衝動から余裕へ:あっこゴリラ interview

「ヒップホップに出会えて本当によかった。こんなに私のすべてを掬い取ってくれるものってなかったから」

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jun 6 2018, 9:20am

「私が囚われてきたタイプだとすると、お兄ちゃんは囚われるもなにも空気の読み方がそもそもわからない感じで、ただ生きていた。それがかっこいいと思って」と、あっこゴリラは生まれてはじめてのヒーローだという自身の兄について語る。

だからこそ、彼女は女性ラッパーとして直面した問題や感情を率直に綴った「ウルトラジェンダー」において、社会から刷り込まれた“常識”、あるいは“女性らしさ”や“美”に対する世間の画一的な価値基準からの解放(超越)を歌うのだろう。

自由になろうと歌う彼女の新曲「余裕」は、冒険に繰り出すほどにタフになって自分の役割を認識した者から発せられるエンパワーメントな一曲だ。初の東名阪で開催した「ゲリラゴー ONE MAN TOUR」を終えたばかりのあっこゴリラに話を訊いた。

──『Green Queen』から明らかに歌詞の内容もラップのスキルも一段上のものに進化した印象を受けます。もっと自分を解き放てるようになれるはずだということを歌うようになったのは何がきっかけだったのでしょうか。

「ウルトラジェンダー」がきっかけでした。そもそも私は小5までは周りを気にしないで生きてきたんですけど、小5で女友達ができてから社会で上手く立ち回ろうとして生きるようになって、以降その時に色々抱いた疑問を疑問のまま放っておくようになっちゃった。それはなんでかと言うと、この社会のシステムの上で疑問を突き詰めることが得じゃないと思ったからです。だけど、そうやって生きていく気持ち悪さが爆発したときにラップを始めました。

「ウルトラジェンダー」ができるまでというのは、今まで教育されて普通だと思い込まされてきた価値観を壊す作業だったんですよね。内面化された価値観や自分が思っている自分/人/世界、そういうものを一個一個、疑問に思って壊していく。そうしないといけないくらい心も壊れちゃっていたというか。それで「ウルトラジェンダー」を作ったときに初めて過去に違和感を抱いていたことを拾い上げられて、それを言葉に出して音楽にできた。「ウルトラジェンダー」が大きなターニングポイントになりましたね。

──「ウルトラジェンダー」に続き、清々しいフェミニスト・エンパワーメントをあっこゴリラ流に表現したのが新曲「余裕」だと思います。さらに偏見や固定観念からの個人の自由をストレートかつシンプルなメッセージで歌っていて力づけられる曲に仕上がっていますが、どういった経緯で生まれたのでしょうか。

「ウルトラジェンダー」から徐々に自分の言いたいことがわかるようになっていきました。『GREEN QUEEN』ができたときにはもうメジャーデビューが決まっていたんですが、次は絶対に「余裕」って曲を作りたいと思ってたんですよ。なんでかって言うと、ここまでマジで余裕だったなと思ったから。私はドラマー時代に音楽の才能がない、音楽に向いてないと散々言われて、実際、私もほかの天才をいっぱい見てそう思ってた。でも、どうしても音楽をやりたいっていう衝動がありました。最初の衝動ってやっぱり理由より大事なんですよね。私の場合は、理由より上に来るもの。しかも当時の自分の価値基準は数字──例えば、単純にテストの点数が高い方が頭がいいとか足は細い方がかわいいとか──だったから、自分はダメダメのくせにやりたい、もうなんだよみたいに自分のことクソ貶しまくるみたいな感じでした。周りに期待されないのも嫌で、だから自虐して頑張ってコミュニケーション取ってるようなやつでした。でもラップ始めたときに、衝動でやっちゃう自分に腹を括ったんですよね。そしたら最初は爆笑してたみんなが助けてくれるようになった。こいつマジ頑張るじゃんみたいになって。人それぞれ色々なものを持ってるって自分も経験してわかり始めたし。みんなにあれだけダメと言われて、自分でもそう思ってたけど、やったらできた。そういう意味で“余裕”っていうか。自分が何を好きで何を信じているかという部分こそが大事で、本気でやれば余裕だよってことなんですよね。

──「余裕」のなかには「自尊心が低いくせに/プライドばっか育てちゃって/自虐でばっか笑い取って/縛られてたわたし バイバイ」というラインもありますね。

昔の私は、自分を誇ることも認めることも肯定することもないのに、他人から見ての自分、他者からの評価ばっか気にしていて、ちぐはぐになってました。ちゃんと自尊心さえあれば、人も分かり合えはしなくても認め合える。私は私なんだから、放っておけばいいんですよ。だけど私はそこに囚われてたせいで色々なボタンがズレていった。それに気づいたから、昔の自分に教えたくてそこは書きました。

──「ウルトラジェンダー」でも「余裕」でも“物差し”というワードが出てきますよね。これは意識的に使われたんですか。

意識的に使いましたね。自分が囚われてた部分でもあったから、そこはすごく言いたかったところでした。みんなそれぞれで良いじゃん。それが行き過ぎてるところもあるかなって。“人と比べての自分”で価値が動きすぎてるし、それに左右されたビジネスばっか蔓延ってるような気がして。


──バンド「HAPPY BIRTHDAY」解散後から再びラッパーとしてワンスアゲインするまでの人生経験を積んでいるからこそ、「余裕」での「何度でもやりなおせるんだ/嘘みたいな人生だ」というフックは胸に迫ります。まさに“THIS IS ドキュメンタリー”。

完全にそうですね。私ね、もう自分は冒険家だと思ってます(笑)。知りたがりで、ミュージシャンじゃない気がしてますね。

──ラッパーってその人が面白いかどうかみたいなところもありますよね。

だから私はヒップホップに出会えて本当によかった。こんなに私のすべてを掬い取ってくれるものってなかったから。例えば歌が歌えなくてもシャウトはできるところから始まったのがラップで、音を作れない人がサンプリングしてトラックを作ったのがヒップホップの始まりじゃないですか。そこに個人の生き様が乗っかってくるわけだし、ラッパーってほかに代えがたい。何もなかった自分が救われた価値観だから、昔の自分に教えたくて「余裕」も作りました。

──ワンマンでも「笑われた数だけ武器が増える」と仰っていましたが、そこにはどんなに辛い出来事もいつか笑いに変えてやるというある種コメディアンにも似た姿勢を感じました。

周りの空気を読まないで何かすると笑われたりするんですよね。普通じゃないからってバカにされたり、苦笑される。でもそこでひよるなよってことが言いたくて。私はそれを鵜呑みにしてきたんですよ。そのときに耐えた自分マジ、ビガップって思ってて(笑)。あそこでひよってなくてよかったなと思います。

──「余裕」では「『お前には無理だよ』その声きくまえに動いてみりゃ世界が変わる」と歌っていますが、ごちゃごちゃ言ってないでまず動くことを実践している行動力に感心させられます。

実際、ラップ始めたときには「マジ何やってんのお前?」みたいなノイズが寝るときもシャワー浴びてるときもずっと聞こえてた感じだったんですよ。ずっと小バエがうるさいと思ってた(笑)。でもそれってただ脳内の自分の声で、それまで培ってきた価値観の声なんですけどね。あのとき無視しといてよかった。

──そして“王子様”ではなく“自分を信じるハート”が救ってくれたのだと歌っています。これまでの活動を見ていると、能動的な行動や選択によって自分の人生を作り出してきたのだと感じました。

もちろんその選択に至るには、色んな人との出会いから刺激されたり、影響を受けた部分はあるんだけど、何かに依存して得られるものではない。結局、自分を取り戻さないといけないと思っています。

──「余裕」は作曲にもクレジットされていますが、どのように関わっているのでしょうか。

私も最初は、表記は載せてなかったんですよ。それなのに、「あっこゴリラは全部人に曲を作ってもらってそれを歌ってるんでしょ?」みたいに言われることがあって。びっくりして(笑)。トラック制作をするときは、一緒に作曲する人と何回もやりとりして、その上に私がメロディとか全部乗せる、そういう作業です。それなのにマジか?みたいな。「“女の子はラップすんなとか言う男共fuck youだ”って、ほかの人に書いてもらってんのか?」とか思って、それはヤバいぞ、私が人生かけて書いてるのにそれはイカンと思って、以降、表記するようにしています。

──「この髪の色で生きていくことを私は選んだ」とワンマンのときに言っていて、感動しました。

たまたまちょっとだけ髪を緑にしようと思ったら、すげえ緑になっちゃってて恥ずかしいと実は最初は思っていました。でも人から「なんでもっと堂々としないの? かっこいいじゃん」って言われて、確かにあんだけ半端じゃないことばっかやってるくせになんでこの緑の髪を恥ずかしいと思うんだろう?と思って。突き詰めていったら、「ただなんか派手な気がした」っていうよくわからない理由で恥じてただけでした。私すごく囚われて生きてきたから、曲は過去の自分に言いたくて書いてる部分が大きいと思う。周りの人にこうしろっていう気持ちは全くなくて、むしろそうなった瞬間、そのメッセージは嘘になると思ってるから。

──最初にラップを始めたときはどういう気持ちでしたか。決意が先にあって、その後にいま歌ってるようなメッセージ、自分の内側にあった意思や考えが呼び覚まされてるような印象を受けます。

完全にそうですね。最初はとにかくどうにかしたくてしょうがない衝動でした。私は理念を掲げて進んで行くタイプではなく、まずパッションで動くタイプだから、衝動がどうしても勝っちゃう。だから後から全部に理由があったんだとわかってくるんですよね。昔ある人に、「あっこさんはもう結婚した方がいいよ。子ども産んだ方が幸せになれるよ」みたいに言われて、それがすごい嫌で、人の幸せをなんで他人に決められないといけないの? みたいな。私はやりたい衝動があったから、それをやるのが自分の幸せだと思ってた。でも、私は認めさせられるものを何も持っていない。すごい悔しいし、自分はクソだと思ってた。でもそうじゃないんですよね。信じて本気でやればいい、ただそれだけだった。

──過去にMCバトルで「私はどっからどう見てもブスではねえ 中の上だよ」と言っていましたが、「ウルトラジェンダー」では「しょぼい物差しでみんな/中の上はもう終の了」と価値観やアティチュードを更新させているのも素敵だと思います。

実は価値観を更新してるんじゃないんですよ。小っちゃい頃から違和感は絶対にあって、でもそれを「これ生きていく上で無駄じゃん」ってずっとそのクエスチョンを蔑ろにしてきちゃった。MCバトルに出たときはラッパーもお客さんも男の人ばかりで、言葉遊びの脳みその使い方が長けている方、観客の声援が多い方が勝ちだったから、あえて「男性社会」と言うけど、その中ではそれをわかった上で賢く立ち回る女として「中の上だよ」って返す方が、上手いことやれると思っていたのかもしれない。そのとき、私はまだ弱かった。当時は普通にやってるつもりだったんだけど、そこをわかってなかったんです。いま思うと、「中の上もないでしょ」と思いますね。

──学生時代に色川武大の『うらおもて人生録』を愛読していて影響を受けたそうですが、それがどういうふうに発展して「余裕」のような歌詞の考えになっているのでしょうか。

色川武大で私は生きてきたんですよ、ヒップホップに出会うまで。あの本から、例えば競馬で言えば、若手の馬はとりあえずフォームも考えず全力疾走で走って、いつか限界が見えてきたらフォームを考えよ、みたいなことを参考にしてまさにその通りにやってました。確かにガチガチに影響は受けたんですが、うーん……わかった! その話で言うと、たぶんフォームを考えるところで私はヒップホップに出会ったんですよ。フォームがヒップホップ。だから私のいちばんの下地は色川武大だわ(笑)。色んなものに出会ってきたけど、たぶん私の胸を一番突いたのは色川武大さんのあの本。ヒップホップというフォームを手に入れたいま再度読んでみたら、また別の解釈になるかもしれないけど。

──「ウルトラジェンダー」では「メンズに同化orビッチぶるか」とフィメール・ラッパーのあり方についても言及していますが、あっこさんは悪ぶったりするのではなく、むしろどのラッパーよりも底抜けに明るく前向きでハッピーに見えます。

母親が異常に性格が明るいので、DNAもあると思います。私はもちろん暗いときもあるけど、私が一番グッとくる瞬間というのは、人が強くあろうとする瞬間なんですよね。前にある男性ラッパーから「女性でラッパーやるのは本当にすごい。モテようと思ったらラッパーなんかやらない。リスペクトしてます」みたいに言われたことがあって、「それ褒めてないよ」と思って。それから「フィメール・ラッパーの中で一番好き/上手い」みたいな褒められ方とかされても全然嬉しくない。個人個人じゃんって思います。しかもそうじゃないと、色物ラッパーとかギャグラッパーって──私、千回ぐらい言われてるんですけど(笑)──それ以外をそういう枠にはめちゃう。男か女か色物ラッパーしかないっていう考え方がすごく古いなって思っていて、個人が自分を取り戻せばいいと思ってますね。

──そのポジティビティが自分に正直でいてそれを恥じていないことは祝福されるべきことなのだという肯定感をもたらしてくれるのではないかという気もします。

何を恥とするかですよね。私は、人を否定して理解しようとしない方が恥だと思う。人と違うことを恥とする価値観はなにかがズレちゃってる。昔の自分もそういうのに気づけなかったタイプだからこそ、私は攻撃しなかったけど、気持ちもわかんなくはないから、そんな自分が知りたかったことが伝わるような曲を書いていきたい。

──「ゲリラ」でM.I.A.好きを公言されていますが、彼女からの音楽的な影響は強いのでしょうか。

ドラマーだったから、パーカッシブなラップというのがどうしても好きで。これはフェチだと思う。それが私的にM.I.A.とファレル(・ウィリアムス)なんですよね。二人が本当に打楽器みたいなラップのスタイル、音、耳的な気持ち良さではすごい影響を受けてますね。精神性の部分とか色々込みで言うと、一番は向井秀徳さんだと思うんですけど。

──歌詞を書くときは韻とかよりも語感を大事にされてるんですか。

これはラップを3年やってわかった段階の話ですけど、韻の面白さはめちゃめちゃあって、そこはまだまだ勉強中です。今はリズムの配置で気持ちいいかどうかっていう自分のフェチで音楽をやってる部分が大きいので、どっちかと言うと私はリズムの気持ち良さとメッセージとのリンクに集中しています。

Credit


Photography Houmi Sakata
Hair and Make-Up Megumi Kuji (LUCK HAIR)