なぜUKのラップシーンは世界をリードしているのか?

i-D UK最新号『New Fashion Rebels』号のカバーストーリーに出演したUKを拠点に活動する4人のラッパーたちがそれぞれのルーツ、世界観、野望を語る。

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maj 14 2018, 10:51am

This article originally appeared in i-D's The New Fashion Rebels Issue, no. 352, Summer 2018.

K Trap wears jumper Nike. Balaclava and jewellery model’s own.

K・トラップ
22歳のK・トラップは、実際に会ってみると、思っていたよりマイルドな印象だ。「俺は観察者なんだ」と彼は言う。「人付き合いを避けるタイプだから」。しかしMVの中では、その恐怖心を煽る身長と肌にぴったり張り付いたマスクには、堂々とした存在感がある。「顔がなければ、問題ない」。彼はデヴィッド・ブレインについてそうラップしている。トランプを使った手品とドラッグ売買を関連づけているのだ。2017年にリリースされたデビュー・ミックステープ『The Last Whip』は、このアイデアを発展させたもの。詐欺についての寓話、孤独と偏執病についての熟考、自身と彼のコミュニティがよりよい生活を送れることへの切なる願いが詰まっている。「両面を説明する必要がある」と彼は言う。「悪い面だけを知っていたら、そこには介入しないだろう。俺は何が起こるか見てきたけど、たいてい悪い方に転ぶんだ」。K・トラップは今、1年以上かけて、自身の人生を省みている。「音楽が自分をどこまで連れていくか見てやろうと考えた。俺はまだ発展途上だけど、音楽は俺の人生を変えたんだ」。ジプシー・ヒルに生まれ、ギグスやブライド・ブラウンを聴いて育った彼には、賞や栄誉よりもほしい究極のゴールがある。「スケプタやギグス、ストームジーのあとを追ってる。自分らしさを見失わずに、あそこまでいった人たちだからね。俺にとってはそのことが大切なんだ」と彼は主張した。「成長はしたいけど、自分らしさを失うことをその見返りにはしたくない。俺自身でありながらトップにのぼりつめたいね」
Text Hattie Collins

Slowthai wears coat Gucci. Trousers Prada. Jewellery model’s own

スロータイ(slowthai)
スロータイはあとを追ってくる影のようだ。ドキッとするほど馴染んでいるが、奇妙なほど場違いでもある。イースト・ミッドランズの湿地から出てきた扱いにくい生き物で、その土地にひしめく倫理の審判者たちが発する不快なうめき声を想起させる。「もしそこに海があったら、ノーザンプトンは小さな潮だまりだっただろうな。カニがいるけど、潮が引くまで出られない」と彼は話す。「そういうのが好きだね」。23歳のこの青年の最新MV「North Nights」は、『シャイニング』『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』、そして『時計じかけのオレンジ』から驚きと畏怖の瞬間を取り出し、衝撃的な効果をあげることに成功している。この曲は、前述した故郷に対する彼の感情を歌ったものだ。ロンドンから北へ約100キロ先にあるその地域は、「UK音楽の心臓」とも呼ばれている。スロータイがもっとも恐ろしいのは、実はそんなに恐ろしくないということだ。彼はいいやつ、本当にいいやつなのである。意地の悪いおもしろさと、ブラックな滑稽さを持っている。実際、彼の存在感の大きさは、調子を狂わせるからというより、メインストリームに革命的なアイデアをこっそりもたらそうとしていることに由来している。「それが俺のやり方なんだ」自分の音楽について、彼はそう話す。「自己セラピーじゃなくて、感じていることをそのまま出す。そうやって出してしまったものを他の人たちに見せると、同じようなやつらが、人生ってそんなに難しくないかもって思えるんだ」スロータイは、すでに熱狂的なファンを獲得している。ありふれた日常からの魅惑的で反発心ある逃避を求める10代などだ。 「みんなをひとつにしたいんだ。家族みたいなものさ。誰かが誰かの上にいるなんて、誰にも思ってほしくない。今この時代、隔てるものなんて何もないじゃないか。望めば悲観的にもなれるし、そういう感情を抱くこともできる。そうすべきじゃないなんて感じずにね。そうさ、それが自然なんだ。OKじゃなくてもOKなんだ」
Text Matthew Whitehouse

Octavian wears shirt Palace. Jewellery model’s own.

オクタヴィアン(Octavian)
オクタヴィアンはラップとダンスホール、ストリートウェア、ロンドン、そして夢をひとつにまとめた存在だ。ドレイクがオクタヴィアンのヒット曲「Party Here」をゴールデングローブ賞のアフターパーティで歌っているのを動画に撮られたとき、オクタヴィアンは2018年の機運をがっちりつかんだ。この曲――ひねりがきき、軽快で、2018年UKラップの要素を余すところなく持っているーーは、21歳の彼がロンドンでもっとも変わった新人ミュージシャンであることを世に知らしめた。「結果が出るのはいいね。やるべきことを続ければ、あちらからやってくるんだから」。フランスで生まれたオクタヴィアンは、3歳のときに母親と一緒に南ロンドンに移住した。その10年後、伯父と一緒に住むために彼だけが送り返されたという。「最悪だったよ」。どちらの文化にも馴染めなかったことを思い返して、彼はそう言った。彼は自分の母親に放り出され、ホームレスとなり、泊まれるところならどこでも泊まっていた。名高いイギリスのストリートに居場所を見つけるまでは。「友だちのほとんどは刑務所送りになるか、刺されてる。そんな生き方はできないっと気づいてね。わかっていたのは、自分の才能を活かして、なんとかものにしようとするってことだけ。だからそうしたんだ。「Party Here」は俺の最新作で、その結果はクレイジーなくらいに良いよ。でもそれは誰もが持ってるもの、それを世の中に見せるんだ。何だってできるんだから」
Text Matthew Whitehouse

Flohio wears hat Prada.

フロヒオ(Flohio)
フンミ・オヒオが、ラッパーのフロヒオになるには、少し時間が必要だった。「去年まで、私はフロヒオのなかにこもってた。フロヒオが先導して、そのあとを私がついていってたの」。早口のナイジェリア訛りで彼女はそう話す。彼女のラップと同じくらいの早さで。「でも今、私はフロヒオ。自制できてる」。今のフロヒオには自信があふれてるが、そこにいたるまでには長い時間がかかった。ナイジェリアのラゴスで生まれた彼女は、暴力に脅かされた学校生活、それからの長きにわたる心理的影響を思い返す。「九九が言えないからって殴られるの。おかげで私は、自分をシャイで無口の役立たずだと感じるようになった。ナイジェリアで過ごしたすべての時間が、私の頭に影響してる」。姉が持っていたラップCDを聴くことによって、彼女は救われた。「50セント、リル・ウェイン、イヴ……。彼らのエネルギーをもらって、自分に注ぎ込んだ。メモを取りながらね」。ロンドンに移住して学校を修了したのち、彼女はクロイドン・カレッジのグラフィックデザインコースに進んだ。その後、レコードレーベルの〈Ninja Tune〉でインターンシップとして働き出した。「それが、たくさんの新しい扉を開くことになった。普通のことはできないから。常に頭を働かせている必要があった」と彼女は言う。2016年、彼女はデザインを辞め、デビューEP『Nowhere Near』をリリース。次いで、ゴッズ・コロニー(God’s Colony)とのコラボ作品「SE16」、そして今年ニューシングル「Bands」を発表した。「このままでいるつもりはない。ようやく自分の声を見つけつつあるから。今私は25歳で、世界に飛び出す準備は整ってる」。大志を抱き、エネルギーにあふれ、好感の持てるこのラッパーが今望んでいるのは、輝き続けることだけ。「誰にも頼らないで済むようになるのが、私の野望。私は怖いからこれをやっているの」とフローは認めた。「音楽をやっていないとき、自分が暗闇にいるような気分になる。音楽が私を光の下に連れ出してくれる。この場所に、光の中にい続けたい」
Text Hattie Collins

Credits


Photography Alasdair McLellan
Styling Max Clark

Hair Matt Mulhall at Streeters. Make-up Ninni Nummela at Streeters using Chanel. Nail technician Lorraine Griffin. Photography assistance Lek Kembery, Simon Mackinlay and Peter Smith. Styling assistance Louis Prier Tisdall. Hair assistance Vimal Chavda. Make-up assistance Shauna Taggart. Production Laura Holmes Production.

Translation Aya Takatsu.

This article originally appeared on i-D UK.