Screenshot via YouTube

「This Is America」にアフリカの流儀を持ち込んだ振付師:シェリー・シルヴァー

すでに2億回以上再生されている、話題のPV「This Is America」。その振付を担当したシェリー・シルヴァーはどのようにしてガンビーノに出会い、このビデオで何を体現しようとしたのか?

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jun 8 2018, 10:06am

Screenshot via YouTube

人びとがテレビの音楽番組を卒業し、ストリーミング・サービスで音楽を視聴するようになると、PVが広いカルチャー上で話題の中心となることは稀になった。ポップカルチャーの磁場が、ヴィジュアル・アルバムに移行してきている理由もそこにある。

例えばビヨンセの『レモネード』、ケンドリック・ラマーによるアルバム『DAMN.』とそれに連動したPV、ジャネール・モネイの『Dirty Computer』。これらは、自身の作品がおもしろ動画のような一過性のものになることを拒もうとするアーティストたちの試みであり、彼らが主導権を持った一人前の監督であることを決定づけるものでもあった。現代を生きる彼らの課題は、自らのアーティスティックなビジョンの具体化にはない。彼らの困難は、現代アメリカの複雑な現実を4分の簡潔な動画にまとめ、人々に見せるだけではなく、彼らに見ることを“思い出させ”なければならないというところにある。

チャイルディッシュ・ガンビーノ(ドナルド・グローヴァー)は先日、「This Is America」のPVでそれを成し遂げた。このPVはすでに2億回以上再生されている。「This Is America」のなかで、ガンビーノは陽気に楽しむと同時に、黒人のゴスペル聖歌隊を突撃ライフルで殺戮し、子どもたちと踊り、マリファナを吸う。FOXニュースを1時間見るのと同じくらいカオスで不安を覚える作品だ。

さらにこのPVは、陰謀説を唱えるアレックス・ジョーンズ(彼はガンビーノの踊りを「ブードゥーダンス」と形容した)のようなオルタナ右翼たちからのリアクションを予想通り煽るものとなった。実際、ガンビーノは、ミンストレルショーふうのダンスや“凶悪めいた”行動で、そういうタイプの白人の怒りを誘っているようにも見える。白人社会が黒人に期待しているものを、挑発的かつ高慢なやり方で手玉にとり、同時にそれを批判的に映し出しているのだ。

ルワンダ生まれでイギリス育ちのダンサー、シェリー・シルヴァー(Sherrie Silver)は、A・ジョーンズのような白人を激昂させ、黒人視聴者を満足させたこのダンスの振付を担当した。「こういう曲をこんなふうに踊る人はほかにいないと思う」。Skypeを通して、シェリーはそう語る。「This Is America」に対する称賛を考えれば当然だが、彼女の声には力強さがあった。「でも、私やルワンダの人なら、こういうふうに踊るはず」

各地に離散している黒人の共同体全体から引き出されるダンス・シーンを作り出すべく、シェリーはガンビーノやPVに登場するキッズダンサーの一団と密接に関わった。ガンビーノは南アフリカのグワラ・ダンスを踊ったかと思うと、次の瞬間、シームレスにブルックリンのフレキシング・スタイルへと移行する。「ドナルドとヒロ(・ムライ 本PVの監督)は、コンセプトを共有してくれたんだけど、ドナルドは実際に会ったときに、もっと詳しく解説してくれたの」。シェリーはコラボレーションの過程をそう話す。YouTubeにあげていたダンス動画が、ガンビーノたちの興味を引き、この企画への参加が決まったのだと彼女は言う。「すごく気に入って、どうしてもこれをPVに使いたい踊りがあるってドナルドが言ってくれて。私たちは企画の途中で出会って、ダンスでコラボすることになった。こういうヒップホップのPVに今までなかったものをつくるために、自分らしさを加えただけ」

2018年でもっとも確固たる意志を持ち、かつ話題騒然のダンスPVの振付をするのはどういうことか。シェリーがi-Dに語った。

──PVの中で、異なる黒人やアフリカのダンススタイルがミックスで表現されている部分が興味深かったです。この横断的(クロス・ポリネーション)なアイデアはどうやって思いついたんですか?

アフリカ人である自分自身から出てきたものだと思う。私はルワンダ出身で、教師としてアフリカ中を旅しているの。だから自分自身と心をぜんぶ注ぎ込んだ。アメリカのダンスも参考にしたいと思っていました。ドナルドもまったく新しいもの、予期せぬものを求めていたから。

──ダンスはどうやって学んだのですか?

アフリカで生まれて、成長していくなかで。通りでも音楽がかかっているから。貧困で苦しいときも良いときも、すべてがとてもカラフルなの。ダンスは私たちがいつもしていること。環境の一部なんです。フリースタイルをしながら育っていくなかで、ダンスの仕方を学び、グルーヴを持つようになるの。自己流でたくさんのことを学んだし、自然にわき出てくるものもあった。それ以外のことは、ほかのダンサーと踊ったり、動画を見て勉強しましたね。

──軽い気持ちで観る人には、PVのなかにある元ネタやコンセプトの集合体を分析するのは難しいはずです。振付を通して何を掘り下げたかったのか、少し謎解きをしてくれませんか?

私と(PVに出ている)ダンサーの子たちの役割は、このPVに光を与えることだったんだと思う。だって、見たらわかるとおり、周りは闇で覆われているしょう。でも彼らは幸せそうだから、見当違いに見える。ある意味、あの子たちはドナルド(ガンビーノ)の影みたいなもの。

──アメリカにおける黒人の政治的立ち位置が、この曲の歌詞やPVのテーマの大部分を占めています。黒人共同体の一部として、ダンスはこの苦境を私たちが脱する力になると思いますか?

ええもちろん、100%。ダンスを通して抗議することだってできると思う。感情を表現するポジティブな方法のなかでも、ダンスは特に素晴らしい、非暴力的な手段だと考えているの。

困難を乗り越えようというときですら、私には、ダンス・スタジオに行って、音楽を大音量でかけることが治療になる。前に、頭痛がしていたときに、ダンスしたことがあって。踊ってると、頭痛のことなんか忘れちゃうんだけど、ダンスをやめたとたん、また痛くなったってこともあったくらい。

──このPVには熱のこもったネガティブな意見も寄せられました。アレックス・ジョーンズは大胆不敵にもドナルドの踊りを「ブードゥーダンス」と評し、ほかにも人種的意味合いのある言葉を使いましたね。こうした人たちの無知は、特にアフリカ人ダンサーであるあなたをどういう気分にしましたか?

正直、批評的なレビューは読まないし、「これに隠された本当の意味は……」みたいな記事は見ない。メディアの世界にいたから、みんなが自分の見方でものごとを解釈するのは知ってる。それは問題じゃないけど、誰かがそれをブードゥーダンスだって思うのは……うーん……そうね。私にとって、あれはブードゥーダンスではなくて、文化的なもの。踊ってハッピーになるもの! 故郷に戻ったら、みんながパーティで踊るダンスなの。私は自分の生まれた場所にとても誇りを持っている。アフリカやアフロのダンスを世界にもたらすこと、世界をアフリカにもたらすというのが、私の座右の銘。だから、こんなに大きなプロジェクトで自分自身を出せたっていうのは素晴らしいことだし、誇りに思う。

──次の予定はありますか?

PVの再生が1億回を超えたら、チュートリアル動画をアップする。あのダンスを学ぶための。だってみんな踊ろうとしてるでしょ? みんなが踊ってる動画をSNSで見るのは最高。パーティで、自分流の味つけを加えてもいいしね。例えば、インドにいたら、どうアレンジするか考えるのもいい。

──リズム感があまりよくないけど、この曲に合わせてダンスしたいという人に、どんなアドバイスがありますか?

シェリー・シルヴァーの個別レッスンを予約してって言う! 待ってて。教えるのが大好きなのーー世界中で教えてるし、上達していくのを見るのがとても好き。ダンスを覚えたいなら、動画を見て。YouTubeも最近スロー再生できるようになったから。でも、楽しむこと──それがいちばん大事。動画を見れば、ダンサーがみんな笑っていて、楽しんでいるのがわかると思う。ダンスは感情表現から派生するもの。だからあなたの幸せを表現してみて!

──次はどんなアーティストと仕事をしてみたいですか?

素晴らしいアーティストが多すぎて! ビヨンセやリアーナなんてありきたりなことは言いたくないし……。

──でも、それは正当な“ありきたり”ですよ。

そうね、彼女たちはその中でも最高だし。ビヨンセのPVや振付をしたい、だって彼女はアフリカに進出した人たちのひとりだから。彼女が「Run the World」で成し遂げたことは忘れられない。あれは違うスタイルのアフリカンダンス。彼女はいつもそういう興味をアフリカに向けているの。リアーナのカリブ海的な雰囲気も大好き。一生懸命仕事をしていて、業界に新風を吹き込むアーティストなら、誰とでも仕事をしたいと思ってる。

This article originally appeared on i-D US.