TikTokが推奨する〈断酒・断薬のすすめ〉

パンデミック下でのリモートセラピーの需要の高まりに後押しされ、TikTokでは断酒・断薬コミュニティが盛り上がりを見せている。

by Alice Crossley; translated by Nozomi Otaki
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08 December 2021, 8:37am

2020年はじめ、アビ・フェルサムのメンタルヘルスは限界に達していた。33歳の彼女は恋人との破局後カナダに引っ越し、うつ症状の治療をきっかけに薬を乱用するようになった。それから間もなく、彼女は自殺を試みて精神科病棟に3日間入院し、酩酊した状態で出社したためにクビになってしまう。

その後、パンデミックによってアビは英国に戻り、母親との実家暮らしを余儀なくされた。彼女はアルコール依存症であることを自覚しながらも、酒を飲み続けた。しかしある日、「このまま死ぬのはいやだ、自分の人生のために闘おう、と思った」と彼女はいう。そのときからアビは、薬とアルコールを完全に断つことを決意した。最初はアルコール依存症者の自助グループ〈Alcoholics Anonymous: AA〉への参加を検討していたアビだが、COVID-19の影響でミーティングはZoom開催になり、気まずさと緊張感を覚えたという。そこで彼女は、意外なリソースを頼ることにした。それがTikTokだ。

TikTok上で断酒コンテンツを検索すると数多のコンテンツがヒットし、ハッシュタグ#soberの閲覧数は18億回を超える。

「他の人びとの体験を共有したり、耳を傾けることが癒しになりました。それはAAと同じです」とアビ。「でも、TikTokのほうがもっと自分に合っていると感じました」

その後まもなく、アビ自身もこのプラットフォームで自身の体験を率直に打ち明けるビデオを共有し始める。彼女のビデオはすぐに視聴者の共感を得た。2021年3月に断酒についての最初の投稿をして以来、アビは数千人ものフォロワーを獲得するとともに、ビデオの視聴回数は数百万回を超え、断酒に関心のあるコミュニティを拡大していった。現時点で最も視聴された彼女のコンテンツは、飲酒量やスピードを調整できなかった体験を語ったものだ。

グラスゴー出身の24歳のクレイグ・グラハムも、アビのビデオに励まされた視聴者のひとりだ。彼がアビのアカウントと〈soberTok〉を見つけたきっかけは、TikTokがちょうどいいタイミングでこのビデオをおすすめしてきたことだという。当時のクレイグはメタンフェタミンを断ち、アルコールとの関わりを見直したばかりだった。

「依存症を抱えていると、自分の居場所はどこにもなく、誰も自分を理解してくれないような気がしてしまう」と彼は吐露する。「TikTokのビデオのおかげで他の誰かの中に自分自身を見出すことができました。なぜ自分が酒や薬をやめようとしているのかを思い出させてくれるんです」

「オンラインでの相互支援には長い歴史があります」とキングス・カレッジ・ロンドンのデジタルカルチャーの上級講師、ジーナ・フェルドマン教授は説明する。TikTokの卓越している点は「アルゴリズムの力と有効性」であり、このSNSは「視聴者を積極的に関与させ続けるコンテンツを見せるのに効果的」だと彼女は述べる。そのおかげで、TikTokはコミュニティ形成に最適なオンライン空間となり、クレイグやアビのような人びとは、検索しなくても断酒・断薬コンテンツに出会うことができる。

同様に、TikTokの断酒・断薬コミュニティは、長年にわたる断酒・断薬の知恵や体験を共有することに熱心な年配の世代をはじめ、さまざまな理由から新しいライフスタイルを試そうとしている断酒・断薬に関心のある若年層まで、年代も幅広い。

断酒・断薬を初めて1ヶ月の20歳そこそこの女性もいれば、断酒しているセレブを集めたモンタージュ動画や、パーティーで疎外感を味わわないですむおすすめのノンアルコールを紹介する女性もいる。どのビデオのコメント欄にも、励ましのメッセージや悩みを率直に打ち明ける人びとのアカウント、アルコール依存の体験を共有してくれる人びとへの感謝が綴られている。

数ヶ月前、ロンドンに住む27歳のニキータは、アルコールがいかに自分のメンタルヘルスを損ねているのか、そして毎晩外出するたびに気分が落ち込み、不安になっていることに気づいたことをきっかけに、このコミュニティに加わった。

「英国の飲酒文化のせいで、自分も飲まなければいけないと思い込んでいました」と彼女は〈sober curious(断酒・断薬に関心がある)〉という言葉に出会い、TikTokで同じような思いを抱える人びとのコミュニティ(#sobercuriousの再生回数は1560万回を超える)を発見するまでの経緯を語った。

「私くらいの年代は、週末は隔週で出かけて酔っ払うことが当たり前だと思っています」とニキータ。「TikTokの断酒・断薬コミュニティは、私と同じ状況にいる同世代の人がたくさんいるということに気づかせてくれました」

それ以来、彼女は結婚式、誕生日パーティー、他のイベントに出席しても一切飲酒していないという。「他のみんながお酒を飲むとわかっている夜の前はちょっと気持ちが揺れることもありますが、TikTokの動画を見ると自分の決断に自信を持つことができます」

25歳のルイ・ノースは、夜出かけては記憶を失い、丸1日家に帰らないという飲酒習慣によって、友人や家族との関係、仕事が脅かされていたという。しかし、彼女はTikTokのおすすめページでsoberTokに出会い、〈Sober Girl Society〉を立ち上げたミリー・グーチを見つけたことで、ようやく飲酒をやめることができた。

「ミリーのアカウントを偶然見つけ、そこで自分と同年代のひとを見て、自分がアルコール依存症だと気づきました」とルイはいう。「身の周りのひとだけでなく、自分のためにも断酒しなければいけないと思ったんです」彼女は今、酒を断って100日になるという。

「若い世代は、まず最初にオンラインを頼ることに慣れています」とフェルドマン教授は説明する。soberTokの盛り上がりは、パンデミックによって加速したリモートセラピーの人気の高まりに後押しされたものだという。例えばAAやセラピーなど、以前は人に求めていた援助を、デジタルテクノロジーに求めるひとが増えています」と教授は指摘する。

慈善団体〈DrinkAware〉によると、英国の成人の52%が、少なくとも週に一度は飲酒するという。このように飲酒が不可欠な文化において、アルコールとの関わりを見直すのは難しい。SNSのネガティブな影響が十分に立証されているいっぽうで、soberTokのようなオンラインスペースは、若者が絶大な視聴回数を誇るこのコンテンツに触れることを通して、アルコールとの関わりを見直す偏見のない場を提供している。つまり、結局はフェルドマン教授が指摘するように、「TikTokは私たちにとって良いとも悪いとも言えません。それはすべて使うひとや使い方次第」なのだ。

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