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主人公のストーカーに感情移入する視聴者続出! 『YOU ー君がすべてー』から考える、ロマンスと虐待の関係

Netflixオリジナルドラマ『YOU ー君がすべてー』は、サイコパスのストーカー視点で語られる“変愛”物語。だけど、ペン・バッジリー演じる主人公は正真正銘のストーカー。どうか彼の肩をもたないで。

by Roisin Lanigan
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11 June 2019, 9:07am

Still from Netflix's 'You'

Netflixオリジナルの2019年ベスト作品は『バード・ボックス』じゃない、『YOU ー君がすべてー』だ。イッキ観必至の本作は、身の毛もよだつスリラーで、さながら『ゴシップガール』の闇落ちバージョン。

『YOU』は全10エピソードで、もともと2018年9月から〈Lifetime Entertainment〉チャンネルで放送されていた。イケメンのジョー・ゴールドバーグが、自らが店長を務める本屋で偶然グィネヴィア・ベックに出会い、彼女のストーキングを始め、恋に落ちる。

このプロットを読むと、インディ映画でよくみる運命の出会いを想像してしまうが、本作はひと味違う。ジョーの視点から語られる『YOU』は、サイコパスで、感情的虐待者のストーカーの話だ。ジョーはベックに、自分なしでは生きていけないように仕向けていく。

『YOU』を虐待する側の視点から語ることに決めた、その判断は賢明だったといえるだろう。それにより視聴者は、冒頭からジョーの心情を追体験し、自分のとんでもない行為を正当化してしまう、ジョーの心の声を聴く。

彼のモノローグを聴いていると、まるで非モテが集うサブレディットや、〈4chan〉のキモオタの掃きだめを覗いているような気になってくる。ストーリーはその後、『ゴーン・ガール』的要素あり、あるいは『アメリカン・サイコ』的要素ありな展開をみせる。ぞっとするのは、私たちがいつのまにかジョーの思考回路に陥り、彼に感情移入までしてしまうことだ。自分が殺人鬼に共感していることに気づいたとき、私たちはひとつ上のレベルの恐怖を抱く。本作の原作となった小説の著者、キャロライン・ケプネスによると、この〈嫌な共感〉は意図的なものだという。

「私たちはジョーの思考を理解することができる。それは、私たちもみんな同じだから。私たち誰もが、世界を敵だと思ってる。ジョーとは違い、私たちはその感情に従わないだけ」とケプネスは昨年10月、〈Refinery29〉に語っている。

彼女が生み出したモンスターを、私たちがいっそう恐ろしく、そしてリアルに感じるのは、ジョーという人物がモンスターとして描かれていないからだ。私たちはTinderで彼のような人物に出会うかもしれないし、彼みたいなひとがInstagramでDMを送ってくるかもしれない。バーでこちらの拒絶の言葉を受け入れず、最終的に「ブスのくせに」と罵声を浴びせてくるタイプの男。その極端な例がジョーだ。

私たちの生活において、彼のような男は珍しくない。それに、ラブコメ映画や恋愛小説で〈ロマンティック〉とされてきたストーリーにも、彼のような男はよく登場する。たとえばジョー・ゴールドバーグというキャラクターと、『ゴシップガール』のダン・ハンフリーとの類似点は数々指摘されてきた。恋愛的にあまりツイてないアウトサイダーで、最終的に黒幕の〈ゴシップガール〉であったと判明し、同じくペン・バッジリーが演じているあのキャラクターだ。

ジョーのキャラクターに親近感が湧くからだろうが、ネット上ではジョーを擁護したり、魅力を感じたり、困ったことに被害者叩きに走る視聴者も見受けられる。ベックが最低の野郎で、ジョーの愛や執着に値しないからいけないんだ、とジョーの最悪な行為を正当化するひともいる。

米映画サイト「Reddit」のフォーラムでは、〈クソ女ベック〉〈ピーチはビッチの極み〉などと題されたスレッドが多くみられ、ジョーを擁護するために本作の女性キャラクターをこき下ろす論調が優勢だ。

今年1月頭には、NetflixのTwitterアカウントが「ベックとジョーのカップリングを推していいか」と尋ねたとあるファンを即時にブロックした。そのツイートのリプライ欄には、若い女性がこのようにコメントしていた。「まだ半分しか観てないけど、ベックがどうも好きになれません。ジョーは大好きです。これって間違ってる?」

その疑問にお答えしよう。もちろん間違っている。ジョーはストーカーであり、殺人鬼だ。ただ少し距離を置いてみれば、その問題大アリな反応の理由がわかる。本作は実に巧みに、嫌な結論、嫌な同情を抱くよう導いているのだ。

ジョーは正義のヒーローにもみえる。しかも文学の趣味もいい。SNSは利用せず、ベックがつるんでいるような、うわべだけの薄っぺらな上流階級人を蔑視している。彼には、〈反ファックボーイ〉的なペルソナが投影されている。ベックのシャワールームに隠れたり、線路に落ちて地下鉄に轢かれそうになるジョーを救ったり、家族と出かけるベックのあとを追ったり、家の窓から彼女を覗き見たり…。

彼の行動の大半は、ベックを孤立させ、コントロールしようとする意志の現れだ。しかしそれらの行動は、スリラー映画よりもラブコメでよくみられる。運命の女性に、自分こそが彼女にふさわしいと納得させるべく、何度も何度もがんばる男性キャラクターは、最近までロマンティックな理想の姿とされてきた。そのせいで私たちは、古典的なロマンスや騎士道精神を、現実のストーキング、ガスライティング、感情的虐待と切り離して考えられない状態に陥っている。

しかしようやく近年になって、虐待やミソジニーから、見せかけの騎士道精神とロマンスを切り離そうとする動きも始まっている。

2017年3月に『サタデー・ナイト・ライブ』で放送されたコント、「Girl At A Bar」は、見かけだおしの〈ウォーク(社会の不公正や差別に敏感であること)〉や、自分は女性の味方であるとやたらアピールしながら、女性がセックスを断ると手のひらを返したように罵声を浴びせるフェミニストまがいの男たちを辛辣に風刺した。

同年9月には、4ヶ月付き合った彼女にフラれた当時34歳のルーク・ハワードが、ブリストルの公共の場でピアノを弾き続けるという暴挙に出て、ロマンスと心理的な脅迫の境界線についての議論がネット上で勃発した。

セレブも例外ではない。2018年12月には、オフセットがカーディ・Bのコンサートに乱入し、大観衆を目の前にその場で謝罪し、自分とやり直してほしいという旨を伝え、カーディ・Bに大恥をかかせた。

もちろん『YOU ー君がすべてー』におけるジョーのベックへのアプローチに比べれば、それらのヤバさはしれている。しかし通底する考えかたは同じだ。「君にふさわしい男は僕しかいないってことを、もういちど証明させてくれ」。それが過激化したときの結末は、破滅的でしかない。

『YOU』はエンターテインメントであり、フィクションだ。でも、ストーカーやパートナー、元カレに殺害された女性は現実にいる。リアルな話なのだ。2018年、米サイト「Broadly」の〈Unfollow Me〉キャンペーンが明らかにしたところによると、英国におけるストーカー被害者は9%。しかし回答者の半数以上が、当局は充分な対応をしてくれていないと考えている。

ストーキング、感情的脅迫、ガスライティングは、周りに認めてもらえなかったり、ロマンティックなものとして扱われてきた。そして、虐待した側の有害な行為の原因として、被害者が責められる現状がある。それらを考慮すれば、『YOU』のネット上の反応は当然のように思える。

ジョーというキャラクターの行動は陰湿で、どんどんエスカレートしていき、エスカレートしていくたびに正当化されていく。そのサイクルは、現実世界の加害者のふるまいとまったく同じだ。本作は、視聴者に虐待する側の心を追体験させてくれるが、それは彼の行動を美化するためでも、彼に共感を抱かせるためでもない。私たちがいかに簡単に、毒に侵されてしまうかを示しているのだ。

だから、絶対にジョーとベックをくっつけようとはしないでほしい。後生だから。

This article originally appeared on i-D UK.