ビリー・アイリッシュ × ストームジー スペシャル対談

ポップ界を牽引するふたりのアーティストが、成功と失敗、ビリーの最新作『Happier Than Ever』について存分に語り合う。

by Douglas Greenwood; translated by Nozomi Otaki
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16 September 2021, 6:04am

この記事はi-D The In Real Life issue, no. 364, Autumn 2021に掲載されたものです。注文はこちら

 

ビリー・アイリッシュ待望の2ndアルバム『Happier Than Ever』リリースの数週間前、この型破りなポップスターは同じく革新的なアーティスト、ストームジー(Stormzy)と対談を行なった。大西洋の向こう側とこちら側にいるふたりは、意外な組み合わせに思えるかもしれないが、実は数年来の知り合いで、互いの作品のファンだという。

 2020年2月のブリット・アワードで撮られたこの映像には、ストームジーが礼儀正しく、ビリーのレッドカーペットインタビューに仲間入りする姿が映っている。ビリーを見つけた彼は呆然とし、興奮していた。

 「君はマジで最高だ!」と白のタートルネック姿の彼はドリンクを片手に叫ぶ。「新曲が出るたびに〈AZ Lyrics〉で歌詞を読むんだ。すごい文才だよ!」身長161cmのビリーが196cmの彼とハグをすると、小人のようにすっぽり包み込まれてしまう。その後ストームジーはよろめきながら立ち去り、ビリーも動揺しているように見えた。

ふたりには確かに通じるものがある。それは自身のイメージからは想像もつかないような、あらゆるサウンドを創りたい、というビリーのたゆまぬ創造的欲求に関係しているかもしれない。Z世代のティーンエイジャーの彼女は、同世代と全く同じような不安に苛まれ、Instagramだけで9000万人以上のフォロワーにその姿を見られているという事実によって、その不安は増すばかりだ。

そもそも若い女性ミュージシャンは、得てしてレコードレーベルに消費されたり、許可なく従順で性的な対象に仕立て上げられやすく、アーティスト自身の関心よりも、(たいていは男性の)レーベル代表が考える、オーディエンスの需要を満たす作品をつくることを強いられる。

 しかしビリーは、ベッドルームで誠実な青写真を描き、それを通して業界をより良い方向へと変えるべく働きかけてきた。スターを輩出するシステムがその意義を問われることになったのは、ひとえに彼女のおかげだ。

 デビューアルバム『When We All Fall Asleep, Where Do We Go?』のリリースから2年半、彼女は今も、他の誰も到達できない唯一無二の地位を保ち続けている。7度のグラミー賞受賞、2枚のアルバムリリース、そしてひとつはパンデミックによって短縮されたものの、数秒で完売した2度のアリーナツアーを達成した。

Billie Eilish lying on the roof of a car wearing a white jumpsuit
Billie wears jacket vintage courtesy of IMPRÉVU STUDIO. T-shirt LOS ANGELES APPAREL. Jumpsuit HYEIN SEO. Shoes EYTYS.

今年3月にリリースされた『Happier Than Ever』は、一時代を築くという、今となってはほとんどのポップスターにとって不可能な偉業を成し遂げた。グラミー2部門で受賞した10日後、ビリーは新しいヘアスタイルをInstagramに投稿した。ゴシップ誌がこぞってミーティングを開いてその意図や意味を議論しそうな、脱色したブロンドヘアだ。

 彼女がいかにポップスターのイメージへのアンチテーゼを提示しているか、ということは非常に興味深い。自らが業界全体を崩壊へと導く力を持っていることを知ったうえで、イメージやサウンドを完全にコントロールする。それこそが真のスターたる証といえるだろう。

billie eilish standing on a tire at a race track with a car behind her
Coat RAF SIMONS. Trousers BURBERRY. Boots RAF SIMONS X STERLING RUBY AW14 courtesy of ARTIFACT NY.

それに加え、ボディイメージからポルノグラフィ、有名になることに伴う苦労、恋人との関係の維持まで、あらゆるテーマに触れる楽曲は、ずっと彼女の日常を綴ってきた。それもビリーとストームジーの共通点のひとつだ。ふたりに共通する率直さの追求は、自由に振る舞えるだけのパワーと才能を備えているからこそ可能なのだ。

莫大な名声とアーティスティックな才能の両方を有するアーティストは、ほんの一握りしかいない。このふたつは文化的視点においては切り離されるのが常で、両立することはめったにない〈例外〉だ。

後世に語り継がれるであろう、今日まで史上最高の作品を更新し続けている両アーティストは、タブロイドの馬鹿げた行為にも立ち向かわなければならない。ふたりはもはや、メディア露出がさほど重要ではない段階にいる。それでも名前をあちこちで目にするのは、ふたり自身のこれまでの努力の結果に他ならない。

ビリーの最新アルバムをひも解くのに、アート、業界、攻撃的な人びとを知り尽くしたこのふたりほどふさわしい人物はいない。ビリー・アイリッシュとストームジーが、心ゆくまで語ってくれた。

a black and white full length photo of billie eilish in an oversized coat
Cape RICK OWENS. Hoodie RAF SIMONS AW03 courtesy of ARTIFACT NY. Cargo vest RAF SIMONS AW02 courtesy of ARTIFACT NY. T-shirt LOS ANGELES APPAREL. Trousers custom made courtesy of MARTIN KHEEN. Boots THE SOLOIST AW19 courtesy of ARTIFACT NY.

ストームジー:やあ、ビリー! 聞こえる?

ビリー:聞こえるよ。

ストームジー:調子はどう?

ビリー:いい感じ。

ストームジー:初めて会ったときのことを覚えてる? たしか2019年のブリット・アワードで……。 

ビリー:2020年じゃない?

ストームジー:そうだっけ? あ、そうか。君が「No Time To Die」のパフォーマンスを終えた直後だったね。あの日が初披露だった。君はステージの横で、デイヴ(Dave)に最優秀アルバム賞を渡すために待機してた。ガードマンに囲まれてね。俺は何杯か飲んでたからちょっと気が大きくなって、君に写真を頼んだ。そしたら親切に応じてくれたよね。

そのあとバックステージで会ったときも、もう一度挨拶した。そのときのビデオが残ってるけど、この前改めて見返してみたら、ちょっと図々しかったな……。

ビリー:すごくキュートだったよ! 駆け寄ってきて、私の歌を歌ってくれて。すばらしい時間だった。わざわざ私のところまで来て曲の話をしてくれるなんて、それだけ聴き込んでくれてるってことだから。歌詞もメロディもちゃんと細かいところまで覚えていてくれた。図々しいなんてとんでもない。感動した。口からでまかせじゃなく、ちゃんと関心を持ってくれているんだ、って、うれしかった。本当に楽しいサプライズだったよ。

billie eilish wearing a full length puffer coat with straps around her legs
Cape RICK OWENS. Hoodie RAF SIMONS AW03 courtesy of ARTIFACT NY. Cargo vest RAF SIMONS AW02 courtesy of ARTIFACT NY. T-shirt LOS ANGELES APPAREL. Trousers custom made courtesy of MARTIN KHEEN. Boots THE SOLOIST AW19 courtesy of ARTIFACT NY.

ストームジー:俺はそういうヤツなんだ。自分をごまかせないミュージシャンやアーティストがいるんだよ。君、フランク・オーシャン、ジェイ・Z、ビヨンセ……。この人たちに会ったら、ちょっと気持ちを落ち着けなきゃダメなんだ。なんていうか、アーティストの仕事というのはすごく……一瞬で消費されてしまう。新しいシンガーや音楽が次から次へと現れて、世間はそれがいかにすばらしいかを理解する時間がない。
そう実感するたびに、アーティストに会ったら、そのすばらしさを知ってもらわなきゃって思うんだ。君にわかってもらえてうれしいよ。

ビリー:ありがとう! 褒め言葉はいらないというひともいるけど、私にはよくわからない。私はみんなが曲についてどう感じたとか、どんな影響を受けたかを知りたい。それは利他的で心からの言葉だから。人には、作品の感想を言うことで自分が弱さを曝け出すことになってしまうんじゃないか、っていう妙なプライドがある。あなたはそんなことは気にしないで、自分もファンだ、って言ってくれた。私たちはみんな誰かのファンだから。私だって大好きなアーティストはたくさんいる。

ストームジー:ビリー、楽曲制作について訊きたいんだけど、コロナ禍は、普段から家で作業している君とフィニアスにとって理想的な状況だった? それとも家から出られないことで、仕事の仕方は変わった?

ビリー:最初のアルバムをつくったのは、子ども時代のベッドルームだった。兄の部屋はすごく狭くて、機材も少なくてボーカルブースも防音装置もなかった。『Happier Than Ever』までずっとそうやってつくってきた。

今回のアルバムのために兄が家の地下にホームスタジオをつくってくれたから、そこでレコーディングをした。家にいながらスタジオで作業できるのはステップアップだけど、問題はずっと家にいなきゃいけないということ。家でだらだら過ごすのと、作業をしてクリエイティブになるという切り替えが大変だった。でも、ちゃんとしたレコーディングスタジオは嫌い。暗くて悲しげで、ただ時間だけが過ぎていく感じ。スタジオにいると気分が落ち込んでくる。

ショーやツアー、みんなの前でのパフォーマンスは、いつ戻ってくると思う?

ストームジー:めちゃくちゃライブが恋しいよ。久しぶりにステージに復帰するのが待ち遠しい。これまでのアーティストが誰も経験したことがないくらい、めちゃくちゃ盛り上がるだろうね。1年半も家にこもっていた人びとが、ようやく生の音楽を体験するんだ。

米国がどうなるかはわからないけど、ヨーロッパは今年中は難しいと思う。パフォーマンスが楽しみになるたびに、コロナがまた戻ってきて感染爆発が起きるんじゃないかって心配にもなる。だから、楽しみな気持ちはまだ抑えめにしておこうかな。君はワールドツアーが決まったんだよね? どんな気持ち?

billie eilish in a racing car track at sunset wearing an oversized coat
Coat RAF SIMONS. Hoodie and trousers MELITTA BAUMEISTER. Boots RAF SIMONS AW14 X STERLING RUBY courtesy of ARTIFACT NY.

ストームジー:アルバムを送ってもらって聴くことができて、すごく光栄だよ。これを読んでるひとに知ってもらいたいんだけど、ビリー・アイリッシュのようなひとのアルバムはリリースされるまでは絶対に世に出たりしないんだ! 俺は特別に聴かせてもらった。アーティストとしてアルバムを聴くのは、どんなときも興味深い。

同じアーティストだから理解できることもあるし、アーティストとしての本音や視点もわかる。俺もこれを訊かれるのは嫌だし、アルバムにはたくさんのテーマやレイヤーがあるものだから、それをひとつにまとめるのは不本意かもしれないけど、できれば教えてほしい。このアルバムを通して伝えたいことは?

ビリー:『Happier Than Ever』には、たくさんテーマがある。タイトルトラックは、もともと「Away From Me」という題だった。最初に作ったのがこの曲。2019年の夏からアルバムの作業をしていたけど、最初から作業していたのはこの曲だけだった。ファーストアルバムはレコーディングの時点で作ってから3〜4年経った曲ばかりだったけど、今回は全部新曲。

中でもいちばん古いのは「Happier Than Ever」。2019年の夏に、アルバムの中で最初にできた曲で、その1年後の夏にアルバムが完成した。最初から私にとってすごく大切な曲だった。アルバムをつくっていると、いつも頭の中で何かが閃いて、どんな流れや雰囲気になるか、何を伝えたいかがわかる瞬間が来る。曲が完成し、順番を考えて、どうつなぎ合わせるか、どうしたらひとつの作品になるかを考える。

『Happier Than Ever』には、ここ何年かの私の人生が詰まってる。すごくたくさんの意味があって、ちょっと皮肉っぽいけど、全部本当のこと。一生でいちばん幸せとか、誰よりも幸せっていうわけじゃないけど、今までよりずっと幸せ、という意味。つまり、だんだん良くなっている、ってこと。それがここ2〜3年の私の人生なの。成長して、変わって、人としても、精神的にも創造的にも成長した。だからぴったりだと思った。

ストームジー:確かに皮肉も感じたけど、君がこれまでで一番幸せだと実感してることがわかったから、優しい皮肉だった。それが伝わってくる。

ビリー:あなたがアルバムをつくるときの流れは?

ストームジー:かなり似てると思う。自分が言いたいことや、それをどう伝えたいかがわかる瞬間が来る。早くまたライブをやりたいっていう話に戻るけど、今回のタイトルトラックは、まさにライブの最高潮みたいな感じがしたよ。

billie eilish on the roof of a car
Jacket vintage courtesy of IMPRÉVU STUDIO. T-Shirt LOS ANGELES APPAREL. Jumpsuit HYEIN SEO.

ビリー:曲を作っているとき、ライブでどんなパフォーマンスをするかは考えてる?

ストームジー:面白い質問だね。去年1年とここ半年間、ずっと3rdアルバムの作業をしていて、チームと8月のフェスについてミーティングをしたとき、どの新曲をやりたいか訊かれた。しばらく生のパフォーマンスはしてなかったから、制作中にパフォーマンスのことは特に考えてなかった。このアルバムに関しては、特にライブでのパフォーマンスについてあれこれ考えたり心配したりはしてないよ。昔はしてたけどね!

でも今回は、とにかく率直なもの、自分に正直なものをつくることに専念した。俺たちアーティストにできるのは、自分の真実を伝えることだけ。自分の内面にあるものをね。そのおかげでプレッシャーが減って、自分がどう感じたかを表現できた。

ビリー:本当にそのとおりだと思う。あなたにとって成功と失敗とは?

ストームジー:自分にとっての成功の定義は、だんだん変わってきた。若い頃はもっと単純だった。車とか、お金とか。でも、今は全く違う。俺が今考える成功は、時間に余裕があること。わかる? 曲を作る時間があるってこと。家族と過ごしたり、仲間とくつろぐ時間を取れるということ。旅行したり、知らない場所を見て回る時間も。成功とは時間を犠牲して得るものだとか、忙しくて人と会ったり好きなことをする時間がないことだと考えるひとも多いけど、俺は甥たちや母さんと過ごす時間がほしい。1週間休んでリラックスしたい。

ビリー:時間はお金じゃ買えない。その価値や大切さを十分に理解していないひとも多いけど。私にとって成功とは喜び。最近気づいたんだけど、クールなアイデアだとか、莫大な予算をつぎ込んだりとか、大規模なキャンペーンになると思ってやったとしても、結局自分が惨めな気持ちになったとしたら、それは成功とはいえない。

でも、心から大切にした作品で、制作過程でどんなにつらかったとしても、完成したときに幸せな気持ちになれたら、それは苦労した甲斐があったということ。でも、そもそも惨めな思いなんてする必要はない。成功とは内面的なもの。あなた以外の誰にも関係ない。自分のための喜びと愛情だから。

 ストームジー:失敗についてはどう思う?

ビリー:これまでの人生の中で、失敗したと思ったことは何度もある。特に多くのひとに「お前は落ちこぼれだ」と言われたときはね。その言葉を信じないようにするのは難しい。私はインターネットと一緒に育った。私もみんなと同じ理由でSNSを使ってるけど、ブサイクだとか下手くそだとか最悪だとか言われてるビデオに出くわすと、自分がダメな人間だと思わされる。

他にももっと具体的なのは、自分に失望したときや、自分の感じ方や行動が想像と違ったとき。でも、失敗も成功と同じで、自分の頭の中にしか存在しないというところが面白い。実際、文字どおり何かにしくじったとしても成功とみなせるかもしれないし、その逆もある。成功も失敗も自分の捉え方次第だから。

billie eilish in an oversized coat with her mouth open looking off camera
Coat and hood GIVENCHY. Hoodie (worn underneath) HAMCUS.

ストームジー:オンラインでの生活や、ネットとともに成長してきたという話だけど、どうやって向き合ってる? 俺はSNSは、特に君のような立場にあるひとにとっては、そのことで頭がいっぱいになったり、気が散ることもあると思う。いつも自分に意見を言ってくるひとにはどう対処してる?

ビリー:難しくて、私もまだ答えはわからない。インターネットは好き。ミームとかそういうくだらないものも。でも、何をしていても、自分のことは避けられない。どこにいても自分のことが目に入ってくる。私の嫌いなひとには申し訳ないけどね。彼らも私を避けられないから。

自分のことを知りもしないひとが、ビリー・アイリッシュがあれをしたとかこれをしたとか言っているのを読みたくない。ほんとに頼むから、って感じ。私は曲を作りたいだけなのに。そういうのを読むとイライラする。笑えるけどね。なんで私が何をしたとか何を言ったとか、何を着てるとかどう見えるとか、どう思ってるとか、あらゆることに意見したがるんだろう。私はただ曲を作りたいだけ。ただ歌うことが好きな、ごく普通の女の子なのに。そんなに深い意味なんてない。曲だけ聴いて、私の人生には口を出さないでほしい。

ストームジー:俺はもうSNSはやってない。もともとあんまり使ってなかったけど、すっぱりやめた。やめたほうがいい気がして。SNS上のものはなんでも、ネット上のネタ以外の何物でもなくて、何となく良くないエネルギーがある。私はあのビリー・アイリッシュなんだ、って自分に言い聞かせないと。自分は最高だ、って。それが君の真実だし、自分はどんな人間なのかっていう真実を信じなきゃいけない。SNSでそれをやるのは簡単じゃない。SNSをやっていたときは、俺が見ているものは本当じゃない、俺は最高だってずっと言い聞かせなきゃいけなかった。

ビリー:私たちにはファンに共有する責任があると思う? 私は、その答えはまだ出ていない。自分の生活の些細なことまで伝えたいわけじゃないし、自分の全てを知ってほしいわけでもない。でも、自分と同じことを体験してるひとには、自分のことを理解されているとか、自分の声が伝わってると実感してほしいという気持ちもある。そういうひとの助けになりたい。大丈夫、これはみんな経験することだ、って知ってほしい。発信力のないひとの声を代弁することもできるけど、話したくないこともあるから悩ましい。私自身の責任じゃないか、すごく難しい。私自身は、誰に対して何の責任も負っていないから。

billie eilish surrounded by car tires
Jacket BALENCIAGA. Hoodie and T-shirt ACNE STUDIOS. Trousers HAMCUS. Boots RAF SIMONS X STERLING RUBY AW14 courtesy of ARTIFACT NY.

ストームジー:仕事を始めたばかりの頃、いきなり初めての責任が降りかかってきて、よし、ロールモデルになろう、と思っていた。でも時が経つにつれて、とても自分の手に負えないと気づいたんだ。プレッシャーも責任も大きすぎるし、ロールモデルが必要なら、俺よりもずっといいロールモデルがたくさんいる。ロールモデルになるのを拒むことだってある。

あおり運転みたいなものだよ。なかなかうまい例えだと思う。俺が運転中に誰かにイラついて、窓から身を乗り出して、その運転手に怒鳴ったとする。その瞬間、俺はロールモデルじゃない。もしそこを母親が通りかかったらどうなるか……。でも、俺はいつだって仲間のために良い行いをしようと努力してる。できるだけ前向きなことを発信したい。俺とチームが人びとの支援のためにやっている活動もたくさんある。コミュニティを支える柱になるために努力してるけど、結局は俺たちもただの人間だから、一筋縄ではいかない。

アーティストとしてこういう地位を得たけれど、結局はみんな人間だから。どんなに尊敬されているひともそうだ。欠点もあれば間違えることもあるし、うまくいかないときもある。俺も普通の男で、良いこともすれば、クソ野郎になることもある。それが真実だ。だからもし俺が車から乗り出して、誰かに出てこい、かかってこいと怒鳴っているのを見かけたら……それは俺に責任があるな。

ビリー:ロールモデルはそうあるべきだと思う。現実的でないと。問題は、手の届かないロールモデルを目指したり、手の届かない人生や、手の届かない顔や身体を夢見ること。そういうのは健全じゃない。特に子どもたちにとってはね。私たちはみんな現実を生きる人間だから。みんながネットやSNSで目にする有名人は、現実を生きる本物の人間だとはみなされない。私自身もそう思われたり、まるで何かのキャラクターのように見られていることがある。私たちも車の中でじっと耐えている普通の人間なのに。

ストームジー:〈恩に報いる〉って言葉も好きじゃない。まるで台の上に立って、自分は他よりも優れた人間だから施しをするみたいな感じがする。俺はただ、愛とポジティビティを広めたいだけなんだ。今やっている活動も、何の苦労もなく達成したいわけじゃない。俺たちにはプラットフォームがあって、リソースがあるから、どんな方法でも愛とポジティビティを広めることができる。いちばん誇りに思っているのは出版社〈Merky Books〉を立ち上げて、メインストリームでは取り上げられないひとの本を出版していること。でも、これは俺自身とチーム、俺たちの延長線上にあるものなんだ。

最近の風潮なのか、昔からあるものなのかはわからないけど、今はアーティストはアクティビストであるべきだというプレッシャーがある。でも、ただそうしたいからという理由で歌ったりラップしたり、踊ったり、フットボールをしたらダメなのかな? どうしてアクティビストになるという義務を果たさなきゃいけないんだろう?

ビリー: 難しい問題だね。自分の声を届ける手段がない人びとの立場で考えると、注目を浴びているひとだけがチャンスに恵まれていることに苛立ちを覚えるはずだから。注目を浴びているひと全員がアクティビストとして世界を変えることを期待されるのは、ちょっと不公平だけど。だってそんなの無理だから! 

私たちの発言には多くのひとが耳を傾けてくれるし、私たちにはプラットフォームがある。でも、できることには限度がある。それが難しいところ。世界を変えたいという強い意志があっても、私のような特権が手に入らないひとは気の毒だと思う。

でも同時に、アーティストは当然アートをつくることだけに集中したっていい。自惚れるわけじゃないけど、私もあなたが言うように愛とポジティビティを広げてきた。少なくとも、その努力はしてきたと思う。できるだけ自分のプラットフォームを活用するために尽力してきたのに、誰もそんなことは気にもしていないと感じることもよくある。誰かを助けたり、メッセージを広めようとしても、コメントで〈畜殺牛〉なんて呼ばれたりもする。アーティストになったきっかけは覚えてる?

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Coat, hood and necklace GIVENCHY. Hoodie (worn underneath) HAMCUS. Trousers JUUN J. Boots THE SOLOIST AW19 courtesy of ARTIFACT NY.

ストームジー:物心ついた頃からずっと歌ったり、MCしたり、ラップしたりしてた。今ここでグライムについて説明する時間があるかはわからないけど、グライムを始めたのは11歳くらいで、そのあと曲を作ったり、とても曲とはいえないものだけど、ビートに乗ってラップしたりするようになった。
過去に戻って、14歳の自分にお前はミュージシャンになるんだ、と言っても信じないだろうね。楽器もできないし、知識もなかった。あったのは音楽への愛だけ。その音楽への愛から成長していったんだ。ゆっくりと、少しずつね。スタジオにずっといた君とは違うよね。

ビリー:私も歌うのが大好きだった。小さい頃から1日中歌ってた。両親は「静かにしなさい!!!」って感じだったけど。でも、今でも自分のことは歌手だとは思ってない。理由はわからないけど。もしかしてインポスター症候群かな? 子どもの頃から一番好きなのが歌うことだったけど、誰にもそれを伝えたことはなかった。歌っていた他の子たちはみんな歌手だと思っていたけど、自分自身は違った。私はただ歌うのが好きなだけ。仕事とかではなかった。ただの自分が大好きなこと。

母が昔作曲をしていて、私と兄に曲の作り方を教えてくれた。それで自分たちで曲を作り始めて、あるときから一緒に作るようになった。13歳のときにふたりで作ったのが「Ocean Eyes」。SoundCloudで公開した。別にアーティストを目指していたわけじゃない。私と兄が遊びでやっていたことが、どんどん大きくなっていっただけ。そのなかでだんだん自然体でいられるようになっていった。今はこれまで一番居心地がいい。誰も興味なんか示さないと思ったけど。

ストームジー:「Ocean Eyes」を作ったとき13歳だったって?

ビリー:うん。

ストームジー:マジか。

ビリー:今振り返ってみると変な感じ。ちょっとゾッとした。「Ocean Eyes」を作ったときは、ずいぶん成長して大人になったような気がしていたけど、全然そんなことなかった。ヤバいね。

ストームジー:君の作詞スキルは、あの頃から相当だったいたよ。マジで度肝を抜かれた。新しいアルバムについて話してもいい? すばらしかったよ。とにかくそれを伝えたかった。2ndアルバムというものは難しい。自分の知識に固執するか、思い切って挑戦するか、それとも何から何まで把握しようとするのか、そのどれかになる。1stアルバムが大ヒットしたら、2ndアルバムへのアプローチは難しくなる。

でも、今回の君のアルバムは、全然そんな感じはしなかった。自分の2ndアルバムを聴くと、産みの苦しみや、答えを探しているのになかなか見つからないことが感じ取れる。でも、君のアルバムは、2ndアルバム・シンドロームなんかクソ食らえって感じだ。君はそれを粉々して大成功を収めた。この質問はちょっと答えにくいかもしれないけど、ファンとして、ミュージシャンとして、どうやってこのアルバムを制作した? 中心にあるテーマは?

ビリー:優しい言葉をありがとう! プロセスは順調だった。15〜16歳で最初のアルバムをつくったときは大変だった。楽しい年頃じゃないし。実際、すごく大変な時期だった。このアルバムは私にとって、感情的にも精神的も完璧なタイミングで生まれたもの。体力的にもね。何もかもがちょうどいいタイミングだった。このアルバムをつくったのは何年も前、レーベルの目に留まるずっと前だった。プレッシャーもないし、あれこれ言ってくるひともいなかった。ただインスピレーションが湧いただけ。時間をとって曲を作って、アルバムをつくり始めて、自然と完成していった。

簡単じゃなかったけど、心からアルバムも曲も気に入っていたし、気楽に作業できた。みんなにこの曲が気に入られなくても気にしない。私が気に入ってるんだから。リリースが近づくにつれて、発表したくないと思うくらい。このアルバムは私の大切な子だからみんなにはもったいない、って。心から愛してるから、自分だけのものにしておきたかった。秘密みたいに。

でも、みんなに愛されても愛されなくても、とにかく世に出すことにした。

billie eilish in an oversized coat with a burning car behind her
Coat GIVENCHY. Hoodie and trousers MELITTA BAUMEISTER.

ストームジー:一番気に入っている曲も教えてくれる?

ビリー:その時によって変わる。最初は「Lost Cause」で、それから「Oxytocin」、その次は「Male Fantasy」。「Getting Older」も好きだし、「Your Power」も気に入ってる。どれもすごく大切な曲だから、1曲1曲について詳しく話せるよ。

ストームジー:「Male Fantasy」について話してもいいかな。すごく好きな曲なんだ。解説してもらえる? 自分の解釈を話す前に、君の話が聞きたくて。

ビリー:この前、ポルノがいかに愚かで非現実的かっていう話をしてた。ポルノの世界がいかに非現実的で、女性蔑視的で、完全に馬鹿げてるかをね。話すのが気まずい話題だとされているなら、率直にポルノについて話す曲を作るのは良いアイデアだと思ったの。ポルノは侵害された気持ちにも、良い気分にもなりうるもの。そういう対話から、この曲が生まれた。

できるだけ率直に語りたかったから、なかなか苦労した。無防備になって、正直に自分の人生について打ち明けるのは難しい。過去のことや、以前はどんな想いを抱えていて、どうやって新しいものの見方を身につけたのか、どうやってその状況から抜け出したかを話すほうがずっと簡単だと思う。

だから、普段なら、今この瞬間に体験していることについてはあまり書かないようにしてる。自分の中でケリをつけるのが難しいから。つまり、これは自分が感じていたことにまつわる曲なの。難しくて、やりがいがあって、赤裸々で、率直で、同時にすごくカタルシス効果のある曲。

ストームジー:何度も聴いてるよ。どんな音楽を聴いていても、俺は必ず歌詞を読むんだ。言っていることを理解したい。君はいつも重要なことを伝えてる。今まで一度も考えたこともないような、興味深い視点を持っている。俺がこのアルバムをまとめるとしたら、君はクラシックで、時代を超越していながら、同時に信じられないくらい先見の明があるということかな。

ビリー:そういう多才さこそが、私が目指しているものなの。私にとって一番の悪口は、同じような曲を何度も作っているといわれること。幅の広さを身につけたい。シングルじゃなくて、アルバム・アーティストになりたい。アルバム・アーティストはそれほど多くないけど、ひとつの完成した作品のようなアルバムが好き。

ミュージシャンにとって、アルバムは最大規模の作品をつくるチャンス。ただ曲を集めただけのプレイリストとは違う。アルバムは美しい。歌詞も重要なパートのひとつだけど、その重要さが理解されていないとか、あまり重視されていないようにも感じることもある。だから良い歌詞との出会いは、すごく貴重なものだと思う。

ストームジー:それはすべて君の作品に表れてるよ。君が言ったこと全部がね。曲から聴こえてくるんだ。細部までのこだわり、歌詞……。これだけは伝えたいんだけど、有名なアーティストが必ずしも偉大だとか物事を前に押し進めるとは限らないこの世の中で、君はこのアルバムでアートに真っ向から取り組んでいることが伝わってくる。

俺も触発されたよ。もっと自分の作品に集中できるように努力したい。ミュージシャンを目指しているひとなら誰でも、君から刺激を受けるはずだ。君は成功のために、自分の何かを犠牲にしたわけじゃない。君は君のやり方で成し遂げた。このアルバムを聴いた瞬間、マジで度肝を抜かれたよ。もっと守りの姿勢に入ったり、安全地帯に留まるかと思ったけど、君は本当に自分がやりたいことをやってのけたんだ。

アルバムを通して、細かなところまで気を配ってる。これからが楽しみだよ! この先、君が曲を作ってリリースして、聴いたひとが何かを見逃してるような気がしたり、君が好きな歌詞やメロディに注目してくれないこともあるかもしれない……。そこで「Everybody Dies」について話したい。歌声の合間の呼吸が聴こえるけど、普通はエンジニアがカットするのにあえて残しているよね。

ビリー:わあ、気づいてくれてうれしい! カットするのが昔ながらのやり方だね。音楽制作には当たり前のルールがたくさんある。ボーカルの編集とか、シンセやピアノのパッチとかね。

兄は今プロデューサーとして他のアーティストとも仕事をしてるけど、彼にこう訊いてみた。「こうする決まりなのは知ってるけど、自然な音を残しておいてもいい? 歌うときの音とか歌っているときの動きとか、息の音とか。部屋の中の音を残しておこう」って。兄はそういうことにかけては天才なの。彼も私と同じ。普通のやり方だからといって、それに従う必要はない、っていう考え。好きなようにすればいい、って。だから私たちは感じるままに作ってる。

ストームジー:このアルバムでは、声の使い方もすごく幅広いよね。

ビリー:それは曲を作り始めてから、私の声が劇的に変わったせいかもしれない。音域が広くなった。思春期はあまり音域が広くなくて、そんなときに初めてのアルバムをつくった。まだ声も完全に成熟していなかった。昔の曲を聴くと、今回のアルバムとは全然違う。

前はできなかった歌い方で歌えるようになったし、前は出せなかった音が出せるようになった。今はもっと静かに歌えるし、胸を開いて歌えるようになった。選択肢が増えたの。もっと若い頃に曲を作っていたときは、その選択肢はなかった。声も子どもの声で、自分が持っていたもので作業した。だから、今回のアルバムでも、自分が使えるものはすべて使いたかった。

ストームジー:ありがとう、ビリー。インタビューを引き受けてくれて感謝してる。誰よりも先にアルバムを聴かせてくれてありがとう。光栄だし、俺は本当に恵まれてるよ。これは君の大切な子だって知ってるから。

正直、アーティストとして必要なことはよくわかってる。細かなところへのこだわり、努力、勇気、決断だ。もし誰かがこんなアルバムをつくったら、心から尊敬する。3rdアルバムや4thアルバムも楽しみにしてるよ。君こそが真のアーティストを体現する存在だ。有言実行で、望んだことを実現して、自由自在に自分を表現する。君こそが証拠で、インスピレーションで、最高のスターだよ。

ビリー:最高なのはあなたもだよ。愛してる。花とケーキを送るね。

ストームジー:次にロンドンに来たときはまた会おう。

ビリー:ありがとう。しっかり愛を受け取ったよ。夢みたいな時間だった。

billie eilish on the cover of i-d fall 2021

クレジット


Photography Glen Luchford
Fashion Alastair McKimm

Hair Benjamin Mohapi for The Benjamin Salon.
Make-up Rob Ramsey at A Frame Agency using BITE BEAUTY.
Set design Gideon Pointe.
Lighting director Jack Webb.
Styling assistance Madison Matusich and Milton Dixon III.
Art coordinator Jenn Lee. Leadman Brad Zoellick.
Producer Gabe Hill. Production manager Suzy Kang.
Production coordinator Dani Fernandez.
Production assistance Noah Ponte and Jake Torres.
Special thanks Amanda Merten.
Casting director Samuel Ellis Scheinman for DMCASTING.

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