「大切なのは内面にあるもの」:Comme des Garçonsが描くクラブキッズ

「大切なのは内面にあるもの」─ Comme des Garcons Homme Plusの18SSコレクションで川久保玲が作り出したクラブキッズたちは、そう思わせてくれた。

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29 June 2017, 4:30am

5月最初の月曜、ニューヨークのメトロポリタン美術館で開催されたメットボールの会場からは、多くの画像がリアルタイムで発信された。しかし、レッドカーペットを捉えた画像の数々に、主役の姿は見られなかった。ソーシャル・メディアで遂に見られた川久保玲の姿は、彼女という存在について、千の言葉よりも多くを物語っていた。フィル・オー(Phil Oh)が捉えたスナップ写真の中で、真っ黒なサングラスをかけ、黒いスカートに白のライダースジャケットを着た川久保玲は、トレードマークとなっている真っ黒なボブを揺らしながら足早に美術館の裏口から会場入りしていた。表では、レッドカーペットで著名人たちがまたたくフラッシュを浴びながら次々に会場入りしている——川久保はそれに目をくれることもなく、カメラから逃げるように立ち去っていた。川久保はデザイナーのなかのデザイナーだ。Comme des Garçonsの功績を讃えた展覧会『Art of the In-Between』開催に際して開かれたこのパーティで、レッドカーペットに彼女が現れるなどだれが想像できただろう。川久保玲はショーの後にランウェイへ顔を出してお辞儀をする必要性も、そこで拍手喝采を受ける意味も、否定しているひとなのだ。

Comme des Garçons spring/summer 18

ニューヨークのメトロポリタン美術館入口の荘厳な階段で、次から次へと現れるセレブリティたちが、入念なメイクと高く飾り立てた髪型でカメラに向かって意気揚々とポーズをきめているのを、川久保はどんな気持ちで見ていたのだろう。そこで見たものが、金曜夜、パリで発表された2018年春夏Comme des Garçons Homme Plusコレクションに何かしらの影響をおよぼしていたとすれば、そこに彼女が打ち出そうとしたメッセージは明確に読み取ることができた。川久保は、テーマを「大切なのは内面」と表現している。ランウェイへと姿を現した多種多様なティーンのモデルたちは、裏表のテーラリングと、Studio 54を彷彿とさせる派手なライニングがほどこされた服を着ていた。クラブ調のダンス音楽が流れる会場で、彼らが闊歩するランウェイはダンスフロアさながらの様相となった。

Comme des Garçons spring/summer 18

服の魂をさらけ出すかのように内側があらわになったジャケット——それを着たモデルたちは、心の内をさらけ出しているように見えた。そして、形こそフォーマルながら、ジャケットそのものにも、そしてジャケットの下にも上にも、グリッター、スパンコール、ファー、アニマルプリント、ストライプ、花柄などがふんだんに配されていた。ジャケットのいくつかには、内側から人形の一部が飛び出すデザインがほどこされていた。これは、アーティストのモナ・ルアソンとのコラボレーションによって生み出された作品だ。

Comme des Garçons spring/summer 18

そこに広がるのは、レッドカーペットを埋め尽くす色彩の海を内側からあばきだした世界だった。ファッション界の一部となっているレッドカーペット文化と、そこにみる完璧な装い——そんなものをゆうに超えた美を、川久保玲はまばゆいほどの輝きの向こうに描き出していた。タイガ(Tyga)がフロントローで見守るなか、かすかに居心地の悪そうな若いモデルたちがNikeエアマックス180を履いて、夜のパリに踊った2018年春夏Comme des Garcons Homme Plusコレクションのショー会場——メットボールの話題で新たに世界中の若者たちの心を掴んだ川久保は、彼らに、このショーでなにかとてつもなく純粋で無垢なものを伝えていた。メットボールのレッドカーペットでも、人生でも、やはり輝くのはひとの内面なのだと。

Comme des Garçons spring/summer 18

同じことが、ハイダー・アッカーマンがクリエイティブ・ディレクターに就任して2シーズン目となるBerlutiにも言うことができる。Berlutiの今季コレクションは壮観だった。上質のテーラリングで知られるBerlutiでのデビュー・コレクションとなった昨シーズンで、アッカーマンはブランドに伝承されてきた確固たるイメージの中に、自身のトレードマークを贅沢な色彩と微かにボヘミアン的なカットで表現していた。しかし、今季は打って変わって、アッカーマン世界全開の内容だった。

Berluti spring/summer 18

「いま世界では、未来に希望が持てるようなできごとがたくさん起こっている。だから、僕は今回のコレクションをなめらかで優しく、肩の力の抜けた世界観にしたいと思った。決して贅を極めた世界観にはしたくなかったんだ」と、彼はバックステージで語った。いかにもショーを終えた後のアッカーマンらしい言葉選びだ。起用したデザイナーに、ブランドの世界観やデザインの方向性を強要するブランドは多い。しかしBerlutiは伝統的なテーラリングを誇るブランドであるにもかかわらず、アッカーマンに何を強要することもなく、まっさらなキャンバスに独自のBerlutiを描かせた。アッカーマンはロマンチックでロックンロールな世界でそれに応えた。男女入り混じったモデルたちが、至高の色彩が配されたスレンダーなテーラリングを着てランウェイを歩いた。恋人同士のジョナス・グレール(Jonas Glöer)とキキ・ヴィルヘルム(Kiki Wilhelm)が揃って登場し、ヘンリー・キッチャーはアッカーマンの親友である女優ティルダ・スウィントンのごとくプラチナ色の髪で現れ、妖精ウィロウ・バレット(Willow Barrett)はまだ若い王子様のように不機嫌そうな表情を見せ、「そっくりだ」と話題になったステラ・テナントとフィンレイ・デイヴィスは、これまたそっくりな黒のレザー・コートと白いサテンのパンツを履いて、ともに造幣局モネ・ドゥ・パリの中庭に作られたランウェイを歩いた。「この親密な雰囲気がいいね」とアッカーマンは語った。

Berluti spring/summer 18

アッカーマン独特の美学はコレクション全体に見てとることができた。会場に鳴り響いたドラの音のサウンド演出にもそれは顕著だった。「より自由に感じるんだ。Berlutiは僕を全面的に支えてくれている。お互いを打ち消すことなく、ともに物語を紡ぎ出していっていいんだと感じる」と、アッカーマンは語った。「このメゾンのために力の限りを尽くすよ」。そう、やはり内側にあるものこそ大切なのだ。

Berluti spring/summer 18

Credits


Text Anders Christian Madsen
Photography Mitchell Sams
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.