1984年に作られた元祖・自撮り棒

Courreges x Minolta “Deluxe” AC301カメラは、身だしなみをチェックするための鏡がフロント部分に配され、無理なくセルフポートレイトを撮るため長さ調節機能付の棒が付いた、“ファッション×テクノロジー”機器の先駆的ガジェットだった。これをアーティストのサイモン・デニーが再解釈し、中国の“バッタもん”業界とセルフィー文化を風刺した作品として、限定発売されることとなった。

by Alice Newell-Hanson
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17 August 2016, 11:36am

Image courtesy the Swiss Institute

SIxSD Legacy Selfie Stick Luxury Tech Reissueを私が頭上に突き上げると同時に、その先にはめ込んだゴールドのiPhone画面にアーティストのサイモン・デニー(Simon Denny)の顔が映し出された。

この自撮り棒は、セルフポートレイトを撮影するためのツールであるだけではない。デニーがニューヨークのSwiss Instituteとコラボレーションで開発した芸術作品でもあるのだ。私はマンハッタンのトライベッカに開いた新しいギャラリーをベルリンのスタジオにいるデニーに見せようと、iPhoneのFaceTimeの機能を使い、テレビ電話で館内ツアーをしている。自分が未来を生きている感覚に陥るとともに、ウォール街が世界の経済を動かしていた時代のヤッピーにでもなったような錯覚に襲われる——それもそのはず、今回デニーが作り出した自撮り棒とiPhoneケースは、組み合わせて使うと、1984年発売のCourreges x Minolta "Deluxe" AC301カメラにそっくり(きちんとゴールドのロゴも配されている)そのものなのだ。

Original advertising for the Courrèges x Minolta "deluxe" ac301

オリジナルのCourreges x Minolta "Deluxe" AC301は、先進的フランス人デザイナーのアンドレ・クレージュと日本のMinolta社がコラボレーション制作したデジタルカメラで、ソフトピンクのラインが波上に描かれているか、もしくはCourregesの近未来的"AC"ロゴが配されていた。フロント部分には、シャッターをきる前にきちんとソバージュの状態を確認できるよう配慮してミラーが配されていた。雑誌の新製品紹介コーナーでは、「写真業界におけるフレンチプードル」などと評されていたアイテムだ。

デニーが2016年的再解釈をほどこした『SIxSD Legacy Selfie Stick Luxury Tech Reissue』は、クリーム色の本体に金箔でディテールが施されるなど、オリジナルのデザインをiPhoneケースで完全に再現している。デニーのデザインにはハンドメイド感が溢れ、フロント部分の長方形ミラーは反射加工が施された紙で再現されている。フラッシュライト部分は、写真を切り抜いてそこにあてがったもので、手作り感が満載だ。

自撮り棒の先に微笑むデニーに、この自撮り棒制作の経緯について聞いた。

ひとつめの質問です。このアイデアはどうやって思いついたのですか?
テクノロジーと、その政治について探るのが僕のアプローチ。Swiss Instituteのサイモン・キャステッツ(Simon Castets)が、「自撮り棒が面白いんじゃないか」というアイデアを思いついたんだ。そこで自撮り棒の歴史を探ってみた。調べてみると、MinoltaとCourregesのカメラが、自撮り棒の要素がある最初の製品だったんだ。
調べを進めていくうちに、これが女性をターゲットとした商品だということが明らかになってきた。「ガジェットは男のもの」というイメージが強いなか、ファッションとライフスタイルのクロスオーバーは、テクノロジーの分野で未開拓だった「女性市場」を切り拓く役割を担ったんだね。ジェンダーを超えたマーケティングが自撮り棒のテクノロジーを生んだんだと考えると、とても興味深いと思った。
また、テクノロジーの世界がいかに拡大したかにも興味があったんだ。いま僕は深セン市でのショーの準備に追われていてね。現在、世界で出回っているハードウェアのほとんどは深センで作られているんだよ。巨大な生産システムがあって、そこには、例えば劣悪な労働環境といったネガティブな問題が多く生まれてる。でもポジティブなものも生まれているんだ。深センの生産システムが成熟していくに従って、「シャンツァイ(山寨)」、いわゆる"バッタもん"が盛んに作られるようになった。いろんな形やサイズ、カラーのiPhoneが売られていたりするんだ。その市場は、新しい経済構造を生み出した。起業間もないハードウェア製造者なんかがこぞってこの市場に参入して成功を収めているんだよ。そんなことを考えていたとき、「MinoltaとCourregesのカメラをもとに現代バージョンの自撮り棒を作ったらどうか」というアイデアを思いついたんだ。

The hand-decorated iPhone case of the SIxSD Legacy Selfie Stick Luxury Tech Reissue 

製造はどこで?
皮肉なことに、ロサンゼルスで製造したんだ。たくさんの彫刻作品を手がけている、技術に優れたひとに頼んでね。労働関連の問題は避けたかったし、"手作りのバッタもん"という、大量生産と対極にあるアイデアを形にしたいと思った。でも本当に皮肉なのは、これが高級中の高級ラグジュアリーだということ——アーティストのアイデアをギャラリーが形にした作品なんだからね。

オリジナルのCourreges x Minolta "Deluxe" AC301はどれくらい売れたのでしょう?
ほとんど売れなかったみたいだよ……。

時代の先を行き過ぎていたのでしょうね!
時代の先の、そのまた先を行ってたんだね。それに、Courrege x Minolta "Deluxe" AC301は、Courregesにとって実験のようなものだったらしい。Swiss InstituteのサイモンがAC301について問い合わせると、CourregesはAC301についての資料を僕たちに見せてくれたんだ。そこにはAC301のマーケティングに関する詳細な情報がのっていた。僕はね、いつも考えているんだ——「なぜラグジュアリー市場は、いま世界で成長の余地が残されている数少ない市場のひとつになりえているんだろう?」ってね。答えはたぶん、世界的に見られる収入格差と不平等なんだと思う。そんな政治的な変化と自撮り棒の爆発的人気をリンクして捉え、考え、ひとつのオブジェに込めるというのは面白い発想だと思ったんだ。

2000年代初期、自撮り棒が市場に登場したときは、「また日本人が面白くもバカバカしい発明品を!」と話題になり、『日本人による無意味な発明品101選』にも選ばれていました。現在の深セン市場から今後グローバルカルチャーへと浸透していきそうな製品はありますか?
まず、VR(ヴァーチャルリアリティ)ヘルメットに勢いがあるね。それと、アメリカのGoPro社が開発したウェラブルカメラのバッタもんがたくさん市場に出回っている。そしてもちろん最新スマートフォンだよね。バッタもんの世界を追えば、テクノロジー・ハードウェアの現在がより良く理解できると思うよ。

Original advertising for the Courrèges x Minolta "deluxe" ac301

1984年に自撮り棒が存在したということに驚きました。私たちの世代を象徴する発明品だと思っていましたから。
最初は、僕も混乱したんだよ。でもよくよく考えたら、「なるほど」と合点がいった。1980年というのは、最初に"ラグジュアリー"という概念が人気を博した時代だったんだ。市場から規制が撤廃されていって、それによってラグジュアリーの世界が成長し、お金が一部の富裕層に集中する構造を作ったんだ。世界に現在起こっている現象と同じだよ。だから、AC301が1984年に誕生したというのも当然なんだと思った。なにせ、1980年代と現代は共通点が実に多いからね。当時撒かれたこういうイメージメイキングの種が今芽ぶくというのも、政治的な意味合いにおいて当然かもしれないと思う。

Courregesの自撮り棒は意図的に女性をターゲットとしてマーケティングされたわけですが、現代の自撮り棒はジェンダーを問わずマーケティングされている感があります。それについてはどのように考えますか?
オリジナルの自撮り棒が、女性とガジェットの垣根を低くする目的でマーケティングされていたのだとすれば、それがあったからこそ、iPhoneが実用的機器という触れ込みではなくよりライフスタイル機器として認識されている今の状況があるんだと思う。「ジェンダーを考慮に入れた電話機器の開発」という文脈で考えることができるんだと思うよ。女性市場にガジェットを参入させることを前提とすれば、製造者はより総体的で利用価値の高い製品を作らざるをえなくなる。そうした流れについて考えるのは興味深いことだね。女性へのマーケティングが歴史的になされてこなかったら、いまごろ僕たちは現在の進化したiPhoneを手にすることもなく、みんなBlackberryを使っていただろうからね。

『SIxSD Legacy Selfie Stick Luxury Tech Reissue』の購入は、こちらSwiss Instituteのウェブサイトで。
swissinstitute.net

Credits


Text Alice Newell-Hanson
Images courtesy of Swiss Institute
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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