鞄からスニーカーへ:バレンシアガが男性と若者を魅了する理由

男性、ミレニアム世代、そしてBALENCIAGAがラグジュアリー・ファッションを変える。

by Ryan White; translated by Aya Takatsu
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jun 13 2018, 5:23am

BALENCIAGAの業績の伸びは、男性とミレニアム世代によるところが大きいとするケリング社の報告は、ファッション消費の新時代を象徴するものだった。ラグジュアリーブランドは、長年この2つの消費者層の開拓に苦戦してきたのだから。ほかのブランドが男性/ミレニアム世代への足掛かりを見つけるのに苦慮し、大量のストリートブランドが提案する着心地の良いパーカーやTシャツといった気楽なスタイルに押され気味になっているなか、デムナ・ヴァザリアの時代を定義づける美的感覚によって、このギャップが埋められることとなった。今までほとんどのメゾンがなし得なかった偉業だ。グループのCEOであるフランソワ=アンリ・ピノーによると、ケリング・グループの筆頭であるGucciをもしのぎ、全体でもっとも伸びているのがBALENCIAGAなのだという。ブランド自体は収益を公表していないが、99年の歴史を持つこのメゾンはそう遠くない将来、収益10億ユーロに届きそうだとピノーは話している。

では、BALENCIAGAの何がそれほど、ミレニアム世代や男性を魅了しているのだろうか? まず男性のラグジュアリーファッションは(全般的に)伸びている。小売業界のデータ分析企業エディテッドは、女性服が2017~2020年に伸びるよりも早いペースで男性服が成長するだろうと予測している。BALENCIAGAの新境地であり注力しているカジュアルウェアが、この成長しつつあるトレンドと見事にマッチしたのだ。このトレンドはミレニアム世代を越えて、スタイリッシュであることがかつてないほど社会的に受容されてきた世代、つまりより年輩の男性消費者にも派生したのである。

逆説的ではあるが、メンズのコレクションは絶頂期にあるとはいいがたい。コレクションやショーをウィメンズと合同にするブランド(BALENCIAGAもそのひとつ)が増えているからだ。しかし、パリで発表されるデムナの予測不可能で破壊的な作品が、ここ数シーズン大きなインパクトを与え続けている。浮世離れしたハイファッションをより大きなカルチャー的土壌にまで広げたものこそ、その衝撃の正体だ。

しかし、ブランドの成功をひも解くためには、ランウェイだけを見るべきではない。もう何年ものあいだ、大手ブランドの主要な収益が、ファッションウィークで発表される野心的で非現実的なデザインによってもたらされることなどなかったのだから。2015年度(ヴァザリアがBALENCIAGAに入った年)の既製服は、ケリングのラグジュアリー部門の収益79億ユーロのうちたった16%を占めているにすぎなかった。ファッションショーは夢を見せる場所であり、現実ではない。利益というものは、アクセサリーや香水、化粧品や皮革製品、靴からの売り上げから得るものなのだ。

エクサンBNPパリバとファッションコンサルのVRファッション・ラグジュアリー・エクスパタイズが去年行った調査によると、マーケティング費用が急増したことにより、洋服のコレクションをつくることで損失を出しているブランドがいくつかあるという。このことが意味するのは、Louis VuittonのバッグやChanelの香水No. 5はファッション業界に不可欠なのだということだ(まったく驚くにはあたらないが)。かつて、クチュリエのいるメゾンは、ときおりパリの貴族にガウンを買ってもらえば存続することできたが、現在のファッションウィークが、直接的に大きな収益の伸びに結びつくことは稀である。

BALENCIAGAが今取り組むべきは、バッグや香水ではない。スニーカーだ。Speed SneakerとTriple Sは、ここ2年のファッション界でいちばんアイコニックなシューズとなった。後者は大手ブランドのあいだで“ブサイク”スタイルとしてトレンドになったものの先駆けだ(参考:Louis Vuitton、Yeezy、Gucci)。2018年春夏でデビューした悪名高きプラットフォーム型Crocsも、あっという間に売り切れている。安くはないけれど、もうすでにアイコンとなっているTriple Sは、ミレニアム世代の男性ハイプビーストにとってのみ新しい意味を成す、Louis Vuittonのハンドバッグと同じくらい豪奢なステータスシンボルなのだ。

Instagramで「#balenciaga」と検索してみると、表示されるのはほとんどスニーカーの画像だろう。もっと絞って「#balenciagatriples」と検索すると、12万5千を超える結果がヒットする。Instagramではブランドの成功を包括的に測ることはできないかもしれないが、より若い世代の消費者がもっとも望んでいるものを写し出しているのは間違いない。Googleで「BALENCIAGA」と検索しても、スニーカーの画像ばかりがずらりと並ぶ。構築的なクチュールドレスで知られる100年近い歴史を持ったメゾンにとって、これはかなりの進化だ。

デムナがこのブランドでしたのは(そもそもはVetementsで始めたことだが)、シーズンごとに、より広い顧客に向けた少数の目立つ“イット”アイテムを如才なくつくり出すことだ。“イット”バッグをつくるならユニセックスなものにしたり、懐疑的な記事を欲しているかのような、やり過ぎデザインにしたりするのだ。スニーカーは長いあいだハイファッションと男性消費者をつなぐものだったが、Chanelのバッグ並みに主張のあるスニーカーをつくり出したブランドはほとんどない。2017年、『ファッション・ロー』誌は「“イット”アイテムの人気は、バッグに限ったことではない」と書いている。「パーカ、ボマージャケット、ステートメントジーンズ、そのほかアイキャッチな服は、ストリートスナップの中心となった」

デムナは年輩の女性の顧客を得るために、これまで培われてきたやり方を採用し、若い男性にもアピールできるよう、その裾野を広げたのである。通常の価格より安いTシャツと組み合わせて、ハイファッションへの男性の需要が高まれば、一丁上がりというわけだ。

「スニーカーは長いあいだハイファッションと男性消費者をつなぐものだったが、Chanelのバッグ並みに主張のあるスニーカーをつくり出したブランドはほとんどない」

しかし、あらゆるブランドがこのやり方を採用しているわけではない。ChanelやPrada、Gucciなどといったブランドの広く知られた普遍性や認識は、すぐにそれとわかるデザイン、ロゴ、かたちを望む多くの需要を満たし続けている。マスマーケットにおける究極的なラグジュアリーシンボルは絡み合う“C”であり、その広い知名度は、逆説的に排他性を低下させている。BALENCIAGAはその規模こそ大きくなったかもしれないが、ファッション界の強大なメゾンの目もくらむような高みにはまだまだ到達できていない。そのラグジュアリー・ステイタスには、まだ何か少しアングラで、破壊的なエッジさがある。しかし、Dries Van NotenやRick Owensなどのインディペンデントなブランドにとっては、その成功の大部分はその服によって定義されるものなのだ。

2016年にリックがi-Dに語ったのは、より大胆なコレクションを打ち出すことで、ラグジュアリーファッションの均質化に抵抗したいという想いだった。「今ファッション界で起こっていることに対して、行動を起こしたかったのです。保守的で、用心深く、商業的。脆く、つくるのも運ぶのも店舗に並べるのも難しいものを手がけたという事実こそ、私たちが暮らすストレートな世界に対する感情的な行動でした」。リックのビジネスは、その資金のほぼすべてをプレコレクションから得ている。ショーのときは、望むものを何でも見せられる自由を彼に与えるために。「これは妥協ではありません。自分が好きではないものや、恥ずかしいと思うものはつくりませんから。私が手がけるのは、そうであってほしいと私が望むようなシンプルなものなのです。ランウェイの服は、販売前に長いあいだ目に触れることはありません。だから冒険することができるのです。ある意味何でもできます。そうすべきですから」。逆に言うと、あのブサイクなスニーカーは、デムナがケリングのなかでキラリと光るずっと前に、リックのアジェンダにあったのだということに触れざるをえない。

流れは確実に変わっている。エディ・スリマンがCélineで初めてのメンズウェアコレクションを発表する日も近い。さらにヴァージル・アブローがLouis Vuittonのメンズの指揮をとることも決まっている。これからのシーズンでメンズウェアは伸びを見せるだろう。エディはスキニーな男性が流行したときのパイオニアであり、ヴァージルはストリートウェアとラグジュアリーの垣根を取り払った張本人だ。だが、彼らが歴史に名を刻むかどうかは、次に何をするかにかかっている。オーバーサイズでリストラクチャーしたスニーカーが合うのであれば、それが答えだ。

This article originally appeared on i-D UK.