​Roni Ilan AW 17:愛され受け継がれる服の生涯を探って

クリエイティブな仲間を「家族」としてケント郊外僻地のとある家に集め、彼らが彼女の服を着て生活する中で、服自体が進化していくのを目の当たりにしたロニ・イラン。その過程を収めた映像には、自我の概念を表現する服という存在が浮き彫りになっている。

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13 January 2017, 11:21am

「ことの始まりは、自分が作るものをノーマライズしたいという思いを感じたときでした。"ノーマル"な服への架け橋を自分のために作りたかった。これまで作り出してきた服を見ていたら、私の服作りのアプローチはとてもコンセプチュアルで、私は服をアート作品として見てきたんだなと気づいたんです」と、イスラエルに生まれ、現在はロンドンを拠点に活動するデザイナー、ロニ・イラン(Roni Ilan)は、プレゼンテーションを行なったスペースの端で静かに言った。

若い男性モデルたちにそれぞれ微かに違うデザインの服を着せて「絆」のコンセプトを表現したり、大きな服でふたりの人間を繋げる大胆なデザインを打ち出したりと、イランはセントラル・セント・マーチンズで学士課程の作品発表を初めて経験した当初から、「親密」と「繋がり」という概念を深く探ってきた。過去2シーズンでそれら概念を探った彼女が、今回2017年秋冬シーズンに追求したのは「ノーマライゼーション」。服が着られ、愛され、受け継がれていく、そんな服の生涯というものに焦点を当てた。

「また改めて服というものに興味が湧き、そこから家族のことを考え始めました。私が家族とともにしてきたときに思いを馳せ、お下がりの服をもらったことを思い出し、母親が着ていたという服をもらって着たことを思い出しました。私が持っている服の半分は、母や父、それと夫のウィリアム・リチャード・グリーン(William Richard Green)からの貰い物です」

ファッション業界のペースが加速しすぎている今、「服は家族代々受け継いで大切できる物」という考えは失われつつある。1シーズン限りのファンタジーではなく、ひとにとってもっと長く意味を持ち続けるものにもなりうるはずなのだ。ファッションという惑星の軌道から外れてしまえば、お下がりの洋服は家宝となり、平凡なものも意味を持って真の価値が増す。シンプルすぎるシャツも、思い出という糸で織り上げられたものとなるのだ。

自身の家族を作り上げたイランは、ジェイムズ・レフォード(James Wreford)とアリス・ニール(Alice Neale)との映像制作を通して、彼女の服がいかに「自身」という概念を表現しているかを悟った。「家族に囲まれていようとひとりの状況であろうと、服には自分が感じていることを反映する力があるんです。実家に帰るときにはいつもと違う服装を心がけたりするでしょう?環境によって、わたしたちは自由にもなるし閉じた状態にもなりうるんです。同じように、近しいひとといるとき、そこに絆があろうと、そのひととは違うという主張を衝動として感じる関係であろうと、ひとは似通った服装をしたくなったり、まったく世界観の違う服装をしたくなったりもする。わたしはそのどちらにも興味があったんです」

アリ・ヴェルスルイス&エリー・イッテンブローク(Ari Versluis & Ellie Uyttenbroek)の『Exactitudes』シリーズを見るときのように、この映像を見たものは個性と集団性の間に矛盾するニュアンスを探し始めている自分に気づく。

初期の実験的段階を経て、イランは友人やそのまた友人たちを呼び、そこに「家族」というものを組み立ててみようと考えた。「私たちが惹かれた人々を選びました」とイランは説明する。「そこには、必ずシャイなひとと社交的なひとを混在させることにしました。血の繋がった家族でも、シャイな性格と社交的な性格が分かれるように」 2017年秋冬コレクションのイラン家族には、アーティスト、デザイン・コンサルタント、写真家、デザイナー、建築家などが混在している。彼らにそれぞれイランのデザインした服を着させ、クリエイティビティを混ぜ合わせる前に、イランはトーマス・シュトゥルート(Thomas Struth)の作品を研究したのだという。「ファミリー・ポートレイト作品で広く知られているアーティストです」と彼女は説明する。「無理に作り出した楽しい雰囲気や笑顔を捉えるのではなく、彼はあくまでもそこにある真の感情を写真に捉えるアーティストでした。それこそが、私たちのやりたかったこと。グループにいるときと、それぞれがひとりでいるとき、両方の彼らを見てみたいと思いました」

服を用いた民俗学とも言えるこのプロジェクトで、イランはこの新たな"家族"のうち数人をケント郊外にあるとある家へと連れていった。元は7,500フィート四方という広大な貯水湖だった建物を改造して作ったその家は、コンクリート、スチール、ガラス、そしてロニ・イランの世界だ。「モダンな住居を舞台にしたかったんです。私が個人的に感じ入るものがある家でコレクションを見せたかった。イギリスは私が胸を張って"故郷"などと呼べる場所ではありませんから、本当は祖国でこれをやりたいと思いました。でもそれは叶わない——そこで、私はケントのあの家で、自分の家族に服を着せようと考えたのです。それでも、あまりに感情がこもりすぎて、クリエイティブなプロセスでは絶対に避けたい近視眼的な状態になってしまわないかと心配にもなりましたね」 そこで、イランはガラスで隔てられた場所から一部始終を観察するにとどまったのだという。その週末、イランは撮影にあたったふたりの映像作家とともに、家の中で展開される物事と、家族がそれに対して示す反応をつぶさに記録していった。

「まず私たちは、撮影に参加してくれた"家族"ひとりひとりに、何が気に入って、何を着ているときがもっとも心地よく感じたかについて訊き、そこからスタイリングを始めました。それから二日間は、服を着替えるということはせず、そのままの格好で過ごしてもらいました。楽しいプロジェクトでしたよ。すべてを外側から見るというのはとても考えさせられる作業でした。演出もなく、ただ彼らの話を聞いて、それがとても役に立つリサーチになりました。それぞれ服を着るとどんな風に感じるのか、素材感をどう思ったのか、などを聞けたのは大変有益でした」とイランは説明する。友人たちとの自然な会話から新たに開けた視界や、そこに生まれた真摯な姿勢は、フィッティング・モデルたちとの間に生まれる表層的な満足を遥かに凌駕するものだった。

「撮影を始めたとき、私はコレクションがほぼできあがったものと思っていたんです」とイランはそのときのことを振り返って言う。「ただのリサーチ映像として撮影を開始したので、実際は『微調整をしよう』ぐらいに考えていたんですが、結果的にあそこから新たに35作を作り出しました。考えさせられることが多くて、驚きの連続でした。撮影をする前の段階でもある程度のリサーチはしていたんですが、撮影を開始してからは、映像としてのコンセプトを突き詰めるようになりました」 それは深い温かみある視点から捉えたスナップショットのコラージュのような映像になり、見る者に覗き見をしているような感覚を与える。しかしながら、ここでの"覗きの心理"というものは、ただある家族が建物の屋上でポーズをとったり部屋の中でダンスをするのを盗み見する以上の意味を持つ。シーンが切り替わり続けるのを見ながら、イランは「中でもお気に入りのシーンがある」と告白する。「この、お風呂に入っているのはブロンテという女性ですが、この表情を見れば、彼女がここで完全にプライベートな空間を作り出していることがわかるはずです。その彼女がカメラを見ている——映像を見ている私たちを見つめているんです」 この覗き見をしている感覚が、デザインのプロセスにも影響を与えた。私たちが映像で見ているのはまだ幼児の状態のコレクションであり、ここからシルエットやフォルム、生地、そして機能が育まれていくのだ、とイランは気付いた。

「あのプロセスで、『体があってこその服なんだ』と気付いたんです」と彼女は付け加えた。お下がりや借りた服というコンセプトを探るうち、イランは服がその持ち主のアイデンティティを次の持ち主へと伝承し、服のサイズや劣化までもが持ち主の身体的特徴をひとの魂のように物語る要素となるのだと理解したという。不条理ともいえるカットのシャツや大きなブレザーにいたるまで、随所にほどこされたタックやつまみなどが"家族"ひとりひとりの体に合わせた微調整による唯一無二のシルエットを作り出している。

2017年秋冬コレクションで生まれた家族についての話が自然と終わり、映像がリプレイされてまた冒頭から流れ始めたとき、イランの娘と母親がプレゼンテーション・スペースに入ってきた。今季コレクションの一部となった娘や母親と心のこもったハグをしながら、イランは「家族」と私に向かって言った。先シーズンのインタビューで、イランは、「母親になって、私のアプローチにも変化が生まれるかもしれない」と語っていた。「家族はすべてを変えてしまうほどの力を持っているものです」——彼女はそう言って微笑んだ。

Credits


Text Steve Salter
Film James Wreford
Photography Alice Neale
Styling Vincent Levy
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.