トランプタワーに続く抗議の列

アメリカ大統領選の投票結果が明らかになり、ニューヨークでは数千人もの市民が参加して「不信任」を突きつけるデモが巻き起こった。ジェレミー・リーブマン(Jeremy Liebman)がその模様を写真に収めた。

by Alice Newell-Hanson
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21 November 2016, 8:13am

ユニオン・スクエアの群衆にあって、映画監督マイケル・ムーアはやはり目立っていた。11月だというのにショートパンツ姿で、雨に濡れた脚をあらわにしていたからというのもあるが、トランプタワーに向かって数十ブロックを北上するためユニオン・スクエアに集まった数千人規模のデモ参加者のなかで、彼が飛び抜けて年が上だったのがなによりの理由だ——そしてムーアは、メディアでさえもクリントン優勢と楽観視し、それを報道していた大統領選のなか、一貫してトランプ勝利の危険を叫んでいた数少ない知識人のひとりだった。それも、デモ隊のなかで彼がひときわ存在感を放っていた理由だったのかもしれない。

「イギリスではブレグジット(Brexit)が起こった。トランプ勝利は、アメリカにとってのブレグジットだ」と、見解を求めて彼に群がったデモ参加者やジャーナリストたちに、ムーアは語った。「しかし、そこには大きな違いがある。イギリスはEUを捨てることを決めた。アメリカはアメリカという国自体を捨てることを決めたんだ」。そう言ったムーアは、自らのスマートフォンを取り出し、ブロードウェイを練り歩き始めた群衆にカメラを向けて、デモの様子をFacebookでライブストリーミングし始めた。デモ隊は腕を組み、手を取って『Dump Trump(トランプを捨てよう/トランプなんかいらない)』『Black Lives Matter(黒人の人生にも尊厳を)』などと書かれたプラカードを掲げながら歩いた。「ドナルド・トランプには辞めてもらう」などと叫ぶなかには、トランプが選挙戦の演説で女性器に触れるなどセクハラに関するスキャンダルがあったことを揶揄して「私たちが仕返しする番(Pussy grabs back)」などと叫ぶデモ参加者もいた。「あんたは私たちの大統領じゃない!」

「世界にこれを見てもらいたい」と、近くにいたデモ参加者のひとり、モニカはi-Dの取材に答えた。「ケーブルテレビのニュース番組がこれをきちんと報じてくれてることを祈るばかりよ。2000年のブッシュ勝利のような、ましてやブッシュ再選のときのようなことは絶対に起こしてはならないのよ。私たちはあのときのことを絶対に忘れちゃならないし、このムーブメントが鎮静するどころかもっと広がっていくよう戦い続けるの」。共にデモに参加していた彼女のパートナーのベンは、デモ参加の理由を「トランプ勝利に喪失感を感じているひとはこの国に数え切れないほどいるはず。そんな人たちこそ正しいと知ってほしくて」と語った。

マジソン・スクエアの北側では、最新のプラスチック製手錠をベルトに揺らした警官隊がデモ隊の流れをコントロールしようと立ちはだかっていた。デモ隊はこれを受け、30丁目でブロードウェイへと迂回した。トランプタワーまでの道のりの半分ほど来たところで、ネオングリーンのプラカードを持ち、鼻にはノーズリングといういでたちのエリザベス(26)は「アメリカはレイシスト(人種差別主義)でもホモフォビア(同性愛嫌悪主義)でもセクシスト(性差別主義)でもゼノフォビア(外国人排除主義)でもない。アメリカが象徴するのとは正反対をいくアホが大統領になるなんて、絶対にあってはならないの。選挙ではトランプが勝利した。でも私たち国民は戦うわ」と語ってくれた。

参加者の多くと同じく、エリザベスもまた今回のデモが、これから続くアメリカ人の戦いにおいて「始まりでしかない」と強調した。「あいつがホワイトハウスを去るときまで、私たちは戦い続けるのよ」

ヘラルド・スクエアでは、ニット帽にくたびれたadidasのスタンスミスという格好の若い男性が警官隊に力ずくで取り押さえられていた。「なに撮ってんだ!」と叫ぶ警官隊の前には、スマートフォンのカメラを彼らに向けるプロテスターたちが壁のように対峙していた。ヒョウ柄のレインコートを着た白髪の女性は何事もなかったかのごとく警官にバス停留所の場所を訊き、群衆をかき分けて歩く老夫婦は「若者ってもんは」と、まるでアニメ映画の悪者を見て嫌悪感を示すかのように吐き捨てた。

その頃アップタウンでは、ショップのウィンドウがクリスマスのデコレーションで輝くなか、フェイス(20)が恐怖を言葉でなんとか説明しようと苦心していた。「私にはカノジョがいるんだけど、2年以内にっていう結婚の約束が果たせなくなるかもしれない。せっかく全米で認められた同性婚の権利がまた奪われてしまって、私たちが結婚できないかもしれないと思うと怖くてたまらない。移民の友達もたくさんいる。友達の両親が国外に追放されてしまうかもしれないなんて、怖くてしかたない」と彼女は言った。「トランプが象徴しているすべては、私たちミレニアム世代にはまったく相容れないもの。私たちの世代が次のリーダーになるのであって、こんな未来に付き合わされるなんて絶対に許されない」

5番街と54丁目の角で、群衆は歩を止めた。2ブロック北にあるトランプタワーは警察が包囲して守護しているため、群衆はそこから皆で叫び、歌った。トップレスになり顔にはスキーマスクを被った女性が、地下から蒸気を出すためマンホールに建てられたオレンジと白の蒸気塔によじ登った。裸の胸には赤いペイントが塗られていた。「性的暴力がまかり通るなんて断じて許されない!」と叫ぶ群衆のコールを煽るように、彼女は手を大きく振った。他のデモ参加者たちは沿道に組まれた工事現場の足場からぶら下がったり、女性の一団が「クィアすなわち"ファック・ユー!"(Queer as in Fuck You)」と書かれたプラカードを掲げていたり、ドラムを叩きながら"本当の革命"が起こるまでは戦いもやめないという趣旨の歌を歌ったりするものもいた。

「あいつがこの国のリーダーになる資格なんてない。この国を代表する資格も、象徴する資格もない。やつはクソもクソ」と、メガホンでコールをリードするアリシアは言った。しかし、彼女はこの一連のデモを通して、真に成し遂げたいのは「愛のメッセージを強く打ち出すこと」なのだと話す。「アメリカはここから団結して、アメリカはここから皆が手を取ってこの最悪のときを生き抜き、一緒に成長するのです」と彼女は続ける。「アメリカは、あいつが言ったように『偉大な国』になんかなりません。ただ、明日、そのまた明日と、今日よりも少しでも良い国になることを目指す——それがアメリカなのです」

Credits


Text Alice Newell-Hanson
Photography Jeremy Liebman
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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