無重力への憧れ:小畑多丘 interview

ブレイクダンサーの彫刻作品「B-BOY」「B-GIRL」で、世界中から高い評価を集めてきたアーティストTAKU OBATA。彼の作品は、ストリートアートをネクストレベルへと昇華させた。そんな彼を惹きつけて止まないのは、重力と無重力。NIKE AIR FORCE 1のアンバサダーに就任したTAKU OBATAが表現する、AIR FORCE 1に込められた想いを紐解く。

by Kaeko Shabana; photos by Yuto Kudo
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23 January 2019, 2:00am

NIKE AIR FORCE 1のアンバサダーに就任した8名のトップアーティスト。i-D JAPANはアート部門のアンバサダーに選ばれた2名をインタビュー。前回のローレン・サイに続き、ふたり目のアーティストは「B-BOY」「B-GIRL」の彫刻作品で知られているTAKU OBATA(小畑多丘)。11月23日(金)に開催されたNIKE主催のバトル型イベント「BATTLE FORCE」で発表した彫刻を作成中にアトリエを訪ね、今回の作品について、アーティスト活動の原点について話を訊いた。

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TAKU WEARS NIKE AIR FORCE 1 SHOES.

──アトリエの中はいい香りですね。
NIKE AIR FORCE 1の作品はクスノキで彫っています。ショウノウなどに使われる木で、彫ると匂いが出てくる。大きい作品はだいたいクスノキ。小さいサイズの彫刻はカヤノキです。カヤノキはもっとメープルっぽい香り。甘い香りで、肌色に近い。

──外にバスケットゴールがありますが、バスケをされていたんですか?それとも作品ですか?
中学、高校はバスケ部でした。これは高校ぐらいから使っていたバスケットゴールで、そのままここにある感じです。

──今回の「NIKE AIR FORCE 1」のシューズの彫刻作品は、「B-BOY」が履ける大きさを想定されているのでしょうか?
そういうわけではないですが、大きさは40cmほどです。実際のシューズと同じサイズで作っても面白さはないので、なるべく大きくしたかったということと、時間的なこともあるのでこのサイズ感にしました。今朝、制作をスタートして、BATTLE FORCEのイベントまでに仕上げる。最初に話をもらったときは、AIR FORCE 1の靴底のパターンの物体を彫刻で作ろうと考えていました。それを空中に投げて、折り返しの頂点の無重力になった瞬間を写真で撮影し、AIR FORCE 1の物体の写真を作品にしようと思いましたが、今回は時間がなかったので、シンプルに彫刻で表現することにしました。

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WORKING ON AIR FORCE 1 PROJECT.

──小畑さんの彫刻作品といえば、ブレイクダンサーをテーマにした「B-BOY」「B-GIRL」ですが、今回の「NIKE AIR FORCE 1」のように、ブレイクダンサー以外の彫刻作品を手掛けることはありますか?
さきほど話していた物体の写真作品と同じように、「B-BOY」「B-GIRL」の彫刻のダウンジャケットのラインや、シューレースのラインを抽出した物体の作品を作っています。12月2日(日)まで開催されていた、ワタリウム美術館の梅沢和木さんとの合同展『HYPER LANDSCAPE – 超えて行く風景』で展示した映像と写真も、そこから派生した作品です。同展の2階に展示されていた彫刻2体は、直接的な空間表現で、彫刻はそこに存在するけど、それ以上でも以下でもなく……それがすべて。彫刻が小さいと、観客が作品を支配する。 「欲しい」とか「持って帰りたい」とか。大きい作品は、観客が支配される側になる。この感覚を体感できるのが、彫刻の凄みだと思います。その逆の表現が、4階の作品です。展示空間に立体物がひとつもなく、平面の写真と映像があるだけ。物体以外は比較する対象がないので……3 次元と2 次元、具象と抽象、重力と無重力、静と動と……あらゆるものが逆になっている。表現方法は異なりますが、「変な空間を作りたい」「想像させたい」といった意味で、やりたいことは一緒です。

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AIR FORCE 1 WORK IN PROGRESS.

──9月17日(月)まで市原湖畔美術館で開催されていた『そとの遊び』展でも野菜のパントマイムの映像作品「すいか」を出されていました。今後は映像作品に注力されていく予定でしょうか?
映像はもっと追求したい。野菜を浮かすパントマイムの映像も、これまでの作品とあまり関係がないように見えますが、実はすごく共通している。パントマイムの動き、”身体性”はダンスからきています。あと、彫刻を作るときに考える“空間性”。この映像作品は、最初は物体(野菜)が動いていますが、途中でその物体がとどまりだす。重力があるなかで、無重力の瞬間が見える感じです。野菜シリーズは遊びの延長で、実際は、簡単な仕掛けで野菜が浮いているように見える演技。これも空間の面白さに繋がっています。普通に重力がある実写のなかで、買ってきたスイカが浮くのをワンカットで撮影する。単純に、空間を面白くするために、いろんなことを試しています。

──映像や写真作品でも“重力”と“無重力”をテーマにした作品を進化させていく感じですね。
もちろん、彫刻は僕のアートの原点なので作り続けます。たとえば、大きな空間を与えられたときに、そこに大きな彫刻を置く。シンプルですが、いちばん面白いし、間違いない。これは多くの人がやってきた、ベーシックな表現方法です。ワタリウム美術館の4階で展示した映像作品は、彫刻がないのに彫刻の表現をしたというもの。この表現は巨大な空間でやっても耐えられる。たとえば、8K(スーパーハイビジョン)でハイクオリティの映像にして、壁一面に映像のインスタレーションをする。物体が端からでてきて、落ちていくというだけの映像でも、その空間は成立すると思います。人間のチカラで上に物体が行く。地球の引力で返ってくる。その両方を見せて、行って返ってくる途中の”無重力”になっている瞬間。人間のチカラと地球のチカラで、物体を引っ張りあっている。その瞬間を見せられるということは、すごく彫刻的。あれ、どうやって作っているかわかりますか?

──まったく見当つかず、暗闇のなかずっと眺めていました。
眺めていると、不思議な感覚に陥る。あれは、スタジオにセットを組んで、その中で彫刻作品の物体を人が投げている映像です。セットを動かす人、物体をキャッチする人と、9 人がかりで動かしている様子を撮影しました。物体を投げた瞬間、セットを動かす。そうすると、物体が空中で止まっているように見える。つまり根底にあるのは、無重力への憧れ。普段は「B-BOY」「B-GIRL」といった、具象の彫刻を作っています。どの作品も台座がなく、自立している。彫刻を立たせるには、重力に対してどういう人間の行動なのかということを考える必要がある。だから、つねに重力と向き合っています。彫刻を作ること自体が、重力と向き合うこと。それに対して、抽象が作りたいと学生の頃から思っていました。どんな抽象かと考えたときに、何か自分が作っているものと繋がっていたいと。

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NICO & TAKU. SHOES NIKE AIR FORCE 1 × CARHARTT WIP.

──それで思いついたものが、靴紐「ファットシューレース」とか、彫刻の服のライン。
そう。パーツを抽出して物体として考えたのがあの映像と写真作品です。最初は、人間(B-BOY、B-GIRL)の横に大きな物体の彫刻を置こうと思いました。それはそれできっと面白い。でも、人間か人間じゃないかという違いだけで、重力に対して置かれているという点ではまったく一緒。そこで、人間が重力なんだったら、物体は無重力にしようと考えました。物体のサンプルを作って、投げて遊んでいるときに写真を撮ってみたら、その写真がすごく面白くて。投げると、地球の引力に反発して上に行く。そして地球の引力で落ちてくる。その折り返し地点は、人間の力と地球の引力と互いに引っ張りあっていて、そこは本当に無重力になっている。その瞬間を撮影したら、写真の中で無重力の状態を保存できると思ったのがきっかけで、あの作品が生まれました。

写真は面白くて、手前と奥は全部一緒になってしまいます。 たとえば集合写真を撮るとき、後ろに下がると顔が小さくなる。実際そこにいた人には分かりますが、写真だけを見ている人には分からない。それは、写真には空間がないから。写真は空間をぺちゃんこにしてしまう。だからある意味、彫刻の真逆です。フォルムの影響もあると思いますが、映像の中の物体が手前にでているのか、へこんでいるのかが分からなくなる。それで、投げるための彫刻を作りました。その彫刻を投げて、写真で撮って、潰す。あの映像は写真の延長上にあり、写真の物体が動いていたら面白いのにというところから、セットを組むことに至りました。セットを作るということは、結局空間を作るということ。空間を作って、物体を作って、空間と物体を動かして作品を造形する。「B-BOY」「B-GIRL」の彫刻は、「彫刻を作ることで、空間を作る」という意識で手がけています。しかし、既存の空間に置くだけで、実際の“空間”は作ってはいない。一方で、あの映像は物体も空間も作っているので、実はとても彫刻的。映っているものは物体だけで、ほかに比較するものがないところが面白い。

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NICO AT TAKU'S ATELIER.

──「B-BOY」「 B-GIRL」彫刻作品と同じ空間にいると、ポップな物体としてだけではなく、未知への恐れのような、畏怖を作品から感じます。これが小畑さんの表現する”緊張感”なのでしょうか?
緊張感はすごく意識しています。作品の中に、水平・垂直が至るところに入っている。ワタリウム美術館で展示していた「B-BOY」「B-GIRL」の線も、全部水平が出ています。目も飛び出している。レーザー水平器で図りながら作ったので、本当にすべて水平です。でも、前と後ろでずれている。全部点が出ていて、前と後ろで水平をわざとずらしている。水平が前後で同じなのは2箇所だけ。すごく複雑な構造です。「B-GIRL」の彫刻は水平が前後で一緒ですが、服のラインは面の方向をすべて変えています。ただ線を彫るだけでラインを見せるのではなくて、カタチを作ることで、結果、ラインができる。水平・垂直はすべての基礎。水は水平で、糸で吊るせば何でも垂直になる。人も水平に対して、どう立つかということです。この世のものがすべて、重力に対してできているので、そこまで深い。彫刻、立体なものは、それがすごく面白い。あとは長さ。彫刻では長さで水平・垂直を際立たせています。フーディの紐や、シューレースを強調することで緊張感を出す。「B-BOY」「B-GIRL」の彫刻はいろいろな動きをしていますが、顔だけは水平・垂直なので、その部分が共通していく。関連していきます。そして、台座を使わず作ることも重要です。台座がないことで、床を共有する。そうすると、またひとつの空間になる。

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INTERIOR OF TAKU'S ATELIER.

──相反するものが好きなんですね。フューチャリスティックな彫刻なのに、木というオーガニックな素材であったり。時間が存在するようで、なかったり。
すべては表裏一体の関係だと思います。単純に”ある”ということと、”ない”というのがひとつのセットだから。すべてがなかったら、ないこと自体も無くなってしまう。”ある”があるから、”ない”がある。相反するもの、陰陽も。興味深いのが、人が作り出したものは、すべてないところからできている。“意識”です。「これを作りたい」とか、「これが便利だったらいいのに」と思う意識から物が生まれる。たとえば、椅子は「なんかこう、腰をかけるものがああればいいな」という思いから生まれたと想像できます。それが“意識”です。 結局、実際にある”もの”は影で、作りたいという“思い”が本質。その欲求が”もの”を生む。それがすごく面白い。

──最後に、TAKU OBATAを突き動かすものとは?
よりいいものを作りたいと思うこと。こんなものを作りたいという“意識”です。満足しているけど、満足していない。作品を作るとき、現実的に妥協しなくてはいけないことがあります。それを超えるために、またもっとヤバイのを作りたいと思う。それを繰り返す。これが僕を突き動かしているかどうかは分かりませんが、よりいいもの、なるべくいちばんいいものを作りたいという意識。衛りには入りません。同じものを作っているように見えますが、後ろの水平と前の水平のラインを変えているとか、ひとつは何かチャレンジすることを入れています。だから毎回前進している。そうしてさえいれば、いいと思っています。それさえしてたら、ボケないだろうし(笑)。

NIKE AIR FORCE 1
www.nike.com/jp/ja_jp/c/force

BATTLE FORCE
nike.jp/battle-force(モバイル専用サイト)

Credits


Photography Yuto Kudo
Interview & Text Kaeko Shabana


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