「僕の血は、鉄の味がする」:小見山峻写真集『hemoglobin』interview

鉄への憧れと先祖への讃歌。写真家の小見山峻初となる写真集は、彼のルーツが112ページにわたり鋳造されている。

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26 november 2018, 6:33am

小見山峻の写真展「冴えない夜の処方箋」から約半年。その間に、JW Andersonのアワード「YOUR PICTURE / OUR FUTURE」に唯一の日本人として入選という快挙を挙げた。それから数ヶ月、自身初の写真集となる一冊に収められていたのは、闇に息を潜めているかのような重機と刀掛けからそっと抜け出してきたかのような刀の一振り。「鉄」と「ルーツ」をコンセプトに作り上げられた本作について話を聞いた。

──まず、今回の写真集『hemoglobin』の制作のきっかけを教えてください。
かねてから写真集は製作するつもりだったのですが、目まぐるしく変化する環境の中、タイミングを見出せずにいました。けれど、今年の年末で写真家としてキャリア3年目が経つことに加えて二十代が終わることもあり…...ようやく踏ん切りがつきました。また、自分のエッセンスを100%注いだ「コマーシャルワーク」も、その前提でバイアスがかかった見方をされてしまうのが嫌でした。“どれも自慢の一枚なんだけれどなぁ”、と。そのフラストレーションの飽和も一因です。

──鉄にフォーカスした写真集ということですが、なぜ鉄に惹かれるのでしょうか?
一言で言えば、「逞しさ」かと。写真の本質は、人間の「残したい」という意志にあると考えています。それは自分が写真を撮っていく上での「アイデンティティの追求」という根本的な思考に通づるものであるとも。そこで、人体の限界をゆうに超えて「残る」ことができる鉄に普遍的な魅力を感じるのかと思います。もちろん鉄に限らずですが、人間が絶対に手の届かない強靭さがありますよね。そういったものへの憧れは、根源的で純粋な感情だと感じています。

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──その中でも「重機」と「刀」といった同じ鉄でも用途の違う2つを選んだ理由を教えてください。
まず、重機ですが、これを撮影するようになったのは本当に無意識でした。そこで遡って考えてみると、子ども時代に憧れたSFの中のロボットや宇宙船があって。僕の中で鉄への憧れが最も具現化したものが、彼らだったんです。さらに深く考えると、自身の曽祖父、その以前が長くにわたって刀鍛冶であったこと、鉄を扱う一族だったことがより身近に感じられるようになりました。その血が流れていることを踏まえて、刀の写真を撮ることに決めました。なので、自分の写真の中の帰納的な部分と演繹的な部分の二面性でもあると思います。結果として、鉄という物質がもつ表情の二面性も表現することができました。

──無機質な重機と刀の写真が血の通った生き物のように見えてきますが、今回のタイトル『hemoglobin』について教えてください。
彼らを生命と捉え、なんとか鼓動を浮かび上がらせようとした撮影の意志と、血筋に対するリスペクトを込めて生物的なタイトルにしようと考えました。ヘモグロビンは、鉄によって作られる血中のタンパク質で、僕らの身体中に酸素を運んで巡ります。鉄に強く惹かれる感覚が今、自分を生かしていることを最大に表現でき、鉄と生命を繋ぎ合せることができる最も的確な名前だと思い『hemoglobin』にしました。

──重機は色彩鮮やかな一方で、刀はモノクロで統一していますが、何か意図があるのでしょうか?
前述した二面性という構図をさらに強め、各被写体の特色をより明確に表せるよう、カラーとモノクロの対比にしました。今回の写真集のテーマとは少し離れますが、「対比」は非常に大切な状態だと考えていて。極論でいえば、世界中に人間が自分ひとりだったならば、名前や自身の認識は困難になります。他者との比較によって存在がより明確になる以上、対比なくして自己確立はあり得ません。そこで、この写真集も対比を強め、重機と刀の存在感をより堅いものにするためにそうにしました。

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──今回、写真集を一部少数限定で学割販売するとのことですが、その理由を教えてください。
一時の流行りではなく、カルチャーとして「写真」がより盛んになるためには、若い人達の間で「写真を楽しむ」、「写真集を買う」ということが当たり前で日常的な出来事になってほしいと思っているからです。これまでもTシャツにプリントした展示や一晩限りの展示など、いろんな方法を模索してきて、その一環です。

──2018年に開催されたJW Andersonの「YOUR PICTURE / OUR FUTURE」に日本人唯一入選されましたが、何か写真家として変化はありましたか?
海外の方々に自分の写真を知っていただくとても良い機会になったと思います。また、この重機の写真が選ばれたことで自分の純粋な作品がしっかり世界に届くと、希望を持てました。写真家としてのスタンスやテーマには一切変化はありませんが、将来的な目標であった海外へ意識をのばすことが、グッと早まったと思います。

小見山峻写真展「hemoglobin」
会期:11/28(水)から12/04(日)
時間:12:00~20:00(最終日のみ18:00CLOSE)
会場:COMPLEX BOOST
住所:東京都目黒区青葉台1丁目15-10
レセプション:11/28(水)19:00~21:00