パーティのはじまり:パリ・メンズ・ファッションウィーク day4

世界情勢の影響を色濃く映すコレクションが続いた2017年秋冬メンズ。パリ・ファッションウィーク4日目は、暗雲立ち込める世界に誰もが求めていた“束の間の息抜き”の世界観を、デザイナーたちが一斉に打ち出した。

by Anders Christian Madsen
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26 January 2017, 7:45am

dior homme autumn/winter 17

2017年秋冬パリ・メンズ・コレクション4日目となる土曜は、パリの街に80年代の音楽が響きわたった。Sacaiのコレクションでは阿部千登勢がザ・ポリスの「Voices Inside My Head」で会場を沸かせ、Dior Hommeではクリス・ヴァン・アッシュが、ボーイ・ジョージも座る観客席をデペッシュ・モードの音楽で盛り上げた。そしてBALMAINのショー会場ではオリヴィエ・ルステンがクイーンの「The Show Must Go On」でロックの歴史を豪華絢爛な世界観のうちに描いたコレクションを発表。ランウェイで世界情勢と政治が多く扱われてきた今季2017年秋冬のコレクションだが、ルステンの選曲にしても何を訴えたいかは明白だった。彼のコレクションはこれまで通り派手に美しく飾り立てられたルックが揃ったが、そこにルステンは自身がSpotifyで作ったお気に入り曲ばかりのプレイリストを流し、「ただ音楽だけが意味をなす楽園」へと観客を連れていった。音楽によって観客は一体となった——上流階級の人間も反逆児も、音楽ひとつで一体になれる——そう、マドンナがかつて歌ったように。マドンナが「Music」で歌った言葉は、クリス・ヴァン・アッシュがよく知る世界観だ。彼はDior Hommeのショーで、90年代前半にティーンだった頃にベルギーのニューウェイブ系クラブで味わった空気感を服に織り込んだ。「ベルギー人はダークな雰囲気が好きなんだ」と彼はショーのバックステージで語った。「今季コレクションは、僕がクラブに出入りしていた当時の思い出を織り込んだもの——もちろん僕が乱痴気騒ぎするようなことはなかったけれどね」と彼は微笑んだ。「でも、僕はあの頃、あの場所にあったエモーショナルな空気が好きだった。ほとんど宗教的ともいえるあの空気感がね。ずっと続くクライマックスをみんなで一緒に体験しているようだった」

Sacai autumn/winter 17

ショー後半には、モッシュピットで押し合う人々を描くアーティスト、ダン・ウィッツの作品をプリントしたアイテムをランウェイに送り出したクリス・ヴァン・アッシュ。それらのアイテムには「There will be noise complaints.(騒音苦情を出してやる)」などといった文句が掲げられていた。それが世界的に高まる大衆主義とそれに浮足立つ集団への痛烈なメッセージであることは間違いないが、しかし彼はそれを楽しく快い世界観のうちに打ち出した。それはメランコリーが支配する現代に誰もが無意識のうちに渇望していたレイヴそのものだった。「このショーで打ち出したかったのは、美と希望、夢、現実逃避だった。それこそがファッションの本来あるべき姿だと思うしね。僕がアカデミーに通い始めた18歳の頃——」と、彼はアントワープが世界に誇るファッション専門学校に通った日々を振り返って語った。「——あの頃、僕は夢を見ることを通して現実を生きていた。それこそは、いま世の中が必要としていることだと思う。夢を見るということを、今の世の中はこれまで以上に求めているんだと思うんだ」。そこで、彼は自身のテーラリング技術とセンスを駆使してレイヴ的世界を作り上げ、ストリートでも社会でも最高の自分を実現できる新世代のユースのためのスーツを作り出した。「誰もが"テーラリングの時代は終わった"という。"もう誰もテーラリングなんか着ないよ"とね。だけど、僕はまだ若い世代にきちんとしたテーラリングを見せてあげられていないだけのように感じるんだ。だから、クールな世界観のなかで素晴らしいテーラード・ジャケットを彼らに見せてあげたいと思った。モダンなテーラリングを探ったのが今季のDior Hommeコレクションというわけだね」と、彼は今季コレクションのテーマについて説明した。「ショー前半は、僕がよく知る領域のニューウェイブをテーマにしていて、レイヴァーやギャバー、キャンディ・ボーイといった、あの時代を作り上げたパーティ・キッズたちを描いているんだ」

Dior Homme autumn/winter 17

礼儀正しい印象のクリス・ヴァン・アッシュも、モッシュピットに積極的に入り込むような若者だったのだろうか?「もちろん入らなかったよ」と彼は笑った。「でも、スケボーにインスパイアされたからといってスケーターになるとは限らない——そういうことだと思う。現実にある世界をそのまま服に落とし込むようなことはせず、受けたインスピレーションから生まれるアイデアを形にしていって、まったく新しいものを作るということが大切なんだ」。昨年は、クリス・ヴァン・アッシュがDior Hommeのクリエイティブ・ディレクターに就任して10年という節目の年。そしてそれが彼にとって新たな、よりパーソナルで大胆な時代の幕開けとなった。今季コレクションでみせた新たな世界はとても彼らしいものだった。そして、彼がDior Hommeでもつ可能性は未知数だということも強く印象づけた。誰もが無意識のうちに求めていた現実逃避の世界を描いて歓喜に沸いたDior Hommeのショーだったが、同時に哀愁が特色ともいえるクリス・ヴァン・アッシュというデザイナーの世界観にカラフルな一面を見ることができたコレクションでもあった。「そうだろう?」と彼は照れ臭そうに演技じみた笑みをみせた。「僕にもワイルドな面はあるんだよ」。Hermèsもまた、ここ数シーズンにわたりワイルドな面を見せてきた。今季Hermèsは、近年でもっともエキサイティングなメンズウェアを発表した。デザイナーのヴェロニク・ニシャニアンは、シャープなカットのパンツをレザーやスエード、ベルベットなどで作り、ゆったりとしたシルエットのファー・ジャンパーや、上質なロールネックのニットなどと合わせて、新たなHermèsが放つダウンタウン感に満ちたコレクションとなっていた。それはレイヴ的世界観ではなかったものの、アメリカの政治と混沌とした世界の気風から束の間の現実逃避をさせてくれたパリのメンズウェア・デーにあって、なんとも優雅で夢のある世界を描いていた。

Balmain autumn/winter 17

Hermès autumn/winter 17

Credits


Text Anders Christian Madsen
Photography Mitchell Sams
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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