Images courtesy of Etro

デジタルファッションって一体何?

メタバースファッションウィークって何? NFTのバッグを買おうか迷ってる? そんなあなたのために、i-Dがデジタルファッションについて徹底的に解説する。

by Rosalind Jana; translated by Nozomi Otaki
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11 July 2022, 3:00am

Images courtesy of Etro

想像してほしい。朝目覚め、携帯を手に取り、その日の服を決める。それはネオンライトをあしらったパンツ? それともガラスのような質感のミニドレス? バッグはメタバーキンを合わせようかな。靴は? RTFKT x ナイキ ダンク ジェネシス クリプトキックスとNicholas Kirkwood x White Rabbitのクリスタルコンバットブーツのどっちにしよう……。

これらは全て実体のない、触れることのできないアイテムだ。肌の上をすべったり、足を覆うこともない。パーティーで見せびらかすこともできない。これらのアイテムは、どれも〈デジタルファッション〉と呼ばれる広大でかなり複雑なジャンルに属している。なかにはNFT(非代替性トークン)もあれば、購入して好きなイメージに合成し、文字通り現実離れしたルックをインスタにアップできる3Dデータもある。つまり、従来とは異なる新たな〈衣服〉だ。

Etro building in Metaverse Fashion Week

近年、ファッションの非物質的な未来に大きな注目が集まっている。業界には、それを次なる巨大な開拓分野と捉えるひとも多い。新たな創作ルール(とブランドが利益を生み出す新たな方法)を伴う、大胆で奇妙な分野だ。しかし、メタバースの服、デザイナーNFT、仮想空間ディセントラランドでのショーとは、一体どんなものなのか。これらのアイテムは、いかにファッション業界の未来を形づくっていくのだろう。i-Dがヴァーチャル・クローゼットの裏側やファッションのデジタル化について詳しく解説する。

 デジタルファッションとは何か?

今のところ、デジタルファッションとは仮想空間で使用できるさまざまなプロダクトや衣服を指す。最も古くよく知られているデジタルファッションは、ゲームに登場する。『Stardoll』でアヴリル・ラヴィーンに彼女のブランドAbbey Dawnを着せたり、メアリー=ケイト・オルセンにヴィンテージのEmilio Pucciを着せていた活気溢れるゼロ年代から、今の『​​フォートナイト』や『Roblox』などのより洗練されたグラフィックや自由にカスタム可能な要素まで、ファッションはいつもこの双方向型の環境に居場所を見出してきた。

Avatar wearing pink skirt, top, shirt and bucket hat in Etro Metaverse Fashion Week

多くのファッションブランドにとって、ゲームはデジタル世界進出への最初の第一歩だ。前述の2本のゲームは特に業界内で人気が高く、『​​フォートナイト』はBalenciagaMonclerAdidasを、『Roblox』はGucciRalph Laurenを受け入れている。これらのブランドが提供するアイテムは〈スキン〉と呼ばれることが多い。ゲーム内のアバターに着用してもらうことで、抜かりないブランディングを図るヴァーチャルアイテムだ。他にも『あつまれ どうぶつの森』(Marc JacobsValentinoH&M)、『ザ・シムズ』(Moschino、Gucci)、『王者榮耀 - Honor of Kings』(Burberry)、『リーグ・オブ・レジェンド - League of Legends』(Louis Vuitton)などがある。Balenciaga、Burberry、Louis Vuittonなどのブランドは、オリジナルのゲームも開発している。

NFTとは何か?

ゲーム業界進出に特に魅力を感じていないブランドにとって、もうひとつの選択肢がNFT(非代替性トークン)だ。NFTとは購入可能なヴァーチャルの服、イメージ、オブジェクトのこと。なぜわざわざ自由にダウンロードしたりコピーできるものを買うの? 自由なダウンロードやコピーこそがネットの醍醐味ではなかったのか? NFTの違いは、デジタル製品の所有権がブロックチェーン上のデータを介して登録されることだ。デザイナーズブランドのハンドバッグや3次元の作品と同様、所有者が販売できる。さらに、NFTの価値も市場の需要によって上下する。PradaからBalmainまで多くのブランドがNFT事業に参入しているが、NFTが相応の利益を生み出すのか、それともマーケティングのギミックに過ぎないのかはまだ定かではない。

デジタルファッションには、前述のような写真に合成できるデジタルアイテムから、服の閲覧や購入ができる相互作用空間まで、仮想空間で服と関わるさまざまな手段が含まれる。ここでメタバースの出番だ。メタバースはまだ実際には存在しない。メタバースの概念自体は、マーク・ザッカーバーグがこの単語を普及させるずっと前から存在していて、オンラインの生活のさらに立体的な未来を想定している。いわば3次元のインターネットだ。メタバースでは、多種多様なAR(拡張現実)やXR(エクステンデッド・リアリティ)の技術によって、現実のパラレルワールドにアクセスできる。ひとつのサイトから別のサイトへ移動するのではなく、アバターとしてプラットフォーム間をシームレスに動き回ることができる。そのような空間には服が必要不可欠だ。

メタバースファッションウィークとは何か?

今年3月末、世界初の公式のメタバースファッションウィークが、ディセントラランドという仮想空間で開催された。そこではアバターを操り(少しコツがいる)、さまざまな店舗やショーを見て回ることができる。Tommy Hilfigerのような有名ブランドからAuroborosのような独立系デザイナーまで、幅広いブランドが参加した。ややぎこちないグラフィックのせいか、最先端の未来というよりどこか昔懐かしい感じがしたが、このイベントはデジタルファッションを進化させ、より広範で先進的な業界を形づくるための多岐にわたる可能性を示唆していた。

Avatar wearing yellow shorts, top, shirt and sandals in Etro Metaverse Fashion Week

ファッションの未来とは?

これは今、非常に大きな疑問だ。今はまだ、メタバースはピクセルで構成された夢に過ぎないが、今すぐにデジタルファッションが起こせる直接的な変化もたくさんある。例えば、デジタルファッションは、人びとをジェンダーや美の基準から解放する可能性を秘めている。さらに、実体のある服をつくる必要がないなら、デザインそのもので遊ぶ余地ができる(重力など、物理の基本的な法則を無視でき、空想的な選択肢が広がる)だけでなく、完成したアイテムを身につける人びとの制限もなくなる。つまり、現実世界の人間の体にフィットする必要もなければ、もっと言えば人型である必要もないのだ。「デジタルクローズを自分の外見で実験してみたり、昔の写真を加工するのに使うひともいれば、ずっと夢見ていた理想の自分になる機会として活用するひともいます。例えば、普段より派手な服に挑戦してみたり、スタイルを180度変えたり、ハイファッションで自分を表現することもできます」と語るのは、ヴァーチャルファッションストア〈DressX〉の共同ファウンダー、ダリア・シャポバロワだ。「デジタルファッションには制限が一切ありません。だからこそ、最も安全かつ簡単に自分自身や個性を探ることのできる最高のツールなのです」

これはデジタルファッションに対する楽観的な意見のひとつだ。すなわち、創造性によるラグジュアリーの民主化、誰もが自分の望むままに自己表現できる自由な空間という概念だ。これはNFTの排他的な側面(そしてメタバースの負の側面)とは矛盾するが、全く新しいファッションを身にまとえるというアイデアは魅力的だ。

Etro building in Metaverse Fashion Week at night

現実世界のファッションにはどんな影響を与えるのか?

もうひとつ、より説得力のある主張は、ヴァーチャルクローズが環境とより良い関係を築くための手段になりうる、というものだ。「デジタルファッションは、この業界が抱えるいくつかの主要な問題の解決策として誕生しました。サステイナビリティがこの概念の根幹にあるのです」と同じくDressXの共同ファウンダー、ナタリア・モデノヴァは説明する。ふたりが立ち上げたDressXは、ファストファッションの過剰生産の短期的な改善策とみなすこともできる。もし服を買う主な目的がSNSで自慢することだとしたら、地球にも工場の労働者にも悪影響を及ぼしてきた安価な製品を買うのは控え、ヴァーチャルの製品を選んでみてはどうだろうか。無駄も罪悪感もなく、可能性は無限大だ。

その他に、ヴァーチャルのショールームやファッションショーは、数ヶ月おきにショー鑑賞のために飛行機に乗るバイヤーや報道陣による環境的負担をいくらか減らすこともできる(パンデミック中に変化があると思われたが、結局はこれまで通りに戻りつつある)。仮想空間がまだ解決できていない問題は、雰囲気だ。出席者の話し声や、目の前を通り過ぎるスパンコールドレスが五感に与える刺激──輝き、音、モデルの立ち居振る舞いなど──なしに、ドラマやスペクタクルを創り出すことはできない。

Avatar wearing green print dress and bucket hat in Etro Metaverse Fashion Week

しかし、技術が進歩し、ヴァーチャルクローズがより現実味を増していくにつれ、実際に服の動きを見たり、〈試着〉することで、顧客とより直接的なやりとりが可能になった。つまり、ブランドが販売量を予測した結果、大量の廃棄物やデッドストックを抱えるのではなく、消費者が仕様書通りにつくられたアイテムを注文できるということだ。その結果、より思慮深いショッピングが可能になり、より小規模な生産工程やより高レベルなクラフツマンシップが優先される可能性がある。

 ファッション教育に与える影響は?

「デジタルファッションは、ファッション教育の未来にも広い影響を与えています。非常に優秀な卒業生がたくさん生まれています」と〈The Digital Fashion Group〉の共同創設者レスリー・ホールデンは語る。「ですが、卒業後の就職先はとても限られています。問題は、一般的なファッション教育がいまだに古いビジネスモデルを中心としていること。(中略)回転も動きも遅く、新たな道を切り開いたり、業界に必要なはずの機会を十分に活用できていないのです」

Avatar wearing green and yellow hue trousers and shirt in Etro Metaverse Fashion Week

かつてアムステルダム・ファッション・ インスティテュートのファッション&デザイン専攻長を務めていたホールデンは、現代のファッション学生が就職に備えてあらゆるデジタルスキルを習得することが必須だと考えている。「学生たちは在学中にソフトウェアについてある程度の知識を身につけますが、彼らは(中略)それを他の学びと結びつけていません。そして、ランウェイショーでデビューする学生がいまだに大半を占めています」

彼が言及したソフトウェアとは、洋服の3Dモデルを制作できるClo3Dなどのプログラムのことだ。しかし、彼にとって、それは単なるソフトウェアにとどまらない。デジタルファッションは従来の境界線を壊し、クリエイティビティや専門技能への斬新で発展的なアプローチ方法を生み出す可能性を秘めている。そこにはサステイナビリティも不可欠だ。「私たちはデジタルを活用してよりよい業界を築くことができるはずです」と彼は快活に語る。

現時点では、上記のアイデアの多くはまだ生まれたばかりで、完成にはほど遠い。デジタルファッションは、さまざまな意味でまだ実験的な領域といえるだろう。しかし、これらの実験の結果に注目する価値はある。これらのアイデア全てが普及するとは限らない。結局、服から得られる喜びの多くは物質そのもの、つまり現実世界で私たちを包み込んでくれることにある。しかし、デジタル世界はこれから先も消えることはない。その世界を存分に楽しむための〈勝負服〉を1着持っておいても損はないだろう。

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