ユダヤ教超正統派を描くNetflixドラマ『アンオーソドックス』主演、シラ・ハース interview
「何年後かに振り返ったら、あの役が私のキャリアの土台になった、って思うはず」。イスラエル人俳優シラ・ハースが、自らのキャリアとNetflixドラマの舞台裏を明かす。
Shira is wearing a swimsuit by DODO BAR OR.
シラ・ハースにとって、ここ数ヶ月の生活は、今までとは少し違うものだった。主演作『アンオーソドックス』の大ヒットを受け、彼女は好意的なレビューの波に乗り、映画祭、授賞式、プレミアに参加するために世界中を飛び回っていた……。そう、新型コロナウイルスの感染が広がるまでは。
彼女は突然テルアビブの自宅にこもりきりになり、家族や友人、仕事仲間にも会えなくなった。しかし、ロックダウンを体験したひとの多くが壁の中に閉じ込められたように感じ、両親やルームメイトと折り合いをつけるのに必死になっていたいっぽうで、シラはこの期間のおかげでようやくひと息つき、本作が公開されてからの出来事を振り返る時間がとれたという。
未見のひとのために説明すると、『アンオーソドックス』でシラが演じる主人公のエスティ・シャピロは、ブルックリンのユダヤ教超正統派、サトマール(世界随一のユダヤ教コミュニティであるハシディックの一派)のコミュニティで育った女性。
厳格な伝統と家族からの絶え間ない干渉によって、エスティは偏狭なコミュニティに息苦しさを覚えはじめる。ハシディックの青年ヤンキーと結婚し、家庭と家族中心の生活が始まると、彼女はコミュニティから逃げ出し、ベルリンで新たな生活を始める決心をする。
生まれながらに好奇心旺盛で、野心家で、歌の才能に恵まれたエスティは、そこでようやく、ハシディックの新妻としての息の詰まるような期待から逃れることができるのだ。
それを象徴するのが、エスティがベルリンのヴァン湖に入っていき、シェイテル(ハシディックの既婚女性の大半が身につける伝統的なウィッグ)を取り去り、水に身を沈めるシーンだ。まさにカタルシスを呼ぶ通過儀礼であり、近年のドラマのなかで最もパワフルに解放を描いた場面といえる。

シラ自身はテルアビブに近い街で、それほど信仰心の篤くない、協力的な家族のもとに生まれたが、エスティが体験した人生を変える瞬間に共感したという。「私は8歳のときからすごく好奇心旺盛だった」と彼女は電話で語る。「身体は子どもだけど中身は40歳みたいな感じ。いつも真面目な質問ばかりしてた」
それは今でも変わらない、と彼女は説明する。のちにベルリンの音楽学校のオーディションを受けることになるエスティと同様、シラ自身も内なる声に耳を傾け続けた。「演技を始めたことでいろんな可能性が広がった。アートの世界で夢を追うことができるようになったの」
『アンオーソドックス』は、ポップカルチャーではほぼ描かれることのないコミュニティの実態を垣間見せているだけでなく、青春ストーリーとして観ることもできる。エスティがコミュニティを去る決断を、ごく自然で共感できるものとして描いていることこそが、本作の核となっている。
つまり、今いる場所を離れて自分だけのコミュニティを探す権利は誰にでもあり、生まれついた環境に人生を定められる必要はないのだ。

「家族は私にとってとても大切」とシラはいう。「毎週金曜には家族とシャバット(安息日)の食事をする。でも、ロックダウン中は祖母に会えないからすごく寂しい」
「仕事仲間もすごく特別な存在。セットで充実した数ヶ月をいっしょに過ごすうちに、仲間の俳優たちとコミュニティを築き、みんなに共通のルールができるの」
自分のアイデンティティを形成し、帰属意識を与えてくれるさまざまな場を行き来することは、まさに真の自由といえる。その自由は、残念ながらエスティのような超正統派の若い女性は、なかなか享受できないものだ。さらに、コミュニティを離れる決心をした人びとは、完全に縁を切られてしまうことが多い。
「彼女のキャラクターに共感してくれるひとは、世界にたくさんいると思う」と彼女は語る。「いろんな国から反応があった。特に宗教的でないひとやユダヤ人、お年寄りや若者、アルゼンチンからドイツまで。みんなの感想はほぼ同じで、『自分もエスティだった』って」
「でも、こんなに多くのひとが感動してくれて、この物語がこれほど普遍的なものだったとは思わなかった」

そのいっぽうで、特にハシディックのコミュニティから、本作がサトマールの人びとを冷酷で思いやりのない存在として、あまりにも辛辣に描写している、という声もあった。
しかし、このような批判は、実在の話に基づくドラマにはつきものだ、とシラは述べる。『アンオーソドックス』はドキュメンタリーとしてつくられたわけではない。あるコミュニティを通して語られる、自らの足で立とうと奮闘する少女の普遍的な物語だ。
「衝撃を与える作品はいろんな感情を呼び起こすから、どんな感想でも歓迎したい。でも、ほとんどはすごく良い反応をもらってる」
「コミュニティの外の人びとにとって、ハシディックは得体の知れない存在かもしれないけれど、私は偏見にとらわれず、好奇心を持ってアプローチしてきた。知らないひとも多いけれど、超正統派のユダヤ人のなかでもいろんな宗派があるの」
例えば、同じくNetflixで配信中のドラマ『シュティセル家の人々』では、シラは現代の価値観や慣習に反対し、伝統を遵守する別のユダヤ教超正統派、ハレーディーの家族のイスラエル人の少女を演じている。
「このようなコミュニティの習慣をすべて理解するには、しっかりリサーチをしないといけない」と彼女は明言する。
「だから『アンオーソドックス』のセットにはコンサルタントがいて、本当に細かいところまで気を配っていた。誰も気づかなかった男性の靴下の長さを直したりね! 正確さを追求することがとても重要なの」
シラ自身が話題に出したり自慢することはないが、彼女もそれまで全く知識のなかったイディッシュ語を、この役のために習得した事実も忘れてはいけない。

エスティ役をシラのブレイクのきっかけとみなすのは簡単だが、それでは彼女のこれまでのキャリアを見落としてしまう。
例えば、2017年の『ユダヤ人を救った動物園 〜アントニーナが愛した命〜』ではジェシカ・チャステインと共演し、2015年のナタリー・ポートマンの監督デビュー作『A Tale of Love and Darkness(日本未公開)』では、主人公の母親ファニアの少女時代を演じている。
「みんなエスティを私のキャリアを確固たるものにした役だと思うかもしれないけど、8年間ずっとそれを目指して頑張ってきたの。新しい映画に出るたびに、これがその役だ、全力を尽くさなくちゃ、って」
「でも確かに、4年前の私に、イスラエル人の女優がNetflixで世界公開される作品で主演を務めるっていっても、信じないかな。たぶん、何年後かにエスティを振り返ったら、あの役が私のキャリアの土台を作ってくれたって思えるはず」



Credits
Photography Yaniv Edry @ Today.Mgmt
Stylist Michelle Cameron
Hair Yaniv Zada
Makeup Michal Ronen
Styling assistance Shiri Shanhav and Lucie Tallandier
Film Yaniv Edry @ Today.Mgmt
Stylist Michelle Cameron
Hair Yaniv Zada
Makeup Michal Ronen
Editing Shir Rosenthal
Soundtrack Tristan Bechet
Music “Anxiety" by Adi Ulmansky
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