感した、さまざまな出会いを振り返った。1995年、彼女は同性婚の発表を拒んだとして『オレゴニアン』紙を訴え、敗訴する。「事前に市民権のヒーローとして有名な弁護士に連絡をとり、この訴訟を引き受けてほしいと頼んだのですが、彼は素っ気なく『僕はやらない。そういうライフスタイルには賛成できない』と断ったんです」

a naked woman sits on a bench outside
Oby

2008年にフォトグラファーの仕事に復帰したあと、ルネは男性のメンターから、男性コレクターのニーズに影響するからと、彼女自身やモデルの性的指向を明かさないようにと忠告された。「作品の性表現やエロティシズムを『和らげる』ようにとも言われましたが、結果的に私をもっとエロティックな作品へと向かわせることになりました」

「私は自分のためにこういう写真を撮る必要があった。自分自身の性スペクトラムを探っていたモデルたちも、そういう作品を望んでいました。女性の欲望が映し出す果てしなくパワフルな景色のおかげで、私は自分を理解し、受け入れることができました。さまざまなキャリアを通して、私はずっとクローゼットの中にいる(※同性愛者であることを隠す)ように言われ続けてきました。私は、特に女性にとっては、抑圧こそが敵であると固く信じています。特にレズビアンのセクシュアリティは抹消されるか悪用されるかのどちらかで、エンパワメントされることはほとんどありませんでした」

a naked woman sits on a chair with her left leg raised up
Jessica

最近出版されたばかりの『Renée Jacobs: Polaroids』(Galerie Edition Vevais)と、現在〈Helmut Newton: Private Property〉と同時開催中の写真展のために、ルネは彼女の作品のなかでも特にエロティックな作品を持ち出した。『Paris Was a Woman』の原作とドキュメンタリーに着想を得て、ルネはクィアアーティストのロメイン・ブルックスやベレニス・アボットの作品、作家のジューナ・バーンズやシドニー=ガブリエル・コレット、ルネ・ヴィヴィアン、さらにガートルード・スタインやアリス・B・トクラスのサロン、シルヴィア・ビーチやアドリエンヌ・モニエの書店を想起させる、時間の感覚が曖昧になるようなイメージを制作した。

薄暗い明かりの灯る屋内写真に惹かれ、ルネは期限切れのタイプ55フィルムに合わせて改造されたポラロイド110カメラを使い、全体像を把握したり認識することのできない物事への憧れに満ちた写真をつくり上げた。「フィルムの不完全さが、普段は表面化することのない欲望や、ときどき意識の端にだけ現れる憧れを映し出すのに最適でした」とルネは説明する。「今回のシリーズで女性のセクシュアリティにまつわる物憂げで時代を超越した考察に被写体を引き込むには、この方法がぴったりでした」

a woman lies in a bath tube wearing a dress
Jade

ルネにとって、女性によるレズビアンの性愛を扱う作品は、長年の課題だったという。「最近、ヨーロッパの名高いギャラリストによる女性のヌードの展示を見ましたが、彼女はこの展示が女性のヌードを性的対象から脱却させたという点でいかに意義深いものかを長々と語っていました」とルネはいう。「どうしてそれが重要な目標になるのか? 誰も男性フォトグラファーに〈ヌードはこう撮るべき〉と指示したわけではありません。実際、エドワード・ウェストンから荒木(経惟)まで、さまざまな表現が可能です」

ルネのロースクール在学中、反ポルノグラフィのフェミニストのアンドレア・ドウォーキンやキャサリン・マッキノンが声を上げたときから、さまざまな変化があった。「彼女たちの主張は100%正しいと思います。確かにポルノは搾取です」と彼女はいう。「だからこそ、私は一度もヌードを撮りたいと思ったことがありませんでした。でも、ヌードがいかに私の人生を美しいものにしてくれるかに気づいたんです。よりエロティックな視点で、これほどエンパワメントしてくれる作品ができるとは、思ってもいませんでした。私たちは今、それを大々的に知らしめる出発点にいるのだと思います。心からそう願っています」

 Renée Jacobs: seeingWOMEN〉はバルセロナのFotonostrum Mediterranean House of Photographyで2022年3月19日から7月24日まで開催。

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Credits


All images courtesy the artist

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