Ron Galella/Getty Images

私が2000年代前半のセレブ写真を見るのをやめられない理由

コンバースをはいたタランティーノ、ダボダボのジャケットを着たジャン=クロード・ヴァン・ダム……。〈ムービー・プレミア・アンリミテッド〉は、90-00年代にかけて、セレブにスタイリストが付く前のハリウッドのレッドカーペットの記録をアーカイブしているTwitterアカウントだ。

by Isabella Trimboli; translated by Ai Nakayama
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21 May 2019, 6:18am

Ron Galella/Getty Images

1か月ほど前、Twitterをスクロールしていたら、2004年のサンダンス映画祭での『バタフライ・エフェクト』プレミア上映の写真が現れた。そのうち1枚にはパリス・ヒルトンが写っている。ベビーブルーのジャケットにコーデュロイパンツを合わせ、脇にはラインストーンがきらめくホワイトファーのショルダーバッグがのぞいている。彼女の隣には、オレンジのTシャツにバギーデニムを合わせたBACK STREET BOYSのニック・カーター。彼らは当時付き合っており、仲睦まじい様子。ふたりともブロンドヘアをツンツンのオールバックにして、お揃いの髪型に仕上げている。つば広のカウボーイハットをかぶったアシュトン・カッチャーの写真もある。このときのレッドカーペットは、まるで工事現場のようにみえる(「巨大冷蔵庫」とたとえるTwitterユーザーもいた)。私はどこかいまいちで、ちぐはぐで、まったくステキな感じはしないそれらの写真から、目が離せなかった。

一連の写真をアップロードしていたのは、〈ムービー・プレミア・アンリミテッド(Movies Premiere Unlimited)〉という名のTwitterアカウント。1990~2000年代のプレミア上映会のレッドカーペット写真を、ご丁寧に時系列順に並べて公開しているアカウントだ。自称〈ハリウッド史家〉が運営するこのアカウントは、公開からふた月足らずで7万人を超えるフォロワーを抱えるほどの人気を博している。このアカウントはまさに、懐かしいファッションの宝庫。チューブトップ、デニムオンデニム、小さめのサングラス、サテンやシースルーのトップス、と懐かしアイテムを挙げたら枚挙にいとまがない。しかし、それより私が気になったのは、容赦のないほどにいまいちな写真の質だ。下手な照明のおかげで、被写体となったセレブのアラが目立つ仕上がりになっている。

このアカウントに限らず、SNSには、90年代からゼロ年代のファッションとポップカルチャーの出会いを記録したデジタルアーカイブ的なアカウントが溢れている。たとえば、アスレジャーファッションのダイアナ妃をとらえたパパラッチ写真、Thierry Muglerのセクシーなランウェイフォト、バズ・ラーマンの『ロミオ+ジュリエット』のスクリーンショットなどを収集するInstagramアカウント〈Nineties Anxiety〉、シットコムシリーズ『The Nanny』でフラン・ドレシャーが着用していたカラフルなド派手ルックのブランドを特定している〈What Fran Wore〉、さらに、アカウント名のとおり『セックス・アンド・ザ・シティ』の全ファッションと合わせて、キャリー・ブラッドショーも真っ青になるくらいキレキレの(ときには辛辣な)コメントを掲載する〈Every Outfit on Sex and the City〉もある。

90~2000年代への偏愛は今に始まったことではない。あの時代へのノスタルジーは、現代のファッションを語るには欠かせない。チョーカー、PVC、ベルベット、スキニーストラップ付きのボディコンドレスは、ハイファッションもファストファッションも席巻している。Celineの2019年秋冬コレクションで登場した漆黒のジャケットは、レザーが制服状態になっている『バスケットボール・ダイアリーズ』のプレミア会場からそのまま拝借してきたかのよう。今をときめくティーン・ポップスターのビリー・アイリッシュがまとうオーバーサイズのアイテムやグラフィックTシャツ、プラットフォームスニーカー、トラックスーツなどは、90年代のレッドカーペットをそのまま歩けそうだ。

しかし〈ムービー・プレミア・アンリミテッド〉の何より重要な意義は、セレブにスタイリストが付く前のハリウッドのレッドカーペットを記録していることだ。どこかしっくりこないセレブたちのルックをみれば、彼らが自前の服で現れたことは明らか。たとえば『ラスト・アクション・ヒーロー』のプレミアに、2サイズくらい大きいのでは、と思われるくすんだオレンジのジャケットを着て登場したジャン=クロード・ヴァン・ダムや、やりすぎの日焼け風メイクで現れたリンジー・ローハン。下ネタ的なメッセージが施された中途半端な丈の白Tを着用していたセレブなどは数知れない(個人的には、『ミーン・ガールズ』のプレミアで、胸元に〈これは本物!〉というメッセージがあしらわれた白Tを着ていたアグネス・ブルックナーが好き)。

多くの男性セレブは、バケットハットやバギーパンツ、オーバーサイズのセーターという、ショッピングセンターにいる無作法なティーンみたいなカジュアルで適当な格好だ。『劇場版 ビーバス&バットヘッド DO AMERICA』のプレミアに姿を現したクエンティン・タランティーノは、Nikeのハーフパンツとコンバースのスニーカーという出で立ちだった。

ソフィア・コッポラは2018年の『W』のインタビューで、ハリウッドのレッドカーペットは「つまらなくなった」と指摘している。「スターたちは、みんな同じようなきらびやかな衣装で登場する。プロが仕上げたスタイリングだから、たとえフォーマルなイベントでも、一般女性は真似しようと思えない」。ソフィアの指摘は鋭い。今の女性セレブたちは、ステキだけど無難でつまらなくて、着るひとの個性をそぎ落としてしまうようなイブニングドレスばかり着ている。

嘆かわしいことだ。ひと昔前のセレブたちがまとっていた、奇抜でリスキーなファッションを眺めるのは、こんなにも楽しいというのに。1994年の『トゥルー・ロマンス』プレミアでのパトリシア&ロザンナのアークエット姉妹なんて、史上最高だ。パトリシアが着用した、フレアスリーブとハイネックが特徴的なシャンパンカラーのドレスは、レトロなのにゴージャスな宇宙服を思わせる。いっぽうロザンナは、へそ出しデザインのダスティピンクのベロアトラックスーツに、クロスモチーフの大きなゴールドネックレスを合わせている。スタンリー・キューブリック監督の『アイズ ワイド シャット』のプレミアでは、ニコール・キッドマンがまさにTPOをわきまえたチェリーレッドのセットアップ(スカートとバックレストップ)で登場した。

〈ムービー・プレミア・アンリミテッド〉が掲載するイメージは、セレブが今のように自身のイメージを徹底的に管理するようになる前の、牧歌的な時代を体現しており、観る者にある種のよろこびをもたらしてくれる。セレブたちのおでこはテカっていて、修正もされていない。みんな、決まったブランドばかり着たりしないし、スポンサー契約にも縛られていない。彼らが選んだファッションには(センスがよかろうが悪かろうが)、彼ららしさが現れており、ただ金持ちであることをひけらかしているわけでもない。
それに汗ばんだり、髪が乱れていたり、下手な着こなしをしているセレブたちをみたときの安堵感もある。その安堵感は、犬のフンを処理しているときや、汚いスウェットパンツ姿のセレブのパパラッチ写真をみたときに抱く感情と同じだ。それらは私たちに、セレブたちの完璧な姿は、トリックによるものだ、ということを思い出させてくれる。『US Weekly』の見出しを借りれば、「スターだって人間だもの」といったところか。

This article originally appeared on i-D AU.