「ソウルと繊細さ、そして人間味」:メイヤー夫妻がJil Sanderを復活させた

ルーク&ルーシー・メイヤー夫妻がJil Sanderに新たな息吹を与え、アンジェラ・ミッソーニはMissoniでの20周年を祝った。

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okt 2 2017, 11:45am

「2017年におけるJil Sanderとは?」——先日、フランクフルトの応用工芸博物館が開催を予定しているJil Sander展の詳細を発表した。デザイナーのジル・サンダーが建築や庭園へ向ける情熱と彼女が築き上げたアーカイブ・コレクションを追った展示となるそうだ。この発表と同じ日に、ルーク・メイヤーとルーシー・メイヤーが独自の視点から解釈したJil Sanderを見せてくれた——メイヤー夫妻がデザイナーに就任して初となるコレクションだ。

Jil Sander

オープニングとクロージングのBGMには、ニーナ・シモンの「Be My Husband」が流された。このコレクションはSupremeとOAMCでデザインを手がけてきたルークと、Louis Vuitton、BALENCIAGA、Diorでデザイナーを務めてきたルーシー、そして独自のファッションを打ち出し続けたジル・サンダーの「結婚」だった。

Jil Sander

「生活の中で理解し学んだこと、そして時代精神からアイデアが膨らんでいきます」とジル・サンダーは語っていた。彼女が語っていたことこそメイヤー夫妻がJil Sanderで再現していきたいとしているものだ。近年は苦難が続いたJil Sanderだが、メイヤー夫妻はサンダーが打ち出した潔いまでのミニマリズムを超えて、ブランドの過去を探りながら独自の未来を築いていきたいと説明している。「Jil Sanderと聞いてひとびとが思い浮かべるのは頑ななまでにミニマルなイメージです。でも、よく見てみると……」——先日、『Vogue』誌とのインタビューで、ルークがそう話し始めるとルーシーが「よく見てみるとソウルフルなんです」と続けた。またショーの後には「Jil Sanderは魂と繊細さ、そして人間らしさをテーマにしたブランド」とも語っている。

Jil Sander

「母が大のファンでJil Sanderの服しか買いませんでした」とルーシーはJil Sanderデザイナー就任が発表された際に明かしている。「母とJil Sanderはわたしがファッションに目覚めたきっかけです。Jil Sanderの服を着た母はいつもシックで。その服が母の印象に与えるあのインパクトが強烈でした。Jil Sanderの服を着るといつもと違う母に見えましたね」。そんな記憶をメイヤー夫妻はこのデビュー・コレクションに織り込んだ。ふたりは繊細さと純度、そして現代的な構造と革新のあいだに絶妙なバランスを生んだ。その対比こそ、メイヤー夫妻がこのブランドで守っていきたいとする本質だ。そしてさらに、先進的なアイデアを盛り込みながら「自然」と「人間らしさ」を讃えていきたいとしている。Galleria Castelli FerrieriのCityLifeで行われたショーはふたりの信条を如実に反映していた。今後ショッピングセンターに建て替えられるこの建物に夕陽が差すさまはひとつの時代が終わり、新たな時代の幕開けともなる現実物語っていた。

Jil Sander

一見するとシンプルだが、今季のコレクションは極めて複雑な対比とニュアンスが盛り込まれていた。Jil Sanderが基調とするネイビーやキャメル、ブラックに白を合わせ、明るい色彩がボリュームあるニットに力強さを与えていた。ブランドのトレードマークである白のポプリンスカートには、軽くふんわりとしたドレープに新たなテーラリングの構造を盛り込まれ、伝統的で実用的なスモックと弾力性をもたせた部分が、男性的な機能性と女性的な量感がうまく同居していた。そしてマクラメ編みや刺繍のディテールなど、手芸も光っていた。デザイナーふたりが目指したのは服に感情を生み、冷たくなりがちなミニマリズムに官能的な温かみを持ち込むことだった。ふたりがデビュー・コレクションを作るにあたり大切にした「ソウルフルで繊細なアプローチ」--Jil Sanderがここに復活した。

Jil Sander

Jil Sanderが新たな船出を見せた一方で、Missoniはひとつの節目を讃えていた。アメリカ人アーティストのレイチェル・ヘイズによるパッチワークの七色の天蓋の下で、アンジェラ・ミッソーニは、クリエイティブ・ディレクター就任20周年を記念して初となるメンズとウィメンズの合同ショーを発表した。それはテクスチャーと並列、レイヤーが溢れる巨大な園遊会となった。ブランド創立65周年記念回顧展の開催を来年に控えたMissoni。アイコニックな柄とトレードマークのモチーフを新作に盛り込みたいとアンジェラは軽さをもってアーカイブ・コレクションを再解釈した。ジャガードが大いに用いられたほか、80年代のMissoniを決定づけた万華鏡のような柄を現代的に再解釈し、新たな可能性を披露した。フレデリック・サンチェスによる楽曲が流れるなか、ストライプやライン、ジグザグの柄のコレクションが登場し、観客はアンジェラ・ミッソーニの魔術を目の当たりにした。

Missoni

フルヴィオ・リゴーニによるSalvatore Ferragamoは、祝福ムードのなかにあった。グレタ・ガルボやカルメン・ミランダ、ブリジット・バルドー、エバ・ペロン、そしてもちろんマリリン・モンローなど、フェラガモの靴を愛用した女性たちには独特の魅力があった。そこに着想を得たリゴーニは、今季のコレクションで、女性の多様性と個性を讃えた。「同じ女性はひとりとしていない。僕は女性の個性とスタイル、女性が放つ色彩、そして変化し続けるフェミニニティ——そのすべてを讃えたいと思った」とリゴーニは説明した。メゾンの顧客である女性たちをミューズに、リゴーニは女性のスタイルの歴史をめぐる旅へとわたしたちをいざなった。そこには20sのペンシル・シルエットから、30sのフリンジ、50sのフルスカート、70sのフレアなどが登場した。ルックのひとつひとつが異なっていたが、クオリティと色彩が全体をまとめていた。すべてのルックには、Salvatore Ferragamoの「最新技術を駆使して、最高の技能でものを作る」という理念をもとに、驚きと現代的なひねり、そして細部へのこだわりが溢れていた。ゼラニウムピンクやエメラルドグリーン、明るい赤やプラムがパステルカラーや白と合わせられ、Salvatore Ferragamoらしい世界観を放っていた。

Salvatore Ferragamo

ショー会場はメザノッテ宮。この選択にサンドロ・ボッティチェッリの影響がうかがえる。ひなぎくの花に覆われたランウェイには、照明デザイナーのインゴ・マウラーによる照明が満ちていた。インゴは、光でボッティチェッリ調の花々を会場のファサードに描いた。ゆるやかに、しかし鮮烈に舞った花々が姿を消すと今回のショーで初披露となったSalvatore Ferragamoの香水「Amo Ferragamo」のボトルが、グラフィック調に描かれて浮かび上がった。頭からつま先、そして服から肌まで、「すべての女性の欲望を満たす」——これが今季のSalvatore Ferragamoだった。

Marni

Marniもまた、女性の美しさについての深い考察を見せていた。デザイナーのフランチェスコ・リッソは、プリントや素材をコラージュし、女性が変貌していくさまを描いた。それは、1920年代調のラウンジウェアから50年代調の水着、風船のようなシルエットにスケーターのような猫背、そして現代のレイヴァーから20年代のフラッパーまで、あらゆる時代のあらゆるファッション要素をクチュール的にかき混ぜたカクテルだった。シームやトワールをむき出しにし裾をほつれさせ、プリントを歪めたり、プロポーションを反転させ、生地にダメージを加えるなどコレクション全体にリッソの遊び心が垣間見えた。このコレクションはわたしたちに「感覚の目覚め」をもたらしてくれた。この実験性は多くのデザイナーが試みてきたものだがほとんど失敗に終わってきた。しかし、リッソは要素の衝突や不協和音に調和をもたらすことに成功した。控えめな印象のファーシューズや、鼻っぱしの強い印象を与えるウェリントン、儚げなシルク、コンパクトなニット、実利主義らしいチェック、上層階級を思わせる花など、小物はどれも口当たりの良い女性らしい雰囲気を持っていた。「美は茶目っ気と破壊の行為です」とリッソは説明した。

Bottega Veneta

Bottega Venetaでは、トーマス・マイヤーが茶目っ気たっぷりのコレクションを作り上げていた。50CENTの「In Da Club」やネリーの「Hot In Herre」など、2000年代初頭の音楽をBGMにしてマイヤーはその音楽と不釣り合いとも思える、楽しさ満載の世界観を打ち出した。ショーにはアジョア・アボアーからヤスミン・ワイナルドゥム、ジョナス・グロアー、プレスリー・ガーバー、ケンダル・ジェンナー、カイア・ガーバーまで、スーパーモデルが勢ぞろいし、現代のラグジュアリーを体現した。シルエットこそシンプルさで、職人技巧も健在だったがそこには多くの装飾をほどこされていた。鮮やかな色彩を前面に打ち出した今季コレクションの楽観主義とBGMがわたしたちの心を明るく照らしていた。

MSGM

MSGMも色彩に目を向けていた。「色は目でさまざまな濃淡や強弱として認識されます。そしての体全体に影響をおよぼします」と、MSGMのショーノート冒頭には書かれていた。ミラノ・ファッション・ウィークも終盤を迎え、疲れと二日酔いにぐったりしていたファッション編集者たちは、マッシモ・ジョルゲッティによるカラーセラピーで元気を取り戻したにちがいない。情熱を掻き立てる赤、ひとを陽気にさせる黄色、悲しみを癒す青、ストレスを軽減する紫など、万国共通の色彩効能を用いてMSGMの今季コレクションはわたしたちを虹色の世界へと導いた。

Credits


Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.