若き天才 スティーブ・レイシー interview「自分が特別な存在だとは思わない」

Z世代を代表する存在となったスティーブ・レイシーの2019年5月のi-D独占インタビューを公開。ソロデビューアルバム『Apollo XXI』発売を控えた当時20歳の彼が、家族、大物たちとのコラボ、有名になることについて語る。

by Ryan White; translated by Ai Nakayama
|
19 February 2020, 11:38am

Steve Lacy's story originally appeared in i-D's The Voice of a Generation Issue, no. 356, Summer 2019. Order your copy here.

ロサンゼルス中心部から北西へ32キロ、マリブとパシフィックパリセーズのあいだにトパンガ・キャニオンはある。静かで自然豊かな場所だ。緑が生い茂る土地にはほとんど人の手が加えられていない。

LA最大の国立公園に囲まれたトパンガは、何十年ものあいだ、LAの喧騒から逃れ、インスピレーションを求めるミュージシャンたちが足を運ぶ場となっている。丘陵と岩壁が広がる、深閑としたこの場所は、ニール・ヤングのソロアーティストとしてのキャリアをかたちづくった土地として知られている。ヤングは『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』の大半をトパンガの自邸で録音。このスタジオは、1960年代のLAミュージックシーンの中心地だった。

またそれと同時期、ジャニス・ジョプリン、キャンド・ヒート、ジミ・ヘンドリクスらが贔屓にしていたロードハウス、トパンガ・コーラル(Topanga Corral)は、ジム・モリソンが「Roadhouse Blues」をつくるインスピレーション源になったとされている。そして今回、i-Dからのインタビューコールを取ったスティーブ・レイシーもこの場所に滞在していた。

steve lacy compton tattoo
Shirt Burberry pre-fall 19. Jeans vintage Levi’s from What Goes Around Comes Around. Jewellery (worn throughout) model’s own.

スティーブは今、いちど休息し、次のステップへ進もうとしているところだ。「今はとにかくリラックスしてるとこ。それに尽きる」と彼はいう。現在、心の状態は最高だそうだ。「すべてが明白だし、不安はひとつもない。何にも過剰な期待を寄せてもない」

THE INTERNETのワールドツアーから戻り、傑作と期待されるソロデビューアルバム『Apollo XXI』のリリースを控え、もうすぐ21歳を迎えようとしている今、彼は数々のワクワクする出来事に直面しているはずだ。しかし、今の彼が考えているのは、最近買った新しいベッドのことだけ。「とにかくベッド。ここまでワクワクしてることは他にないよ、マジで(you know)」

「you know」は、彼がほとんどの答えの末尾に付け加える、口癖のようなフレーズだ。「僕は、いちどにひとつのことにしか集中しない。遠すぎる未来のことも考えない。どんなことでも一歩一歩進めていく。未来を思うと不安になる。だから基本的に現在のことだけ」

スティーブはトパンガから南へパシフィックコーストハイウェイとサンタモニカフリーウェイを数キロ走ったところにあるコンプトンで育ち、3人の姉妹とともに、主に母親に育てられた。幼い頃、父親はほぼ不在だったという。

スティーブは父親についてこう語る。「父親のプライドの問題だと思うよ。何かがないと僕らに会いに行けないと思ってたんだ。僕自身そう聞いた。だから休暇のときとか誕生日とかにしか来なかった。ちょっとお金があるとき、何か見せられるものがあるときだけ」

父親はスティーブが10歳のときに亡くなった。しかし父親の死は、スティーブや家族に特に大きな影響を与えてはいない、と彼はいう。母親と新しいパートナーとのあいだには3番目の妹が生まれた。「僕らは中流階級で、すごく快適で、暮らしやすかった。日曜は教会に行ったりとかさ」

tyler mitchell photographs a pink tree

スティーブの母親は、コンプトンの暴力的な日常から息子を守るため、幼稚園から小学6年生まで「割といい、家庭的な」私立学校へと通わせた。また、幼い頃から十代初めまではなかなか外出も許してもらえなかったという。

「僕にとってはストリートの郊外、って感じだった。昔はもっとひどかったし。僕はかなり過保護に育てられた。母親が、僕が犯罪に関わったり、ケガしたりしないか心配してたんだ。だから家の前でもあまり遊べなかった。いろんなことができなかったよ。友達とも遊べなかったし。近所に友達はできなかった。友達が遊びに行くような公園にも、僕は行ったことない。家から出られなかったんだ。いや、もちろん出てはいたけど、自分が行きたいところに行くことはできなくて。過保護だったね」

そして世間で広まっているコンプトンのストリート、コミュニティのステレオタイプ的なイメージについてスティーブは、完全に歪められ、誇張されていて、不正確だと指摘した。「『ボーイズ'ン・ザ・フッド』で描かれたようなコンプトンじゃない。もう何十年も前だ。コンプトンの描写って、かなりネガティブだよ。この街のランドマークなんて裁判所だよ? 悲しいね」
スティーブは自身の街に強い誇りとリスペクトを抱いている。胸に〈Compton〉というタトゥーを入れているくらいだ。

スティーブは10歳でギターを始めた。「ギターを始めた当時は、とにかく夢中だったんだ。クールだし、『ギターヒーロー』ばっかりやってたから、そろそろ本物のギターやりたいなって」。そして高校で学校のバンドに入り、そこでジャミール・ブルーナーと出会う。当時のTHE INTERNETのキーボーディストだ。

それからの道のりは、まさに音楽史そのものだ。スティーブはTHE INTERNETの3枚目のアルバム『Ego Death』のプロデュースに取り掛かる。本作は、シド・ザ・キッドが歌い上げるシャープなリリシズム、クレバーな音作りが評論家から絶賛され、グラミー賞にもノミネートされた。そこにはスティーブが大きく寄与している。

米音楽サイト『Pitchfork』は本作を「GROOVY THEORYや『Maxwell’s Urban Hang Suite』のような初期ネオソウルの代表作の血を引いており、ベッドルームミュージック的でありながら、新鮮で進歩的」と、『Rolling Stone』誌は「最高のトラックは、重力に逆らうようなインストのアウトロへと流れ込む。シドの苦悩はそこで、この上なく静謐なものへと変わる」と評した。

本作を引っさげたツアーに、スティーブは参加することができなかった。まだ学生だったからだ。

steve lacy photographed by tyler mitchell and carlos nazario in los angeles
Gilet and trousers Louis Vuitton autumn/winter 19. Shoes model’s own.

音楽評論家たちがうんざりするほど繰り返し指摘しているし、数々の仰々しい記事タイトルにも盛り込まれているが、スティーブの音楽の才能で注目されるのは、彼がいわゆるiPhoneプロデューサーだという点だ。

スティーブはiPod Touchを使って独学でプロデュースを習得した。2017年の〈TEDxTeens〉で語ったところによると、十代の頃、彼は毎年クリスマスプレゼントにMacBookをねだったが、ついにもらえなかったため、iPodで、iMPCやBeatMaker 2、Garage Bandなどのアプリを使ってビートをつくっていた。ギター、ベース、アプリを駆使することで、彼は唯一無二のサウンドを生み出すために必要なものすべてを手に入れていた。そしてケンドリック・ラマー、J・コール、デンゼル・カリーから連絡を受け、彼らのアルバムのプロダクションに参加し、スティーブの存在感はいよいよ高まっていく。

「みんなすごく優しいし、多才で、スマートで、才能のあるひとたちだった」と彼は語る。そんなビッグネームたちとの共同作業で何を学んだのだろうか。

「彼らは、僕を仲間のひとりだって言ってくれた。彼らから学んだ最大のことってそれかも。僕も彼らの仲間だってこと。彼らといっしょにいて、別世界のひとだなんて思わなかったし、怖気づきもしなかったんだ。僕らはただただクールだった。同じ人間だ」

その後、初のソロ・プロジェクトとなるミックステープ『Steve Lacy's Demo』をリリース。本作もほとんどiPhoneでつくられ、ボーカルも、iPhoneのマイクに直接吹き込むかたちで収録した。本作のリードシングル「Dark Red」はSpotifyで5000万回再生を突破しており(※2020年2月18日現在)、彼はタイラー・ザ・クリエイター、フランク・オーシャン、Blood Orangeのトラックにもフィーチャーされた。

最近ではヴァンパイア・ウィークエンドのシングルにも起用され、スティーブは、バンドにとって初のゲストとなった。また、2019年話題をさらったソランジュの新作『When I Get Home』にもクレジットされている。

ソランジュとの作業は「クール」だった、とスティーブは語る。

「ソランジュはオープンだった。僕のアイデアすべてに耳を傾けてくれて。一回、めちゃくちゃ退屈なコード進行があって。かなり緊張したんだ、彼女と会うのは初めてだったから。でも、ほんと申し訳ないんだけど、って言ったら、彼女は全然、気にしないで!って感じで。それで僕の顔にマイクを向けてくれて、コード進行について話した。彼女が静かに受け入れてくれたから言うことができた。アルバムには収録されなかったけど、楽しかったよ」

20歳の若者が、こんなに多くの素晴らしい仕事をすることができる理由を彼に尋ねると、彼は「音楽の才能があるのかも」、そして「単に…クールだからかな」と推測した。

steve lacy photographed by tyler mitchell and carlos nazario in los angeles
Tank Ludovic De Saint Sernin Swarovski Crystals autumn/winter 19.

ソロデビューアルバムの制作は2017年から始まっていた。「妹が大学寮に入ることになったから、僕が妹の部屋を自由に使えるようになったんだ。だからそこをスタジオにして、つまり、音楽を作ることにした。ツアー後、1ヶ月半くらい休みがあったから、本当にずっとレコーディングしてたよ」

他のアーティストとの仕事をしながらも、彼が自身のサウンドをはっきりと定義できずに苦しむことはなかった。「他のひとと音楽をつくるときは……全く別のエネルギーを使うんだ。だから自分の音楽と同じになることは絶対にない」。彼のメソッドは、できる限り順応性を高めておくこと。「僕はカメレオンでいることが好きなんだ。与えられたシチュエーションに溶け込む。音楽でも生活でも。クールだよ。それで相手の心情やこれまでのパーソナリティを読み取って、アイデアを提案する。わかる?」

この5年で変化したのは、彼が所有する機器だけだという。「もうリソースも限られているわけじゃない。お金もちょっとは稼げた。今はラップトップ1台と楽器数台を持ってるよ。プロセスは同じだけど、ちょっといい道具を手に入れたわけ。まあそれだけだよ」

『Apollo XXI』は、スティーブという人間が抱く様々な感情、スタイル、バージョンを辿っていく。ゆったりとしたテンポにスティーブの浮遊感のある歌詞が乗るリードシングルの「N Side」は、アルバム全体のトーンを決定づける。しかし本作の聴きどころといえば、間違いなく2曲目の「Like Me」だろう。3つの全く別々のパートから構成される9分の大作で、音楽的にも出色の完成度だ。

「お前は3分以上の曲がつくれないのか、みたいな奴らに中指を立てたつもり。よっしゃ9分の曲つくってやるよ、どうだ?って」

しかし、圧倒的な楽曲でありながら、その歌詞には親密さが感じられる。「基本的には僕の旅路、僕のセクシュアリティについて語ってる。面白く、ウィットに富んだかたちでね。全然シリアスじゃないし、悲しくもない。これが僕の旅。僕が今感じていることを表現したんだ」

steve lacy photographed by tyler mitchell and carlos nazario in los angeles
Tank Ludovic De Saint Sernin Swarovski Crystals autumn/winter 19. Jeans Levi’s. Shoes model’s own.

スティーブがバイセクシュアルであるということは、これまでのインタビューでも散々語られてきた。彼自身は、その事実が自分のソロアーティストとしてのキャリアを定義してしまうことは避けたいと思っているものの、バイセクシュアルが一般的ではない音楽業界において、これが注目すべき事柄であることは理解しているという。

「まあ正直、そんなにイライラしているわけでもないし。でも、バイセクシュアルであることを重要な要素として認識してほしくはない。なんというか、僕らが誰とセックスするかなんて、この世界では関係ないことであるべきだよ。僕にとってはバカバカしい。でもそう言えるのは僕がLAっていう泡のなかにいるからで。それは気をつけないといけないと思うよ。大ごとにしたくないんだ。みんなが僕を見るとき……」。そこで彼は語気を弱めた。「まあ、わかんないよ、わかんない」

スティーブがいる〈泡〉はLAだけではない。世界の大物たちがいる〈泡〉のなかにも足を踏み入れようとしている。「別に何も変わってない」と彼はいうが、今や彼は、Louis Vuittonのランウェイを歩き、ブランドのキャンペーンに起用され、Instagramに投稿されたセルフィーには10万件以上のいいねがつく。裏方のプロデューサー/ギタリストからあっというまに、そして大胆に世界的なスター、憧れの存在へと成り上がり、すべてが変わった。

「有名になると、人間としての側面が消える。みんなからは、自分がそういう存在だと思って見られる。だからそのふたつのバランスをうまく取るようにしてる。何かが耳に入っても聞き流す。それがクールだと思うよ、うん。わかんないけど、自分が特別な存在だとは思わない。でも、今回i-Dの表紙になるっていうのは、なんというか…」と彼は長めに考えてこう言った。「クールだよ」

steve lacy photographed by tyler mitchell and carlos nazario in los angeles
Jacket and trousers Loewe autumn/winter 19.
steve lacy photographed by tyler mitchell and carlos nazario in los angeles
Jacket and trousers Loewe autumn/winter 19.
steve lacy photographed by tyler mitchell and carlos nazario in los angeles
All clothing Prada autumn/winter 19.
steve lacy photographed by tyler mitchell and carlos nazario in los angeles
All clothing Celine by Hedi Slimane autumn/winter 19.
steve lacy photographed by tyler mitchell and carlos nazario in los angeles
Gilet Louis Vuitton autumn/winter 19. Jewellery model's own.

Credits


Photography Tyler Mitchell
Styling Carlos Nazario

HAIR Ronnie McCoy III. Make-up Sarah Uslan. Set design Mila Taylor Young at Dandy Management. Photography assistance Zack Forsyth and Daniel Marty. Styling assistance Christine Nicholson, Ramond Gee, Jose Cordero and Elyse Lightner. Tailor Susan Korinian. Production Connect the Dots. Analog printing by Natalie Hail.

This article originally appeared on i-D UK.

Tagged:
Compton
the internet
Steve Lacy
Tyler Mitchell
the voice of a generation issue