i-Dが選ぶ、2016年傑作ミュージック・ビデオ10選

世界が大きく揺れた2016年。様々な傑作ミュージック・ビデオが生まれたが、多くは少しも評価さえされないまま、2017年への激流のうちに忘れ去られてしまいそう——そこで、i-Dが考えるBEST10をここに発表する!

by Tom Ivin
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28 December 2016, 5:23am

MTVビデオ・ミュージック・アワード的音楽嗜好が幅を利かせる現代だが、メインストリームでもてはやされるものだけが良いわけではない。真に評価を受けるべき新時代のビデオ・アーティストたちは人知れず素晴らしい作品を世に輩出し続けている。2016年を振り返り、誰もがベスト・ビデオ トップ10に挙げるのは「Lemonade」、「Nike」、「Views」、そしてカニエ・ウェストが関わった映像がちらほら、といったところだろう。i-Dはここで、激動の12ヶ月間に生まれ、しかし正当な評価を受けてこなかった名もなき名作たちにスポットライトを当てたいと思う。

この世界は、トレンドの循環で成り立っている。今、世界には圧倒的な個性と高い意識、人々の社会通念を問うような生き様を体現し、見せてくれる存在が必要だ。政治の世界やランウェイ、映画館のスクリーンだけでなく、テレビでも、そしてインターネットの世界ですら、私たちが過去10年にわたり「打倒」として戦い続けてきたくだらない社会通念が今でもまかり通っている。

ミュージック・ビデオの世界もまた同じだ。他の分野に比べればコンセプチュアルで芸術性を追求した作品が評価されやすい土壌が確立されているが、近年はMV業界の財政状況も厳しく、これまでのような水準を保つことが難しくなっている。困難な現実が立ちはだかるときこそラッパーは力強く歌い、資金がないからこそ力強いアイデアが生まれ、大企業との契約に縛られないからこそ独自の表現を打ち出すことができる。チャート上でヒットを飛ばすことにもはや夢などを抱いていないアーティストたちは、ソーシャル・メディアやYouTubeなどで独自の表現を追求し、それが世界の同志たちから評価され、シェアされ、美しくキュレーションされて存在感を確立している。ヴィジュアルが持つ意味がこれほどまで大きかったことは、歴史上ないだろう。


Creeping」by Obongjayar (監督:フランク・レボン)
このスタイリッシュなビデオ「Creeping」では、Obongjayarが夜のストリートでスポットライトに浮かび上がり、その姿を捉えたレンズをまっすぐに睨み返したあと、サウス・ロンドンの街へと消えていく。コンセプト重視でLo-Fiな作りを前面に出し、新鮮な世界観を打ち出したこのビデオは、何を誰のせいにするべきかも分からず、それでも誰もがすべてを誰かのせいにした2016年の世界を映し出しているように見える。

Skwod」by ナディア・ローズ(監督:リース・プロクター)
ロンドンのクロイドン出身若手ナディア・ローズ(Nadia Rose)が、ワンカットの長回しでストリートをリアルに映し出したこの完璧な作品は、間違いなく「今年のベスト・ビデオ」のひとつだろう。最新のadidasとガール・ダンサーをこれでもかというほど盛り込んだこの映像。ナディアとこれまでに何度となくコラボレーションを果たしている監督リース・プロクター(Reece Proctor)は、視聴者の神経を音楽に集中させる術を知っている。

What If I Go?」by ムラ・マサ(監督:ヨニ・ラッパン)
A$AP Rockyとのコラボレーションを果たす前、ムラ・マサ(Mura Masa)は、腐った世の中にあっても惹かれ合い、恋に落ちるクールな若者たちの姿を捉えたビデオをリリースしていた。現在すでに800万回以上の再生回数を記録しているこのビデオには、GIFスタイルの映像が用いられており、Boomerang動画のように同じ動きが繰り返されるさまに、観る者は否が応でも見入ってしまう。Instagramで人気のBoomerangだから、きっと後になって振り返って初めてこのビデオの真価が分かるのだろう。

All Nite」by クラムズ・カジノ&ヴィンス・ステープルズ(監督:ライアン・スタアク)
ナビル・エルダーキン監督が10分ものの映像作品として作り上げた「Prima Donna」など、2016年にはヴィジュアル作品を数々発表したヴィンス・ステープルズ。技術とセンスで際立った存在感を放つライアン・スタアク(Ryan Staak)監督と組んだこのビデオで、そのヴィジュアル性をさらに強調した。様々な色調のパステルカラーで縦に横にと区切られた映像が流れていく向こうに、Palaceのパーカを着たヴィンスが、朝の光の中や夜の闇の中に歌う。素晴らしいのひとことに尽きる。

Loner」by ミッキー・ブランコ(監督:アンソニー&アレックス)
YouTubeで削除され、アップ禁止が解除されたかと思えば、今度は「閲覧年齢制限」の対象となったこのビデオ。その"異質さ"が、この一連の騒動の原因だったのではないかとの憶測を呼んだ。偉大なアーティストが誰もそうであるように、ミッキー・ブランコもまた果敢に挑発的な世界観を打ち出し、この作品では監督のアンソニー&アレックス(Anthony & Alex)とともに「ストレートが普通」という古臭い社会通念を打ち崩すようなイメージを次から次へと繰り出している。そのクィアさが検閲の対象になったのかどうかはきっと明かされることもないだろうが、一連の騒動によってこの作品がオンラインの歴史とソーシャル・メディアのハートに刻まれるのは間違いない。

The Ac!d Reign Chronicles」by グライムス(監督:クレア・バウチャー)
なんといっても「Lemonade」が突出して強い印象を残した2016年だったが、メインストリームではない世界でもまたインターネット世代の女王グライムス(Grimes)がヴィジュアル・アルバムを発表していた。アルバム制作に参加したのは、グライムスの兄マックを含め、これまで度々彼女がコラボレーションで作品作りをともにしてきたアーティストばかり。このビデオはヨーロッパ各地で撮影され、コンセプトから監督、編集まですべてをグライムスことクレア・バウチャー本人が手がけている。「The Ac!d Reign Chronicles」を見れば、「いいものを作りたいと思うなら、自分でやってしまうのが一番」と誰もが思い知らされるだろう。

Stained」by ハッピー・ミール・リミテッド(監督:ジェンキン・ヴァン・ジル)
パワフルで躍動的で破壊的な独自のパンク・スタイルを確立している感すらあるハッピー・ミール・リミテッド(Happy Meal Ltd)だが、実はまだシングルを1曲と、そのビデオ1作品しか公式発表していない。ジェンキン・ヴァン・ジル(Jenkin Van Zyl)監督によるこのビデオは、躍動感あふれ、挑発的なグラムがサウンドに表現された「Stained」の魅力を如実に映し出したパワフルな映像世界だ。

Girls Who Get Ready」by コシマ(監督:コシマ)
様々なフォーマットで撮られ、ワセリンを塗ったような光沢を映像に生んだこのビデオ。監督はコシマ自身が務めた。ドリーミーなサウンドが美しいシングル「Girls Who Get Ready」のビデオで、コシマはブタやヤギを連れ、女友達とのナイト・アウトに繰り出す。独自の世界観と、耳について離れないコーラスに香るクリエイティビティから、「きっと彼女は今後大きな活躍を見せるに違いない」と思えてならない。サウス・ロンドン出身のコシマ。次はどんな計画を練っているのか楽しみだ!

Vroom Vroom」by チャーリー・エックス・シー・エックス&ソフィー(監督:ブラッドリー&パブロ)
チャーリー・エックス・シー・エックスがオールレザーのスタイルで登場するこのビデオを監督したのは、レーベルPC Music御用達の映像作家ブラッドリー&パブロ(Bradley and Pablo)。プロデューサーのソフィーが作り出したサウンドを見事に反映したフューチャリスティックなダンス・ビデオに仕上がっている。ビヨンセの「Single Ladies」をキラキラにし、エンディングに美しいカラーを配したような世界観のこのビデオは、2017年に音楽がどこへ向かうかを予見しているように感じられる——ダークでありながらとっつきやすく、遊び心溢れるサウンドだ。ヴィジュアル・コンセプトを追求した作品ながらも、ハードなパフォーマンスがその世界観をさらに際立ったものにしている。

Diamonds」byキース・エイプ(監督:BRTHR)
「It G Ma」に続く今作。ヴィジュアルとして用意されたのは、サイケデリック・インタラクティブ・アドベンチャーの世界。ユーザーが触れると、ネオンの光り輝く映像が反応するという作り。映像はペースを変えて刻々と変化していくから、瞬きしている間に様々なものを見落としてしまう。キース・エイプとともに、タイトル通りダイアモンドが降る夜の街を歩いてみてほしい。キース・エイプは、韓国が輩出した中でもっともエキサイティングなアーティストと言い切ってしまっていいだろう。

Credits


Text Tom Ivin
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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