Tukan 2010 © Wolfgang Tillmans

ヴォルフガング・ティルマンスの17問17答

イギリスのTate Modernで2度目となる回顧展が開かれることを記念して、ティルマンス作品に度々登場するアレックスやルッツなど友人たちから、ミュージシャンのフランク・オーシャンまで、ヴォルフガング・ティルマンスを知る人々に「ヴォルフガングに聞きたいこと」を聞き、それに本人が答えた。

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mar 3 2017, 6:05am

Tukan 2010 © Wolfgang Tillmans

アラスデア・マクレラン 写真家
「好きな12インチ・シングルは?」
分かりやすいことを言うのは嫌いだけど、でも分かりやすいものこそ良かったりもする。分かりやすく最高だということだからね。僕にとって最高の12インチは、ニュー・オーダー(New Order)の「Blue Monday」。ほぼ同等に好きなのは、「True Faith」のTrue Dubリミックス。「Blue Monday」は、音楽のレイヤーを完璧に音で視覚化している。どのトラックのどの楽器のどの音がどのように重ねられているかを、聴いて感じることができる。レイヤー——レイヤーの共存とも言うべきものは、世界に対する僕の理解の核をなしている要素。シェップ・ペティボーン(Shep Petitbone)によるTrue Dubリミックスはそれをさらにひとつ上のレベルにまで押し上げている。「Blue Monday」は同時性の意味において狂気の完成度で、「True Dub」は脱構築の世界の極み。

アレクサンドラ・ビルケン アーティスト
「男性の女性に見る最大の違いは?」
セクシュアリティの重要性について僕と君は深い理解で繋がっているから敢えてここではこんな言い方をするけど、ペニスがあるかないかの違いだと思う。僕は、ペニスがついている肉体でしか生きたことがない。男性も女性も、同じだけ性を感じて生きられるようになるといいと切に願う。最近、男性に宿る破壊的なエネルギーのことを、「ペニス・エネルギー」って呼び始めたんだ。でもね、そこに不均等性なんてないと信じたい。男性と女性を平等のものとして理解していないかぎり、その議論はどこにもたどり着かない。

Collum 2011 © Wolfgang Tillmans

アルカ ミュージシャン
「『For When I Am Weak, I Am Strong』という本のタイトルには、"頑固さに対する最大の武器としてソフトさを"という意味が感じられるけれど、実際の体験としてそういう美徳を得るに至ったのはいつのこと?」
その本は1996年にリリースされたもので、元のタイトルは「Who Dares to Love, Lives Tomorrow(敢えて愛を選ぶ者だけが明日を生きることができる)」という意味のドイツ語。英語タイトルは、メイン州の美術館The Sabbathday Lake Shaker Villageでレジデンシー・アーティストとして働いていたとき、シェーカー教徒のある女性との話の中で思いついたもの。自分の弱さを知り、受け入れること——それが人間のできる最もパワフルなことだと思う。僕はキリスト教徒ではないけれど、でも「右の頬を打たれたら左の頬を差し出す」という考えに見る矛盾はパワフルだと思う。それは右翼思想の強い一部のキリスト教信者たちが実践している生き方の真逆をいく考え方だからね。

フランク・オーシャン ミュージシャン
「写真家でもあり、ステージ・パフォーマーでもあるティルマンスに質問。観客席からみんながスマホのカメラをこちらに向けるのが普通になりつつある状況をどう思う?」
90年代中期から後半にかけて、僕は写真を撮るということが受け身の行為ではなく、どちらかというと攻撃的な行為なんだと思い始めた。写真を撮っている姿を見られることが大切で、出来上がる写真そのものはそれほど重要じゃない、という気づきに至ったんだ。社会的状況への主張のひとつなんだね。パフォーマンスの状況でスマホを取り出して撮影しだすということは、パフォーマーから与えられたものへ従わないという意思の表れで、あくまで盗用を主張する行為。僕自身も同じような状況に置かれるとき義務感さえ感じながらカメラを取り出すことがある。そこにパフォーマーが生むピュアな瞬間を邪魔することなく、その瞬間を後世のために閉じ込めて残しておきたいという衝動を感じるんだ。

Iguazu, 2010 © Wolfgang Tillmans

テリー・ジョーンズ i-D創始者
「政治が恐怖心によって動かされていて、それがニュースで日々流されている現代の世の中、現世代が恐怖心を感じることなく社会に反応・参加できるよう仕向けていくには、何をすれば良いのだろう?」
多くの人は、「分断」じゃなく「繋がること」を求めていると思う。この世界では誰もが孤独を感じていて、この時代を生き抜くには"繋がっている"という感覚が必要。僕自身もよく理解できてはいないけれど、なぜだかこの世には分断を望むひとが多く存在している。テリーの質問に具体的な答え方をするなら、例えばアメリカ国民の52%は大統領にトランプを選ばなかった。イギリス国民の48%はイギリスのEU離脱に反対票を投じた。あと数パーセントで未来は変わる。アメリカ大統領選では、その僅かなパーセンテージを、例えばニューヨーク州のような土地の人々じゃなく、ケンタッキー州とミズーリ州に暮らすアメリカ国民が握ることになった。だから、ここから前へと進むには、そういう州の市民に働きかけていくことが大事になる。急進的でない共和党支持者こそが未来の鍵を握る存在なんだ。そういう人々に、「今、トランプ政権のもとアメリカは間違った方向に進んでいるんだよ」と説得する必要があるんだ。

トリシア・ジョーンズ i-D生みの母
「今後も絶対に守り通していかなければならないとあなたが考える自由は?」
自分の体に関して自由であれる権利!自分のセクシュアリティを表現しちゃいけないような状況は絶対に嫌だ。独裁者は決まって人々のセクシュアリティをコントロールしたがるものだからね。

ルーシー・カマラ Claire De Rouen Books
「作品を作るとき、美について考える?」
「Beauty(美)」というのは、毒性のある単語だと思う。美を果敢に求めていきたい。美は大切だからね。この社会で受け入れられるものと、受け入れられないものについて考えていきたい。テレビのゴールデンタイムに人間2人が殺し合う様子を見せるのは受け入れられるのに、男2人がキスするところは受け入れられないというのはどういうことなんだろう?

Juan Pablo & Karl, Chingaza 2012 © Wolfgang Tillmans

リンダー・スターリング アーティスト
「レンズと声の間にある関係性は?」
視覚的に情報を映し出すよりも、声を上げることのようがパワフルな手法。レンズと同じで、喉も声帯だけでは何を生み出すこともできない。文明のうちに言語が与えられることで、初めてそこに文化が生まれるんだ。

アシュリー・ヒース 雑誌『Pop』エディター
「ザ・フォールの「Bournemouth Runner」の一件について教えて。ボーンマスで勉強していたとき、逃げなきゃならなくなったというような状況に追い込まれたことはある?」
ルッツが訪ねてきてくれたとき、ボーンマスのTriangle Clubで棚にあるドリンクを取って飲み、また取っては飲みを繰り返したのは確かだね。それで問題に巻き込まれたわけではないけど、飲んでは「もっと」と次を求め続けた。何とも混ぜていないアルコール原液をひったくって飲み続けるバカバカしさを大笑いした。それがとんでもなくおかしく思えたんだ。

マックス・ペアメイン スタイリスト 元『Arena Homme+』エディター
「インターネットを世界から消してしまえるとしたら、消す?」
今なら、そうだね、消すかもね!人間が今なんかよりずっと優しく、お互いを思いやって触れ合えるようになるだろうね。

astro crusto, a 2012 © Wolfgang Tillmans

ルッツ・ヒュエル デザイナー
「アクティビズムや、イギリスのEU離脱反対運動をしてきたあなただけれど、今、より大きく政治に関与していくということは考えられる? 政界に進出するというのがロジカルな結論のようには思えない?」

もっと多くの人々が政治関連の集まりに参加すべきだと思う一方で、僕はどれか特定の政党のために自分の立場を利用するようなことはしたくない。政党の集会で政治は生まれる。ネットで何かを投稿したり、政治的意見を主張したりするだけで人が生むことのできる変化なんて、とても小さなもの。各政党が各地方の支部で開く集会に実際に参加することで、実際的な変化を生む力を与えられるんだよ。個人的に、今年は、僕たちの自由社会を奪い、権威主義の時代へと突き進もうとしている外国人排他主義的にして反EU的な右翼思想への反対運動に多くのエネルギーを注いでいこうと思っているよ。今、西洋社会には、僕やもっと年上の人間でもかつて経験したことがないような事が起こっている。それを、若いi-D読者にも知ってほしい。

スコット・キング グラフィック・デザイナー
「本当に僕を傷つけたいの?」

愛が僕たちを引き裂く。

Shit buildings going up left, right and centre 2014 © Wolfgang Tillmans

モーリーン・ペイリー ギャラリスト
「時間を遡って好きな時代に戻れるとしたら、どんな出来事を目撃したい? そして訪れてみたい場所は?」
ニール・ヤングが初めて「Like A Hurricane」を歌ったところを目撃したい。僕にとって最も大切な歌なんだ。

ハンス・ウルリッヒ・オブリスト Serpentineディレクター
「まだ実現していないプロジェクトについて教えて……」
¥過去2年間にわたり音楽を突き詰めてきたけど、これが驚きの経験だった。また音楽に情熱を見出せて、これからもっと突き詰めたいと思ってる。もう一つ、随分と長い間持ち続けていながらもなかなか形にならなかったアイデアに、「医師との会話をまとめて本にする」というものがあるよ。医者と話すのが好きなんだ。エキシビションのオープニングや、ディナーなんかで会っては話すんだけど、僕の作品のコレクターのひとりに日本人の心臓外科医がいて、以前、心臓の手術に立ち合わせてくれたことがあった。そこで撮った写真のいくつかは、テート・モダンのTruth Study Centerに展示されているよ。医者と話すと言っても心気症患者として質問をしたりするわけじゃない。僕は医学がどう機能するのかという部分にとてつもなく興味があるんだ。

paper drop Prinzessinnenstrasse 2014 © Wolfgang Tillmans

ニール・テナント ミュージシャン
「音楽は写真にどう影響しているのかな? DJやライブ・パフォーマンスをしてきたことで、ビジュアル作品へのアプローチに何か変化はあった?」
上の質問で、音楽に見られるレイヤーへの愛について、幾層にも重ねた音をまた壊すという概念への愛について語ったけど、「違うことが同時に起こっている」というその音楽の構造は、人生や世界そのものの構造と同じだと僕は思うんだ。視覚的にも僕はその視点から物を見てる。だから違った被写体や違ったジャンル、違ったフォーマットのものをひとつの世界に共存させるんだ。切り離すのではなくね。視覚的なものを音楽的にリズムやサウンドで考えるときがある。ドイツ語でサウンドを「Klang」と言うんだけれど、あるキュレーターが「Wie Klingt das?」——「この音は何?」「部屋が揺れてる」って言ったんだ。夜中にエキシビションの作品を搬入・設置するとき、僕は音楽をフル・ボリュームでかけて作業をする。音楽は僕のアーティスト活動で重要な役割を果たしてきたし、だからこそ今、音楽作りが自然なプロセスのように感じられるのかもしれないね。

マシュー・コリン 元i-Dエディター
「作品と人生の両面においてアクティビズムが持つ重要性はどのように変化しましたか?」
君がまだi-Dのエディターだった頃にやったストーリーは、ほとんどが何かしらのアクティビズムのアングルから作ったものだったはず。僕はずっとアクティビズムをクールなものだと思ってきたし、i-Dは最もクールな雑誌のひとつだから、どのストーリーも全身全霊で取り組めた。最高の雑誌と最高のテーマで最高のことができた。ダンシング、クラビング、音楽、ファッションがi-Dの核にあるもので、i-DはそれをDIYのアングルから見せてくれる。「スタイルにお金なんか関係ない」とはまさにその通りだね。これからはもっとアクティビズムに時間を割きたいと思ってるんだ。EUの敵は、僕が大切にする価値観の敵でもある。マリーヌ・ル・ペン、ドナルド・トランプ、ウラジミール・プーチンの3人はEUを分解しようとしてる。僕が思うに、敵はEUじゃない。僕はこれからもEUの未来のために声を上げ続けるし、僕が作るポスターはすべてのEU加盟国の言語に翻訳して、オープン・ソースの素材として自由に使ってもらえるようにする。それはアート作品として作るんじゃない。僕はEU市民の1人としてこれをやっていくよ。

ホリー・シャクルトン 英i-D編集長
「一番幸せを感じるのはどんな時?」
ダンスとドリンクと友達とセックスを満喫した翌朝の二日酔い。重い頭を抱えて起きても、後悔なんか一つもなく、次から次へとただただハッピーな昨夜の記憶が蘇ってくる、そういう朝。

Credits


Images courtesy of the Tate
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.