from SHINPA Directed by Nino Furuhata

拝啓、明日を生きるみなさま

役者・古畑新之の初監督作品『To whom it may concern,』が映画監督・二宮健が手掛ける『SHINPA the Satellite Series #2 在宅映画制作』の中で公開される。

by Kouji Fujisaki
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21 May 2020, 11:05am

from SHINPA Directed by Nino Furuhata

今世界は疑いなく、混迷を極めている。遠く離れた場所で弾けただけと思っていた小さな火花は、あっという間に周囲を飲み込みながら燃え拡がっていった。毎度のごとく他人事を決め込もうとした大多数も、今回はその認識を変えざるを得なかった。気が付けばこれまでの当たり前はすでに灰と化し、眼前には剥き出しの焦土が表れ始めている。けれども日は昇るし、腹は減る。失ったものの大きさを嘆こうとも、悲観し続けるのはナンセンスだ。

こんなとき、古畑新之という男は、その眼に何を映しているのだろうか。父親の仕事の関係で海の向こうで生まれ、2000年代を迎えて更なるカオスへと突入した東京で思春期を過ごした彼の中では、出口を探し求める熱いマグマが対流を繰り返していた。その圧力を意図的に逃がすのに、音楽やスケートボードは大きく力を貸した。割と真剣に対面で喋っていたのに、気になるフレーズが耳に入るとすっかり話はおざなりになってしまう。待ち合わせ時間が迫っているのに、スポットのコツを掴むまでその場所から離れない。少年を経て青年へと変貌を遂げる彼は、そうやって自分の見出した方法で何とか自分自身のバランスを保っていた。そんな彼にとって、俳優という職業は極めてうってつけであったように思える。というよりも、俳優という職業が彼のことをほっておかなかった。知り合いが紹介してくれたエキストラのバイトで出演したCMが偶然にも、かの高名な演出家、故・蜷川幸雄の目に留まる。

古畑新之 Nino Furuhata(以下、古畑)「役者をしている理由の1つは、僕自身や他者のインディビジュアリティを理解できることです。俳優を志す前は、とにかく自由になりたかった。自意識だけが頗る高い、迷走するエネルギー体のようなものだったと思います。音楽家を志していたつもりですが、それよりも恐怖の方が強かった。いつも愛よりも恐怖が支配するような世界に生きていた。生きる意味を見いだせていなかったんだと思う。世の中の何かを変えたいという意思を持っていても、それをどうしたらマニフェストさせることができるかわからなかった。というより、ステップが現実的じゃなかったんだと思います。あまりにも精神的な均衡が取れておらず、そのこと自体にすら意識がいっていなかった。だから演劇学校に行って訓練を始めた時に、なぜ演劇は基礎教養に含まれていないんだろうと不思議に感じました。これは古代ギリシャの時代から言われていることではあるのですが。人間とは何か、自分自身は誰なのかということを、俳優になるまで自分の周りの環境や演劇を鏡にするという観点から見れなかったのだと思います 。 」

こうして全くの素人だった彼は舞台『海辺のカフカ』の主演に抜擢され、国内外で講演を重ねることとなった。その後演劇では『男が死んだ日』(ボビー中西演出、2015)や『お気に召すまま』(マイケル・メイヤー演出、2017)、その他テレビドラマや映画作品などに出演した。誰しもが日本の芸能という世界で華々しく活躍していくのだろうと思った矢先、彼は忽然と表舞台から姿を消した。端からは至極もったいない選択に映っただろう。蜷川作品の主役といえば、以後日本の芸能界の第一線で活躍を続ける者ばかりだし、きっとそれを選ぶことは彼にもできただろう。しかし彼はそうしなかったし、出来なかった。果たして彼は何を感じて、何を求めたのか。何を得て、何を失ったのか。少なくとも彼が求める答えを見つけるのに、慣れ親しんだ場所や手に入れた地位が不要だったのは確かだ。

古畑「ロンドンに行くことにしたのは蜷川さんをはじめ、仕事を通して出会えた人たちによって僕のしたいことがはっきりしたことと、僕の幼少期が関係しています。もちろん事務所の社長やたくさんの方の理解とサポートなしには決して実現しませんでしたが。特に両親に感謝しています。」

今回ここで紹介するのは、その彼が初めて手掛けた短編映画『To whom it may concern,』だ。本作品は映画監督の二宮健が主宰を務め、2014年に旗揚げされた上映イベント“SHINPA”の新プロジェクト『SHINPA the Satellite Series #2 在宅映画制作』(以降、『在宅映画制作』)のための作品である。古畑は渡英前に二宮監督作品『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY - リミット・オブ・スリーピング ビューティ』(2017)に準主役として参加しており、それ以来連絡を取り合う仲だ。『在宅映画制作』では様々なジャンルから二宮健の声掛けによって集められた24人の監督が、文字通りそれぞれの住まいを舞台に作品を制作し発表するというもので、古畑は第21作目の作品となる。多くの人々がショックや恐怖から思考を停止させる中、彼らは自分たちができるクリエイションを駸々と推し進めた。その姿勢には、明日を生きていく私たちが指針とするべき精神が宿っている。

二宮健 Ken Ninomiya「監督たちに呼びかけをしているとき、ふと新之のことがよぎった。自分にとって、新之はそれまでもこれからも絶対的な俳優なんだけど、ロンドンにいる新之の今の姿を作品として観たくなった。いきなり監督をしてくれ、という無茶なお願いをしたわけだけど、どんなものでも良い。新之自身がこの時期に考えて撮った映像が、このプロジェクトには必要だと思った。」

『To whom it may concern,』は、在宅を強いられる古畑の日常をそのまま切り取ったかのような内容となっている。生々しさが漂う映像は、彼が自らを追い込んだ状況を暗示する。彼のロンドンでの日々は、自分と向き合うという命題を課された終わりなき鍛錬の旅なのだろう。まるでプライベートを曝け出すかのような本作品は、観ているものに恥ずかしさをも抱かせる。そのスタイル、そうすることで得られる演者/観客間のひりつきにこそ、面白さがある。彼が求めるものを手に入れるには、嘘をついている暇などない。ただただやるしかないのだ。優しすぎて、隠しすぎる日本は、彼には窮屈だったのかもしれない。

古畑「これを通していろんな人がSHINPAのやってることに興味を持ったり、この企画の他の作品を観たり、それを通して演劇を観劇したり…少しでも人と人が関わるきっかけになれば良いなと思います。そりゃ観てくれた人が「なんかよくわかんないけど、なんか感じた」なんて思ってもらえたらこの上ないけれど、僕としては楽しかったし発見がたくさんあったので、単純に参加してよかったです。だから健(二宮監督)に声をかけてもらえて良かった、ありがとって思ってます(笑)。僕の作品に関してはつまんなかったら途中でもすぐやめてもらっていいし、なんかまだ観たいなって思ったら観続けるという塩梅で構いません。」

というわけで、少しでも気になった方は是非彼の作品に触れていただきたい。『在宅映画制作』は今日以降も新作がリリースされていくので、これを機に是非チェックしてみてほしい。

Youtube channel SHINPA: https://www.youtube.com/
Officilal web site SHINPA: http://www.shinpa.jp/
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