ある女性の密やかな空間:AKIKOAOKI 19SS

ホテルのエレベーターを昇り、ボーイに案内された3720号室。“DO NOT DISTURB”のドア札が掛かるその一室に、デザイナーの青木明子はごく“プライベート”な空間を創り上げた。

|
okt 12 2018, 12:20pm

10月12日(金)、LVMHプライズのショートリストに選出され、国内外からより一層の注目を集めるAKIKOAOKI 2019年春夏コレクションが、渋谷・セルリアンタワー東急ホテルの一室で披露された。「たくさんのヒトが 行き交うホテル さまざまな時代の さまざまな想いが 重なる場所 今日は私の明日は誰かの 記憶が動き出す」。手渡された一枚の紙には、そう綴られている。

たとえば、どこか旅に出掛けたとしよう。滞在の拠点となるホテルにチェックインして、かさばる荷物を置き、シワになりやすいジャケットやコートはクローゼットにしまう。ショッピングをすれば部屋に荷物が溜まっていくことだろうし、長期滞在とでもなれば花の一輪でも飾りたくなるかもしれない。そうして、ある期間、その一室はごくプライベートな場所になる。“DO NOT DISTURB”の札をドアに掛け、ベッドメイキングが入らなければ尚更だ。つまり、こうした空間の特性は、青木明子の創造力を感化するものだったということだ。少なくともここ数シーズンの彼女の視点のひとつは、女性にとっての“プライベート”にある。

リビングルームには、6名のモデルがソファに腰掛け、談笑するでもなく、ただ整然と佇んでいた。デスクには哲学者の下西風澄による詩のメモが置いてある。ベッドの上には“脱ぎ捨てられた”ナイトドレスとピンヒール、食べかけのチェリーパイと飲みかけの紅茶。ウォークインクローゼットの中は大量のシューズボックスが積まれている。お湯が抜かれていないバスタブ、洗面台には高さを整えたバラの枝葉、その傍にはジュエリーとともに香水瓶とピルケースが無造作に置いてある。誰かのプライベートな領域に踏み入れたような胸騒ぎを感じるのは、何かしらのストーリーを内包したすべての演出——プロップスタイリングを手掛けたのはKenji HiranoChiho Hirano ——が、あくまでリアリティを帯びていて、それでいて幾分かのドラマを思い描かせるものだからだ。

「服を着る“環境”を含めて発表したいと思っています。世代も性別も違う不特定多数の人が行き交うホテルにあって、人々の“パーソナルスペース”となる部屋をずっと想定していたんです」とデザイナーの青木明子は話した。「たとえば日本で着たいものと海外で着たいものが変わるように、環境の変化と装いは連動していると思っているので、作っている想いが一番伝わる“環境”を考えたうえで提案していきたいんです」。誰かが去れば、また違う誰かがその部屋でひと時を過ごす。ホテルが存続する限り半永久的に繰り返されるループ。その一室は、異なる時代にたしかに存在し、過去(もしくは未来)に滞在した見知らぬ誰かの記憶が今なお息づいている。会場内を意志を持つかのごとく動く光と影は、そのメタファーだと話す。「たとえば90年代のスポーティな要素を取り入れたり時代をミックスしているのは、過去の“宿泊客”とその人の記憶をイメージしたから」。スーツやシャツ素材といったマスキュリンなニュアンスや大胆なカットアウト、シンボリックなギャザー使いは継続させながら、“パーソナルスペース”からの着想は、“脱ぎ掛け”や“着用途中”とも取れるディテール、ヌーディカラーのシフォン使い、そこはかとなく肌が露出するカッティングに現れている。服を選び、服を着る。極めて日常的なシーンをリプレゼントするアプローチは、2018-19年秋冬のインスタレーションとも通じるが、やはりAKIKOAOKIが生み出す服は、現代の女性に捧げるワードロープのひとつなのだ。

Credit


Text Tatsyta Yamaguchi
Photography Photomaker