Photography Cailin Hill Araki

23歳の環境アクティビストが、学生から社会人になって感じたこと

就活はアクティビズムの終わり? 日本におけるFraidaysForFutureの初期メンバーでもある環境活動家・今井絵里菜が社会人になって気づいた葛藤と希望。

by Natsu Shirotori
|
21 September 2020, 9:27am

Photography Cailin Hill Araki

2020年7月、海外の例に倣い日本でも一斉にコンビニやスーパーにおけるレジ袋の有料化が始まった。経済産業省は廃棄物や資源の制約、地球温暖化などの状況を踏まえた上で、「レジ袋を有料化することで、それが本当に必要かを考えていただき、私たちのライフスタイルを見直すきっかけとすること」を目的とした政策だと発表している。実際、この政策の後、コンビニから商品を手で受け取って出てくる人々やマイバッグを持ち歩く人々を以前より多く見かけるようになった。世界的な気候危機・地球温暖化への関心の高まりと呼応して、日本でも消費者のレベルで取り組みを始める人々は現れている。

しかし、海外の状況と比較すると日本の環境問題への取り組みは決して進んでいるとは言えないだろう。世界的には環境への負荷が大きい石炭火力発電からの脱却路線が主流となり、ヨーロッパを中心に2030年までに石炭火力発電所の稼働を0%にする目標を立てている国々がある。一方で、日本ではいまだ新たな石炭火力発電所の建設計画が持ちがっている。

このような状況の日本だが、環境問題に強く関心を持ち動き出した若者たちもいる。今回取材したエリナ(今井絵里菜)もその一人だ。グレタ・トゥーンベリから始まった世界的な気候変動に対する学生中心の抗議アクション「#FridaysForFuture」の日本支部立ち上げにも関わった。彼女は、大学での学術知の習得、企業や国への訴訟、路上でのアクティビズムなど様々なアプローチで環境問題に関わろうとしてきた。学生時代から社会人になった現在まで、どのような思いで環境問題に取り組んできたのだろうか。

ドイツでの「アクティビズムへの目覚め」

彼女が環境問題について強く関心を持ち始めたのは、大学受験の3ヶ月程前、英語の勉強のために聞いたTEDスピーチがきっかけであったという。経済学者のスピーカーは環境問題について「国連のミレニアム目標における開発援助の使い道として、支出するドル当たりで最も良い効果を生むのはどの目標かを測定し決めるべきだ」と語った。課題解決と経済的合理性との両立の必要性を感じた彼女は、神戸大学の経済学部に進学し「環境経済学」を専攻することとなる。

2017年夏、当時大学3年生の彼女は環境先進国ドイツへと渡る。国連による気候変動枠組み条約締約国会議(COP23)への参加権を手にした彼女は、同会議の会場で行われていた一つのデモの前で足を止めた。「Sayonara coal」と呼ばれるこのデモでは、東南アジアの環境NGO団体が中心となり、日本へ石炭火力発電からの脱却が訴えかけられていた。この場で初めて石炭火力発電による害について知ることとなった彼女は、「すごく申し訳ないというか、日本に向けられたアクションだし、どうしたらいいのかなと思ってデモに自分も参加した」と話す。この経験が、その後の「アクティビズムへの目覚め」ともなったという彼女は続けて、「プラカードを持って交渉官や参加してる大人に訴えるロビイング活動を行うことに意義を感じた」と語る。

環境アクティビスト, 今井絵里菜, グレタ, 気候変動, FridaysForFuture, 学生, 裁判, 環境問題, 就活,
COP23の会場で行われた「Sayonara Coal(さよなら石炭)」の抗議アクション

COP23参加後、約1年間のドイツでの留学中に目にした数々の場面が、さらに彼女に意識の変化をもたらしていた。大学ごとに設けられる協議会もその一つだ。生徒会のようなこのシステムでは、学生は実際に存在する政治的会派の学生部として選挙へ出馬することになる。

例えば、緑の党(ドイツ第4の党、環境政策に重点を置く)の学生部であれば、自転車ユーザーに優しい校内の環境整備や学食へのベジタリアンメニュー導入の提案するなど、各会派の主張と近い政策を学校生活の中にも溶けませるような仕組みとなっている。留学生も含め、全生徒に選挙権が与えられ、学生たちは個人の学生生活と学校という小さな社会の制度の結びつきを自然と意識できるようになる。「大学の自治にしろ、人々が民主主義がどういうものか学ぶ機会が多い」仕組みによって、ドイツでは環境問題に関しても草の根運動が盛んなのだと言う。

環境アクティビスト, 今井絵里菜, グレタ, 気候変動, FridaysForFuture, 学生, 裁判, 環境問題, 就活,
StuPa(学生議会)は学生団体の最高の意思決定機関、その責任は学生予算の準備にも及ぶ。キール大学では8/21議席を緑の党が獲得。

草の根運動が変化を生む

2018年8月、グレタ・トゥーンベリから始まった「#FridaysForFuture」の活動が世界的な広がりを見せていた。エリナは同時期に留学を終え、日本へと帰国した。手作りのプラカードを持ち、学校を休んで座り込みによって気候変動対策を訴え続けるグレタの登場に対し、「これまで、草の根運動は重要だということを信じたかったけど信じ切れてなかった。自分の考えの甘さを彼女に気づかされた」と語る。ドイツでの経験とともに、小さなアクションから生まれる変化への可能性を信じ始めていた。

帰国から数ヶ月後の2018年11月、彼女は神戸製鋼石炭火力発電所の新設に関する行政訴訟の原告団へ加わった。自身が通う大学の教授の勧めもあり、若い同世代への問題提起も目指し、人生で初めての裁判を体験することとなった。原告団に加わったことについては、周りの友人からの反応も様々であった。当時、就職活動中だったエリナに対し、周りの友人の中には「就職にリスクがあるのではないか」「転職に影響するのではないか」と心配する声もあったという。そんな意見に対しても彼女は「訴訟自体は被告人はとっているものの、目的はその企業を貶すことではない」と語り、「共に良い社会を作っていくため」に、訴訟という手段も有効なのではないかと言う。

「#FridaysForFuture」の動きは、翌年2019年2月に日本でも始まった。就職活動中であった彼女は面接を終え、スーツ姿のまま初回の国会前で行われた路上アクションに駆けつけた。東京でのアクションに参加した後、地元京都と大学のある神戸にて「#FridaysForFuture」の支部を立ち上げた。

環境アクティビスト, 今井絵里菜, グレタ, 気候変動, FridaysForFuture, 学生, 裁判, 環境問題, 就活,
神戸のFridaysForFuture

活動の開始当初の様子について、「人が多く集まるところで、金曜日にプラカードを持って立っていても、その時間を無駄にしているような、会話が生まれないような状況もあった」と語る。

しかし、地道な草の根運動の力を信じ、毎週同じ場所に立ち続けると徐々に通行人からの反応が返ってきた。活動中に京都で出会った当時高校生で、日本を訪れていたドイツ人アクティビストの高校生の少年とは、2019年の夏、再びドイツを訪れた際に再会した。彼らは、アクションのために学校を休むことが、担任教師の説得から始まり最終的に文部科学省など国の行政機関に届くことで、議論が起こることを知っていた。

コロナウイルスの影響を受けて、「#FridaysForFuture」の路上アクションが難しくなった今年4月、日本ではTwitterを利用したオンラインアクションが実施され、「#気候も危機」のタグがトレンド入りした。9月25日には世界気候アクションが予定されており、彼女も参加するつもりだという。

COP23への参加から、訴訟の原告団、「#FridaysForFuture」まで、国や企業という大きな組織を相手にアクションを起こしてきた彼女はこう話す。「プラごみの問題にしても、一人ひとりの使用量を削減する方法は多くの人が知っているけど、なんでこんなにプラごみが流通しているの?というように深めて考えられていない。プラスチック性の製品を作らない企業が増えたら流通する量も減る。なのにそこにはあえて目を向けないんじゃなくて、知らない」そんな人が多いのではないかと語る。彼女自身も、かつては消費者としてできる気候変動対策を中心と考えていたが、環境経済学の勉強やアクティビズムの実践から得た知識に基づき、今では企業や行政への働きかけの重要性も強く感じている。

社会人アクティビストの葛藤と希望

現在、彼女は大学を卒業し、再生可能エネルギー業界のベンチャー企業に勤める社会人となった。地球温暖化や気候変動を止める、あるいは遅らせるためにはCO2の削減が必須だ。「私は人生に費やす時間を、気候変動を止めることに充てたい、二酸化炭素をなるべく多く減らせる分野に関わりたいと思っていた」と一貫した環境問題への意識のもと、CO2削減にアプローチしやすい分野として再生可能エネルギー業界を選択したという。ビジネスの側面から、直接的に環境問題へのアプローチをする方法を選んだ彼女だが、時間的にも労力的にも、以前よりもアクティビズムにコミットできる量が減少したことに若干の歯痒さを感じている。

また、就職活動時、アクティビズムや自らの主義とビジネスとの間で葛藤したこともあったという。環境問題にアクティブに関わっていた友人の中には別分野の業界に身を投じ内側からの変化を目指す者もいるが、「(大きな企業だと)一人ひとりの変えられる範囲や任される仕事の範囲が狭くて、役員になるには10年20年かかると聞いて、私にはその体力はないと思った」と話す。影響力の強さと主義主張の自由度のあいだの葛藤だ。

そのような葛藤や歯痒さを感じた一方で、社会人ならではのメリットも感じているという。「学生って自由な立場ではあるけど、同時に解決するにしても人々の意識を変えるとか提言するっていう部分しかできないから、力がないなって思っていた」と語る彼女。力のない中で懸命に動いた結果、現れた結果が路上アクションだったのではないかという。それに比べて現在は、仕事を通じて「与えられている影響でいうと、もしかしたら今の方が大きいのかもしれない」と話す。

企業の使用する電力を再生可能エネルギー由来ものに切り替えるなど、大きな影響力を持つことができるのは社会人ならではだ。社会人から学生への活動の継承やサポート、別分野で働く知人同士の連携など、今の立場だからこそできることもあると話す。

様々な立ち位置から環境問題に取り組んできた彼女だからこそ、「持続可能なライフスタイルを提唱していく存在」と「大きな組織に対して市民が立ち向かう」ことの両輪が大切だと語る。いま、日本における環境問題の解決にも草の根運動の強さを信じ、個人同士の連帯によって大きなうねりを生み出すことが求められているのだ。

Tagged:
climate change
Opinion
Greta Thunberg
FridaysForFuture