La main gelée, 2000 © Sarah Moon 

「巡りゆく日々」:サラ・ムーン interview

「私の本当のテーマは“誘惑”です。表舞台では男性の欲望の対象としての女性の姿が見えるかもしれないけれど、私はそのバックステージに興味がある」

by Naoko Aono
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11 April 2018, 11:01am

 La main gelée, 2000 © Sarah Moon 

東京・銀座のシャネル・ネクサス・ホールで個展「巡りゆく日々」を開催しているフランスの写真家、サラ・ムーン。ファッションモデルからフォトグラファーに転身し、今では世界中で個展を開催、写真集も多数発表している。

そのオープニング・レセプションで展覧会の主催者であるシャネル株式会社社長、リシャール・コラス氏は「こんなことを言ったらサラ・ムーンさんに怒られるかもしれないけれど」と前置きして次のように告白した。「私もサラ・ムーンさんのような写真が撮りたい、と思ってレンズにクリームを塗ったことがあるんです」。彼女の写真はそんな幻のような淡い雰囲気を漂わせているけれど、ときにそこにどきっとするようなモチーフが写し撮られていたりする。

Baigneuse II © Sarah Moon

サラ・ムーンは今回、展覧会会場を真っ白にしてほしい、とリクエストしたという。その白い箱にはファッション、風景、動物の剥製や骨格標本、サーカス、工場、海など多彩なモチーフの写真が並ぶ。制作年代も幅広い。

「純粋な“白紙”で作品を見てもらいたいと考えました。白い箱の中で光が反射するのも美しい。展示作品のセレクトも“白紙委任”してもらいました。そこで、いろんなテーマの作品が混ざり合うようにしたのです。私の作品では主題がとても重要な意味を持っているので」

展覧会タイトルの「巡りゆく日々」には、一度過ぎ去った時間は二度と戻ってこない、というニュアンスが込められている。写真に写っているものは、その時点では確かに存在していたものだ。が、仮に被写体が今も残っていても、それは写し撮られた瞬間と同じものではない。

「日本語には一期一会という言葉がありますが、写真の本質はその言葉に現れていると思います。私が写真を撮り始めたときは、そのことに気づいていませんでした。でもキャリアを重ねるうちにわかってきたのです。同じようなカットを何枚も撮っても一枚一枚違うものであって、私の感情もその度ごとに変化している。
この個展では博物館の剥製の写真も出品しています。剥製と写真はともに、もののある瞬間を切りとったものです。でも剥製の動物が生き返ることはないし、写真に撮影された瞬間が戻ってくるということはないのです」

Adrienne sous la neige © Sarah Moon

今回の個展に並ぶ作品はモノクロがメインだが、一部カラー作品もある。どちらも深い陰影が奥行きを感じさせる。

「主題によってモノクロかカラーかを決めています。カラー写真は饒舌で、モノクロ写真は内向的な感じがします。ファッション写真ではデザイナーの意向もあり、カラーで撮ることが多いですね。モノクロ写真は長いあいだ一緒に仕事をしている方にプリントをお願いしています。サイズは50〜60センチ程度のものがほとんどですね。そのプリンターがあるスタジオの天井が低いので、あまり大きなサイズのプリントはできないのです(笑)」

Anonyme © Sarah Moon

会場には映像作品も出品されている。「SWANSONG」というタイトルのショートフィルムだ。モノクロの粗い映像にとらえられているのは川崎の臨海工業地帯。2017年秋に撮影したものだ。

「ここ2年ぐらい、インダストリアルなモチーフを撮っています。タイムレスなところに惹かれるのです。モダンであり、未来的でもある。SWANSONGというタイトルはロボットなどによって置き換えられていくと言われる、人間の労働の終わりといった意味を込めています。鳥が飛び去っていくシーンがありますが、それにもふさわしいと思います」

Dunkerque I © Sarah Moon

会場にはファッション・フォトなど、女性モデルを撮った写真も多い。女性が女性を撮ることについてサラ・ムーンは「共犯関係」だと表現する。

「私の本当のテーマは“誘惑”です。表舞台では男性の欲望の対象としての女性の姿が見えるかもしれないけれど、私はそのバックステージに興味がある。モデルとも、そのことについて暗黙の了解がある共犯関係なのです」

Femme voilée © Sarah Moon

白く輝く箱の中で口を開ける深い闇はサラ・ムーンが仕掛ける知的かつ官能的な罠だ。二度と戻らない瞬間が見る者を誘惑する、危険な空間が私たちを待っている。

La main gelée, 2000 © Sarah Moon

「D’un jour à l’autre」 巡りゆく日々 サラ ムーン写真展
開催期間 2018年4月4日(水)~5月4日(金) 12:00~19:30 (入場無料・無休)
会場 シャネル・ネクサス・ホール (中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F)

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