ドラァグ母娘物語vol.3:シャロン・ニードルズ&アクエリア

母の日を祝してi-Dが送る、ニューヨークを拠点とする母娘ドラァグシリーズ。最終回となる今回は、シャロン・ニードルズとアクエリア。『ル・ポールのドラァグ・レース』シーズン10の覇者で、シャロンの大ファンだったアクエリアは、いかにして彼女のドラァグドーターとなったのか。

by Emily Manning; translated by Ai Nakayama
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09 May 2019, 6:34am

『ル・ポールのドラァグ・レース』は、ただのテレビ番組ではない。ひとつの機関だ。14名のドラァグクイーンが、『プロジェクト・ランウェイ』『アメリカズ・ネクスト・トップ・モデル』『アメリカズ・ゴット・タレント』などのオーディション番組的要素を融合したような厳しい競技に挑戦し、米国のネクスト・ドラァグ・スーパースターの座を目指してせめぎ合う。大工として働きながらカントリーシンガーを夢見る、ダイヤの原石が登場する『アメリカン・アイドル』とは違い、『ル・ポールのドラァグ・レース』の出演者たちはみんな、すでに地元では熱狂的な人気を誇るプロのドラァグクイーンだ。『ル・ポールのドラァグ・レース』は、いうなればアートのオリンピック。出演者たちは、自らがチャンピオンであることを証明するために闘う。

今や『ル・ポールのドラァグ・レース』は、メインストリームに溢れる有象無象のリアリティ・オーディション番組を軽く超える人気を誇っている。類似番組は数人のスターを発掘するだけで、業界自体に真の変革を起こすことはないが、『ル・ポールのドラァグ・レース』は違う。2009年の放送開始以来、本番組に出演した個性豊かなドラァグクイーンたちは、みんなそれぞれ、ドラァグの可能性やドラァグ人口を拡大してきた。そうして、本番組は超新星レベルの成功を収めてきたのだ。『ル・ポールのドラァグ・レース:オールスターズ』は、初期のシーズンで好成績を残したドラァグクイーンたちが再び集結し、拡大し続けるファンに改めて自らを知ってもらうと同時に、自分のドラァグの新たな一面を披露する機会でもある。『ル・ポールのドラァグ・レース』は、番組自体も成熟を続けながら、ドラァグ界の進化を積極的に促している。

『ル・ポールのドラァグ・レース』でもっとも記憶に残るカオスといえば、シーズン4でのシャロン・ニードルズの登場が挙がるだろう。彼女が絡んだエピソードは、本作の歴史におけるひとつの重要な転換点とされている。〈アダムスファミリー×ペギー・バンディ〉、〈エルヴァイラに取り憑かれたひとりTHE CRAMPS〉など様々なイメージを想起させるシャロンは、生まれながらのスター。2012年、パンクを突き詰めた、呪術的・魔女的なグラムスタイルでシーズンを制し、それから数年で世界的スターの座へと登りつめる。ドラァグの王者として名を轟かせるだけでなく、PETA(People for the Ethical Treatment of Animals: 米国の動物保護団体)のスポークスパーソンやLOGOtvのホラーシリーズのホストを務めたり、アルバムをリリースしたり(ビルボードチャートにランクイン)と、精力的に活動している。

しかし『ル・ポールのドラァグ・レース』を制す前から、シャロンのおどろおどろしいスタイルはドラァグ界で大きな話題になっており、彼女のロックンロール・スピリットに共鳴する若きドラァグたちがいた。ニューヨークを拠点として活動するドラァグクイーン、アクエリアもそのひとりだ。1996年生まれの彼女はNYクラブシーンの最前線で活躍中で、その芸術性、クリエイティビティ、エネルギー、独創性で注目を浴びている。特に彼女のメイクはネクストレベル。レディファグが主催する、アレハンドロ・ホドロフスキーのカルト映画から着想を得たパーティ〈Holy Mountain〉(アレキサンダー・ワンも御用達のパーティだ)にレギュラー出演しており、イタリア版『Vogue』に登場したこともある彼女は、『ル・ポールのドラァグ・レース』シーズン10を制した。「うら若いドラァグクイーンだけど、もう世界にかなりのインパクトを与えてる」とシャロンは〈娘〉について語る。「でも、あの子は今も変わらず〈ママ大好きっ子〉ね」

「『ル・ポールのドラァグ・レース』シーズン4への出演が発表された日のことは忘れられない。発表されてすぐに祭りみたいな騒ぎになった」とシャロン。「そんななか、背景写真とかプロフィール写真とか、SNSのあらゆる写真をシャロン・ニードルズのものに変えてくれたジョヴァンニっていう男の子がいることに気づいた。それがこの子だったの」とシャロンはアクエリアに言及する。「だから私はこの子に、『私のいちばんのファンとしてあなたのことを覚えとく。注目してるわよ』って伝えて、実際にその言葉を守ってきた」。シャロンのそういうところを愛している、とアクエリアは語る。「全国デビューを果たしたときから大好きだったひとが、友人として私と仲良くしてくれてるし、しかも私のアートのやりかたを心から応援してくれている。さらに娘として扱ってくれてる。そういうところが最高だと思う」とアクエリア。「私たちは最高のコンビ。彼女以上に賢くて、おもしろくて、非の打ち所のないインスピレーションとなってくれるドラァグクイーンも、母親もいない」

今や世界的に有名なドラァグクイーンとなったシャロンとは、ともに過ごす時間が取れないときもある、とアクエリアはいう。「でもいっしょの時間は一秒たりとも無駄にしない」。アクエリアによれば、マザーから「ウィッグのつけかたやダンスの動き」など基礎を学ぶドラァグドーターもいるそうだが、シャロンとの関係はそれとは違うという。「私はそれよりも、彼女との活動から、ひとりの大人としての在りかたを学んでる。シャロンは知識もすごく豊富。どんなことでも、何かしら知ってる。自分がどこから知識を得たかを気前よく教えてくれるし、会えないときには、これを観ておくこと、って宿題も出してくれる」とアクエリア。「メイクでもスタイリングでも、私たちはふたりとも、日々新しい知識を得ようとしてる。いっしょに知識を増やしていくのが楽しいの」

アクエリアにとって〈何かをともにすること〉は、ナイトクラブでのドラァグ活動だけでなく、いつも味方でいてくれるわけではないこの街での生活においても大切だという。「様々な職業、様々な出身のひとたちが、ニューヨークという街を形成してる。クィアコミュニティに属する大半のメンバーにとって、自分が選んだ家族は、悪意に満ちたこの街で生き抜くために重要であり、必要」とアクエリアは強調する。「ジョーダン・スタウェッキー、ハリー・チャールズワース、スッシー。私がこの街で、この姉妹たちと築いた絆は唯一無二。私たちはひとつだけど、私たちの友情は、核家族みたいに強制されたものじゃない」

シャロンや姉妹という家族が教えてくれた重要なことは、「成功と励まし合い」とアクエリア。「この家族では、もし何かが必要なときは助けを求めることと、誰かが苦しんでいたら手を差し伸べることをみんなが学んでる」とアクエリアはいう。「ライブのときのルックをどうするか、みたいな軽い問題から、もっと深刻で個人的な問題まで、何でもそう。この家族には果てしない強さがあるけど、私たちは自分たちの弱さも認識してる。手を貸す必要があるときはわかるし、逆にそっとしておいたほうがいいときもわかる。運命が導くままに経験をすることも必要だから」

アクエリアの仲間たちをつなぐのは、お互いのサポートと愛、さらに、前人未到のクリエイティビティを追求する冒険心だ。シャロンの個性的なドラァグスタイルに勇気を得た新世代は、自分らしい〈クイーン〉を表現している。アクエリアの姉妹である、ハリー・チャールズワースやスッシーも、自ら先頭にたち、ニューヨークのナイトライフを刷新しつつある。「未来のドラァグにはルールも制限も無用。ドラァグは止まらない」とアクエリア。「このクラブシーンで育った人間として、私はひとつの決まりきったドラァグスタイルに偏らないようにしてる。ずっと前進し続けてる。ドラァグとは何か、という問題と相対するとき、そしてドラァグという、バカみたいに何でもありなアートフォームにおける可能性を考えるときには、みんな、既存の枠から飛び出し続けてほしい」

ドラァグ母娘物語シリーズはこちらから。

Credits


Text Emily Manning
Photography and film Barbara Anastacio

This article originally appeared on i-D US.