精神科医とカウンセラーの違いって何? メンタルヘルスにまつわる10の質問

思っているより「精神科」ってこわくないかも? 臨床心理士やカウンセラーとの違い、病院の選びかた、受診したほうがいいタイミングなど、気になるポイントを精神科医・阿部大樹さんにきいた。

by Sogo Hiraiwa; as told to Kimi Idonuma, and Sogo Hiraiwa
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07 October 2020, 3:00am

「メンタルヘルス」という言葉をこの数年、よく耳にするようになった。うつ病から睡眠障害、依存症まで、その意味する範囲は広いが、どれも「心の健康」にまつわるものだ。

メンタルを病むのは、低賃金で働きづめの社会人だけともかぎらない。先日発表されたユニセフの報告書では、調査対象である38の先進国のなかで、日本の若者の精神的幸福度(メンタルヘルス)は37位だった。厚労省の白書によれば、日本における15歳から34歳の死因のトップは自殺で、2018年の19歳以下の自殺死亡率は統計がはじまった1978年以降最悪となっている。

こうした状況に対する問題意識から、あるいはビリー・アイリッシュやカニエ・ウェストのような著名ミュージシャンたちが自身の精神的な問題をパブリックに発信しはじめたことと呼応するようにして、最近ではファッション雑誌やカルチャーメディアでも「メンタルヘルス」やそのケア方法が頻繁に取り上げられるようになった。TwitterやInstagramの投稿で、うつ病や拒食症、依存症に関する情報がまとめられた、親しみやすいイラストを見かける日も珍しくない。

けれども、無料で手に入るSNS上の情報や自分でできるコーピング(ストレスの対処法)には限界がある。一人ではどうしようもない状況というのもある。そんなときは、その道のプロに頼ってみるのがいいだろう。

今回i-Dは、H・S・サリヴァン『精神病理学私記』やルース・ベネディクト『レイシズム』の翻訳家としても知られる精神科医の阿部大樹さんにインタビューを敢行。精神科にはどういうときに行けばいいのかという初歩から、カウンセラーと精神科医との違い、病院の選ぶときのポイントまで、根掘り葉掘り話をきいた。

──「精神科医」というとフロイトやユングのイメージもありますが、普段はどのような仕事をされているのか教えてください。

阿部:精神科医というとちょっと特別に聞こえるかもしれないけれど、小児科医や婦人科医と一緒で、基本的には高校を卒業して、医学部に6年間通って医者になります。普段している仕事は、大きくわけて外来診療と入院診療のふたつがあります。入院診療は入院している患者さんを診察するもので、多くの方が1、2ヶ月で退院していきます。外来診療は、患者さんに予約してきてもらって、初めての診察では30分、二回目以降は毎回10分程度のお話をしながら診察していくことです。外来は、病院だけでなく街中のクリニックでも行われています。これも2ヶ月程度で回復して通院を卒業していく方が多いですね。

──メンタルを病んだときにすぐに思い浮かぶものとしてカウンセラーもあると思うのですが、精神科医との違いは何でしょうか?

A:まず精神科医というのは医師免許を持った「医者」ですね。次に臨床心理士や公認心理師というのも医師に準じる期間(大学院など含めて6年以上)の教育を受けた「心の専門家」です。なお、上記以外で「カウンセラー」などを名乗っている人もいますが、十分な訓練や知識がないことが多いので相談することは避けましょう。

──しっかりとした見極めが必要ですね。どのような人が精神科医に行って、どのような人が臨床心理士に行けばいいのでしょうか?

A:精神科医が行っているのはあくまでも「医療」ですから、おおよそ1、2週間に1回とかで通いつつ、2、3ヶ月をめどに回復することを目指すものです。骨折したら整形外科にいくとか、おなかが痛かったら消化器科に行くのとかと似ています。診察費も保険が効くので、おおよそ月4,000円程度に収まることが多いでしょう。

一方で臨床心理士や公認心理師のもとで行われるのは、何年もかけて取り組むような「生き方」とか「小さいころの生活に原因のある対人関係の偏り」に対する心理療法ですね。その場合には認知行動療法とか精神分析などが行われます。週に2回以上の間隔で治療を行うことも多く、保険がきかないので治療費として月30,000円以上はみておいた方がいいでしょう。

どこに相談に行ったらいいか分からない場合には、まずは精神科を受診して相談してみるというのがいいかもしれませんね。

──扱う問題がまったく違うんですね。精神科にいくとなるとかなりハードルが高く感じるのですが、「精神科にいくほどじゃないかも」と悩んでいる人も行って大丈夫なのでしょうか?

A:困っていることに関して、友人知人とか、家族などに相談して解決するならばそれが一番だと思います。悩み事があったら、まずは自分のことを良く知っている人に相談してみるというのがいいでしょう。それでも解決できないとか、あるいは相談する人が見当たらないというときには医者のところに相談してみるというのはいいことですよ。自分よりもっと辛い人がいるかもしれないと遠慮する必要はありません。苦しみに順序をつけても仕方ないので。

──さっきのお話だと診察は初診が30分、それ以降は一回10分程度ということですが、その短い時間のなかで自分の病状をちゃんと自分の言葉で伝えられるだろうかと心配になりました。

A:自分が何で困っているのかって初対面ではなかなか言えないですよね。緊張もするし、診察室に入るまで医者先生が男か女かも分からないわけで。だから、1回の診察だけで治療方針を全部決めちゃうことはないんですよ。次回いらっしゃったときにまた続きの話を聴かせてくださいねと言って、2回3回と来てもらう。そうすると緊張もほぐれていって、その人の特徴やその人が本当に困っていることもだんだんとわかっていく。

──施設によっては毎回診る先生が違うという話も聞きますが、同じ先生に続けて診てもらわないとダメそうですね。

A:一人の先生が継続的に診てくれるほうが間違いなくいいです。「ゆうメンタルクリニック」など、都心で大規模に展開しているクリニックだと、アルバイトのドクターがシフト制で回しているところもあります。毎週通っても行くたびに違う先生だったら、自分の難しい状況の話なんかとても話せないですよね。なので、事前に病院に電話して、主治医制か(一人の先生が継続的に診てくれるか)どうか聞いてみるのがいいと思います。

──それでも金銭的に受診が難しいという人が受けられるサポートや制度はありますか。

A:統合失調症やアルコール依存症、うつ病などの場合には精神障害者手帳を取得したり、あるいは外来通院の負担を軽くする自立支援医療という制度もあります。医療負担の割合は障害の程度(1級〜3級)にもよりますが、年齢や母子家庭などの環境次第では、0割負担になる場合もあります。また、どうしてもお金がないという人には障害年金が支給される場合があるので、主治医の先生に「今の自分の状態で障害年金ってもらえますか?」と聞いてもらうといいと思います。

編注:対象者や助成内容も自治体で異なるため、詳しくは市区町村の障害福祉窓口に問い合わせてみてください。

──心身的な負担から長期的、定期的な通院・入院が難しい人もいると思います。そういう人たちにアドバイスできることはあるのでしょうか。

A:それは大事な問題ですね。精神科に限らず、一番大変な人って自分で病院に来れないんです。たとえば、転んで両足を骨折した人や家でお風呂に入っている時に心臓が止まった人も自分では病院に行けないですよね。ただ現状の医療の枠組みでは、自分の力で病院に来れない人をなんとかするのは難しい。医者が家を訪問してまわることもできないわけで。自分の力で病院に行くのが難しいときは、家族や友達に連絡して一緒に受診してもらうとかそういうのをお願いするしかないかな。病院に来たらいろいろできることはあるんだけど、病院にくる前に医者っていう立場でできることはかなり少ないのが現状ですね。

──骨折などと違ってメンタルは事前に対処できるものなので、重症化する前に、病院の外でメンタルヘルスをケアできる場所があるといいのだろうなと思いました。たとえばアメリカの映画やドラマでよく描かれるグループカウンセリングのように気軽に行ける自助会があれば、また違ってくるのかなと。

A:病院以外の場所で、精神的な問題を解決できる場があるといいというのは確かにそうですね。最近は大学でも学生相談室への予算が拡充されてきているし、会社でのストレスチェックなどが制度化されてきているので、心理的な問題を社会でちゃんと手当てしていこうという動きはあるのだと思います。

ただ、グループカウンセリングといっても、悩んでいる人がただ集まって喋るだけだと良くなるどころか悪くなってしまうこともあります。その場に10人いたら、当然そのなかで相当な相互作用が起こるわけで、そこでどう相互作用するかを理解・把握してマネージメントできる人が必要になる。ですが、日本にはその訓練を受けた精神科医や公認心理士が少ないのが現状です。

──ただ場所が用意されていて、なんとなくリーダーっぽい人がいるだけでは悪化する場合もあると。

A:よく知られたところでは、拒食症の若い子たちはよくSNSを通してコミュニティを作っています。けれども、そのコミュニティに入ったら良くなるかというと逆で、コミュニティに入ったからこそもっと痩せようと思ってしまったり、他の人がしている悪い“治療法”を真似したりして、悪化させてしまうことがあるんです。

──病院に行く手前にできることでいうと、市販で手に入る薬やサプリはどうでしょうか?

A:おすすめできないですね。市販のサプリメントは避けましょう。サプリメント1瓶に3,000円、4,000円払うなら、精神科に一回来るほうがずっといいですよ。

──たしかに。この数年「メンタルヘルス」という言葉をよく耳にするようになり、うつ病と診断される人の数も年々増えていますが、その原因はなんだと思われますか?

A:第一の原因はうつ病というものがよりよく知られるようになって、それまでは病気とされていなかったものまで含めて病院に来るようになったり、薬を処方されるようになったことだと思います。日本に関して言えば、それ以外の要因として、労働時間が長くなったことや核家族化が進んだことなども挙げられるかもしれません。

──うつ病のカジュアル化はどのように起こったのでしょうか。

A:1970年代頃まで「うつ病」というと、自殺してしまうような非常に重い状態だけを指す言葉でした。それが90年代以降、抗うつ薬を売り出したい製薬企業の思惑もあって、「うつ病」という言葉がもっと軽い落ち込みまで含めて使われるようになりました。これには良い点と悪い点があって、まず良い点は今まで病気と思っていなかった人の受診につながったこと。悪い点は、誰にでもあるタイプの生きにくさや個性というものまでうつ病と人々がとらえるようになったこと。個人的にはその負の側面の方が大きいと思います。

──最後に、受診を考えている人にアドバイスがあれば教えてください。

A:精神科を受診しようかと悩むくらい具合が悪いときには、会社を休んででも病院にきてください。長時間労働などが原因になっているときには特にそうです。体調不良にもかかわらず1日休むこともできないような労働環境では、ほっておいても心身の不調は悪化するばかりです。労働災害となる可能性もあるので、公的な記録を残しておくという意味でも、とにかく一度受診することをおすすめします。

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Daijyu Abe