鬼才リチャード・カーン、ペトラ・コリンズとの出会いを語る

イーストビレッジに暮らす鬼才がニューヨークの反逆児たちを捉えた魅惑的な短編映像、実験的雑誌、そしてテストショットからなるアーカイブ展『Polarized』が開催。

by Hannah Ongley
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27 September 2016, 1:45am

1980年代から90年代にかけてリチャード・カーンが撮った映像や写真は、いま見ても極めてショッキングだ。長年にわたりマンハッタンのイーストビレッジに住んできたカーン。ローワーイーストサイドに暗く危険な香りが漂っていた時代、そこに起こっていたアンダーグラウンドのアートシーンをつぶさに捉えていた。それら写真が「エロティック・フォトグラフィー」とカテゴライズされていることをカーン自身も承知してはいるが、しかしそんなカテゴライズはこの才気あふれるアーティストの実験的精神を表すのにまったく適していない。雑誌『Playboy』のため、そして自身の趣味としてセミヌード写真を撮っていたカーンだが、それ以外にも自身のZINE『The Heroin Addict』(後に『The Valium Addict』と改名した)を作ったり、不純なショートフィルムを作ってニューヨークの破戒映画(Cinema of Transgression)ムーブメントに寄与している。

現在Fortnight Instituteによりカーンの作品を集めたエキシビションが開かれている。そこには初期に作られたアバンギャルドな雑誌やこれまで未公開だった映像の一部が公開されているが、なかでも興味深いのは、エキシビションのタイトルにも起用されている『ポラライズド(Polarized)』だろう。殺伐としたイーストビレッジとそこに暮らす人々を捉えた未公開写真はほとんどがテストショットだそうで、そこには、レッグ・ラング(Leg Lung)やリディア・ランチなど仲間たちをカーンが自室でシアトリカルに捉えたポートレイトなどがある。カーンに、改めていま過去のアーカイブ作品を見ることについて、ペトラ・コリンズとのランチについて、そしてなぜ昔の恋人に似た女性ばかり撮ってしまうのかについて話してもらった。

このエキシビションのアイデアはどのようにして思いついたのですか?なぜ今なのでしょうか?

Fortnight Instituteのオーナーが、アーカイブ的な展示をやりたいと言っていたんだ。だから、ずっと捨てられずに持っていた未公開の作品を見せた。俺が過去に作ったファンZINEから何まで全て展示したいっていうから、「なら、テストショットのポラロイドがたくさん残ってるけど」って言ったんだ。写ってる女の子はふたりともリチャード・プリンスのとこで働いてるよ。ひとりは今でも俺のところに出入りしてる。ふたりともよく考えてるなと思うね。

彫刻やランドアートなど、学生のときに制作した作品について教えてください。なぜあれらの作品をエキシビションで見せようと思い至ったのでしょうか?

Fortnight Instituteのオーナーたちが、「これまで誰にも見せたことがない作品はないの?」って訊いてきたからさ。だから、学生のときに作った作品をスライドでまとめてあるって応えたんだ。それを見たら喜んでくれてね。学生の頃はペインティングが好きだったんだけど、描くのは難しくてね。もともと、ものを積み上げて形を作るのが好きだったから、彫刻には夢中だった。そこで、可能なかぎりいろんなバージョンの彫刻を作ったんだ。鉄やセラミック、木もネオンも、使えるものは何でも使ったよ。

20-30年前に撮った写真や映像を見るというのはどんな気分でしたか?

ポラロイドの多くに関しては、かなり当時のシチュエーションを覚えてたよ。同じ構図で撮ったフィルム写真が残ってるからね。ポラロイドはテストショットだったんだ。ずっと昔、映画を作ってた頃——破戒映画的なやつを——白黒のカメラとポラロイドをいつも手元に置いておいて、何でもかんでもできるだけ多く写真に収めていたんだ。今でもそのやり方をしているよ。映像を撮るときには、いつでもスチルのカメラをトライポッドに設置してセットしておくんだ。ポラロイドの写真はずっと放置してた。あの頃聴いてた音楽は、今聴くと変な感じがする。「なんだこれ?」って。ロニー・ジェームス・ディオとか。その後に、ナイン・インチ・ネイルズとか、暗いバンドが次から次へと出てきたけど、どいつの名声も5分ともたなかった——そんな時代だった。

他の手法に比べて映像の作品はより不思議な感じがしたのでしょうか?

そうだね。久しぶりに見るまで忘れてたことがたくさんあった。あるモデルを撮ったビデオがあるんだけど——まだインターネットがなかった時代に、どこで見つけたんだか、誰かが俺に紹介してくれたんだか——とにかく、この正体不明のモデルはスキンヘッドなんだ。髪は2センチぐらいしかなくてね。その容姿に惹かれて、会いたいと思ったのを思い出した。刑務所から出てきたばっかりの子だった。カメラを前に、その子が刑務所に入ってたことについて話すんだ。同じくスキンヘッドの彼氏と一緒に収監されてたって。刑期はその子が14年、彼氏が16年。でも女の子のほうは「行ないが良い」ってことで早期釈放された。アスペルガー症候群っぽい子で、話し続けては、ハッとして話を自分に戻してた。「俺の元カノも今テキサスで収監されてるはずだ」って言ったんだけど、その子にその話をするまで、元カノのことなんて完全に忘れてた。その彼女と付き合ってたのは俺がまだヤク中だった頃で、その元カノは警察に殴りかかるかなんかして5年の刑期を食らったんだ。そういうことって忘れちゃうもんなんだなと思った。

スキンヘッドの女の子に惹かれたのは、その彼女に重なる部分があったからなのでしょうか?被写体の何に惹かれますか?

まず、俺の半生でそれまでに惹かれたり愛したりした女性を思い起こさせる要素がある女性。でも、何に惹かれてるのか俺自身もわからないような、そんな女性もたくさんいた。待ち合わせ場所に来た女を見て、「まあいいか」って思って撮る、っていうようなね。その、刑務所から出てきたばかりだった女の子はさ——君にそういう経験があるかどうかわからないけど、俺はひとの顔を見ながら、よく「この顔、どっかで見たことある」って思うんだ。生まれた時から人間は好きなひとの印象を記憶していくものなんだそうだよ。刑務所に入ってたっていう女の子はさ、撮影してから随分と経って、改めて写真で見てたら、わかったんだ——その女の子、俺の兄貴にそっくりだったんだよ!そういうことが今だにある。なんでこのモデルに惹かれるんだ?過去の誰に似てるんだ?って思う。

被写体の多くはあなたのお友達だそうですが、すでに近しい間柄の人物を被写体とするのは、また一味違った感覚を引き起こすものなのでしょうか?

そうだと思う。でもこの歳になると、たくさんの人と知り合うからさ。次から次へと違うタイプが現れる。この夏には、30年も前に付き合った女の子にそっくりな女性を撮影したんだ。笑い方も性格も、何から何まで全部がそっくりだった。そんなことが繰り返し起こる。

人々があなたの作品を「エロティック」と言うことに違和感はおぼえますか?

作品によっては間違いなくそう言われて当然のものがある。「エロティック」が的確な言葉かどうかはわからないけど、視覚に訴える良さみたいなものはそこに作り出してるつもりだよ。カメラのレンズを通して「これで誰かを興奮させたい」なんてこれっぽっちも思ってない。そんなことは全く考えないんだよ。ああいう画風の作品はたくさん撮るんだけど——写真集『Shot by Kern』ではもっと普通の作品も入れたんだ。たとえば『Medicated』のシリーズに登場した、避妊薬を飲んでる女の子たちの写真とかをね。でもそこに文脈を生むには、やっぱりベッドでセクシーな格好をしてるその女の子たちの写真も必要になるんだ。

ペトラ・コリンズとはどんなきっかけで一緒に作品作りをすることに?

ペトラとはつい1時間前にランチをしてたんだよ。俺のショーをトロントでやりたいって言ってくれたある男がいて、そいつを通して2010年に出会ったんだ。そのトロントのショーは、なかなか開催スペースが見つからなかったんだけど、とうとう見つけたスペースというのがペトラの当時のボーイフレンドのものだった。ペトラはそこで頭がおかしい女みたいに動き回ってたよ。ペインティングの手伝いをしたり、物を動かしたり、物を掛けたり——とにかくよく働いてた。ペトラがまだ17歳のとき。そんな出会いだったよ。

そしてペトラが被写体の女の子たちをキャスティングしてくれたのですね。

出会ったときじゃなく、次にトロントへ行ったときにね。その後にも2回ほどキャスティングを手伝ってくれた。『Shot by Kern』のオープンキャスティングも手伝ってくれて、ミュージックビデオの撮影も手伝ってくれたんだよ。アシスタントとして俺についてくれたんだ。『Medicated』のシリーズを思いついたのもペトラのおかげだった。ペトラが、「治療中の(medicated)」女の子の話を熱心にしているのを見て、これは良いトピックだな、と思った。そこでシリーズの一部としてペトラの写真も撮ったんだ。

ペトラのキャスティングは、写真家としてのあなたにどのような影響を及ぼしましたか?

ペトラはあの頃、American Apparelで働いていたんだ。American Apparelは大人気でね——モデルの巣窟みたいになってた。創始者のダブ・チャーニーの発案だったのか、店頭で働く子たちを探す女性っていうのがAmerican Apparelにはいて、その女性がモデル探しを手伝ってくれたんだ。ペトラはトロントのAmerican Apparelに連れて行ってくれて、「はい、じゃあどう撮影したい?」ってな感じだったよ。

今だにあなたを魅了し続けるイーストビレッジの魅力とは一体何なのでしょうか?

何が魅力的って、俺がずっと住んでる3ベッドルームのアパートの家賃が今でも1500ドルってことだね。だから今でもここに住んでるんだ。もうひとつ良いのは、俺が引っ越してきたのはこのエリアが超トレンディになる前のことで、超トレンディになったかと思ったら今はそれも落ち着いて、今じゃただ住みやすいエリアになったってことかな。

Credits


Text Hannah Ongley
Photography Richard Kern
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.