川久保玲による「カワイイ」:Comme des Garçons 2018SSコレクション

コム・デ・キャンディ・ショップへようこそ!

by Susie Lau; photos by Mitchell Sams
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04 October 2017, 10:49am

ショー冒頭のはどこかちぐはぐな印象が際立った。スーツジャケットの裾からヴィクトリア朝風のシルエットにスカートが大きく膨らみ、ベルベットに画家アブラハム・ミグノンが描いた花の絵がプリントされていた、あのオープニングのルックがそう感じさせたのだろうか? それとも、BMGがFKA Twigsの「Two Weeks」だったから? あるいはパリのロシア大使館内部にある、金色が散りばめられたブルタリスト建築の部屋が会場だったからだろうか? 流れる音楽は、会場の雰囲気と一致せず、またミグノンの絵画との関連性がまったく見出せなかった。

今季のファッションウィークは、アーティストとのコラボレーションが目立った。なかでも川久保玲が9人のアーティストと挑んだコラボレーションは、めまぐるしく状況が移り変わる現代社会を象徴しているようだった。ミグノンの植物画や16世紀の水墨画家・の雪村の水墨画が現れたかと思えば、eBoyがテレビゲーム「The SIMS」のような風景をデジタル調に描いた作品が、ステファン・マークスのスケートカルチャー・アート作品に重ねられていた。そしてセルジュ・ヴォリン(Serge Vollin)の描いた、デフォルメされた人の顔がこちらを見つめ、16世紀の画家アルチンボルドが果物や野菜を組み合わせて人を表現した作品までもが現代的なポップさを持っていた。川久保玲は今季のテーマを"マルチディメンショナル・グラフィティ"とし、彼女らしい作品を発表した。「壁に描かれたグラフィティが動き出したかのよう」とエイドリアン・ジョフはショーのバックステージで説明していた。

川久保玲がスプレー缶で反逆の精神を描いた多様なグラフィティは、ニューヨークのメトロポリタン美術館で開催された展覧会『Comme des Garçons: Art of the In-Between』から着想を得たにちがいない。この展覧会が川久保玲が自身の本質的テーマと作品の説明をする機会だとしたら、今回のコレクションは展覧会をキュレーションする過程において、安定剤のような存在だったのだろう。川久保は展覧会で初めてComme des Garçonsの世界に触れた若いファッション狂たちの脳内に入り込んで、彼らから感じ取った興奮を、底抜けに楽しい服へと落とし込んだ——それがこのコレクションだったのではないだろうか。まるで「コム・デ・キャンディ・ショップへようこそ! 花や果物、顔など袋いっぱいに詰め込んでいって!」と語りかけているようだった。

Comme des Garçonsは展覧会を経て、存在感と地位をゆるぎないものにした。川久保玲は今シーズン日本の"カワイイ文化"をコレクションに盛り込み、熱狂的オタク文化を表現した。川久保玲は展覧会の開催によって生まれた熱狂的ファンたちに向け、日本のスタイルにかつてない深みを織り込んでみせた。原宿竹下通りの影響はジュリアン・ディスによる彫刻的ヘアに見られ、今は休刊となってしまった『FRUiTS』への敬意のように感じられた。高橋真琴が描く、キラキラした大きな瞳の少女がドレスにプリントされてこちらに微笑みかけ、光と愛を放っていた。これらのアーティストの作品が混ざり合い、天使の羽が配された作品まであった。ランウェイを歩くモデルたちは、陳腐な商業主義から私たちを救い出すために現れた秋葉原のマスコットのように見えた。10代の無垢さを思わせる、赤、肌色、白といった色彩が嫁入り衣装のようにパッチワークされていた。足元にはトレンドを追うファッション愛好家なら喉から手が出るほど欲しがりそうなNikeのボクシングブーツが配されていた。

ショーは底抜けに明るかった。しかし、BGMにサミュエル・バーバー作曲、アンドレ・プレヴィン指揮の「弦楽のためのアダージョ Op.11」を起用したフィナーレにこそ川久保玲の狙いがみて取れるような気がした。。"カワイイ"ものに囲まれた部屋からオタク少女が飛び出したとき、いったい何が起きるのか? 自己と他者、秩序と混乱、そして活力と喪失感--それはメトロポリタン美術館での展覧会にも通底するものだった。そして、ハロー・キティがくっついた服にも、過激に描かれた花にも、輝く青い瞳でこちらを見つめる少女のイラストにも、その思想はしっかりと宿っていた。

Credits


Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.