女性のクリエイティビティを真に伝える雑誌『SEINE』

アニー・リーボヴィッツからアマンダ・ハーレックまで、男性主導の世界における女性の力をミリー・グレース・ホートンが記録する。

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aug 19 2016, 10:35am

Sarah Cleaver

クリエイティブ業界でキャリアを築くのは簡単なことではない。女性ならなおさらだ——クリエイティブ業界全体で、女性が占める割合はわずか37%というのが現状だという。クリエイティブな世界は、比較的リベラルなはずだ。それにもかかわらずこの低水準とは、残念でならない。セントラル・セント・マーチンズを卒業したばかりのミリー・グレース・ホートン(Millie Grace Horton)は、そんな現状に風穴を開けようと奮闘しているひとりである。彼女が作り出した雑誌『SEINE』は、アート業界で働く数々の女性を追い、男性ばかりの世界で輝く女性のパワーを、繊細にそして美しく描き出している。

「出版業界もテレビ業界も、映画業界も、すべて男性に独占されているというのが現状です」とミリーは説明する。「映画監督から新聞記事を書く記者にいたるまで、業界のほとんどは男性で占められています。そして、それらの業界に限らず、社会は全体的に女性のクリエイティビティへ向ける関心が薄い。メディアは女性の心を掴んでいないし、伝えられるべき女性の視点や声が伝えられていないんです」

ミリーの発言を裏付ける調査結果がある。テレビ業界および映画業界における女性の研究と調査を行なっているサンディエゴ大学のCenter for the Study of Women in Television & Filmによると「監督、脚本家、プロデューサー、制作総指揮、編集、撮影監督といった職種で見ると、現在、女性が占める割合は全体の25%にとどまります。2008 - 2009年までの調査では24%の割合でしたから、それからほとんど改善が見られていないという結果です」ということだ。

Armanda Harlech

『SEINE』は、アニー・リーボヴィッツやクレア・バロー(Claire Barrow)、アマンダ・ハーレック(Amanda Harlech)など、比類なき才能で確かなキャリアを築く女性たちに焦点を当て、プライベートでの、そしてプロフェッショナルな現場での彼女たちを捉えた白黒写真とともに、"女性として生きること"について彼女たちが語った言葉が添えられている。「まず、私と私の作品に大きな影響を与えたクリエイティブ界の女性たちについて考え、彼女たちの名前をリストに挙げてみたんです。そして、ひとりひとりに直接コンタクトをとりました。ポートレイトの撮影とインタビューをさせてもらえませんか、と。彼女たちからポジティブな反応が得られただけでも本当に光栄です。私に影響を与えてくれた女性はまだまだたくさんいるので、今後もたくさんの号を発行していけたらと思っています」

もちろん、ミリーが大きな影響を受けたのは、クリエイティブな女性ばかりではない。母子家庭に育ったミリーの作品に、"手本となる女性の存在"が一貫したテーマとして見られるのは偶然ではない。また、ミリーのものの考え方に大きな影響を与えた強い絆で結ばれた女の友達たちとの親密な関係も、今回の出版に大きく貢献したのだという。「彼女たちひとりひとりに深く感謝しています」とミリーは言う。

タイトルの『SEINE』は、パリの中心を流れる川の名前から取ったそうだ。それがタイトルの候補に上がったのは、出版に関係した女性たちとの話し合いのなかで、各々が「わたしと水の関係」について語っていたときだった。『SEINE』全編を通してメタファーとして用いられている「水」——水には、変革の力がある。喪失感と惨めな気持ちを忘れるために泳ぎ続けたミリーの過去から、お風呂で感じる孤独感を語るタチアナ・フォックス(Tatiana Fox)の話まで、「水」は女性が生来持っている力、そして女性のなかを流れる川として描かれている。

Claire Barrow

女性を女性の視点から見つめた雑誌だから、当然のことながらフェミニズムを取り巻く疑問も取り上げられている。しかし、そのアプローチはとても詩的だ。雑誌のどのページにも「打倒男性」といったニュアンスは感じられない。ミリーは、この「男性を敵視」した姿勢こそがフェミニズムを取り巻く誤解と混乱を引き起こしている最大の要因だと考えている。「フェミニストと"男嫌い"は、まったく異なる性質のものです。女性は、自分たちが男性に勝るなどとは思っていません。私たちが求めているのは、ただ女性と男性が平等なのだと認めてもらうこと。メディアが男性社会だから、フェミニズム的理想が歪められて伝えられてしまっているのだと私は考えています」

フェミニズムに関する議論は今、注目を集めている。EU離脱を求めた保守派が政権を取り、EU残留を訴えたデイヴィッド・キャメロン前首相にかわってテリーザ・メイが新首相となったことで、与党の保守党での男女平等化が進められたからだ。政治はさておき、この動きがフェミニズムにとって進歩的なものとなるか、それともそれが彼女の推す政策の要となるのかが議論の焦点となっている。そんな議論のなか、頻繁に引き合いに出されているのが、イギリス初の女性首相マーガレット・サッチャーだ。サッチャーは物議をかもす政策を次々に打ち出した首相だった。そのため、彼女が残した確かな功績までをも評価しないとする声は多い。しかし、ジェンダーの平等という意味において、彼女が女性の躍進に大いに貢献した首相だったことは忘れるべきではないだろう。

Jessamine-Bliss Bell

『SEINE』に掲載されている35mm写真やインタビューの数々を見ていると、女性が時代を前進させることの重要性を改めて認識させられる。彫師のタティ・コンプトン(Tati Compton)がストリップクラブで体験したことを綴った手記や、i-Dでメイクをレギュラーで担当するアレックス・ボックス(Alex Box)が自宅アパートの屋上にあるプールで泳ぐことについて語ったインタビューまで、『SEINE』に収められたさまざまなストーリーは、クリエイティブ業界に生きる女性たちのトレンドを描き出し、また彼女たちのような人物に力を与えることの重要性を物語っている。

それは、雑誌の巻頭に掲げられたステートメントに明確に表れている。「ここに収められた女性たちは皆、それぞれの半生のどこかで、同性である女性から、その姿勢を"Yes"と肯定された経験がある。"Yes"と言われたからこそ、今ある彼女たちにたどり着いたのだ。信じたら信じただけ信じ返してくれる女性に出会った経験を持つ人たちなのだ。そんな存在は、何にも勝る意味と重要性を持っている」。世界が揺れ動く昨今、私たちに必要なのは受容の力、そして"Yes"と言うことができる自分を持つことだ。受け入れ、肯定することには浄化作用もある——そう、まさに水がそうであるように。

seinemagazine.com

Tati Compton

Credits


Text Greg French
Photography Millie Grace Horton
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.