怠惰とエラーの創作法:アーティスト毛利悠子 interview

世界各国へと活動の場を広げているアーティスト毛利悠子。海外で期待される「日本らしさ」との向き合い方や、非主体的な「まぬけ」の面白さ、怠惰とエラーから得るインスピレーションについて。

by Momo Nonaka; photos by Fumi Nagasaka
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26 January 2021, 3:27am

この記事は『i-D Japan No.6』フィメール・ゲイズ号から転載しました。

毛利悠子は空間に身の回りの日用品や廃品などのオブジェを組み合わせて配置し、そこに何らかの手段で音や光や動きを生じさせて、目に見えないエネルギーのはたらきを感知させる。

ニューヨークと台北のギャラリーに所属し、今年は京都、ハバナ、香港、モスクワ、東京、パリ、ニュープリマスでのグループ展に参加。2018年10月には初の美術館での個展「ただし抵抗はあるものとする」が青森県の十和田市現代美術館で控えている。この夏は2年前にアーティスト・イン・レジデンスで滞在したロンドンの現代美術ギャラリー〈カムデン・アーツ・センター〉で、個展「Voluta」を開催した。

「ロンドンでの展覧会はこれで二度目。私のキネティック・スカルプチャー、サウンド・インスタレーションの方法というか表情を知ってくれている人もちょっとずつ増えていて、すごく手応えがありました。あそこはヴィクトリア時代の建物をそのまま残していて、展示空間もホワイトキューブでなく、出窓や柱、天井などのつくりが特徴的なんです。私の作品って作品をどーんと置いて終わりというんじゃなくて、どう空間とコラボレーションするかだから、普段ギャラリーに通っている人たちが“こういう使い方があるんだ”って楽しんでくれたのはうれしかった」

毛利は伝統的なイメージから離れた抽象表現を指向するアーティストだ。しかし海外に出たとき、日本出身ということでそこに「禅」や「わびさび」、神秘性のようなものを期待されてしまうこともあるだろう。彼女はそうした視線にどう対応してきたのだろうか。

「ずっと普遍性を大切にしたいと思って作ってきました。でも、うちはおじいちゃんがお寺の住職だし、仏教徒として生まれたから、自分のなかにそういう影響がまったくないと言ったら嘘になる。だからそれを全部否定することもないんだけど、声を大にして言う必要もないと。ただ、海外で展覧会をやるときには意識して日本のコンテクストをちょこっと説明するようにはしています。このあいだの展示ではあえて「間」とか「まぬけ」の概念の説明をステートメントに入れました。それは日本の、というよりは私自身のバックグラウンドの紹介ですよね。海外でいろいろな質問をぶつけられることで、自分ってこんなことに興味があったんだ、と発見があったりします」

日本出身ということに加えて、現在のアートワールドでは女性としての意識が問われる場面も多々あるはずだ。

「世界の半分以上が女性で、その人たちが思ってることってたくさんあるはずで、ひとつの意見に集約されるものじゃないと思うんですね。そこを多様にするのは作家としての使命のひとつでもあるし、「男らしさ」とか「女らしさ」は男性も女性も超えていかなきゃいけない話で。どちらも性を超えて個人の視点というほうに向かっていくと思うんです」

個人として自分が興味のあるものに正直でいることの大切さは、学生時代の師・三上晴子から学んだ部分も大きいという。

「彼女は私より20歳ぐらい年上で、もう亡くなってしまったのだけど、80~90年代からメカメカしいものや産業廃棄物といった、一般的に男性的と思われるようなものを心のおもむくままに素材にしていました。ああいう人を見ていて勇気が出たっていう覚えがあって。だからもし、私が若いクリエイターたちに言えるアドバイスみたいなことがあるとしたら、自分が本当にインスピレーションを受けているものとか興味があるものに正直でいる、どんどんトライしてエラーを起こす、ということです。どんどん努力して、でも努力だけじゃなくて怠惰になってみる(笑)。作るってそういうことの繰り返しな気がする」

努力一辺倒ではなく怠惰やエラーの重要性を認めるところが彼女の個性だ。「だらだらしているときも努力しているときと同じぐらいインスピレーションが得られる」と毛利は語る。

「ボーッとしてるときにスッと入って来るものがあると思うんです。ずっと能動的に積極的に動いているばかりだと、入ってくるものも入ってこない。私が「間」とか「まぬけ」の部分に興味があるのは、周りからインスピレーションをどう受け取るかという話でもあって、ある程度自分を空気みたいな存在にしないと、見えてくるものも見えてこなかったりするから。“自分が自分が”って言うよりも、ちょっと待ってみる」

この秋の個展は、これまでずっと関心を寄せてきたテーマを次の段階へと進めるものになりそうだ。

「次の個展には今までと違うアプローチの作品も入っています。これまでは、動きやブレ、淡さといった不安定な状態を空間にキープすること、その流動的な状態から創造する一種の抽象表現としてインスタレーションをやってたんだけど、今回は動的な状態をシンボルとして考えてみようと」

「たとえばスパイラル(渦巻)って、上昇もするし下降もする、どんどん動いてるもののシンボルだったりするじゃない。そういう、もの自体は固定してるんだけども、動きだったり揺らぎだったりボケみたいな状態をシンボリックに出してるものをインスタレーションに取り込むつもり。スミッソンの「スパイラル・ジェティ」にしても、タトリンの「第三インターナショナル記念塔」にしても、デュシャンの「階段を降りる裸婦」や「ロトレリーフ」にしても、回転体とか渦巻ってアートにも建造物にもたくさん出てくる。これって全部エネルギーのシンボルなんですね。謎に満ちていて、いろんなコンテクストもあるし面白いなって。唐草模様と古代ギリシャの草の文様がユーラシア大陸の端と端とでつながってたりとか、古代ギリシャ建築の渦巻きもヨーロッパ化のコンテクストだけでは捉えられないし、そういうのを見ると表現者はずっと動きとエネルギーのことを考えてきたんだなと」

そうした歴史や物理現象を想起させるモチーフのリサーチと同時に、サウンドを扱う大きな仕掛けも準備している。

「回転し続けるスピーカーとか、楽器のレファレンスも入れます。それで今、すごくでっかいレスリースピーカー(ロータリースピーカー)を作ってるんだけど、空間自体の音が揺らぐの。ホワンホワンホワンって、ちょっとラ・モンテ・ヤングの「ドリームハウス」みたいな、メディテーションするような感じ。その瞑想してる状態が私の関心事であり、「抽象」と言っている部分なんだ、みたいなことを一回個展でやってみたい。そういうアプローチによって自分が今まで「見えないエネルギー」と言っていたものを浮き彫りにしたいなって思ってます」

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毛利悠子 Twitter @mo_hrizm

Credit


Photography Fumi Nagasaka
Styling Masako Ogura
Hair and Make-up Hisano Komine
Styling assistance Chisaki Goya, Kana Hashimoto

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Yuko Mohri