ミリタリー、プロテクション、エレガンス:HYKE 18AW

HYKEのミリタリー。吉原秀明と大出由紀子の感性によって生み出される無二のフェミニティは、現代の女性が求める機能性と溶け合っている。

by Tatsuya Yamaguchi; photos by Takao Iwasawa
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24 March 2018, 3:51am

その、静謐な空間——中目黒にあるHYKEのショールームのしつらえは変わらない。白い壁、モルタルの床、高い天井、昼光白のライティング……。余分な装飾性や演出のないシンプルな場にあって、それぞれの服に宿るHYKEの美意識が明瞭に浮き上がってくる。

前身のブランドgreenのスタートから数えると、今年で20年目を迎える。吉原秀明と大出由紀子が手がけるHYKEのコンセプトは「HERITAGE AND EVOLUTION(服飾の歴史、遺産を自らの感性で独自に進化させる)」。シーズンテーマを設けることはない。ただし、「何かしらのスタイルや古着などから影響を受け、それを再構築しながらデザインしているので、それをインスピレーションソースとして説明するようにしています」とコレクションノートには(少なくともここ3シーズンは変わらず)記されている。ミリタリーやワークウェア、ジーンズなどのヴィンテージショップの経営からキャリアがスタートした彼らは、作り手の署名なき、時代を超越する普遍的なユーティリティーと美しさが宿った“アノニマスな服”にずっと魅了されてきた——そうしたどこかに男性性が色濃く残るウェアが、HYKEの手にかかると途端に、現代の女性にそっと寄り添いながらコンテンポラリーな空気をはらんだ無二のフェミニティが宿る。凛然とした、エレガントな佇まいに昇華されるのだ。

今シーズンのインスピレーションソースは、“MILITARY CLOTHING”。ダッフルコートやPコート、MA-1、N-2B、N-3B、B-3といったフライトジャケットなどの名がショーノートに記されていた。オリジナルの音楽(「WORK #9」と題されたこの楽曲は、bonjour recordsの上村真俊と音楽家・プロデューサーの香田悠真、そして吉原秀明の3人によるユニット・UYKによるもの)が鳴り響き、インスタレーションが始まった。

階段から、モデルがゆっくりと降りてくる——これもいつも通りの構成だ。アウターのアームがファー素材やボアに切り替えられていて、フライトジャケットの袖を誇大化したかのようなボリューム。さまざまな丈感があり、Pコートをボレロ丈まで絶妙に引き上げたものも。パンツの裾のスリットやシグネチャー的なアコーディオンプリーツスカート、ニットは動きに合わせてなだらかに揺れる。首を覆い隠すハイネックやマフラーのように巻きつけるパーツ、MA-1の裏地が表地になったような鮮やかなオレンジ色、2017年春夏から続いている竹ヶ原敏之介のBEAUTIFUL SHOESとのコラボレーションシューズにも使われたボアのファブリック使いにHYKEの感性が表れてみえた。

THE NORTH FACE とのコラボレーションは、昨シーズンからの継続だ。高機能素材を用いたコートやボレロ(手首のあたりには、HYKEとGORETEX®︎とさりげないプリントも)。ダウンコートはネックウォーマーのようなハイネックが印象的で、ウエストマークしたスタイリングもある。寒さからの“身体のプロテクション”という衣服の役割をフォローしながらも、やはりシャープな女性性が香ってくる——。音楽がいささか激しさが増し、ゲストたちの静かな高揚とともにフィナーレを迎えた。

2017年度の毎日ファッション大賞を受賞したHYKE。その傑出したクリエイティビティに向けられた最大級の賞賛だ。と同時に、授賞式の場で、出産と育児を機にgreenを休止し、HYKEとして活動再開後も、ビジネスの規模を拡張しすぎることなく家族と過ごす時間を尊重し、仕事との確かな共存を心がけているという紹介があった。時間とタスクに忙殺されるデザイナーのあり方はいらない。大量生産・大量消費される服や生産の過程で誰かが不幸になる服作りなどしない。不変的なアティチュードを貫きなから、独自のスピード感で生み出される服で多くの女性を魅了する彼らのすごみには、クリエイターの未来の働き方にまつわる示唆も溢れているのではないだろうか。

“HYKE”は、家族4人の名前の頭文字をとったものだ。