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      art Daiho Tateishi 19 April, 2017

      世界が注目する日本人画家・亀井徹の素顔を垣間見た

      ありのまま、内面を発露すべく。世界が注目する画家・亀井徹に自身のいままでとこれからを聞く。

      亀井徹 作/花虫達(2007年制作)DIOR HOMME 2017年夏コレクション契約作品

      VANITAS。ラテン語で"空虚"を意味するこのワードは、美術史における静物画のジャンルを指す。象徴的なモチーフとして頭蓋骨や朽ちゆく果実を用いるこの表現は、生と死が隣り合わせであることを喚起させる。16世紀以降のヨーロッパで大成したこのスタイルを自分なりに解釈し、10年以上にわたって更なる再構築を試みるのが日本人画家・亀井徹だ。漆黒に浮かび上がる、妖しくも美しい命の数々。作品からは極めて重厚な印象を受けるが、本人曰く「あるがままの姿を示すことしかできない」とのこと。近年ではDIOR HOMMEのクリエイティブ・ディレクターであるクリス・ヴァン・アッシュ直々のラブコールを受けて作品を提供し、その注目度は高まる一方でも、彼は今日も自らが定めたリズムを崩さず刻む。それはまるで、自分がいずれ確実に死に至ることを受け入れた者にとって、生き急ぐことがいかに滑稽であるかを体現しているかのようだ。

      長きにわたって縁ある街のレストランで、飾ることのない自然体な態度と、ときおり間をもって丁寧に選ばれる言葉から、その素顔を垣間見ることができた。

      この場所(インタビューを行った目白のレストラン『Bistro Ami』。店内の壁に施された亀井氏による植物の絵が、東南アジアの熱気を想起させる)は自分もよく来るのですが、この店内の絵はいつ頃描かれたのですか?
      亀井徹(以降、K):17年前?描いた当時は大学を卒業する頃だったと思います。作品を扱ってくれるギャラリーも見つかっておらず、模写のアルバイトや壁画の依頼といった単発の仕事で食い繋いでいた時期がありました。その時の仕事の一つですね。アジアンダイニングなので、東南アジアの森をイメージしています。

      現在は油彩画に専念されていると思いますが、この壁画はアクリル絵具を使われていますね。
      K:そうですね、油絵具は匂いがありますから、食べ物を扱う店には不向きだったりします。その点でアクリルは無臭ですし、もともとが壁画用に開発された絵の具なので、安価で広い面を塗るのに向いています。自分の作品に関しては、やはり油絵が好きです。学校で専攻したのも油絵でした。

      高校生の段階で画家を志したのですか?
      K:小さい時から絵描きにはなりたかったです。現実的な職業としてかどうかは判りませんが…でもずっと絵を描いていたいと思っていましたし、もし大学に行くならば美術についての勉強がしたいと思っていました。でも、本当に画家を目指すか、そうでない道を選ぶかの分かれ道は大学を卒業したあとですよね。優秀な人たちは卒業までにギャラリーから声がかかったりするらしいですが、私の場合そういうことは一切無く、途方に暮れていました。「絶対に画家になりたい」と強く思ったのはその頃だと思います。ちょうどこの壁画を描いていた頃と重なります。

      どのように画家になる道を見つけたのですか?
      K : 卒業後は仕事もなくギャラリーも無く、途方に暮れてはいましたが、ポートフォリオを作って友人関係からバイト先の店長まで、あらゆるところに見せまくっていました。まあ、あまり興味は持たれませんでしたが。それでも壁画の仕事や模写の仕事に繋がったりしていました。そんな中、とある出品をきっかけに画家の金子國義さんと知り合いました。金子さんはちょうどアトリエで働くアシスタントを捜している時で、即決でその日の夜からスタジオで働かせてもらうことになりました。金子さんが68歳で私が25歳だったかな。懐かしいですね。私にとってはそれが初めての商業的に成功した画家との出会いでした。その後、金子さんの勧めで、私にとっての最初のコマーシャルギャラリーにポートフォリオを持ち込むことになります。

      成山画廊さんですね?
      K:はい。今は疎遠です。当時、無名の画家とコマーシャルギャラリーの間にはパワーバランスにギャップがあったし、私の性格にも問題があって(笑)。良好な関係を続けることはできませんでしたね。それでもこのコマーシャルギャラリーでは3回の個展を開催し、顧客には作品をよく売ってもらいました。私にとっては最初の小さな商業的な成功を経験することができました。

      亀井徹 作/花虫達(2008年制作)DIOR HOMME 2017年夏コレクション契約作品

      特に絵画作品に関して思うのですが、「これで終わり」というのはどうやって判断するんですか?作業はご自宅でされるのですか?朝起きてからの一日はどうやって過ぎていくのでしょうか。
      K:締め切りがあればそれで終わりにすることもありますが、だいたいなんとなく「このへんかな」っていうのはわかります。感覚的なものですね。自分の寝起きしているところのすぐ隣がアトリエなので、絵を描いたり食事をしたり、ネットをしたりしながら絵を描く、といった感じです。食べ途中で絵の方に行ったりもします。自由ですよね。締め切りはありますが、それは自分で決めた締め切りですから。今は全てを自分で決めてやれています。

      依頼を受けて描かれることも多いのですか?
      K:コミッションワークを制作することもありますが、自発的な、自分の表現として制作する作品を優先しています。

      スランプに陥ってご自分を奮い立たせることもおありですか?
      K:確かにスランプになったり描けなくなったりする時期はあります。作品が売れなくなる時期もあります。

      ちなみに一度スランプになると、長い期間に及ぶのでしょうか。その間は何をしてるんですか?
      K:作品制作が乗らず、そして作品も売れない時期は2年〜3年つづくときがありました。私のようなフリーの画家は収入が安定しないのが常ですから、生活のために働くなり、今では粛々と対処します。覚悟が決まったような感じですね。作品が売れることだけが画家の目標ではないし、売れる作品だけが良い作品ではない、ということにも気づきました。

      特に決まったストレス解消法や願掛けはない?
      K:ないですね。これをやれば治るというものはなくて、そういう時は諦めて、時間に任せる。でも私の場合は閉じこもっているとダメで、なるべく表に出るようにしています。何かをして遊ぶということではなくて、ただ散歩したり出掛けたりするのがいいんです。美術に関係したことでいえば、特に考えず作品を観るとか。集中して何かをするというよりも、なんとなく見る/観るというのを続けていると、新しいアイデアが湧いてきたりします。

      昨年発表になったDIOR HOMME2017 夏コレクションでは、数点の作品がモチーフとしてコレクションに取り入れられています。どのような経緯で実現に至ったのか、お聞かせ下さい。
      K:最初に日本のDIOR HOMMEの方から連絡をいただきました。その後パリの方とつないでいただき、パリの制作チームとやり取りをしました。クリス・ヴァン・アッシュさんがどのように私の作品にたどり着いたのかわからないんですが、公式な発言では「フラワーモチーフの研究をしている時に、亀井徹の作品を見つけた」とのことです。

      偉大な前任者から世界的なメゾンのディレクターを引き継いだ中で、自分の色にブランドを染め上げる多くの挑戦の一環として、アート作品を服に用いるというアプローチがあったのだと感じます。亀井さんは、もともとVanitasという表現には興味があったのですか?それは具体的にどの部分なのでしょうか。思想なのか、画としてなのか。
      K:そうですね。画家を志す前から陰影の深い絵画作品には惹かれていました。影の魅力と言うか。Vanitasの思想は美術大学時代に知ったのですが、すでに私自身に備わっている感性だったと思います。だからこそ共感し、共鳴するところがあったのではないかと思います。

      これまでにどれくらいの作品を描かれてきたのですか?
      K:この画集(『VANITAS』エディシオン・トレヴィル発行、河出書房新社出版、2009年)に載っているのが40点くらいで、作品全部だと70点とかになりますかね。

      亀井徹 作/花虫達(2009年制作)DIOR HOMME 2017年夏コレクション契約作品

      クリス・ヴァン・アッシュさんはどんな人でしたか?直接お話もされたかと思いますが。
      K:背が高くて落ち着いた感じの人でした。繊細だけれど神経質な感じではなくて、懐が深い感じの人でした。本当にタフでハードな仕事をこなす人は周りに寛容になるんだと思います。昨年パリで6月のDIOR HOMME 2017 SSコレクションショーの会場で挨拶をさせてもらいました。私は英語がわからないのですが、「あなたの作品の哲学が好きだ」と言ってくれたと信じています。

      今回のコラボレーションは作品が人の目に触れる機会が増えるという意味で、反響はいかがでしたか?プラスに考えているのでしょうか?
      K:そうですね、プラスだと思います。私のことを全然知らなかった人が「亀井徹って絵を描いている人がいるんだ」って。作品の展示依頼など、作家活動にとってプラスに作用しています。

      ご自分では着ないんですか?
      K:そうですね。機会があったら着てみようと思います。せっかくクリスさんが作った服ですから。

      最近一番気に入っているモチーフっていうのはあったりするのでしょうか?
      K:私の絵は具象というか、物体の形を描くところから制作が始まっているのですが、完全に離れるという訳ではないですが、最近は具象という拘りから少しずつ脱却したいと思っています。
      音楽を聴いていると感じるのですが、音が自然に心に入ってくる感覚。音って波動じゃないですか。色も光の波長ですから、同じふうに自然に心入ってくるものだと思います。具象で描いていると、見る人は意味にこだわりますから、その事が悪いことではないのですが、もう少し意味に囚われずに、自然に感性に訴えるような作品を私なりに模索しています。

      では、一つ一つのモチーフに囚われる必要はないということですね。
      K:昔はストーリーを考えて、そのストーリーに合わせて挿絵のような、一つ一つの部分がストーリーに対応するような作品を描いていた時期もありました。今はもう少し感覚に訴えるものを、と思っています。

      そうなると、より自然に亀井さんの内面が作品に表れてくるような気がします。最後に、この記事を読んでいるアーティストを目指す若者に一言いただけますか?
      K:アーティストはどんな時もクリエイティビティとパッションを失わないように、やりたい事を自分が主体となって続けてゆけたら良いと思います。コマーシャルな世界で作品を売っていくなら、どのような権利が保証されているかを知る必要があります。それからエージェント選びは慎重に。ギャラリーが長年にわたってアーティストの成長をサポートできることが望ましいです。

      今日はありがとうございました。
      K:ありがとうございました。

      【亀井徹年内スケジュール】
      5/17-22「THE EDGE~現代アートの先端~」展 会場:名古屋松坂屋1Fオルガン広場
      6/3-27「徴標―功術7.5」展 会場:ラディウムーレントゲンヴェルケ
      10/20-23「アート台北2017」 会場:台北ワールドトレードセンター 他
      roentgenwerke.com

      Credits

      Text Daiho Tateishi

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      Topics:art, culture, toru kamei, dior homme, vanitas

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