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「海賊版はカルチャーに必要なもの」:『032c』編集長ヨルグ&マリア インタビュー

『032c』マガジンはいかにしてポストVetements世代が憧れるアパレルラインになったか?

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jan 5 2018, 6:00am

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This article was originally published by i-D UK.

ここ数年でファッションの消費のされ方がすっかり変わった。私たちの世界では、ストリートウェアが次から次へとドロップされ、ほかのブランドをほのめかす服が流行り、コラボのアイテムは大人気。この新しい世界における服の主な機能は——それがSupremeのTシャツやPalaceのジャケットであるなら——注目を集めるシンボルになること、「ゲーム」に参戦したあかしになること。その新しいゲームには新しいルールもある。つまり、ファッションの世界では最も高級な服も、最も平等主義的なストリートウェアもすべてがフラットになり1つの空間に収まらなくてはいけない。そんななか最高におもしろいことを打ち出しているのが、『032c』。10年以上もカルチャーの課題を提示してきた、カルト的人気を誇るベルリンの雑誌だ。この2年で『032c』はサイドビジネスだったアパレルブランドを成長させた。当初商品は数点だったが、2018年1月にピッティ・ウオモのフィレンツェ・ルネサンス様式の宮殿で披露するほどのブランドになった。『032c』はヨルグ・コッホとマリア・コッホの夫婦が手がけている。その本部はベルリンにあるコンクリートむき出しの聖アグネス教会だ。『032c』の服は、ブランドというものの本質と現代のファッションシステムにおけるブランドの価値を教えてくれる。

『032c』マガジンはヨルグ・コッホが2001年にベルリンで始めた。街はまだベルリンの壁崩壊の戸惑いから抜けきれていなかった。『032c』はカルチャー全般のおもしろさを開拓した。例えばヘルムート・ラングHELMUT LANG、COMME des GARÇONS、Raf Simonsなどのファッション界のレジェンドたちをフィーチャーしたし、レム・コールハースの建築やアンゲラ・メルケルの政治について記事で深く掘り下げた。イネス&ヴィノードやウィリー・ ヴァンダーピエールらが撮った写真を使ったり、さらには、ベラ・ハディッド、リアーナ、FKAツイッグス、キム・カーダシアンとカニエ・ウェストといった時代の先端をいくセレブたちも取り上げた。セレブカルチャーや批評哲学やファッションや政治までがソーシャルメディアのタイムラインに凝縮する、この時代にふさわしいアプローチだ。

『032c』は新しい才能を発掘する集団であり、反抗を謳う詩的なマニフェストであり、後期資本主義のくすぶった炎を生き伸びるための完璧なマニュアルだ。とっくにカルチャーに影響を与えていたが、創始者たちはそれをさらに拡大すべく、2015年にアパレルラインをローンチした。「現代はファッション業界にとってかなり面白い時代です。なんでもありになってますからね」とヨルグは語る。「『032c』は昔からエネルギーのある場所に興味があります。アパレルとその思想は本当に大事にされてるって思ってますし、僕たちにとっても大事です。ファッションの記事を書くときは、ファッションの未来を考えたり、評価や批判したりします。記事は批評になることもあれば、考えるきっかけを作ったり提案になったりします」

『032c』のアパレルラインを主に取り仕切るっているのはマリアだ。Jil SanderとMarios Schwabのデザイナーとして女性の服をデザインしていた経験があるし、カニエ・ウェストによるスニーカーラインYeezyのコンサルタントをしていたこともある。とはいえ、ヨルグとマリアは密に連携している。二人はオフィスの上の階で暮らし、つねにアイデアを共有してきた。マリアがヘッドデザイナーを務める『032c』のオフィスは研究所のようだ。アパレルラインとマガジンとで頻繁にアイデアが交換されている。「『032c』をファッションのブランドって呼びたくないですね。『032c』はアイデアを考え実践する方法はたくさんあるってことを示してるだけです。大事なのは、プロの仕事として、求められている質に仕上げることですよ。もし私に自動車デザインの経験があったら、車の仕事をしてたかもしれません」とマリアは語る。

『032c』のアパレルは見るからにシンプルで着やすそうだ。しかしカルチャーのスクラップブックのようでもある。モトクロスと英領ヴァージン諸島のタックス・ヘイブンへの言及。ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー、シャーデー、アリーヤへのトリビュート。STUSSY、ALYX、Gosha Rubchinskiyとのコラボなど、いろいろ混ざっている。「私たちのゴールは、誰もが着続けたいと思う超クールな服を作ること」とマリアは続ける。「そして、ドライでダークな知性と輝きのようなものとのバランスは取れるんだってことを示すのが、私たちのカルチャーでの課題かな」

『032c』の服は『032c』のウェブサイトで買えるし、KM20、Selfridges、The Websterや 、Ssenseといった様々な一流店でも扱っている。業界内のサイクルはますます加速するが、『032c』はできる限り「ダイレクト」な存在でありながら、旧シーズンのモデルを売ったりせず、6週間ごとに新しいピースを発表することを目指している。「シンプルにやろうとしてるんじゃなくて、妥協しないようにしてるんです」とマリアは語る。「自分たちの仕事をすると、ダイレクトにお客様に関わることになるんです」

Stüssy x 032C. Photography Jonas Lindstroem. Styling Marc Goehring.

このようにユーザーや読者とダイレクトにつながることで、アパレルラインは急成長し、マガジンは成功し続けている。「お客様と『032c』とのタッチポイントはすごくいい感じです。60才のアートコレクターがステータスとしてマガジンをカフェで読むこともあるだろうし、15才の少年も惹きつけるかもしれない。雑誌のことを知らなくても、お小遣いで『032c』のTシャツを買ったりして」とヨルグは言う。

「金儲け主義のレーダーには見えない『032c』の姿が評価されてるんだと思いますよ。『032c』マガジンが表す自由な思想が、です。そして、その思想をわかってることを人はどうにか表現できるんです」とマリアは言う。「でも、うちのブランドやその服に長い歴史があることを知らないキッズは大勢いますよ。ただのストリートウェアのブランドだって思われてる。それってすごくクールです」

『032c』はポストVetementsの世界におけるブランドのあり方のすぐれた見本だ。ヒエラルキーがなくデジタルに動く空間では、独創的なプロダクトを抑えつけようとしてもむだだ。『032c』の創始者たちは、遊び心で既成概念が壊せることを知っている。二人は実現しなかったシャーデーとアリーヤによるベルリンのコンサートの海賊版Tシャツを作った。さらに、どんなアイテムでもアイロンを使って「032cモデル」にできるブランド作成キットもリリースした。

「この頃みんな、著作権にこだわりすぎ。昔から海賊版(ブートレグ)はカルチャーに必要なものですよ。どんな社会も、海賊版やコピーやリメイクや撚りあわせからできてる。『032c』の海賊版が韓国で山ほど出回っているって聞いたとき、超喜んだよ。それは最高の賛辞だと思った」ヨルグは言う。「僕たちが海賊版を発売すると必ずこう聞かれたよ。『誰かがあんたたちのパクリを作ったらどう思う?』って。それでこう答えるんだ。『ぜひやってくれ』って」