KIDILL 2020年秋冬:移りゆくパンクの姿
パリで3度目となるショーを発表した末安弘明による〈KIDILL〉。ロンドンパンクのレジェンド、ジェイミー・リード(JAMIE REID)のプライベートアートコレクションとのコラボレーションを行った今回のテーマは、「FUCK forever」。
KIDILL 2020AW Photography Flo Kohl
「パンクは時代が移っても変わらない。自由に、自分が思ったことを吐き出していくことだ」
1月14日、フランス史上最長といわれるストライキの惨状をかいくぐりながら、ナイトクラブ&コンサートホール〈GIBUS〉に向かった。1967年以降、数々のパンクロックバンドがライブを行ってきた象徴的な場所が、今季の〈KIDILL〉のショー会場だ。
通り沿いのゲートをくぐると、無数のビラと、あふれ出るDIY精神によって飾られた壁があった。もうすでに、パンクの空気が肌を刺してくる。必然だった。そのグラフィックは、デザイナーの末安弘明が中学生から憧れ続けた人物で、セックス・ピストルズのほぼすべてのアートワークを手がけ、ひいてはロンドンパンクを象徴するヴィジュアルを築き上げたグラフィックアーティスト、ジェイミー・リード、そして彼のプライベートアートコレクションとの特別なコラボレーションだからだ。


「ジェイミーが活動を始めた1968年からの50年目の節目に、保存されていたアーカイブ作品がロンドンのギャラリーで展示され作品集も出版されました。もともとギャラリーと親交があったので、熱烈にオファーしたらコラボレーションを快諾してくれて自由に好きな作品をピックアップして良いと言ってくれたのです」。末安は、ショーが終わり、腰掛けたバックステージのソファで語ってくれた。「僕にとって本物のレジェンドたちと一緒に仕事することによって、パンクの血が濃くなって表現されている気がしています。自分にはパンクの血が流れているし、パンクしかやらない。パリに出てからは特に、服を作るうえで心に決めていることです」



地下に潜った先のフロアは赤とオレンジの光に満たされ、導線にそってゲストが混在しオールスタンディング。Summer SatanaによるDJがプレイされ、サウンドトラックは『Emi』。セックス・ピストルズだ。ショーは、ライブの開幕さながらに始まった。眼光鋭いモデルが矢継ぎ早に颯爽と歩いてくる。イレギュラーなカッティングのシャツには「A SHORT SHARP SHOCK」のグラフィック。「GOD SAVE OUR FORESTS」は、デニムやカットソー、マフラーに描かれている。ジェイミー・リードのアーカイブワークが所狭しと登場していく。





コラボレーションとは、拮抗するクリエション同士が完璧な調和を生み出すべきなのだろう。ランウェイで際立つのは、グラフィックの衝撃はもとより、チェック柄、スタッズやチェーンネックレスといった古典的な“パンク”スタイルのエッセンスが加えられていること。パンクバンドのライブに来る客かと見まごう、ストリートキャスティングされた多彩なモデルたち。そして、ファスナーによってフォルムが変化するオーバーサイジングなブルゾンやミリタリーコート、「今後も継続していく同じ精神を持った仲間」である〈rurumu:〉とのクラッシュニットウェアや〈both〉のラバーシューズにもあらわれるブランドらしいシルエットラインだ。


「当時のまま止まっていては面白くない。同じことを繰り返しても仕方がない。いま、感度の高い人たちが純粋に着たいと思える服でありたいんです」
今シーズンでもうひとつ特筆すべきは、〈EDWIN〉とのコラボだ。グラフィックがセンセーショナルにのせられたデニムパンツ、ファスナーがドッキングされたセットアップなどがラインナップされた。「ジェイミー・リードが現在も唱えている、政治、社会、環境破壊に対する反骨のメッセージは僕の想いと重なる部分が多い」とコレクションノートに記されていたが、日本が誇るデニムファクトリーとも深く結びついている。



「制作中、ジェイミーが何度も言ってきたんです。海を汚すな。自然を守れ。そして、インディゴの排水はどうするんだ、と。彼の一言一言に多くのことを気づかされましたし、〈EDWIN〉も環境問題に真摯に取り組んでいる。廃棄予定のデニム生地を使ったリュックサックなど、リサイクルアイテムも制作していきます」


これらのコラボ、そしてシチュアシオニスト・パンクの精神に大いに感化され、末安は、「今後、ファッションデザイナーとしてどう行動してゆくべきか考えるきっかけになった」のだという。「パンクの初期衝動を胸に秘めて、今までとは違った僕なりの新しい目線でファッションと向き合っていきたい」。
セカンドルック。ブルゾンに施されたゴシック体の刺繍には、諸行無常の文字。人生の儚さを意味するが、特定の居心地にとどまらない流動性と、移りゆくものを讃美する言葉に思えてくる。現在形の〈KIDILL〉のパンクスピリットを、もっとも言い当てていたのかもしれないと反芻しながら会場を後にした。

Credit
Photography Flo Kohl
Text Tatsuya Yamaguchi