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      film Mariko Saito 1 March, 2017

      『お嬢さん』:パク・チャヌク監督インタビュー

      全世界で観客動員500万人を突破! 『オールド・ボーイ』でカンヌ国際映画祭審査特別グランプリを受賞した韓国の奇才、パク・チャヌクの最新作は日本統治下の韓国を舞台にした耽美的なサスペンス。翻訳家でライターの斎藤真理子が来日中の監督にインタビューを行った。

      『お嬢さん』:パク・チャヌク監督インタビュー 『お嬢さん』:パク・チャヌク監督インタビュー 『お嬢さん』:パク・チャヌク監督インタビュー
      (C)CJ E&M Corporation ojosan.jp

      世界で快進撃を続けているパク・チャヌク監督の官能クライムサスペンス『お嬢さん』が、いよいよ2017年3月3日に日本に上陸する。韓国では成人映画(R19指定)のオープニング記録を更新し、アメリカ、フランス、韓国でそれぞれ観客動員500万人を突破する快進撃ぶりだ。
      原作は、2005年の「このミステリーがすごい!」海外部門で第1位を獲得したサラ・ウォーターズの『荊の城』。ヴィクトリア朝のイングランドを舞台としたクライムノベルを、1930年代の朝鮮と日本に置き換えた作品だ。まずは、この原作を選んだ理由から監督に聞いた。
      「『オールド・ボーイ』のときと同じくプロデューサーのシド・リムがたまたまこの原作を僕に見せて感想を求めてきたのです。読んでみると、2人の女性主人公がとても生き生き描かれていることが非常に魅力的だった。また、この小説は第1部と第2部で語り手が交代し、だましだまされる関係がひっくり返る構成になっていますが、第1部のエンディングにガツンとやられ、原作に選ぶことにしたのです。原作と違うのは、映画では女性2人、男性2人の4人を主人公に据えたこと。4人が主人公という考えは一貫したものでした。『荊の城』は既にBBCによってドラマ化されていたので、私がどんなに違う脚本を書いても似てしまうだろうと思い、1930年代の朝鮮と日本に設定を変えました。それによって、原作にあった階級差だけでなく民族の差というもうひとつの壁を設定することになり、結果として作品がさらに豊かになったと思います」

      近年韓国では、大物監督たちが続々と植民地時代を舞台にした映画を発表して話題を呼んでいる。そんな中で『お嬢さん』は、植民地―宗主国の対立構造を越えた第一級のエンターテイメント作品に仕上がっている。監督がもくろんだ通り、4人の主人公が放つ強烈な不協和音が豪華なセットの中で炸裂する。
      この映画の中には様々な対立構造がある。2人の富裕な日本人男女と、2人の朝鮮人詐欺師の対立でもあり、視点を変えれば妄想まみれの男性たちと、そこから抜け出そうとする女性たちの対立でもある。だまし、だまされる関係の中でヒロイン2人はやがて恋愛感情を育み、かなりエロティックなセックスシーンもくり広げる。これについて韓国での観客の反応はどうだったのだろうか。
      「男女の観客でかなり反応が違いましたね。やはり女性のお客さんが圧倒的に多かったです。韓国では映画公開時に舞台挨拶で全国を回りますが、その際に来てくれたお客さんの8割が女性でした。非常に熱烈な女性ファン層が形成され、ひとりで111回も見た人までいたのです。このような女性ファンの動きは、雑誌の特集として取り上げられるほど話題になりました。一部の女性ファン、とくに原作のファンだった方たちは、女性の物語をもっと見たいのに男性2人が出すぎだ、という感想を持つ人もいたようです。でも私は先に言ったように、当初から4人の物語にしたいと思っていたので……
      この映画に出てくる男性主人公2人は、いわばできそこないの情ない哀れな男ですから、男性の観客の中でも一部の、心の狭い人(笑)は、不愉快で居心地の悪い思いをされたようです。でも大方の男性たちは笑いながら楽しんでくれました。とはいえ圧倒的に女性客が多かったですから、男性観客は彼女に連れられて映画館に足を運んでくれた人でした」

      パク・チャヌク監督はたびたび、女優の身体の一瞬の動きをあまりにも鮮やかに切り取って、観客をハッとさせてきた。『復讐者に憐れみを』でペ・ドゥナがひらりとゴム跳びをするシーン、『オールド・ボーイ』のカン・ヘジョンが寿司を握る手の動き。『お嬢さん』も、ときにグロテスクなほどの一瞬の美しさがいっぱいだ。おぞましいシーンもある。暴力もある。屈辱的なシーンもある。しかしそれらはすべて、ラストシーンへ向かう長い花道にすぎない。この疾走感を担うのが、2人の女優陣だ。
      横暴な叔父・上月によって、とらわれ人も同然の生活を強いられてきた令嬢秀子役には、近年、演技力の充実が高い評価を受けているキム・ミニ。一方、貧しい生まれでスリ上がりの侍女、スッキ役には新人のキム・テリが抜擢され好対照を見せている。
      「スッキにはどうしても新鮮な新人女優を使いたいと思っていましたから、大規模なオーディションの末、1500人の中から抜擢したのです。彼女はオーディションでもまったく緊張せず、しかも同じシーンをほかの人とはまったく違う解釈で演じていた。『オールド・ボーイ』のカン・ヘジョンに出会ったときと似たような感覚がありましたね。その解釈が良いか悪いかは別として、自分なりの考えを持っている女優だということがはっきりわかりました。この点を高く評価したのです。2人の演技を練り上げるために、読みあわせを非常に丁寧にやりました。一行一行、ト書きまで全部私と一緒に読み、なぜこう書いたのか説明したのです。そのほかに女優2人だけでの読みあわせ、男優を交えての読みあわせ、というように何度も何度も読みあわせを重ねるうちに、彼女たちも自分の意見を言ってくれるようになったんです。それをもとに脚本を手直ししたこともありますし、彼女たちも自発的に参加している気持ちになってくれたと思います」
      ちなみにお嬢さん役の名前「秀子」とは、監督が成瀬巳喜男のファンであり、中でも高峰秀子主演の『乱れる』が大好きであることからこの命名になったそうだ。

      (C)CJ E&M Corporation ojosan.jp

      本作の美術はもうひとりの出演者といっていいほど存在感を放っている。玄関から建物までたどりつくのに長い時間がかかる壮大なお屋敷は和洋折衷の奇妙に重厚な建物から成っており、その内部を、少ない登場人物が用心深く静かに歩きまわる。
      「中でも最も重要な空間は蔵書室です。外観は伝統的な日本様式の建築ですが、中に西洋式の蔵書室がある。その中には畳敷きの部分もあり、白い小石が敷き詰められ池も配された日本庭園のような空間もあるのです。日本庭園は世界をひとつのミニチュアとして再現しようとするものですが、上月の蔵書室と、そこでの彼の行動は、彼の王国に新しい世界を築くことなのです」
      上月は金にも権力にもあまり関心がなく、愛しているのはエロティックな稀覯本だけ。それを姪の秀子に朗読させるという変態趣味が展開されてやや辟易させられるが、そこには常に、一種の奇妙なユーモアがつきまとう。
      「この作品のおかしさは登場人物が本当の身分や自分の心情を隠して演じているところから生まれます。多くのシーンで彼らは本音を隠していて、言っていることと考えていることが違っている。大笑いするようなところはないけれど、全編を通じてこの面白さを感じて楽しめると思いますね」
      この面白みは、全編で連発される日本語の長台詞からもにじみ出る。もともと韓国映画では、俳優が外国語のせりふに果敢に挑戦することが特徴だ(私が今までで一番感心したのは、故チェ・ジンシルがスウェーデン語で押し通した『スーザン・ブリンクのアリラン』〈1991〉)。『お嬢さん』ではキム・ミニが東北弁調の方言まで使いこなして冴えたところを見せている。
      また、ハ・ジョンウ演じる日本人伯爵になりすました朝鮮人詐欺師も絶品だ。
      「この〈伯爵〉という男は、それだけでひとつのパートを構成しようかと思ったほど興味深い登場人物と考えています。済州島の賤民の出身という設定にしたのは、実際に済州島から多くの人々が日本に渡っていたからでもあります。また彼は、母親がムーダン(韓国のシャーマン)だという設定にしているのですが、ムーダンというのは韓国人にとって非常に矛盾をはらんだ存在です。人は困りごとや悩みがあるとムーダンのところへ行き、未来を占ってもらったり、お祓いをしてもらってお金を払います。そのように頼りにしながら、一方では非常にさげすんでいるのです。ハ・ジョンウが演じた偽伯爵も、少年時代にはバカにされながら育ったでしょう。しかし非常に頭がよく器用で、自尊心が強く、このままでいるものか、という強い意志をもって日本に行き、徒手空拳でのし上がってきた男です。しかし彼は、ストリートで間違ったことを学んでしまった男なんですね。『女は無理やりの関係の中で快楽を感じる』という歪んだ考え方を身につけてしまった哀れな男で、結局はそのために破滅していく。骨の髄までの悪党というより、学び損ねた男というキャラクターなのです」 

      (C)CJ E&M Corporation ojosan.jp

      チョ・ジヌン演じる日本人・上月の変態ぶりにはやや緊張してしまうが、見進めていくうちに、それは明らかに誇張された男性性の表現であることがわかってくる。緊張を解いて笑って良いのである。

      「一部には、この映画が女性学の用語でいう〈メイルゲイツ〉――男性の視点で撮られた作品ではないかという指摘もありました。しかしそれは、具体的に場面構成やアングルを分析して導き出された指摘ではないと思われました。男性監督が撮ったものだから、その上エロティックなシーンもあるからという先入観でそのような批判をされるのだとしたら、受け入れにくいことだと思いますね。私としては、まさに男性の視線、視線の暴力にさらされ続けた女性がそこから脱出し、解放される、それを称える映画を撮りたいと思って撮ったのですから、まさかベッドシーンや濡れ場をのぞいて喜ぶような男性視点で作るわけはないのです。実際、そのような場面を撮影するときには最大限の注意を払って撮影に臨みました」
      その配慮は最大限に評価されたといってよく、本作はゲイ&レズビアン・エンターテイメント批評家協会の贈る映画賞、第8回ドリアン賞監督賞、LGBT作品賞、外国語映画賞、ヴィジュアル・ストライク賞(美術から撮影まで、美しいと判断された作品に贈られる)にノミネートされている。外国語作品が撮影賞やヴィジュアル賞にノミネートされたのは異例のことで、大胆な女性どうしのセックスシーンも高く評価されたのだ。ラストシーン近く、秀子は自分をいいように〈調教〉してきた上月に「あんたみたいな男の勘違いや暴力で傷ついたりなんか、していない」という矜持を真っ向から叩きつける。こんな爽快さはなかなかあるものではない。この爽快さの行き着くところ、ラストシーンは原作のラストとはかなり違っている。朝鮮の少女スッキ、日本の少女秀子。設定では1940年とされているその時代にふたりが選択した道は、華麗までに崖っぷちのファンタジーだ。でも、このファンタジーの行く末に思いをはせることは、これからの世界で私たちは誰とともにどこまで行きたいのか、その夢の飛距離をはかることでもある。

      お嬢さん
      監督:パク・チャヌク キャスト:キム・ミニ/キム・テリスッキ/ハ・ジョンウ/チョ・ジヌン/キム・ヘスク 提供・配給:ファントム・フィルム 英題:THE HANDMAIDEN 原題:AGASSI/2016年/韓国/145分/シネマスコープ/5.1chデジタル

      Credits

      Text Mariko Saito

      Portrait photography Kiyotaka Hatanaka

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      Topics:film, culture, the handmaiden, chan wook park, interview, fingersmith, old boy, sympathy for mr. vengeance, mikio naruse, kim minhee, ha jeong-woo, cho jinwoong, kim hae-sook

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