『パラサイト』ポン・ジュノが選ぶ、2020年代に注目すべき10人の映画監督

『パラサイト』でオスカー4冠を達成したポン・ジュノ監督が、これから20年先の映画業界を牽引する、と期待を寄せる若手監督を選出。『幸福なラザロ』のアリーチェ・ロルヴァケルから『寝ても覚めても』の濱口竜介まで。

by i-D Staff; translated by Ai Nakayama
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28 February 2020, 12:16pm

『パラサイト』でオスカー4冠を達成したポン・ジュノがゲストエディターとして参加した、英国映画協会(BFI)の雑誌『Sight&Sound』3月号。監督は本号で、韓国人監督初のパルムドール、そして外国語映画として初のアカデミー作品賞を獲得した『パラサイト』のストーリーボードを公開。自身が多大な影響を受けたサイコセクシュアルホラー作品の『下女』(1960)、『火女』(1971) を手がけたキム・ギヨン監督に捧げる文章も寄稿している。

さらに、長編監督デビューから20周年を迎えるポン・ジュノ監督が、これから20年先の映画業界を牽引する、と期待を寄せる若手監督を選出。「今年は2020年。2020という数字には、SF映画的な響きがある」と監督は本誌で述べる。

「私は、映画の未来を語りたいからこの監督たちを名指ししているのではない。ただ単に、彼らがこれまで作ってきた映画について語りたいからだ(たとえそれが2〜3本だとしても)。しかし結局、それは映画の未来に避けがたく関わる。なぜなら、ウォン・カーウァイの2作目『欲望の翼』(1990) を観た私たちは、すでにそのとき、『花様年華』(2000) を夢想していたから。コーエン兄弟の『ブラッド・シンプル』(1985) を観た私たちは、すでにそのとき、20年後に来たる『ノーカントリー』(2007) を体験していたからだ」

「この先の20年、ここにリストアップされた20人の映画監督が何をもたらしてくれるのか。『ミッドサマー』(2019) の目を奪われるヴィジュアル、『寝ても覚めても』(2018) で静かな眼差しがとらえる真っ黒な海、『The Lighthouse』(2019) の白黒で映し出される海を照らすライトの美しさ、ユン・ガウンの映画に登場する子どもたちの止まらないおしゃべり、『幸福なラザロ』(2018) の驚くべき映画的奇跡。これらの作品は、その監督のどのような未来を示唆しているのか。確かなことはひとつ。彼らは映画を撮り続けるということだ」

ポン・ジュノ監督に選出された名前のなかには、ジョーダン・ピール、アリ・アスター、ロバート・エガースなどすでに広く名を知られた監督もいれば、韓国出身のユン・ガウン、イタリアのアリーチェ・ロルヴァケル、日本の濱口竜介など、これからの活躍が期待される若手監督も。『Sight&Sound』のスタッフによる解説と合わせ、そのなかから10人を紹介する。

アルマ・ハレル
国籍:イスラエル系米国人

選出された監督作品:『Bombay Beach』(2011)、『LoveTrue』(2016)、『Honey Boy』(2019)

ハレルの官能的でエネルギーに満ちた映像づくりへの情熱は、彼女が初期に手がけた、BEIRUTをはじめとするバンドのMVにすでに明らかだった。しかし、彼女が決められた境界線の外へと飛び出すタイプの映像作家であることをはっきりと証明したのは、カリフォルニアのソルトン湖を舞台とし、ダンスナンバーのヒット曲に乗せて感情を表現する登場人物たちを記録した、長編デビュー作のドキュメンタリー『Bombay Beach』だった。

彼女の作品の常連といえば、シャイア・ラブーフ。彼は、彼女が監督したシガーロス「Fjögur Píanó」のMVで全裸のパフォーマンスを披露し、彼女の2作目の長編ドキュメンタリー『LoveTrue』ではプロデューサーを務めた。本作は、『Bombay Beach』同様パフォーマンスをフィーチャーし、現代の米国に生きる若者の愛にまつわる困難をとらえた作品だ。また、2019年の『Honey Boy』はシャイアのトラウマ的な少年時代を描いた自伝映画で、彼自身が脚本を手がけ、自分を虐待していた父親役として出演も果たす。

ハレルの映像にあるけばけばしさ、華麗さは、本物の感情への渇望を示すサインだ。また、彼女は広告映像においても頭角を表しており、数々の受賞を果たしているだけでなく、広告業界において、女性映像作家に門戸を開くために自身が発足した〈#FreeTheBid〉キャンペーンを推進している。

ローズ・グラス
国籍:英国

選出された監督作品:『Moths』(2010、短編)、『Storm House』(2011、短編)、『The Silken Strand』(2013、短編)、『Room 55』(2014、短編)、『Bath Time』(2015、短編)、『Saint Maud』(2019)

英国の若き才能のなかでも、ローズ・グラスは、あるジャンルにおける使い古されたステレオタイプに徹底的に抗う。その抗いかたは、まさにポン・ジュノ監督が称賛するだろうと思えるスタイルだ。十代の頃、特殊効果の達人、レイ・ハリーハウゼンにインスパイアされてホームムービーをつくり始めた彼女は、2014年に英国の国立映画テレビ学校(National Film and Television School)に入学。往々にして女性を主人公とした彼女のショートフィルムは、現代ホラーにおいて傑出した独自性を放つ。

『Room 55』は1950年代の英国に暮らす主婦の性のめざめを、『Bath Time』は不安障害に苦しむ女性の姿を描く。2019年に映画祭でプレミア上映され、英国では5月に劇場公開予定の長編デビュー作『Saint Maud』は、モーフィド・クラーク演じる看護師が、ジェニファー・イーリー演じる、がんを患う快楽主義のダンサーの魂を救うことに取り憑かれるさまを描いた、オリジナリティ溢れるサイコゴシックホラーだ。

アリーチェ・ロルヴァケル
国籍:イタリア

選出された監督作品:『天空のからだ』(2011)、『夏をゆく人々』(2014)、『幸福なラザロ』(2018)

長編デビュー作で、神秘的でドリーミーな青春映画『天空のからだ』には、アリーチェ・ロルヴァルケル作品の特徴が詰まっている。マジックリアリズムとネオリアリズムの混淆、腐敗した強大な存在に立ち向かう純粋な登場人物、そしてエレーヌ・ルヴァールが16mmフィルムに記録する、日常の世界の圧倒的な映像美だ。

続く2作では、より〈おとぎ話感〉が強まった。カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した『夏をゆく人々』では、昔ながらの生活を営む養蜂家一家がリアリティ番組への出演によって変化していくさまが描かれている(一家の母親を演じたのは、監督の実姉のアルバ・ロルヴァルケル)。『幸福なラザロ』では、農耕社会と現代の生活のあいだの亀裂を徹底的に切り取った。本作の思いもよらぬ鮮烈な展開やトラッキングショットは、近年の映画作品のなかでも突出している。

濱口竜介
国籍:日本

選出された監督作品:『PASSION』(2008)、『THE DEPTHS』(2010)、『不気味なものの肌に触れる』(2013)、『なみのこえ』(2013)、『うたうひと』(2013)、『ハッピーアワー』(2015)、『寝ても覚めても』(2018)

2008年、東京芸術大学大学院映像研究科の第二期生修了制作展で上映された『PASSION』が東京フィルメックスのコンペティション部門に選出されて以来、濱口竜介は数々の作品を発表してきたが、彼の名が世界的に知られるようになったきっかけは2015年の『ハッピーアワー』だ。4人の女性を中心とした約5時間半の超大作で、たゆたうようなゆったりとしたペース、アドリブで構成されるシーンは、ジャック・リヴェット作品とも比較される。

『ハッピーアワー』の手触りがより凝縮されたのが上映時間2時間の『寝ても覚めても』。柴崎友香の同名恋愛小説を映画化した本作は、ドッペルゲンガーとの恋愛を軸に、記憶、そして恋の幻影を描く。主人公の朝子は、ハンサムでどこか浮世離れした男、麦と出会うが、その出会いと同じく突然彼は姿を消す。2年後、麦とうり二つだが、性格は正反対の亮平と出会う。独創的で危ういバランスをゆき、驚きに満ちた濱口竜介の作品は、観客に次の展開を読ませない。どんな展開になろうとも、私たちは必死にそのあとを追うことしかできないのだ。

マティ・ディオップ
国籍:フランス

選出された監督作品:『Atlantiques』(2009、短編)、『Big in Vietnam』(2012、短編)、『A Thousand Suns』(2013、短編)、『アトランティックス』(2019)

ディオップはクレール・ドゥニ監督の『35杯のラムショット』(2008) で娘役を演じて注目を集め、以来俳優業と並行して監督業にも取り組んでいる。彼女の作品はドキュメンタリーとフィクションを掛け合わせたかのような風合い。主に移民をテーマとし、超自然的な恋心が作品の核となる。デビュー作の短編『Atlantiques』は西アフリカからヨーロッパへと渡るひとりの青年を追ったストーリーで、ロッテルダム国際映画祭のタイガー・アワードを受賞。『A Thousand Suns』では、彼女のおじでセネガル映画界を代表する偉大な映画監督、ジブリル・ディオップ・マンベティの1973年の作品『トゥキ・ブゥキ / ハイエナの旅(Touki Bouki)』の主人公のその後を追った。

長編デビュー作で、カンヌ国際映画祭のグランプリを獲得した『アトランティックス』は、短編デビュー作をベースにしつつ、姉妹、母親、恋人など、残された女性たちへと視点を移して移民の寓話を語った。ディオップは登場人物たちの喪失感を強調するために超自然的な演出を使用する。現在、超自然というジャンルに取り組む映画監督は多いが、そのなかでもディオップの手腕は飛び抜けている。

ユン・ガウン
国籍:韓国

選出された監督作品:『Proof』(2010、短編)、『Guest』(2011、短編)、『Sprout』(2013、短編)、『わたしたち』(2016)、『The House of Us』(2019)

新世代の韓国人女性映画監督のなかでも最注目のひとり、ユン・ガウンの作品は、子どもたち、ティーンエイジャーたちの生活を親密で洞察力に満ちた眼差しでとらえる。彼女は作品内だけでなく、ソウルの学校の映画クラブや韓国映画博物館で講師として活動し、若者へのアプローチを積極的に行なっている。

ユン・ガウンの名が世界的に知られるようになったのは2011年、『Guest』がクレルモン=フェラン国際短編映画祭でアジア作品初のグランプリを獲得してからだ。2013年にはベルリン国際映画祭で『Sprout』がクリスタル・ベア賞を受賞。長編デビュー作『わたしたち』は、繊細で孤独な10歳の女の子の世界に入り込み、深い共感をもって見つめる。続く2019年の『The House of Us』は、3人の12歳の子どもたちのひと夏を記録した作品で、子役の見事な演技が光る。

ジョーダン・ピール
国籍:米国

選出された監督作品:『ゲット・アウト』(2017)、『アス』(2019)

ジョーダン・ピールは以前より、〈キー&ピール〉というコメディアンコンビとして、現代社会に潜む問題に深く切り込むコントで才能を発揮していた。彼の書くコントには彼らの怒りや笑いが盛り込まれているだけでなく、知性が光っていた。しかし『ゲット・アウト』はまた別物だ。昔に比べたらリベラルになっているはずの社会に広まっている差別について容赦なく突きつける、すばらしい「ソーシャルスリラー」(監督自身がそう呼称している)だ。2019年の『アス』も、唯一無二なかたちで今の時代へと言及する作品だ。

彼は、彼の制作会社Monkeypaw Productionsとともに、映画業界におけるダイバーシティにも決定的な影響を与えている。映画作品では、スパイク・リーの『ブラック・クランズマン』が公開され、さらにホラー映画の名作『キャンディマン』のリブート版(ニア・ダコスタがメガホンを取る)の公開、そしてテレビ番組では『Lovecraft Country』や、ピールによる『トワイライト・ゾーン』のリブート版の公開が控えている。きっと『トワイライト・ゾーン』の脚本とホストを手がけたロッド・サーリングも、自分とよく似たスピリットをピールに見い出したことだろう。

アリ・アスター
国籍:米国

選出された監督作品:『The Strange Thing About the Johnsons』(2011、短編)、『Munchausen』(2013、短編)、『ヘレディタリー/継承』(2018)、『ミッドサマー』(2019)

「アリ・アスターにはNYでいちど会ったことがある。彼はユニークだよ。彼の才能はすごい」とポン・ジュノは絶賛し、今回のリストにも迷わず彼の名前を入れた。驚くほど迷いのない『The Strange Thing About the Johnsons』をはじめとする短編作品、そして長編2本で、アスターはホラーというジャンルに多大なる刺激(ジョーダン・ピールが与えたのと同じくらい大きな刺激)を与えた。『ヘレディタリー』は映画史における最恐映画とされ、主演のトニ・コレットの卓越した演技を中心に、家庭内に起こるホラーを、実に恐怖を煽る語り口で見せている。

そして彼が一発屋ではないことを証明したのが、〈白昼のホラー〉という新しい試みの『ミッドサマー』だ。こちらも主演のフローレンス・ピューの演技がすばらしい。アスターは今、別のジャンルへと移行しようと思っている、と語っており、彼がポン・ジュノのようにあらゆるジャンルを自らのものにしてしまう日も遠くないだろう。

クロエ・ジャオ
国籍:米国/中国

選出された監督作品:『Songs My Brothers Taught Me』(2015)、『ザ・ライダー』(2017)

2020年は、クロエ・ジャオの商業映画デビューの年だ。彼女はマーベル映画『エターナルズ』で、タイカ・ワイティティ、ライアン・クーグラー同様、インディ映画監督からコミック・フランチャイズ映画の監督に大抜擢された。不死のスーパーヒーローたちが戦う、という物語は、これまでの彼女の作品とは正反対だ。かつて彼女がとらえてきたのは、トランプ大統領の支持基盤に暮らす若者たちの危険な生活であり、俳優は素人、撮影クルーも最小限で制作してきた。『Songs My Brothers Taught Me』はサウスダコタ州のネイティブアメリカン居留地での暮らしをメランコリックに提示すると同時に、今の生活から抜け出したいと夢見るものの、妹を置いていけないと悩むひとりの少年の姿を感動的に映し出す。長編2作目の『ザ・ライダー』の舞台も同じ居留地。主人公は落馬事故で頭部に重傷を負った、ブレイディという名のロデオライダーだ(実際のロデオスター、ブレイディ・ジャンドローが演じている)。2作とも、主軸にはリアルであること、親密さがある。2008年のリーマンショックですべてを失い、車上でノマド生活を送る主人公をフランシス・マクドーマンドが演じる、米国西部の影を映したロードムービー『Nomadland』も今年公開予定だ。

ロバート・エガース
国籍:米国

選出された監督作品:『ウィッチ』(2016)、『The Lighthouse』(2019)

ロバート・エガースは、あらゆる映画監督たちが夢見るようなキャリアパスを歩んでいる。デビュー作の超自然的ホラー『ウィッチ』で一躍脚光を浴び、ウィレム・デフォーとロバート・パティンソンが1890年代の灯台守を演じる2作目の『The Lighthouse』は、2019年のカンヌ映画祭における話題を独占した。華々しいデビューの前は美術監督として働いていたことも納得の、ヴィジュアルの細部までこだわる姿勢こそが、彼の作品の魅力を支えている。今や、フォーク・ホラー(民間伝承を下敷きにしたホラー)人気が復活しているが、膨大なリサーチを重ねて生み出す彼の時代ゴシック作品は、独特の不気味な雰囲気で他の追随を許さない。

『ウィッチ』では、1630年代の米国に暮らす初期の英国移民の狂気に満ちた世界へと観客を誘い、『The Lighthouse』では正方形に近いサイレント時代のアスペクト比を採用した画面のなかで、濃い黒が印象的な色彩と不協和音しかないサウンドトラックを合わせつつ、暴力のレベルをさらに一段階上げた。まさに「マッコウクジラのペニスのようにキラキラと輝いている」。これは、壮麗なほど猥雑でカラフルな本作の脚本から引用した一節だ。

This article originally appeared on i-D UK.

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