Marvel Harris. Image from MARVEL (MACK, 2021). Courtesy the artist and MACK.

セルフポートレートを通して醜形恐怖症、自閉症と向き合うフォトグラファー

「誰かが何を体験しているのかを知りたければ、率直な質問を投げかけ、聴き手に徹することが大切。真摯に耳を傾け、決めつけたりしないこと。ジェンダーについても同じです」

by Miss Rosen; translated by Nozomi Otaki
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06 September 2021, 7:00am

Marvel Harris. Image from MARVEL (MACK, 2021). Courtesy the artist and MACK.

オランダ人フォトグラファー、マーベル・ハリスは、十代の頃から摂食障害、重度の不安感、自らの身体への嫌悪感に悩まされてきた。彼の葛藤の原因がわからず、セラピストたちは教科書通りの分析を持ち出し、彼にこう告げた。「摂食障害を抱えていて、体重を増やしたくないということは、成長したくない、責任を負いたくないという気持ちと結びついているんですよ」

 それが自分の苦しみの根源ではないと自覚していたマーベルは、理解を求めてさらに深く掘り下げていった。彼の体重が増えると、人びとは「女性らしい曲線」などと褒めたたえたが、この何気ない言葉こそが問題の核心を突いていた。マーベルは女性ではなかったのだ。

 2016年、性別違和についての文献を読んだマーベルは、自分を見つめ、自分らしく生きるための旅へと乗り出した。1年後、彼はカメラを手に取ると、ノンバイナリーかつトランスジェンダーのアーティストとして、男性へと性別移行する体験を記録するセルフポートレートを撮り始めた。しかし、自分自身と静かに向き合う時間を持ったことをきっかけに、マーベルは生涯にわたる自己愛と自己受容の探求へと歩み始めることになる。

a person in a stripy jumper clenching their face and crying
Marvel Harris. Image from MARVEL (MACK, 2021). Courtesy the artist and MACK.

2021年の〈MACK First Book Award〉グランプリを受賞した『MARVEL』(MACK出版)で、マーベルは2014年から2019年までの一連の鮮烈なセルフポートレートを通して、肉体として具現された魂をじっくりと観察した。このシリーズが始まったのは、摂食障害によって、彼にとって唯一の自己表現の手段だったダンスができなくなってしまったときだ。

「ずっと自分が自閉症だとは知りませんでした。22歳までそう診断されることもなかった」とマーベルは自分自身を含め、自閉症の少女がパーソナリティ障害と誤診されやすいことを説明する。「性別移行の手術を受けるときに初めて、自閉症であることがわかったんです。それを聞いて納得しました。自分に違和感を覚えることは少なくなった。ずっと自分はみんなと違うと思っていたのですが、その原因がわからなくて」

「学校から帰ってくるとクタクタになり、過剰な刺激を受けたことで感情のメルトダウンが起こることもありました。卒業後は社会に適合しなさい、なんて諭されても『一体どうやって?』って。とにかく理解できなかった。そういう気持ちを表現したくて、カメラを手に取ったんです」

a person in a blank tank top revealing underarm hair
Marvel Harris. Image from MARVEL (MACK, 2021). Courtesy the artist and MACK.

カメラはすぐにマーベルの親友になった。「じっと座っていることがとても苦手なんですが、それはまさに自分を知り、理解し、自分とつながるために必要なことでした」

率直な体験を記録したいという思いから、マーベルは「自分の注意を引かれたものや美しいと思ったもの」をすべて写真に収めている。「カメラをまっすぐに見つめると、自分がどう見られたいかに気づくことができる。例えば、あるときはとても男らしい気分だったり。その写真を見ると、自分に安心感を持てるんです」

 鏡を見てもそこに映る自分とつながりを感じられなかったというマーベルだが、セルフポートレートによってある種の距離感を保つことで自分を理解していった。「自分の表情や、そのとき何を感じていたかがわかるようになりました」とマーベルは語る。

 「このときの自分はかなりハッピーだった、と誰かに説明しても、『全然幸せそうに見えない』なんて言われることもありますが。でも、そこから、人の表情から必ずしもその人の本当の気持ちを読み取れるとは限らない、と説明することができます」

 「誰かが何を体験しているのかを知りたければ、率直な質問を投げかけ、聴き手に徹することが大切。真摯に耳を傾け、決めつけたりしないこと。ジェンダーについても同じです。外見は男性に見えても、そのひと自身は自分を男性とは認識していないかもしれない。それは相手と知り合って初めてわかることです」

a person spread out and floating in a lake
Marvel Harris. Image from MARVEL (MACK, 2021). Courtesy the artist and MACK.

マーベルはリモートコントロールを活用し、自然の中でポートレートも撮影している。そのうちにボタンを押すタイミングを意識しなくてすむほどリラックスできるようになり、作品に力強い解放感が宿り始めた。カメラは良い時も悪い時も、偏見のない目撃者としてそこにあり続けた。

「あるとき、もうこれ以上生きていたくないと思ったんです。それが勇気と呼べるかはわかりませんが、とにかくカメラを手に取ることができて……」そう言うとマーベルは言葉を詰まらせ、しばらく物思いにふけった。 

「カメラは友人や聞き手のような存在。本当の友だちみたいで、つらいとき傍にいてくれることに感謝しています。カメラについて話すと、つい感情的になってしまいます。カメラと一緒にいると、ネガティブ思考が手に負えなくなるのを防げるような気がしました」

「先ほども言ったように、じっと座っているのが苦手でも、静かに自分の感情と向き合い、それを自覚するのは、自分にとって本当に必要なこと。居心地は悪いけれど、終わると気持ちが軽くなるんです」

 もともとは長期的なプロジェクトにするつもりも公開する予定もなかったが、大規模なものへと発展していったので、マーベルは世に出すべきだと考えるようになった。

「まずは両親、セラピスト、友だちと写真を共有し、自分の体験を見てもらいました。すると『パーソナルな作品だからこそ、他の人たちと共有すれば、誰かがあなたの体験に自分自身を見出し、孤独感が和らぐかも』と言われたんです。その言葉に希望をもらいました」

the back of a person's head and shoulders
Marvel Harris. Image from MARVEL (MACK, 2021). Courtesy the artist and MACK.
the scars of gender-confirmation surgery across a person's chest
Marvel Harris. Image from MARVEL (MACK, 2021). Courtesy the artist and MACK.
a person at the beach covered in a towel and smiling
Marvel Harris. Image from MARVEL (MACK, 2021). Courtesy the artist and MACK.

Credits


All images courtesy the artist and MACK.

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